

博報堂SXプロフェッショナルズは、社会価値と経済価値の「ダブルインパクト」を推進することをミッションとして活動しています。企業が商品・サービスを提供し生活者がそれを受け取るという、”直線型”だった関係から、循環型経済においては、生活者も循環型経済の一員として参加する関係へと、大きく変化します。
マーケティングにおいても、従来は商品の開発から販売までを対象としていましたが、循環型経済では、生活者に修理や返却、リユースなどを通じて循環サイクルを支えてもらう所まで、コミュニケーションが必要になります。博報堂は「生活者発想」を掲げる企業として、これまで培ったマーケティングのノウハウを活かした循環の促進する事と、また、新たにマーケティングモデルを循環型経済にフィットさせていく事の両面で、貢献していきたいと考えています。
【マーケティングノウハウを活かして循環型経済にドライブをかける領域】
1)生活者の意識啓発
2)素材の価値をストーリーテリング
3)可視化(ラベリング・スコアリング)
4)修理の体験価値づくり
5)静脈産業のブランディング
これまでもさまざまな実践を重ねていますが、着手しきれていない課題も多くあります。今後も仲間集めと実践を繰り返し、循環型経済にフィットするマーケティング力を高めてまいります。
【循環型経済にフィットしたマーケティングを実践する領域】
1)リサイクル前提での商品設計
2)アップサイクル発想での商品開発
3)サーキュラープラットフォーム・異業種企業マッチング
4)企業・自治体・生活者を巻き込んだコミュニテイ形成
5)ブランド体験の一環としての回収体験

サーキュラーエコノミーの概念は、環境政策だけでなく、国内産業の競争力強化や経済成長につなげる目的で推進されています。欧州では自動車や容器包装などの製品に再生材利用の義務付けが進んでいますし、グローバル企業では、ブランドの価値向上、また温室効果ガス排出量スコープ3削減目標の達成に向けて、再生材を使用する動きが加速しています。
日本におけるプラスチック資源循環の歴史を振り返ると、1997年に容器包装リサイクル法が施行され、家庭ごみの約60%を占める容器包装を分別・リサイクルする仕組みが導入されました。この制度によって、市民の分別意識が定着したことは大きな成果だと言えます。
2016年頃からは海洋プラスチック問題が世界的に注目され、2050年には海洋プラスチックごみの量が魚の量を上回るという試算が発表されました。このような背景もあり、日本はプラスチック資源循環戦略を策定し、G20大阪サミットでは2050年までに海洋プラスチック汚染をゼロにする目標を合意しています。
2022年に施行されたプラスチック資源循環法は、素材に着目した包括的な法律で、製品の設計から使い捨てプラスチックの削減、家庭系・産業廃棄物のリサイクルまでを対象としています。また、来年4月には改正資源有効利用促進法が施行予定。これにより、容器包装や家電、自動車など一部の製品に対して、再生プラスチックの利用に関する計画提出および定期報告が義務化される方向です。
今後は、資源循環の取組みに尽力した企業の評価制度を整えていく必要があると考えています。2021年のG7でCEREP(Circular Economy and Resource Efficiency Principles)の作成を日本が提案し、合意。循環経済に焦点を当てた行動指針や情報開示スキームを開発し、国際的なルール形成を主導していきたいと考えています。
日本は、製造業(動脈産業)と資源循環業(静脈産業)が国内に一貫して存在することがアドバンテージ。今後は動静脈一体となった連携が必須です。再生プラスチックやバイオプラスチックは従来の石油由来のプラスチックより高価であることがボトルネック。グリーン製品に対する理解を促進し、需要を喚起する施策も必要だと考えます。
国際的には、プラスチック汚染に関する条約の議論が進んでおり、日本はプラスチック生産規制を主張する国々と、反対する大量生産国・産油国の間で調整役を担う重要な存在。今後国内での循環モデル構築をさらに進めることで、国際的な交渉も推進していけるよう尽力してまいります。

私は循環型社会の実現を目指してJEPLANを設立しました。循環型社会の主役は「みんな」。みんなが中心で、みんなが参加できる循環社会を生み出すためには、3つの要素が大切だと考えています。
ひとつめは「技術」。従来のマテリアルリサイクルではリサイクル回数に限界があり数回で物質が劣化してしまうのに対し、ケミカルリサイクル技術を用いると何度でもリサイクルが可能。石油からつくられる「地下資源」に対して「地上資源」という名称を付けました。
弊社のケミカルリサイクル技術を用いれば、プラスチック(PET)を分子レベルで分解し、色や添加物を取り除いた後、再び結合させることで、何度でも新しい製品をつくることができる。言い換えれば、何度でも「石油をつくる」ことができるのです。
2つ目の要素は「みんな参加型のリサイクルインフラ」。循環型社会はまだまだはじまったばかり。課題を早期に発見し、仕組みと技術で解決するプラットフォームを構築することが必要です。もうひとつ重要なことは、消費者の行動変容。行動変容を促すためにはリサイクルの体験が大切だと考え、アパレルブランドやおもちゃメーカーなどさまざまな企業・団体と連携し、現在では3000か所以上に回収拠点があります。
3つ目の要素は「正しいを楽しいに!」というキーワード。社会課題や地球課題に対して「こうあるべき」と押し付けるのではなく、楽しい活動を通じて参加者を増やし、社会を変えていく方法を模索してきました。ハリウッド映画に登場した車型タイムマシンを、着なくなった服を原料に製造したリサイクル燃料で実際に走行したリサイクル促進キャンペーンがその成功事例のひとつです。

我々が目指す地上資源の循環には、まずリサイクルに参加する生活者がいます。そして回収拠点との連携や技術連携を通じて地上資源をつくり、メーカーがそれを使用して製品をつくる。生活者は自分たちが集めた資源からつくられた商品を選ぶことで、さらに地上資源の利用が促進されるという、経済と環境の好循環が生まれます。
また、戦争やテロが起こる原因の7割は地下資源の奪い合いだと言われています。地下資源を地上資源に置き換えることで戦争やテロの原因をなくし、子ども達の笑顔を取り戻すことができる。循環型社会は、経済と環境を両立させるだけでなく、世界平和の実現にも寄与できると信じています。
弊社は川崎に大規模なPETボトルのリサイクル工場を持っていますが、この規模の工場が2つあれば北海道では地下資源を使用せずに、循環することができるという試算があります。地球環境や世界平和を語ることはとてつもないスケールのように感じますが、実はそれほど大それたことではないのかもしれません。
こういった理想的な循環型社会を実現するためには、ものづくりからの転換が必要です。出たごみからリサイクルするのではなく、リサイクルを前提とした製品づくりを推進することで、循環型社会が形成され、結果的にCO2の削減へとつながります。我々のようなケミカル工場はまだ日本にしか存在しません。循環型製品の基準を定めたうえでリサイクル技術の研究開発を進め、世界に発信していくべきだと考えます。
環境省 容器包装・プラスチック資源循環室長 金子浩明氏
株式会社JEPLAN(ジェプラン) 共同創業者・会長 岩元美智彦氏
博報堂SXプロフェッショナルズ 小田部巧
進行:一般社団法人 Media is hope 共同代表理事 西田吉蔵氏
博報堂SXプロフェッショナルズ 牧志穂
西田:あらためて、なぜプラスチックの循環利用を推進するのか、また日本が取り組む意義は何でしょうか?

金子:「もったいない」という日本人の精神に起因するリサイクル意識に加えて、今後は、脱炭素や気候変動対策、さらには資源を他の国に頼らないという経済安全保障の観点からも、日本国内の資源を有効活用して経済的に強くなっていくことが重要です。そのための仕組みやルールづくりが必要だと考えています。
西田:日本が持っているポテンシャルについてどう考えますか?
金子:ペットボトルは世界でおそらくNo.1のリサイクル率を誇っており、捨てる段階で分別することが市民に根付いています。また、業界内でも容器を透明にするなど自主的なルールづくりを行ない、それを遵守することで高いリサイクル率を実現できているのではないでしょうか。
牧:JEPLANはペッドボトルのリサイクルで世界に誇る技術を持っていますが、循環型経済を推進するビジネスの面での動機は何ですか?
岩元:循環型経済で大事なのは、補助金なしでも成り立つビジネスモデルを構築することです。弊社では廃棄されるPETボトルや衣類などを買い、ケミカルリサイクルした製品を価格を抑えて提供することで事業を回しています。世界では、リサイクルされずに捨てられるごみがたくさんあります。しかし、それが「買ってもらえるんだ」となれば、捨てられずに回収することができます。新しいビジネスモデルを提示しながら、世界のあらゆる国に循環型社会を広げていきたいと考えています。

牧:業界でのルールづくりの話がありましたが、競合する企業同士でも循環型経済を進めるうえでは協力体制が必要。どういった発想の転換が求められるとお考えですか?
金子:リサイクルをさらに推進するためには、循環を考えた製品設計のためのインセンティブが必要になると思います。そのためには、業界内でまとまった方向性を持つことが重要。政府としても何を支援すればいいかが明確になり、思い切った決断もしやすくなります。
小田部:先日さまざまなメーカーの容器開発に関わる方々が集まる会合に参加したのですが、これまでは、なかなか横のつながりが生まれづらいということを伺いました。その場で行われたブレストで興味深いアイデアが生まれていたので、企業間で積極的に情報交換をすることで、新たなイノベーションが生まれる可能性を感じました。
岩元:私は新しいブランド価値や環境価値を世界に提案することが大事だと考えます。例えば、この服が何回リサイクルされたかわかるようなトレーサビリティを導入する。「5回目なんだ、すごいね!」とそれ自体が喜びとなれば、新しいブランド価値、環境価値につながるのではないでしょうか。
西田:金子さんはこれまでのキャリアで気候変動と循環経済の両方に携わってこられましたが、それぞれの観点から相互に活かせる視点などありますか?
金子:循環経済においては、原料の回収から製造プロセスまで、市民、自治体、リサイクラーなど多くの主体が関わっていて、バリューチェーン全体を考える必要があります。それを取りまとめる役割は本来大手企業が担うものなのでしょうが、なかなかそうはいかなかった。これは脱炭素も同じで、中小企業も含めた投資を促進するためには、大手企業のサポートが必要です。大手企業がリーダーシップを発揮しながら関係者全体で推進することが必要だと思います。

岩元:大手から推進してほしいというのは大賛成です。弊社では回収したものから樹脂をつくり、製品をつくって販売する、さらにそれを回収するという循環をすべて自社で行う取組みをはじめました。こういった事例を発信することで世界に浸透してほしいと思いますし、メーカーの定義も変わることを期待しています。リサイクル工場を有しているからメーカーであるという定義になれば、企業ももっと積極的に取り組むのではないでしょうか。
西田:今後、循環型経済の輪を広げていくために必要なことは何だと思いますか?
金子:「回収したもの」を「使える素材」にするための基準を、動脈産業・静脈産業それぞれの立場で擦り合わせることが大事。そのうえでコストを下げていくというチャレンジが必要だと思います。業界の垣根を超えてプラスチック回収の仕組みを確立する必要があるのではないでしょうか。
西田:いかにサプライチェーン全体を連携して循環型社会をつくっていくかというのが今日の主な議題になりましたが、もうひとつ、いかにサーキュラーエコノミーの輪に入ってくる生活者を増やすかも課題ですよね。どうやってファン化させていくかというアイデアはありますか?
小田部:ファン化ももちろんですが、まずは生活者に真実を伝えることが大事。いま日本では、ものをつくるために大量に資源を輸入して、廃棄したものを大量に輸出するという膨大な無駄が生まれています。それについて知ってもらったうえで、岩元さんが「”正しい”を”楽しい”に!」とおっしゃっていたように、生活者にとっての価値に変えていきたい。そのためのヒントを、ここにいるみなさんと見つけていきたいと思います。

牧:どうしたら楽しみながら生活者を巻き込んでいけるか、というテーマについては、11月27日、1月8日にも博報堂SXプロフェッショナルズ主催のセミナーを予定しています。

「サスティナビリティ、推進のカギは欲望化!」というテーマでクロストークを行いますので、ぜひこちらにもご参加ください。本日はありがとうございました。
■登壇者 ※登壇順

「企業の持続可能な発展=長期的なブランド価値向上」を目指し、 社会価値視点で事業を構想する「ソーシャルインパクト事業構想プログラム」や、SDGs総合支援メニュー「SDGsコーポレート」を体系化しリリース。 他、メディア連携企画として「朝日新聞脱炭素企画」や、国連主導で全国108のメディア共同による「気候危機キャンペーン」に参画。

2008年4月に環境省に入省。家電エコポイント制度の立ち上げ(環境経済課)、新卒採用(大臣官房総務課)、環境アセスメント制度(環境影響評価課)を担当した後、2015年から2年間、資源エネルギー庁新エネルギー課に出向し、FIT法の認定制度を担当。2017年夏に環境省に戻り、リサイクル推進室で、容器包装リサイクル法やプラスチック資源循環政策を担当し、レジ袋有料化やプラスチック資源循環法の制定に従事。2021年夏から3年間の在米日本大使館勤務、2024年夏から1年間の地球温暖化対策課を経た後、2025年8月から現職。

1964年鹿児島県生まれ。北九州市立大学卒業後、繊維商社に就職。営業マンとして勤務していた1995年、容器包装リサイクル法の制定を機に繊維リサイクルに深く携わる。2007年1月、日本環境設計(現JEPLAN)を設立。資源が循環する社会づくりを目指し、リサイクルの技術開発だけではなく、メーカーや小売店など多業種の企業とともにリサイクルの統一化に取り組む。2015年アショカフェローに選出。著書『「捨てない未来」はこのビジネスから生まれる』(ダイヤモンド社)。

マーケティング局、エンゲージメントビジネスユニット、HAKUHODO THE DAY を経て、2016年より現職。国内クライアントを中心に、戦略からエグゼキューション、トータルなコミュニケーションデザインを行う。生活者をパートナーと捉えた、創発型プランニングを好む。また、自身もNPO運営をしており、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)業務を積極推進中。

これまで大手化粧品メーカーのクリエイティブプロデュース、外資製薬会社のコミュニケーションプランニング、経営目線のブランディングやプロジェクト推進の業務に携わる。それらの経験を活かし、気候変動の本質的な解決に向けて、大きなジャーニーを描く。未来志向な社会構築を目指し、関係各所と連携して新たな仕組みづくりに取り組む。
■博報堂SXプロフェッショナルズについて
サステナブルな取り組みを生活者にとって実感できる価値に転換・再設計し、クライアント企業のSX(サステナビリティトランスフォーメーション)を実現するプロフェッショナル集団です。2019年に活動をスタートし、マーケティング・ブランディング、コンサルティング、PR、ビジネス開発、研究開発、クリエイティブなど、SXに関する経験と専門性を持つ社員で編成。ソリューション開発や経営支援、事業開発支援、マーケティング支援などを行い、これからの持続可能な社会を支える次世代ビジネスモデルの創造に貢献していきます。
詳細:https://www.hakuhodo.co.jp/news/info/82711/