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世界の瑞々しさをテクノロジーの力で拡張できるように
博報堂人物図鑑 第13回/博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 三浦慎平

2023.12.25
上司、先輩に限らず、部下や後輩であっても、「この人のここが素晴らしい!」と、リスペクトしている人が社内には必ずいるもの。本企画は、博報堂社員だからこそ知っているオススメしたい博報堂のスゴイ人をリレー形式で紹介していきます。
第13回の推薦者は、前回登場したhakuhodo DXDのエクスペリエンスプラナー 世羅孝祐。推薦するのは博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センターの三浦慎平です。

■世羅からの推薦文
三浦慎平のスゴイところは何といっても、「ものづくり技術力」の高さ・広さです。

彼と僕が入社した2015年の新卒採用は、当時の「未来を発明する会社へ。Inventing the future with sei-katsu-sha」という博報堂と博報堂DYメディアパートナーズの合同ビジョンを受けてか、従来の代理店的でないイノベーティブな人材を多くとる挑戦的な採用でした。結果、我々の同期は変なものを作れる人が多いのですが、その中でもハードからソフトまで、作れるものの幅が圧倒的に広いのが慎平です。

高専出身で筑波大大学院卒という、エンジニア畑で磨いた技術力もすごいのですが、彼のユニークなところはそれを高いレベルで感覚/感性と融合しているところだと思います。先日は「広告を電子回路で表現する」というハードルの高い仕事に協力してもらいました。回路(機械)からプログラム、さらにはメタバースまで領域を広く取り、常に感性をアップデートしながら頭と心と手を動かし続けている人だと思います。

■理系でも人と人とのコミュニケーションに繋がる仕事がしたかった

——今回は、前回登場した世羅さんに引き続き、新しい広告領域を研究されている博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センターの三浦慎平さんにお話を伺います。三浦さんは世羅さんと同期で、かつ同じデータ分析の素養や数学的センスを問われる「Bコース採用」から入社されたとお聞きしました。

三浦慎平(以下、三浦):そうですね。Bコース採用は確かに理系出身の人間が多く、僕も工学出身。なのに、世羅さんって哲学科出身じゃないですか。同じBコース採用でも、僕とは全く違うバックグラウンドだったので、「こんな人もいるんだ!」と、博報堂の粒違いぶりに驚きました。

——紹介文にもありましたが、世羅さんとは「広告を電子回路で表現する」というお仕事もご一緒されたのだとか! ユニークですね。

三浦:元々電子電気工学を専攻していたので回路の勉強はしていたんですが、流石に広告会社に入ったらそんな知識は生かすシーンはないだろうと思っていたんです。でも「いつかこの自分の知識を広告領域で生かしたい」という思いがあって、やりたいことリストの一つに入っていました。そんな折、世羅さんから「広告のメッセージを回路で表現したいと思うから相談したい」と声をかけてもらって。僕の「やりたいこと」を叶えてくれた、素敵な同期でもあります。

——なるほど。そんなガッツリ理系ご出身の三浦さんが、広告業界を志した理由はなんだったのでしょう?

三浦:僕、理系出身ではあるんですが、大学院時代は美術館での集団学習——いわゆる、絵画を前にしてそこからどんなことを感じるかを複数人で対話し、対話を通じて作品への理解を深めていくという美術教育をサポートする方法について研究をしていたんです。例えば、抽象画を目の前にして、感じたことを言語化するのはなかなか難しい。だから、対話を引き出すための仕組みだったり、その仕組みを導入したアプリケーションをプロトタイプしてみて、検討した仕組みが対話の盛り上がりや作品への理解に効果があったのかといった検証をしていました。周囲の学生はエンジニアになったり、博士課程に進んだりする人が多かったですが、そうした研究をしていたからこそ、もう少し人と人とのコミュニケーションに繋がるような仕事がしたかったんです。

■拡張体験の存在によって、社会は大きく変わるはず

——そんな中でも博報堂を志望された理由も伺えますか?

三浦:これは偶然なんですが、ある時本屋で博報堂が発行している雑誌『広告』を手に取ることがありました。その号が「非言語ゾーン|言葉にならない感動が世界を作っている」というテーマで、パラパラとめくると、「言語と非言語の二元論を超えていけるか」というトピックがあったのですが、本質的には、研究で扱っている課題に近い問いでヒントをもらった記憶があります。そんな雑誌を作っている人たちってどんな人なんだろう、と思ったのが博報堂への興味のきっかけでした。

——そしてタイミング良く博報堂でBコース採用も始まり、入社されたということなんですね。三浦さんは主にVRやAR、MRによる、いわゆる拡張体験といった領域の研究開発職として働かれていますが、博報堂に入った2015年当時は、まだそこまで注目されていたジャンルではなかったのではないでしょうか。

三浦:VRについては、意外と歴史は古くて、それ自体は1960年ぐらいから存在はしているんです。それから1990年代前後にブームが来て、下火になり、コロナ禍で再度機運が高まった印象です。ARは、今私たちが当たり前のように使っているインスタグラムのフィルターなんかも当てはまるので、かなり浸透してきましたよね。僕が入社した2015年当時は、テクノロジーを活かしたクリエイティブの事例が、広告コミュニケーションの領域でもどんどん世に出ていった頃で、僕自身もクリエイティブ×テクノロジーの融合やそれを活かした広告コミュニケーションには非常に可能性を感じていました。入社当時は、VR/AR/MRなどのXR(クロスリアリティ)の活用には、まだスポットが当たっていなかったものの、広告コミュニケーション領域と近づいていく流れは既にあったように思います。

——広告会社というと、営業職やクリエイティブ職の働き方はなんとなくイメージできますが、「研究開発職」となるとなかなかどんなことをされているのか想像がつきづらい部分もあります。普段どのような仕事をしていらっしゃるのでしょう?

三浦:ざっくりと説明すると、これからXRも含めてテクノロジーがさらに発展していく中で、博報堂DYグループの5年後10年後を見据えた時に、他社との競合優位性を持つためには、どのような要素技術や知識を備えておくべきかを研究を通じて考えるのが、僕たちの仕事の1つです。中でも僕も含めて、XRの研究チームのメンバーはVRやAR、MRなどのXRが生活者のコミュニケーションをどう変容させるのか、広告コミュニケーション領域で汎用的に活用できる体験設計の要素とは何かといった問いのもとで研究を進めています。これから、今自分たちのいる現実空間とサイバー空間がどんどん融合していく中で、おそらくガラケーばかりだった通信手段がスマホに変わってみんなのコミュニケーションが大きく変わったような、変革が起こるはず。そうなった時、生活者はどのように行動するのか、どういう心理状態になるのか、その時に社会と企業と生活者をつなぐ方法はどうあるべきか、といったトピックを先取りして研究しています。

■拡張体験が社会に浸透するのに欠かせない“ものさし”を考える

——広く、大きな視点でコミュニケーションの未来を考える…また博報堂の中でも一風変わったお仕事のように感じます。

三浦:そうかもしれませんね。でもXR空間を誰もが使えるようになる未来はやってくるはずです。だからこそ、例えば被験者の方にプロトタイプを体験してもらい、何を広告において重要視するかを考えることが、喫緊で必要になってくるんです。ベンチャー企業さんや外部の研究機関と連携して、新しい技術をどうすれば実際に現場の案件に使えるかを丁寧に検証しているというステータスです。やはり、未検証なものだと広告領域でなかなか活用できないでしょうから、技術の目利きをしながら、どんな手法なら効果的なのか、社会と企業、生活者と技術と… 視点を振り子のように行ったり来たりしながら研究に取り組んでいます。

——三浦さんは、産総研コンソーシアム「拡張体験デザイン協会」での研究にも参加していらっしゃるとのこと。ここではどのような活動をされているのでしょう?

三浦:産総研(産業技術総合研究所)とは、経済産業省の管轄の研究機関で、日本で一番大きい研究所ともいえます。産業に役立つ独自技術の開発や新技術の研究などに取り組んでいる機関です。多様なメンバーがいるのですが、議論の中心は、XRのような拡張体験の効果を測る“ものさし”をどう作っていくべきか、ということです。

——“ものさし”というと、具体的にどういうものなのでしょう?

三浦:拡張体験が世の中にもっと浸透するには、UIといった技術領域だけでなく、定性、定量の両方の視点で、認知心理学の知見なども参照させていただきながら、生活者の理解も含めた研究が必要で、何をもって「良い体験」なのかの基準づくりが必要です。それがここでいう“ものさし”ですね。

——広告領域ではこの拡張体験はどのような役割を担っていくことができると思いますか。

三浦:仮想空間や複合現実空間などのXR空間に人がどんどん集まるようになれば、必然的にそれがメディアになり、そこに広告枠が生まれるのは自然な流れだと思います。ただ、そうしたXR空間のようなところに設置する広告が、現実と同じような看板型の広告でいいのかは議論が必要です。例えば仮想空間上で何かの商品を知って、それを生活者が購入したというシチュエーションを考えた際に、ただ、それを「見かけたからとりあえず買った」のか、仮想空間上で特別な体験をして購入に至ったかでは、同じ購入でもその後のブランドとの関係性は異なってくるかもしれません。そうした話も社内で話題に上るんです。

■現実もバーチャル空間も、いずれ地続きになる

——三浦さんのお話をお聞きしていると、広告の形が大きく変わる日もそう遠くはないように感じます。

三浦:もちろん、まだ仮想空間やアバターも含めて技術面での課題はたくさんあります。しかし、安全性やいかに社会に受け入れてもらうかといった社会受容性などの評価軸を作りつつ、XR空間の「良さ」の定義をすれば、確かに大きな変革が起きる日は遠くないと思います。それに、例えばそれまであまり人がいなかった場所にMRコンテンツが誕生して、そこに人が集まれば、その場自体が広告機能を果たせるようなメディアに再価値化される可能性も大いにあると思います。個人的にも、そうした動きがどんどん出てきてほしいというのが願望ですね。

——広告の未来を一番先端で考えていらっしゃる三浦さんが、今後取り組んでみたいことや挑戦したいことはありますか?

三浦:これまでのような話を続けていると「じゃあ現実って何なんだろう?」という感覚に陥ることがありますが、これからは「現実も、仮想空間も、どちらも地続きの“現実”だ」という考えが浸透していくと思います。今はまだ仮想空間や拡張体験って現実世界とかけ離れた世界のイメージはあるかもしれませんが、既に生活の延長になっている方々もいらっしゃいます。いずれ現実空間とXR空間が融合した世界でも、広告からワクワクしたり、感動したり、知らない人とつながれたり、世界の瑞々しさみたいなものをより味わえる場所になってほしい。僕はそうした世界をチームで作っていきたいですね。

<コラム>
▼仕事のモチベーションが高まる!「リフレッシュ法」教えてください!
XRなどの仮想空間や拡張体験の話からはギャップがあるかもしれませんが、趣味が散歩で、好きな時間の過ごし方の一つが神保町の古書店巡りです。特にアートブックを豊富に扱っている小宮山書店さんに立ち寄ることが多く、なかなか手に入らないような昔の本や雑誌をめくると「昔からこんな生活やメディアの未来を描いていたんだ!」と胸が高鳴ります。

取材・執筆=田代くるみ(Qurumu)、撮影=杉能信介

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