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「2030年、旅ってどうなっているんだろう?」
第12回/名桜大学国際学部特任教授・玉川大学名誉教授 寺本潔さん【後編】

2024.03.14

実践的かつ地域性と結びついた観光教育の魅力

岡本
僕らも会社のカルチャーとして異文化交流や相互理解を非常に重視しています。メンバーの国籍も多様で、異文化の触れ合いを大切にしながら、地域と旅人がつながっていくサポートをしたいといつも考えています。観光教育のなかでは、こうした“相互理解”などはどのように位置づけられていますか。具体的なプログラムなどがあるんでしょうか。

寺本
わかりやすい例として、観光庁につくっていただいたYouTube動画に、「観光教育普及啓発動画『観光教育ノススメ』」(https://www.youtube.com/watch?v=yjI2VXVdniU)というものがあります。そのなかで、沖縄県庁のすぐ裏にある那覇市立開南小学校の5年生120人ほどに協力してもらい、国際通りにいる外国人旅行客にインタビューしながら、「観光の花びら(自然・歴史・食・イベント・生活文化・施設)」を使った統計調査をしてもらいました。簡単な英語で「どこから来ましたか」「何を目的に来ましたか」と聞き、「沖縄の自然が好きで来ました」という答えであれば、「自然」の枠にシールを貼り、出身国を記していく。

学校で英語は結構習っているはずなのに、最初はみんなもじもじしてなかなか話しかけられない。でもいざ話しかけて通じたら、本当に飛び上がって喜ぶんです。その様子を見て私も嬉しかったですし、沖縄という観光県で、しかも国際通りという観光名所がすぐ傍にあるのに、なぜそれまでこれを教育に活用してこなかったのだろうと思いましたね。

岡本
生きた英語を使えて、それが通じたときの喜びは大きいですよね。海外に行かなくとも、街中や空港などそれができる環境が傍にあるなら、活用しない手はないですよね。そこから、自分たちの地域のことや自分たち自身のことを見直していったりもできる。

寺本
また、「この季節になぜ韓国の大学生がこんなに沖縄に来てるんだろう」という素朴な疑問から、韓国の気候を調べたり、週に何便くらい飛行機があるのか、距離はどれくらいかなどと興味が広がっていきます。やがてもっと韓国の人と触れ合いたいと思うようになる。それが国際交流、国際理解です。教科書からだけでは決して学べないことであり、実践的で地域性や現場性と強く結びついているのが、観光教育の魅力でもあります。

岡本
先生は北海道でも出張授業をされていますよね。

寺本
北海道は義務教育課が「ふるさと教育・観光教育推進事業」という事業を興してくれていて、いち早く観光教育を本格的に導入しようとしています。ようやく門戸が開いてきたと思うと嬉しいですね。

岡本
素晴らしいですね。

寺本
予算の限られた地方にとっては、インフラ整備ほどお金を掛けなくても効果があるのが、観光教育だと思います。郷土愛も醸成でき、人材流出を防ぎ、ひいては雇用も生むかもしれない。非常に有効な取り組みです。

危機的な地域こそ必要なのが、観光を磨いて磨いて磨くこと

岡本
地域の若い方が東京に出て来るのはいいとして、その前に一度でいいから、地域の誇りや、ずっと受け継がれてきたものをきちんと体験しておくことは、非常に大事なことだなと思います。実は地元の人のほうが、地元のことを知らなかったり、地元の名所などに足を運んでいないということはありますから。

最近インバウンド、富裕層の話になると議論になるのが価格の問題です。すべてを富裕層向けの価格にしていくと日本のお客さんが来にくくなりますから、ヨーロッパにあるような二重価格を採用してもいいのではないかという議論があります。でもそれに踏み切るには心理的なハードルもあるようでなかなか難しいんですね。いっそのこと、閑散期に限るなどして若者価格、地元価格などを設定し、その地域の本当に競争力のある資産を地元の若い世代が存分に体験できるような環境、そういう選択肢を増やしていくほうが、生産性のある議論になるような気がしています。

寺本
それには同意します。私は妙高高原の妙高高原中学校でも出張授業をしましたが、あそこは有名なスキーヤーも輩出しているし、青山学院陸上部の合宿所もある。ただ、だからといって誰もがアスリートやプロスキーヤーになるわけではありません。なので、そうした環境を支えるために、夏や冬の観光振興をどうしていくべきかを考える授業を行いました。具体的には、観光DXを基点に、いろいろなセクターをどういう情報でつなげていけば新しい誘客プログラムができるかを、四苦八苦して考えてくれました。

岡本
中学生にはなかなか難しそうな課題ですが、どんなアイデアが出ましたか。

寺本
たとえば、スキーにやってきた観光客を対象にあらかじめオンラインでニーズを聞いておき、スキー初心者に向けては、スキーが得意な地元の中学生が能力に応じてスキー教室を開くという案がありました。また夏場に合宿に来た学生を対象に、じゃんけんラリーで妙高高原を案内するプログラムだったり、オリジナルのスイーツを開発して電車やタクシーの広告で紹介する案もありました。わずか15分の間にあれこれアイデアを出してくれましたね。

岡本
すごいですね。

寺本
やはり地元の子は、振興策を本気で考えてくれるなと思いました。観光というのはポジティブなイメージで教育界にも入りやすいだけでなく、地元の未来を自分たちで考えていく、広い意味での街づくりに関与できる喜びも味わえる、とてもいいテーマだと改めて思いました。答えは決して一つではなく探究的な学びになりますから、教える側にとっては少しハードルだと感じられるかもしれませんが、その価値は大きいと考えます。

岡本
根気強く日本全国を回りながら、その価値を伝えてらっしゃいますね。

寺本
出張授業で地方に伺うと、非常に関心を持ってくださり、「この街でもやらなきゃいけない」とおっしゃる先生もいて嬉しく思います。ただ、都会にいるとなかなか気づきにくいですが、地方に行けば行くほど人口減少の激しさを目の当たりにして驚きますね。道を歩いていても誰にも会わないような場所がどんどん増えていってますから。もっとインバウンドや交流人口、たくさんの旅人を国内外で興し、移住先としてそうした地域を選んでくれるような人を少しでも増やさなくてはいけないと痛感します。

岡本
そうですね。公共交通機関が維持できなくなるなど、危機的な状況にある地域はたくさんありますもんね。

寺本
そうした地域に残された選択肢としては、やはり観光の魅力を磨くということしかないと思います。交通、サービス、観光資源の3極でシンプルに考えれば、交通が不便なところであればサービスと観光資源を磨き、グレードを上げて勝負するしかない。それを支えたり見出したりするのはやっぱり人であり、その人材を育成するためにも観光教育が欠かせないのです。

岡本
とても腑に落ちるお話です。

寺本
地方こそ、国際的な視野も必要だと思います。シンガポールから人が来るとなれば、こういうおもてなしを好むだろうなと類推したり、イスラム圏から人が来るなら、旅館の人はハラールミートやお祈りの習慣について知っておかなくてはなりません。そういう意味で学びがいのあるテーマですし、国際理解やキャリア教育にもつながる有効性があると思います。

冒頭の話に戻れば、そもそも観光はあらゆる産業に紐づくものです。ホテルでは近くで採れた新鮮な野菜や魚が並ぶし、ガソリンを入れるのは地元のガソリンスタンドだし、病気になれば旅先の病院にお世話になるかもしれない。ありとあらゆる業種、産業が観光を2次的にサポートしているからこそ、観光がしぼめば全体がしぼんでしまうんです。

岡本
キャリア教育の観点から、たとえば高校生くらいでキャリアとして観光領域を選ぼうとしている子がいたら、どういった領域の力をつけておくといいでしょうか。

寺本
1つは金融教育です。観光インバウンドから得られる収益についてもそうですが、為替レートなどの知識も有益だと思います。またさまざまな観光体験や商品を提供するにあたり、マーケティング基礎も重要です。さらにいえば、私の専門である地理教育。これこそが観光教育を主導できると考えています。語学はもちろんですが、こうしたことへの関心が必要になると考えます。

岡本
ありがとうございます。
最後に、毎回ゲストの方にしている共通の質問をさせてください。10年後くらいに寺本先生がしてみたい旅、あるいはご家族や教えこの方にしてほしい旅、大切な人にプレゼントしたい旅などはありますか。

寺本
有名観光地だけではない旅ですね。“私だけの”観光地とでもいいましょうか。ある人に会うためとか、ある風景を見るため、ある食べ物を食べるため、ある店に行くため…それを楽しむだけにわざわざ出かける旅です。そんな特別な場所を多くの人が持つことができれば、幸せな社会につながる気がします。

岡本
素敵ですね。だからこそ、入り口としての、自分のなかの気づきがすごく大事になるし、その視点を与えてくれる1つのきっかけが観光教育なんだろうなと思いました。

寺本
旅を単なるレジャーで遊びだと捉える人もいるし、リスクもあるしお金もかかるだけだとネガティブに捉える人もいる。だからせめて、旅や旅人を肯定する人を増やすことも、私の大事な使命だと思います。人口減少、高齢化、経済衰退などさんざんな状況でも、お金をかけずに外貨が稼げて、いろんな人が交流し産業の血の巡りがよくなり、衰退のスピードを遅くする役割を、観光振興が担っています。観光を学ぶことが、ゆくゆくは地域や、日本全体をよくしていくことにつながるはず。その力を多くの人に知っていただきたいですね。

岡本
旅の力、観光教育や観光そのものの可能性について非常に学びのあるお話を伺えました。
ありがとうございました!

寺本 潔
公立大学名桜大学国際学部特任教授・玉川大学名誉教授

1956年熊本県生まれ。熊本大学卒、筑波大学大学院修了。愛知教育大学・玉川大学を経て3月まで東京成徳大学に勤務。学習指導要領作成協力者、中央教育審議会専門委員なども歴任。主著に『観光教育への招待』ミネルヴァ書房や『地理認識の教育学』帝国書院、『観光市民のつくり方』日本橋出版などがある。

岡本 岳大(おかもと たけひろ)
株式会社wondertrunk&co. 代表取締役共同CEO

2005年博報堂入社。統合キャンペーンの企画・制作に従事。世界17カ国の市場で、観光庁・日本政府観光局(JNTO)のビジットジャパンキャンペーンを担当。沖縄観光映像「一人行」でTudou Film Festivalグランプリ受賞、ビジットジャパンキャンペーン韓国で大韓民国広告大賞受賞など。国際観光学会会員。

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