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博報堂クロスバウンド・ビジネス・ラボの外国籍スタッフが解説「クロスバウンド成功の鍵」
~「SNS映え」は健在、だが中身は「本物・穴場探求」へ。タイ人訪日客、オーバーツーリズム回避が生む「第2の日本旅」~

2026.02.20
中国と韓国に続き、連載コラムの第3弾として、今回は東南アジアにおいて最も重要な市場である「タイ」からの訪日客に注目します。
2013年に日本への短期滞在ビザが免除されるようになり、それまでに「行きにくい国」だった日本が、「最も行きたい国」に変わり、タイからの訪日客が年々増加し、コロナ過直前の2019年にはピークである132万人まで達成しました。東南アジア2位であるマレーシア(50万人)より2.6倍以上でした。
コロナ後もすぐに旅客数が回復し、2024年は115万人まで戻り、隣国を除いてタイ人にとってはもっとも人気な旅先であることを改めて証明しました。
本調査によると、タイ人訪日客の平均訪日回数は3.57回、平均滞在日数は5.7泊、そして訪日中の平均消費額は約45万円となっています。これらの数値は5か国調査の中で中位に位置していますが、その消費行動と旅行スタイルには独特の特徴が見られます。
今回の調査対象となったタイ人訪日客の多く(全体の87.6%)がリピーターであり、年に複数回日本を訪れる層が含まれています。彼らの日本への関心は、単なる観光から、より深い体験と本物志向へと進化していることが調査データから明らかになっています。
本稿では、そんな彼らの最新動向と攻略ポイントを、博報堂クロスバウンド・ビジネス・ラボの「インバウンドレポート5.0」の調査データと、実際のタイ人富裕層家族の訪日体験エピソードを交えてご紹介いたします。
タイ訪日客の3大変化
1. 「トレンド・SNS映え」を軸にした探求型旅行スタイル
2. オーバーツーリズム回避と「穴場」への関心の高まり
3. 冒険心と計画性のバランス

調査でわかった、タイ人訪日客の3つの特徴的な変化

1. 「トレンド・SNS映え」を軸にした探求型旅行スタイル

本調査において、各国の訪日客を7つのクラスターに分類した結果、タイ人訪日客の最大の特徴は「トレンド・SNS映え派」が第1位(46%)を圧倒的に占めたことです。これは調査対象5か国の中で最も高い割合であり、タイ人の旅行スタイルを象徴的に示しています。
このデータが示すのは、タイ人訪日客が単に「写真映えする場所」を求めているのではなく、「SNSで共有する価値のある本物の体験」を追求しているということです。第2位の「好奇心豊富探求派」と合わせると全体の74%に達し、新しい発見と体験への強い欲求が見て取れます。
また、日本旅行の情報源として、タイ人は今でもFacebookを最も利用していると回答し、他の調査対象国と比べてもSNSによる影響が依然として高いことがわかります。

さらに、日本旅行における価値観を見ると、タイ人訪日客の71.7%が「旅先での出会いを楽しみ、ワクワクするような買物をしたい」を選択し(Aに近い47.3%+ややAに近い24.4%)、これは調査対象国の中で最も高い数値です。また、「雑貨屋や路面店をゆっくり探索し、時間をかけて好きなものを探す買い物スタイルが好き」も60.8%(Aに近い36.0%+ややAに近い24.8%)と高く、探索的な旅行・買い物スタイルが目立ちます。

2. オーバーツーリズム回避と「穴場」への関心の高まり

円安の影響もあり、日本のオーバーツーリズム問題が深刻化しているなか、昨年(2025年10月)訪日していた実際のタイ人富裕層家族の体験から、ある傾向が見えてきました。

この家族が今回選んだのはここまで行ったことのない九州エリア(福岡と熊本)でした。選択理由として挙げられたのは:

• オーバーツーリズムの回避
• 本場での食体験(タイ未進出の人気店や、タイで話題になった飲食店の発祥地を巡るなど)
• まだ一般タイ人旅行客にはあまり訪れられていないSNS映えする自然スポット(高千穂峡)

特に高千穂峡については、「SNSで見て、絶対に家族と行きたいと思った。ボートに乗った家族写真は、すぐにInstagramでシェアした」という、まさに調査で明らかになった「SNS映え」志向を裏付ける行動が見られました。
この事例は、年に1回以上日本を訪れる頻繁な訪日リピーターが、従来の定番観光地から、より「本物の体験」ができる、比較的に混雑していない地方都市へと関心を移していることを示唆しています。

3. 冒険心と計画性のバランス

上記調査データによると、タイ人訪日客の67.8%が「先にじっくりリサーチを行い、様々な情報を知ってから購入を決めたい」を選択(Aに近い43.0%+ややAに近い24.8%)しており、事前の情報収集を重視していることがわかります。
一方で、「できるだけ一人でじっくり考えて買い物を決定したい」(Aに近い33.3%+ややAに近い21.3%)と「店員などとのコミュニケーションを楽しみながら買い物したい」(Bに近い16.7%+ややBに近い24.4%)という回答結果もあり、計画性と現地での冒険でバランス型の消費行動が見て取れます。
前述の富裕層家族も、「福岡と熊本に行くことは3か月前に決めたが、具体的な観光地はSNSやGoogle Mapで現地の情報を見ながら決めた」と述べており、計画性と柔軟性のバランスを取る旅行スタイルが実践されています。

タイ人訪日客の買い物行動

購入商品カテゴリーの特徴

調査結果から見ると、タイの購入品目第1位は「お菓子」、第2位は「洋服・アパレル」となっており、タイ人の嗜好が強く反映された結果となっています。タイ人は昔から日本のお菓子に馴染みがあり、味も好みで、自分で消費するのもお土産として購入するのも満足度が高く、訪日するのであれば必ずお菓子を購入するという消費行動が固定化しました。

特にアパレルに関しては、「SNS発のトレンドを日本で回収する」という行動様式が顕著です。タイではSNS(特にInstagramやFacebook)でセレブリティやインフルエンサーが着用したブランドが瞬く間にトレンドとなりますが、その流行のサイクルは非常に高速です。 数年前は日本発の定番スニーカーが必須アイテムでしたが、その後象徴的なロゴを持つデザイナーズブランドのトップスやタイ未上陸の欧州の高級バッグ、スイス発のスポーツシューズブランドへと移り変わり、最近では入手困難なストリート系ブランドのアパレルを着用することがIntrendの証となっています。

なぜ彼らは日本で買うのか。それは単に「好きだから」だけではありません。

1. 圧倒的な品揃え:日本はアジアのトレンドセンターであり、フラッグシップストアが多く、限定品も含めたラインナップが充実している。
2. 価格メリット:歴史的な円安に加え、免税を利用すればタイで購入するよりも圧倒的に安く手に入る。日本で買うと「お買い得」という意識が強いと見られます。

彼らにとって、日本での買い物は単なる物資調達ではなく、「最新のトレンドアイテムを、本場のフラッグシップストアで、最も賢い価格で手に入れる」という「勝利の体験」&「旅の醍醐味」そのものなのです。

タイ人訪日客を攻略するための4つの視点

1. SNS映え×本物体験の融合コンテンツ開発

調査で明らかになった「トレンド・SNS映え派」(46%)という最大クラスターの特性を活かし、表層的な「映え」だけでなく、他のタイ人も共感できる背景にあるストーリーや文化的価値を伝えることが重要です。高千穂峡の例のように、「まだみんなが知らない、けれど最高に映える場所」こそが、今のタイ人が求めているコンテンツです。

2. オーバーツーリズム回避型の新たなデスティネーション開発

実際のタイ人富裕層家族の体験事例が示すように、特にリピーター層では東京や大阪の混雑を避けて「こうだったはずの本物の日本」を体験したいというニーズが高まっています。
主なアクティビティであるお買い物や食事でも、東京や大阪でなくても存分にできる旅先があることがよりタイ人旅行客(特にリピーター)にアピールすることで、第二の都市の観光業にとっては大きいなチャンスにつながると考えられます。

3. 事前情報提供と現地体験の最適な組み合わせ

調査データが示す「事前リサーチ重視」(67.8%)の特性に合わせた情報提供が必要です。特に主要情報源であるSNS(Facebook、YouTube)は非常に影響力を持っており、彼らが情報収集の際に届けるべき情報を正確にタイムリーに届けることが重要だと考えられます。彼らは出発前に「どこで何を撮るか」「何を食べるか」をかなり具体的に調べ、決めているため、そのリストに入るためのオンライン施策が重要になります。

4. 「クロスバウンド」の再定義:継続購入ではなく「次回の訪日動機」へ

「帰国後の継続購入」が注目されるが、タイ市場においては少し異なるアプローチが必要です。タイにはすでにドン・キホーテや日系スーパーが複数進出しており、日本のお菓子や商品は日常的に手に入ります。しかし、多くのタイ人は「日本で買えば300円のものを、タイで600円出して買いたくない」という金銭感覚を持っています。彼らはその600円のお菓子を「買えない」のではなく、価格差を知っているからこそ「買わない」のです。
したがって、タイ市場におけるクロスバウンド戦略は、「日常的なリピート購入」を狙うよりも、「日本でしか買えない・体験できない価値」をSNSで発信し続け、ブランドへの憧れを維持させることに注力することも一つのアプローチだと考えられます。

「タイで高いお金を出して買う」のではなく、「次の日本旅行で絶対にまたあの店に行く」「日本に行ったらあのブランドの新作を買う」「コンビニのスイーツをまた食べる」という、次回の訪日動機としてのエンゲージメントを高めることこそが、結果としてLTV(Life Time Value)の最大化につながります。

本調査と現地の視点から見えてきたタイ人訪日客の姿は、非常に「現代的で賢い消費者」です。 彼らはSNSを駆使してトレンドを敏感にキャッチし、円安という経済状況を最大限に活用して「賢い買い物」を楽しみます。一方で、オーバーツーリズムを避けて地方へ足を運び、その土地ならではの「本物の体験」を求める成熟した旅行者でもあります。
彼らにとっての「日本旅行」は、単なる観光やお土産購入の場ではありません。それは、SNSでの自己表現の場であり、最新トレンドを確認する場であり、そして何より「最も賢く、最も質の高い消費ができる場所」なのです。
平均3.57回の訪日回数が示すように、タイ人にとって日本は「何度も訪れる場所」となっています。この「賢いリピーター」たちに対し、帰国後の物販の継続を促すのではなく、「わざわざ日本に行く価値」を常にアップデートして提供し続けること。それこそが、タイ市場との長く強固な関係を築くための鍵となるでしょう。

Werachai Lerkamnouychoke (BM)
ウィラチャイ ラークアムヌアイチョーク (BM)

タイで生まれ育ち、大学卒業後に来日。博報堂入社前は日本の調査会社にてグローバルリサーチを中心にキャリアを積み、定量・定性調査をオンライン・オフライン問わず幅広い業界のクライアント向けにグローバルリサーチ業務に従事。
2022年より博報堂入社し、海外事業ユニット所属。リサーチに限らず国内外のプロジェクトを担当。

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