
-はじめに、お二人それぞれのルーツについてきかせてください。
平石:子どもの頃から親の仕事の関係で地方を転々とする生活でした。土地によって文化の違いがあって、人の感覚も異なることを肌身で感じた幼少期。高校までは西日本にいたので、大学はまったく別のところに行こうと思って北海道の大学を選びました。北海道では、アイヌの方々の狩猟・食・信仰など、独自の文化に触れられたことがとても大きな経験になったと思います。世の中には知られていない「地域ごとの魅力的なモノ・コト・文化」がたくさんあるんですよね。
「そんな知られていない地域の魅力・違いを広める力になりたい」と思って志望したのが広告業界。はじめは東京の広告会社に勤務しました。4年目に博報堂に転職するのですが、転職と同時に関西支社に配属されたんです。「どこでもやっていけそう」と思われたのでしょうか(笑)。実際、関西支社は東京とはまったく違う文化。どんな案件であっても「これやったらなんぼ売れるの?」という収益設計がリアルに求められます。そういう異なる環境に適合していくことがすごくおもしろかったですね。
猪沢:僕は大阪の田舎町で高校生まで過ごしていました。男3兄弟の真ん中ということもあってか、すごくバランス感覚が育った幼少期。自分でなんでも考えて実行するという自走心が育まれた環境でしたね。京都の大学に通っていた時代は、祇園の夜のお店でボーイのバイトをしていました。働いていると、ママをはじめお店のお姉さん方とお客さんの様子からいろんな「心の機微」が読み取れるんです。話す間とか目線の動きで、その人が何を考えているか少しわかるようになる。真ん中っ子の特性もあいまって、観察眼みたいなものを磨いた学生時代だったと思います。
大学は商学部で、マーケティングに興味を持ちました。大学の講義で出会った博報堂社員の話をきいて、すごくおもしろい会社だなと思ったのが入社のきっかけ。はじめは営業職を希望し、主な業務はテレビCMなどの制作進行。この時期の経験はいまでもすごく役に立っています。制作の現場を経験したことで、戦略から現場のクライアントワークまでトータルでコミットできる人になりたいと思い、4年目にストラテジックプラナーに職種転向。職転と同時に関西支社に配属になり、そこで平石さんと出会うことになります。

-平石さんはずっとストプラ職だったのですか?
平石:前職で1年だけアクティベーション職として、主にイベント企画・実施などを担当した経験がありますが、基本はストプラ職。でもアクティベーションを経験したことですごく重要な気づきがあったんです。アクティベーションの現場ってとにかく大変なんです。イベントひとつ実施するにしても、想像を超える苦労がある。机上の空論で戦略を描くだけでは意味がない、と強く実感した経験でした。

-お二人それぞれに、戦略だけでなくアウトプットまで推進したいという想いを持っていたのですね。
平石:そうですね。関西支社は規模が小さいこともあり、いい意味でなんでもやれる。その環境で仕事ができたことも大きかったですね。配属された当時は25歳でしたが、すぐにクライアントの役員と対峙するような仕事もさせてもらえて、上層部の方々のビジョンや自社への想いを知る機会を多く得ました。そこで感じたのは「良い広告をつくりました、良かったです」だけではパートナーになれないということです。
クライアントの“商品が実際に売れる・ブランドファンが増える・事業成長する”ところまでコミットする、4Pすべてに関与しながら事業戦略からアウトプットまで描けないと、本当に頼りにされるマーケターではないなと強く思うようになりました。
-具体的には二人でどんな案件を担当されていたのですか?
平石:いまも継続していますが、関西支社でずっと担当してきたのが「大江戸温泉物語(GENSEN HOLDINGS)」さんのお仕事です。猪沢も異動してすぐチームに加わりました。もともとは「湯快リゾート」という京都の会社さんが関西支社のクライアントだったのですが、2024年に当時最大の競合だった大江戸温泉物語とブランドを統合することに。そのタイミングで僕が「ひとり半常駐」という形でマーケティングのサポートに入ることになりました。
猪沢:僕がチームに入ってびっくりしたのは、クライアントから課題をもらってそれに対するプラニングをするのではなく、すべてが自主提案型。来年はこれをやりましょう、そうすればこういう成果が生まれますというところまでトータルで提案するんですよね。
平石:そうですね。2社が統合しているので、ルールも考え方もお金の使い方もぜんぶ違う。何にお金を使うか、というところから僕もいっしょに入らせてもらって、両社の違いを理解して、課題を見つけて、解決策を提示する。半常駐期間中にそういったことを繰り返していたら、今のスタイルができてきました。どの宿を取得するか、リニューアルの予算はどうするかなど、さまざまな相談をいただきます。
2社統合により、大江戸温泉物語は日本で最大の温泉宿ブランドになりました。元々競合ではありましたが、2社の社員の方々は非常に熱く、“多くの人に、もっと気軽に温泉宿泊旅を楽しんで欲しい”という同じ思いを持っていたんですね。
そこで博報堂のクリエイターや営業メンバーと共に、2社の統合を「カジュアル温泉旅を取り戻すための意気投合」であると捉えなおして、想いを宣言するTVCM・WEB動画・新聞広告・記者会見など情報発信をデザインさせていただきました。

地方に温泉旅に来る人を増やして、各地の異なる魅力を知ってもらいたい——その新・大江戸温泉物語のアスピレーションを実現することこそ、広告会社がパートナーとして存在する意義だと思いますし、僕らは事業をスケールさせるためにご一緒していると思っています。僕の志望理由ともマッチしてますね!笑
猪沢:クライアントを愛していますし、温泉も愛しています。気が付いたら僕も平石さんも温泉ソムリエの資格まで取っていました。僕は温泉ソムリエマスターにもなりました。笑

-仕事のなかで、「違いを受け入れる」「第三者視点でバランスをとる」といった二人の得意技が生きると感じることは?
猪沢:よくワークショップを開催するのですが、そこでは現場の生の声からさまざまな課題が見えてきます。どう優先順位をつけ、どう整理するかというのも僕らの腕の見せ所ですね。
平石:猪沢は本当に先回りするのが得意。ファンド、経営陣、マーケティングのトップ、現場などさまざまなレイヤーの関係者がいますし、さらに2社統合で社風の違いもあるわけです。いろいろな変数があるなかで、なにが望まれているか、どうすれば納得感のある落とし所になるかを先回りで提案できる。その力はすごいと思います。
-そういった現場の声はワークショップで収集することが多いのですか?
猪沢:手法はワークショップに限りません。新しい施設のオープン時など、関係者が一堂に集まる場にはできるかぎり足を運んで、ここに困っている、こんなことをしたいといった声をチームメンバー全員でヒアリングします。会議の場でもなく、フラットに話せる環境で意見を聞き、その声を統合して「いい成果を生みそうな提案」を考える。提案づくりからファンドへの上申まで並走するのが僕たちのスタイルです。
-そのように集めた声から生まれたチャレンジなどありますか?
平石:全国に70あるすべての館に対してローカライズマーケティングを行うというのが今後やっていきたいこと。70の施設、すべてお客さまも違えば場所の魅力も違うわけですよね。まだ詳細は話せませんが、現場起点で地域ごとの魅力を発信するためのスキームを考えています。
地域との関係性を深めるためには、全国の館を一括して管理する中央集権型の組織ではなく、現場が自走していくような、地域に資産が貯まる組織構造にしなくてはいけない、という我々の提案を受け入れていただき、いまその取り組みが進んでいます。
猪沢:マーケティングまわりだけでなく、必要があれば組織構造まで提案してみる。それが真に得意先の事業にコミットするということだと思いますし、しっかりした信頼関係が築けているからこそ可能になる。平石さんのアプローチを見て、ストプラとしての仕事の深みを感じますし、ほかのクライアントにも活かせる考え方だと思います。
平石:僕らの話ばかりしていますが、博報堂のチーム一同はもちろん、クライアントの方々も素敵なんです。そして大江戸温泉物語に来ていただいているお客さんも皆幸せそうな顔をしている。世の中に良いことを、良いメンバーとやれているから、これだけ熱中できているのだと思います。

-組織構造など、事業の根幹に関わる提案も社員の声をヒントに導き出していくのですね。
平石:やはり、社員一人ひとりに志があって、やりたいことがあるんですよね。その想いを引き出して、火をつけるのが僕の強みだと思っています。ストラテジックプラナーというとなんだか気取った肩書きに聞こえますが、僕はもっと熱くやさしいマーケターでありたい。「Ignite Marketer」とでもいうのでしょうか。
個人のアスピレーションに光を当てて、それを事業課題に変換させ、アウトプットにまで落とし込む。個人の想いを起点に話をすることで、たとえルーツの違う2社であっても、立場の違うファンドであってもハレーションが起きにくいはず。なにより社員の方々がより前向きに取り組んでくださっている気がします。その変化を間近で感じられることもうれしいですね。
-クライアントとの距離の近さや、領域にとらわれない提案を大切にしているのが伝わります。
猪沢:関西支社はとくに、得意先との距離が近いかもしれないですね。一人ひとりが最前線に立って、課題を吸い上げてみんなで共有するという風土ができあがっていると思います。大きな組織ではないので、職種の境なくニュートラルに考えられるのもいいところ。自分は戦略を描くだけでなく、どう実現するかまで考えられるプラナーを目指しているので、ここでの経験がその糧になっていると感じます。
平石:僕は関西支社を経て、この春から博報堂プラニングハウスに所属しています。戦略プラニングブティックというだけあって、本当にレベルが高いプロ集団。小規模な会社なので、一人ひとり独自のスタイルを持ちながらみんなで研鑽を積む風土もあって、そこは関西支社に通ずるところがありますね。
所属が変わっても僕が続けていきたいのは、クライアントの事業成長に寄り添ってサステナブルな関係を築いていくこと。そのためにも、僕個人の価値を発揮するだけでなく、チームで成長するためのキーマンになりたいと思っています。
僕と猪沢のチームでお手伝いさせていただくこともできますし、とにかくどんな悩みの種でも聞かせていただきたいというのが僕たちの想い。人事のお悩みでも、何億稼ぎたいというざっくりしたご相談でも、「広告会社に相談することじゃないよな」と思われるようなことでも大歓迎ですので、ぜひお声がけいただければうれしいです。“熱く、明るく、誠実に”お力にならせていただきます!


1995年生まれ。2020年に博報堂中途入社、2025年から博報堂唯一の戦略ブティック「博報堂プラニングハウス」にジョイン。ACC MC部門 総務大臣賞/グランプリ、Spikes Asia Bronze、 PR Award Asia-Pacific Best Creative Idea Gold、JACEイベントアワード プロフェッショナル賞・ゴールド賞など受賞。モットーは「熱く、明るく、誠実に」です!

1999年生まれ。初任でビジネスデザイン局に配属され、ビジネスプラナーとして金融クライアントの制作業務のプロデュースを経験。2024年から現部門にてストラテジックプラナーとして主にマーケティング領域の業務にあたる。モットーは「まずはやってみる」です!