
「SAVE365Magazine」とは
日本赤十字社のブランドコミュニケーションの一環として展開しているウェブコンテンツ。日本赤十字社が有事に限らず365日動き続けていることを周知し、実際の有事の際の寄付先として想起してもらうことを目指し、雑誌とのタイアップや著名人を起用したムービー、そのほかオリジナル企画で構成。社会貢献や日本赤十字社の活動にあまり馴染みのない生活者に向けて多様な入口を提供している。
―今回の案件を手掛けることになった背景について教えてください。
關
日本赤十字社の活動は寄付によって支えられており、そのためには寄付を集めることが根幹になります。国内外で大きな災害や戦争などが起きた際は一時的に寄付額が増えますが、平時の防災・減災の取組みや応急手当・AEDの講習、ボランティア活動などはあまり知られておらず、寄付もなかなか集まらないという課題がありました。

小川
ですから、まずは日本赤十字社という存在に対する認知度・理解度を上げるという目標があり、さらに、日本赤十字社が365日、具体的にどのような活動を展開しているかを生活者に知ってもらうことを目指しました。
―特にクライアントにご評価をいただいたのは何でしたか。
關
有事だけでなく、平時の活動からそこに至るまでのステップを重視した常時接続型のコミュニケーション「ステップアクション」を提案したところ、評価いただけました。
たとえば最初のステップはテレビCMで、多くの人にとって日本赤十字社の活動を知る最初の入り口になります。次のステップは、そのほかのコンテンツを通じて、もう少し詳しく活動内容について知ってもらう。コンテンツを体験し、身近な存在だと感じてもらうフェーズです。続いてのステップでは、いきなりある程度のお金を寄付するにはハードルが高いので、たとえば特定のショップで購入したら代金の一部が寄付になるといった仕組みを作りました。さらに、ダイレクトに寄付ができるところに、広告などで関心を持ってもらいます。こうした一連の体験を、段階を追って設計していくという提案です。
―具体的にはどのようなアウトプットに落とし込んだのでしょうか。
關
日本赤十字社では、現在5月、9月、12月と、年明け3月の計4回キャンペーンを実施しています。それぞれテーマは決まっていて、5月は日本赤十字社の活動を周知し寄付を募る「赤十字運動月間」。9月と3月は、防災の日と東日本大震災があった日のため、防災・減災のために災害への備えを啓発するキャンペーン「ACTION!防災・減災」。そして12月は「NHK海外たすけあい」。日本赤十字社とNHKが合同で実施する募金キャンペーンです。これら4回のキャンペーンテーマに合わせて、我々はステップアクションにのっとって企画をご提案するというのが、基本的なタイムラインになります。
小川
パートナーとなった初年度は、ステップアクションの導入部分である1ステップ目として、マス広告のチームが上白石萌音さんを起用したテレビCMを制作しました。そして僕と關は、理解促進のためのウェブコンテンツを制作することになりました。それが「SAVE365Magazine」です。
「SAVE365Magazine」サイトは、日本赤十字社のさまざまな活動をわかりやすく伝えるため、上白石萌音さんが出演するインタビュー動画のほか、雑誌「POPEYE」、「anan」、「Hanako」とコラボした特別企画などで構成されています。

關
雑誌とのコラボにおいては、各誌性別も年齢層もさまざまな読者層に合わせ、それぞれの目線に合った企画に落とし込んでいきました。デジタルからの入り口という前提ではあるので、基本的にメインターゲットは40代以下の男女となります。実際、寄付を行う方は高齢者層が多く、若者がなかなか寄付をしないため、若年層の掘り起こしは必要なアプローチだったと思います。
たとえば 「POPEYE」のコラボ企画では、「募金をしてみたいけれど、なにから始めればいいのだろう。はじめての募金活動」というテーマの記事を制作しました。あるノンアルコールバーの店主の方が、店先でカンパを行い、実際に日本赤十字社に持っていくまでを追うもので、「POPEYE」らしいかっこいい方が出演されているのも含め、とてもいい仕上がりだったと思います。
小川
日本赤十字社の事業は9つにわたり、活動内容も非常に幅広いため、それらを紹介するためのコンテンツも用意しました。いずれにしても、サイトを見るだけで、誰かが「日本赤十字社っていいかも」と思ってもらえるようなコンテンツが格納できています。
―コンテンツ制作においてもっとも苦労された企画点はどこですか。
小川
もともと3月の防災・減災キャンペーンに紐づく企画として制作した、「防災あるある図鑑」というコンテンツでしょうか。日本赤十字社が日頃行っている防災・減災に関するセミナー内容を周知するという課題に対し、「いつも地震は起きているから大丈夫だよね」「警報発令されているけど私には関係ないよね」など、東日本大震災をきっかけに意識されるようになったさまざまな“バイアス”をフックとした体験コンテンツをつくろうと思い立ちました。そして、コンセプトを「油断と盲点」とし、避難時にありがちな思い込みに対して、正しい対処方法や考え方を解説してくれるコンテンツに落とし込んだのです。
關
最初に行ったのは、山のような講習用のパワポ資料、防災用のテキストを読み込むことでした。そこから「こういう場合はこうすべき」という正解を整理し、「もしかしたらこういう油断があるのではないか?」という仮説を僕ら二人で一つ一つ出していきました。さらにそれぞれの対応方法について、クライアントなどを通して誤りがないか確認していくという作業を行いました。
結局、50~60個のテーマをご提案し、最終的に20個に絞られたのですが、久しぶりにコピーライター修行で行う100本ノックのような感覚を覚えました(笑)。盲点を探すというプロセス自体、検索すれば出てくるものではありませんから、それだけ知恵を絞る必要がありました。何より、一つでも誤った情報を発信してしまうと誰かの命を危険に晒すことになりますから、非常にシビアに確認していかなくてはならず、緊張感のある作業でした。
小川
また、正しい情報を伝えなければならない反面、読みやすく、楽しく情報を知ることができるようにするのが僕らの仕事です。今回は特に、誤解を与えない表現を追求していきました。「これ何だろう?」と思わせるきっかけをつくるのと同時に、“間違わないこと”も同じくらい重要でした。そこのバランスは難しかったですね。
―ほかに困難だった業務はありますか。
小川
「海外たすけあいPOST」の企画です。2024年12月の「NHK海外たすけあい」キャンペーンで行った施策で、実際に赤十字の支援で井戸をつくったり、避難生活を送っている方々のお手紙を、現地で支援を担当する赤十字の職員の解説のもと紹介したりするというものでした。どの地域も紛争や戦争があり、おいそれと取材には行けない場所ですから、「こういうコンテンツのためにコメントをください」とお願いするわけですが、戦時下などの事情もあり、なかなか円滑には進みません。一方で、遠く離れた日本で寄付の意向を高めるには、やはり現地の人たちの生の声が欠かせないと考えました。日本赤十字社の方々、博報堂チームの中にも、「そろそろ諦めるべきでは……」という空気が漂った時期もありましたが、とことん粘った結果、最終的にメッセージをいただくことができました。
關
海外の方々がどういう状況にあり、どう支援が受け止められているかは、僕らのコピーだけじゃ伝えきれないと思ったんです。ご本人たちの顔が見えて、声が聴こえるコンテンツにする必要がありました。粘ったかいがあって、本当に良かったと思います。
―反対に、業務を通して喜びを感じるのはどんな瞬間ですか。
關
実際、クライアントに対する認知度や理解度は向上し、寄付の検討に繋げるという結果に結び付けることができていて、僕らもクライアントもうまくいっているという実感を持てている。互いの信頼関係もしっかり構築できていると感じています。
それから、僕自身よく献血に行くんですが、我々が担当したポスターを目にするとやはりうれしい気持ちになりますね。
小川
ステップアクションとしてその時々のフェーズに有効な施策をうっていく一方で、先述の「海外たすけあいPOST」のように、“世界中で困難な状況にいる人たちのために今やるべきこと”として行う施策もあります。それがきちんと、現場の喜びの声として返ってくるととても嬉しいですね。世の中のためになる仕事ができているというだけで、シンプルに気持ちがいいですし、やりがいや嬉しさがあります。家族にも積極的に話したくなる仕事です。

―改めて、クリエイティブの力は社会課題や問題の解決にどのように活かせるとお考えですか。
關
社会課題×クリエイティブの世界的な潮流は今に始まったことではなく、国際的な広告賞などでも、ここ数年は、いかに企業の売り上げを伸ばしながら社会全体の困り事を解決できるかが問われるケースが多いです。社会課題というのは、多くの人が自分ごととして捉えにくかったり、どこか遠い問題だと感じていたりするなど、なかなか積極的に関わることができていない側面もあります。普段から多くの人に振り向いてもらい、関心を持ってもらい、自ら行動してもらうためにアイデアを練り続けている僕ら広告会社の力が、寄与できる部分はすごく大きいと思います。
小川
今回の活動を通じて、僕らも日本赤十字社の活動について初めて知ることが多くありました。何より、日本赤十字社で活動されている方々がどれほど熱い想いを抱いているかを知ることができました。その想いと真摯に向き合い、彼らの人となりが伝わる形で活動の意義を広く世の中に届けていくことは、僕たちが発信のプロとして、ともに目指すべき大切な役割だと考えています。この取り組みが、社会にポジティブな変化をもたらすきっかけになってくれたら、と思っています。

―今回の業務を今後どのように活かしていけるでしょうか。展望をお聞かせください。
關
災害時にどうすべきか、避難場所はどこかなどの防災に関する情報は、世の中にあふれている一方で、決して正しい情報が十分に浸透しているわけではありません。今回、防災情報を伝えていく難しさや、伝えるために必要なことなどの知見を蓄積できたことは、今後同様の案件にも活かしていけるのではないかなと思います。また、特に社会課題解決に関連する案件というのは、どんな効果を生み出すかというアイデアの力が試されると思います。そのアイデアの力で、企業にも、生活者が作り上げる社会全体にも、そして僕らにもうれしい、三方良しの結果を目指して頑張っていきたいと思います。
小川
マーケティングコミュニケーションの領域では、組織やブランドは何を求めているのか、この施策で何を目指すべきなのか……、アクティベーションで盛り上げたり浸透を図ったりする以前に、コアにあるパーパスの部分を正確に捉えていくことの大切さを今回の業務を通じて改めて感じました。この学びを今後の業務にも活かしていきたいですね。


1990年生まれ。いつか子供に父の仕事を誇りに思ってもらえるよう、社会課題解決をはじめとした、あらゆるアイデアを全力で考え続けていきます。カンヌライオンズ2025入賞、ヤングライオンズ2020-2021世界2位。

1990年生まれ。コミュニケーションで今日の社会課題を明日の文化にすることを目指し、越境しながらちゃんと向き合っていきます。日本マーケティング大賞、広告電通賞、W3 awards 、awwwards. 朝日広告賞、講談社MEDIA AWARD受賞。ACCデザインファイナリスト、Spikes Asia モバイル/デザインファイナリスト、JAA広告賞 消費者が選ぶ広告コンクールメダリスト。