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広告に“愛”で向き合い、心を揺さぶりたい
博報堂人物図鑑 第10回/BXクリエイティブ局 アートディレクター 野田紗代

2023.08.03
上司、先輩に限らず、部下や後輩であっても、「この人のここが素晴らしい!」と、リスペクトしている人が社内には必ずいるもの。本企画は、博報堂社員だからこそ知っているオススメしたい博報堂のスゴイ人をリレー形式で紹介していきます。
第10回の推薦者は、前回登場したHakuhodo DY Matrix アクティベーションディレクターの杉山芽衣。推薦するのはBXクリエイティブ局 アートディレクターの野田紗代です。

■杉山からの推薦文
働き方改革が叫ばれる昨今、働かせろや・・・!! いや、むしろもっと働かせてください。
そんなスタンスで時代と逆行して仕事する仲間のひとりがのださよさんかもしれません。笑
出会いは遥か昔、会社でよく見かける忙しそうな先輩。
お互いなんとなく認識をしていたけど、一緒に仕事をしてわかりました。
のださよさん最強だ!
いいものを作りつづけようという姿勢、デザイナーという領域を超えた仕事への向き合い方、一緒に仕事をしていてハッとさせられることも多くて、日々刺激を受けています。のださよさんがいるから、わたしも頑張らないと!!という場面も多く、一緒に頑張れる相手がいるって最高じゃない?!と気づかせてくれました。

そしてのめり込む力も半端ない。推しがいるから仕事も頑張る。
仕事めっちゃ頑張って私生活もめっちゃ充実させる。
むしろ推しが活力になった働き者はめっちゃ強い。
こんなに仕事と推しに疲れてるけど楽しそうな人いない!!強い!!

年次を重ねても一緒に良いものを作っていく、そんな関係でいたいデザイナーの先輩です。

■仕事へのエネルギー量が同じだからこそ、一緒に走り抜けられる

——今回は、前回の杉山さんから「ぜひ、のださよさんで!」と真っ先にご紹介いただいた野田さんのご登場です。杉山さんとは社内チーム「CREATIVE TABLE 最高」(以下、最高)でもチームメイトということで、まずは杉山さんへの印象から教えていただけますか。

野田紗代(以下、野田):「最高」は全員平成生まれのクリエイティブチームで、中でも芽衣ちゃん(杉山の愛称)はとにかくパワフル。「杉山芽衣」っていう名前だけで、すでに社内では有名でしたからね。私も「いつか一緒に仕事ができるといいな」と思っていたら、「最高」で一緒になったり、同じプロジェクトでお互いに本気を出し合える仲になっていたりしていました。

——杉山さんからもご紹介の際、「のださよさんは、とにかくめちゃくちゃ仕事する人、というイメージです!」と力説いただきました。

野田:芽衣ちゃんには負けますよ(笑)。私も相当仕事への熱量が高いタイプだと思うのですが、彼女も私と同じくらい仕事に向けるエネルギーが大きい。そういう意味でも一緒に仕事をしていてすごく楽しいし、同じ仕事をしていると「私もがんばろう!」と心底思える存在です。

■心を揺さぶられた一枚の広告と、学生時代

——金沢美術工芸大学のご出身とのことですが、広告業界を目指されたきっかけは?

野田:中学時代からデザイナーになろうと思っていて、進学は美大にと決めていました。広告の仕事を意識したきっかけは、佐藤卓さんが手がけたパッケージの商品をコンビニで見た時、シンプルだけどすごくそれが素敵に見えて。その時、自分がデザインしたものがコンビニに並んだり、世の中のたくさんの人の手に取ってもらったりしたいと気づいたんです。そこから広告の世界にどんどん興味が湧き始めました。

——まずはデザイナーを志されて、それから入社して現在のアートディレクターを目指されたのでしょうか。

野田:実は予備校時代からアートディレクターを目指していたんです。学生時代、初期はまだアートディレクターという職業の存在すら知りませんでした。業界に興味を持ち始めて、広告やクリエイティブ関連の雑誌を読んでいくうちに「スタッフリストにある、このAD(アートディレクター)ってなんだろう?」と思って。その頃、佐藤可士和さんや森本千絵さんらの素晴らしいアートディレクションを目の当たりにして、私もあんな仕事がしたいなと。ただ、当時の美術系予備校の先生に「私、アートディレクターになりたいです」って言ったら「そんな簡単になれるものじゃない!」と言われてしまいました(笑)。

——なるほど。とはいえ、広告業界への道は心に決めていたんですね。

野田:佐藤卓さんのエピソードに加えて、もう一つ私の大事な原体験があるんです。それが、受験生時代に駅で目にした、河合塾のポスター。そこに「人生に、受験という季節があってよかったと、思えるときが必ずくるよ。」というコピーがあって、それを見た瞬間に涙がポロポロ出てきて。その時、やっぱり私は人の心を動かす、こんな広告が作りたい、と強く思いました。このポスターに出会ったからこそ、今の自分があると思います。

■考えれば考えるほど、愛しくなってくる

——そんな野田さんも、今では博報堂の第一線のアートディレクターとして活躍されています。入社されて、これまでを振り返っていかがですか。

野田:最初についたトレーナーであり師匠が、本当に広告を愛している人で。私も「広告が好きだ」という思いは負けないくらい持っていると自負していますが、その師匠には及ばないかも、と思うほどの情熱のある方でした。その師匠から広告の1から10までを教わって気づいたのは、師匠が全力で広告を愛しているように、広告には何よりも“愛”が大切だということです。一時期は自分のプロフィールに「愛されるものを、愛を込めて作る」という一文を添えていたこともあるくらいです(笑)

——「愛されるものを、愛を込めて作る」。素敵な姿勢ですね。

野田:私、一度そのクライアントを担当すると、そのサービスや商品、会社そのものが大好きになるんです。元々あまり興味がなかったものであったとしても、「どうしたらこの商品を愛してもらえるだろう」と考えれば考えるほど、愛しくなってくる。まずは広告の作り手に愛がないと、その商品の良いところは見えてこないと思います。だからこそ、自分がまずそのブランドを愛してあげて、そこから発見した良さを最大化していく。それが私の仕事だと思っています。

デザイナーとアートディレクターには、その職に優劣はありませんしどちらも素晴らしい職業だと思っていますが、アートディレクターはそのブランドの全ての世界観をデザインするのが役割です。だから必然的に企画もSNSもCMも全て見ることになるので仕事量は増えますが、故にその“愛”が仕事をすればするほど、一層深まっていくように感じます。

■見る人の感情の温度をコントロールする

——お仕事においてそのブランドに一心に愛を注がれる野田さんですが、クリエイターとしてアウトプットを考える際、大切にしていることはありますか。

野田:私は自分自身のことをうまく分析して言語化するのがそんなに得意ではないんですが、あるADの先輩に「野田さんは、広告で見る人の感情の温度をコントロールするのが上手だよね」って言われたことがあるんです。

——確かに、野田さんの過去のお仕事を拝見していると、温かい気持ちになれたり、応援したくなったり、ジーンときたり、こちらの感情にすごくうまくフィットしてくる作品がたくさんあるように思います。

野田:そう言っていただけると嬉しいです。見ている人の気持ちの温度って、単に伝えたいことを伝える一方向的な表現では、コントロールするのはすごく難しいことだと思っています。やりすぎると、感情の押し付けのようになってしまうというか…。

だからこそ、たとえば頑張っている人を応援するような広告であれば、まずは頑張っている人をリスペクトしないといけないし、彼ら・彼女らの熱量を絶対バカにしちゃいけない。そうした相手を理解するプロセスを必ず踏んで、単に「頑張れ」と言うのではなく、その応援の気持ちを、ちょうど心地よく、自然と抱かせるような広告を作れるように、常に意識しています。

■誰か一人でいい。「素敵だ」と思えるものを作りたい

——「感情の温度をコントロールできる」、それは広告だからこそできることなのかもしれませんね。

野田:ただ表面的にカッコいいデザインだったり、オシャレなデザインだったら、人の心はそう簡単に動かないし、いわゆる「感情の温度」にも変化は訪れにくいと思います。でも、広告には企画があって、デザインがあって、コピーもある。私はコピーも大好きなんですが、先にお話しした塾のポスターのように、その一言が誰かの人生の中で大きな意味を持ったりすることもある。それって広告にしかない力だと思うんです。

——これから「こういうものを作っていきたい」という目標はありますか。

野田:一言で表現するなら「いいものを作りたい」です。なるべく誰かの心の深いところに刺さるようなもの。誰か一人でいいんです。誰一人にも刺さらなければ、それはきっとこの世の中の誰にも刺さらない。けれど、誰か一人が「素敵だ」とか「いいな」と思ってくれたら、きっとたくさんの人の心に届いていると思います。だからこそ、その規模がどんどん大きくなって、いずれは日本中の人の心を揺さぶれるようなものを作りたいですね。

■れっきとした「アートディレクター」でいたい

——入社されて約10年になりますが、そうした大きな夢を追いかける上で、今はどのような姿勢を大事にされていますか。

野田:この10年は全力で走り続けてきた日々だったと思います。もちろん広告への愛が途絶えることはありませんが、やっぱり少し疲れを感じることもあって。なので、初心に帰ってみようと思って、先日自腹でカンヌ(カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル)に行ってきたんです。「あ、この広告面白いな」と思えるものにもっと触れて、入社したての時の…いや、むしろ広告の世界に憧れた学生時代の時の、自分をもう一度思い出したいと思って。自分のモチベーションを保つことにも、すごくつながる数日間でした。

——お話を聞いていると、野田さんは自分自身にガソリンを入れる術をとてもよくお分かりなんだなと感じます。

野田:そうかもしれません。先述の通り、私は担当するブランドをつい好きになってしまうタイプですし、その「好き」が一点集中型というか、ぐぐぐっと愛が深まる人間なので。そういう意味では芽衣ちゃんが推薦文で「こんなに仕事と推しに、疲れてるけど楽しそうな人いない!!強い!!」と言ってくれているのは、担当したクライアントが“推し”になって、それがまた私を突き動かすガソリンになっているからだと思います。

それに、繰り返しになりますが、やっぱり私は広告が好きなんです。だから、この仕事をずっと続けたいと思える。アートディレクションはすごく広い世界なので、これから勉強しないといけないことはたくさんあるし、デジタルだったり、備えるべき知識はどんどん増えると思うのですが、自分はずっとれっきとした「アートディレクター」でいたい。まずは広告の、このアートディレクターという山を登り続けて、頂上から見える景色がどんなものなのか想像しながら、日々の仕事と向き合いたいと思います。

<コラム>
▼仕事よりも夢中かも…「私、いまこれにドはまりしてまる」というものを教えてください!

野球が大好きです。応援しているのは福岡ソフトバンクホークス。推しているのは周東佑京選手です。初めて見た試合でホームランを打った周東選手を見て、それから心奪われてしまいました! 今では仕事の合間を縫って、各地の試合を巡る日々。有料会員記事やインタビュー動画もほぼ見ているので、選手の情報や趣味はインプット済みです。これぞ愛ですね!

取材・執筆=田代くるみ(Qurumu)、撮影=杉能信介

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