THE CENTRAL DOT

“時流に乗る”だけじゃない、本気で心を掴みに行く企画
博報堂人物図鑑 第9回/Hakuhodo DY Matrix アクティベーションディレクター 杉山芽衣

2023.07.06
上司、先輩に限らず、部下や後輩であっても、「この人のここが素晴らしい!」と、リスペクトしている人が社内には必ずいるもの。本企画は、博報堂社員だからこそ知っているオススメしたい博報堂のスゴイ人をリレー形式で紹介していきます。
第9回の推薦者は、前回登場したBXクリエイティブ局 チーフCMプラナーの波多野順。推薦するのはHakuhodo DY Matrixのアクティベーションディレクター杉山芽衣です。

■波多野からの推薦文
マスなき時代のマス開拓者、杉山めい。

めいちゃんは、SNS事情に詳しい人? めいちゃんは、Z世代のリアルがわかる人? めいちゃんは、アイドルに詳しい人?

否。めいちゃんは、まっとうなビジネス感覚を備えた、ふつうの会社員。ぼくは、こんなに周りの印象と、実像がかけ離れた人はみたことない。口癖は「それ意味あります?」(実際はもっと丁寧です!)。礼儀を重んじ、求められる成果へ忠実な人。

マスの喪失が叫ばれて久しいが、おじさんであるボクが慣れ親しんだあの頃のマスのように、メディアを問わずデジタルをマス化して乗りこなす人。それがめいちゃん。

戦略CD中川氏は、前回ここで、「令和トリックスター宣言」をした。ボクもトリックスター番付の末席に座れる自分でありたいと思う。

めいちゃんは、彼女がいる「そこ」を、なぜかマス化してしまうスタンドを持つ、トリックスターなのだと思う。めいちゃんの語る「ふつう」について、ぼくは耳を傾けたい。

そう思った故、ここに彼女を紹介させていただく。

■どんな意味でも私と「バイブスが合う」存在

——今回は、前回の波多野さんから「次はぜひこの方に」という一言をいただいた、杉山芽衣さんのご登場です。波多野さんとは年齢も離れていると思いますが、杉山さんとはどのような共通点があるのでしょうか?

杉山芽衣(以下、杉山):波多野さんとは「バイブスが合う」の一言に尽きると思います。「バイブス」なんていうとちょっと軽い感じがしますが、もちろんノリ的な意味でもあり、仕事面でもそう言えると思っていて。何度かご一緒させていただいた案件があり、互いの得意な分野で互いをちょうどよく補え合える間柄だと感じました。それに、二人とも意外と根は真面目で、仕事に対してはめちゃくちゃシビアだと思っているので、そういう共通点もあるかなと。

——前回のインタビューで、波多野さんの口からも「数字にはシビアに向き合っている」というエピソードを伺いました。

杉山:「ちゃんとクライアントに真摯に向き合って、売れなきゃダメだよね」という共通認識は間違いなくあると思います。作って終わりではなくて、どれだけ売り上げに直結したかは私もかなり見ている部分で。あとは、自分たちが作ったCMで、売り上げはSランクまで行っても、好意度はAランクだったのなら、そこのA→Sへの引き伸ばしについて徹底的に考える。そういったところは波多野さんにも私にもある部分だと感じます。とはいえ、やっぱり私にとっては「ノリがいいお兄ちゃん」という印象はありますね(笑)。

■とにかく企画書を作るのが大好きだった

——美術関連の学校を卒業されている杉山さんですが、現在はプランナーとしてご活躍です。デザイナーではなく、企画を考えるお仕事に就かれたのはどうしてでしょう?

杉山:中学から美大の系列校に進みましたが、そういう環境ってものを作るのが上手な子だらけなんです。そんな中で「自分にデザイナーは無理だな」なんて挫折もしたんですが、実は企画書を書くのがすごく得意なことに気づけたのもこの時でした。文化祭とか体育祭があれば、「こういう全体コンセプトがあるなら、横断幕は書道部のこの子に書いてもらおう。装飾はこういう割り振りにして、この教室のカラーはテーマに沿って黄色がいいな」とか、一生懸命考えて、それを実現するのがとにかく面白くて。

——キャスティングまで手がける、まさしく企画やプロデューサー的お仕事ですね。

杉山:できることを把握して、どうしたら良いものが作れるかといった全体統括と、その根幹部分のコンセプトのようなものを考えるのが、元から好きだったんだと思います。そうした原体験があったから、学生ではできないもっと大きな規模でそんな仕事をやってみたいと思って、広告業界に進みました。

——フリーランスの時期もあったということですが、博報堂を選ばれた理由は?

杉山:1人でやるよりチームでやる方が向いてると思ったからですね。1人で考えてどんどん進められるのもいいんですけれど、やっぱりみんなで話をして、アイデアを振り絞ったり、意見を出し合ったり、ものを作ったり。それってチームじゃないとできないことですから。制作プロダクションも十分楽しいのですが、博報堂ではより全体を俯瞰して見ることができて、クライアントの課題に対峙できる。クリエイティブを作る前に、まず前提として何をすべきかという大枠を作って、それを細分化してそれぞれができることをやれるのが、博報堂だと思います。それにここではフロントラインに立って、クライアントのトップともコミュニケーションが取れるし、ちゃんと言いたいことを言わせてもらえるのも、いい環境だなと思える所以です。

例えば、私が今在籍しているHakuhodo DY Matrixは、次世代の「Well-being」を追求する会社ですが、単に「健康について考える」会社ではなくて、健康から離れた商材もどうWell-beingとして解釈するかを考える会社。そういった「本当のWell-beingってどういうことだっけ」と全体を俯瞰して考えられる場で、すごく面白いですね。

■流行で片付けず、相手の「好き」に失礼がないように徹底的にリサーチ

——ご自身のどういった素地が、広告の仕事に向いていると感じますか?

杉山:私、めちゃくちゃミーハーなんです。でも、単に「流行っているものが好きだから、流行を取り入れた提案ができる」という話ではなくて、なぜそれが流行っているのかを分析したり、流行っているものを上手く企画に取り込むにはどういった要素が必要なのかをロジカルに考えて、相手を説得しながらものを作っていくのが得意なんだと思います。だから、膨大なデータを常にインプットして、「絶対このアイドルは今年“来る”ので、起用させてください」って全力でクライアントを説得しながら、キャスティング番長的な動きもしています。

——なるほど。それにはあらゆるジャンルに精通している必要があると思うのですが、そうしたインプットの作業はどのようにこなしているのでしょう。

杉山:私、今シェアハウスに住んでいるんです。同居人や遊びにくる子達はみんな私と同じ“超”がつくほどのミーハー。お互いが好きなものを語り合うからには、私も相手が好きなコンテンツを知り尽くした上で語り合いたいと思う。安易に「それ面白いね」なんて言いたくないんです。相手の「好き」に失礼がないように勉強するという習慣がついているんだと思います。

それに、シェアハウスのメンバーだけではなくて、私の周りには学生時代から宝塚が好きだったり、V系が好きだったり、アイドルが好きだったり、いろんなタイプの子たちに囲まれて過ごしてきたというバックグラウンドがあるので、周囲から得た知識の蓄積があるのも大きいですね。

■思い通りの反応も、思わぬ反応も、すべてやりがいにつながる

——そうした姿勢を持ち合わせているからこそ、説得力のある企画が提案できる、というのは非常に納得感がありますね。CMで好きなアイドルが出て「このアイドルにこの衣装を着せたスタイリスト、この子の良さを120%引き出せてる!さすが!」と思うこと、あります。

杉山:そういう言葉をTwitterで見つけた時が一番嬉しいかもしれません(笑)。この仕事の醍醐味というか、思った通りのターゲットに思った通りの言葉を発してもらった時は、綺麗にストレートが決まった感覚で気持ちいいですね。だからこそ、生活者の視点は絶対に大切にしていますし、どう思われるか・どう呟かれるかはいつも考えながら企画を組んでいます。その時も「今回のターゲットはあの友達に近いから、あの子が喜ぶのはどんな企画だろう」と、“イタコ芸”みたいに自分の脳内に友人を憑依させて、企画書を書いているんです。

でも一方で、思ってもいない事態…例えば自分が担当していた案件がSNSで賛否含めて盛り上がる、そんな時もむしろチャンスだと思います。以前もあるSNSを使った企画で、起用した俳優のファンを中心に演出に対して議論が巻き起こったことがあったんですが、2週間くらい静観していたんです。静観といっても、何もしないのではなく、時間を追うごとにどういった反応の変化があるか、ずっと見ていました。するとキャンペーンが終わる頃には、最初は演出に不満を抱いていた人が「終わるのが寂しい」って呟いていたり、キャンペーンロスになっている人がいたり。その瞬間「自分たちが作った広告は、ちゃんと生活の中に入っていけていたんだ」と納得できたんです。

——だからこそ、次も「こうしたらいいんだ」という学びもある、と。

杉山:そうなんです。思った通りのところにボールが入ったらそれは気持ちいいですけれど、思わぬ反応が来た時にしか、新しい経験値は積めないと思っていて。それに、こうした経験を積むからこそ、最初違った反応だったとしても「大丈夫です」ってクライアントに自信を持って言える。「2週間も経てば、クセになってつい見ちゃいますよ」って。

■“トレンド”の解は常に一つではない

——ソーシャルメディアを活用したプランニングが得意な杉山さんには、最新のトレンドを押さえたオーダーも多いかと思います。しかし、日々新しいものが生まれ、流行り廃れも早い昨今、その瞬間瞬間のトレンドを追い続けるのはそう簡単なことではないのではないでしょうか。

杉山:確かに、「今のトレンド」を完璧に押さえることはとても難しいです。でも、トレンドとひとことに言っても、クライアントによって合うトレンド・合わないトレンドがあると思うんです。そのためにも、ターゲットとクライアントの人格、それぞれをしっかり把握しておくことが重要。その二つを掛け合わせたときの最適な“トレンド”を探すことが正解です。XとYの要素は無限にあるからこそ、“トレンド”の解は一つではなく、「流行ってるからこれをやればいい」というのは危ない思考だと思います。

——なるほど。それをチームやクライアントに納得してもらうために、杉山さんはどんなことを重要視していますか。

杉山:私の企画書の構成には特徴があって、前半がかなり重いんです。企画書の前半部分で、なぜ、今、これをやるのか。その理由を、ファクトをベースにしっかりとまとめ上げて、最後にサラッと「だからこれをやるんです」とまとめるスタイルを取っています。ちゃんと自分の言葉で「これをやる」ないし「これはやらない」という理由を言えないと、最終的に完成したものでは誰も幸せになれないと思うんです。

■世の中の“真ん中”を言語化できるプランナーに

——ソーシャルメディアを駆使した企画のオーダーが多い杉山さんにこそお聞きしたいのですが、これからのSNSとマスの関係性はどうなっていくと思いますか。

杉山:私自身かなりのテレビっ子ですしCMは大好きです。でも、やっぱりCMだけじゃダメだとも思っていて、CMをどう広げるか、それを考えられるプランナーにならないと、これから先自分の未来もないと感じています。デジタルだけでもダメだし、マスだけでもダメ。それらが連動して、ようやく広告は生活者の中に入っていけるし、ニュースになれると思うんです。

だからこそ、波多野さんもおっしゃっていましたし、繰り返しになりますが、生活者のリアルな感情はちゃんと読み取っていたい。Z世代のみんながみんな環境保護に興味があるわけじゃないし、TikTokには踊ってるユーザーだけじゃなくていろんな使い方をしている人もいる。そうした生活者の本音とか、本当の姿を、ちゃんと見つめられるプランナーでありたいです。

——これから先、どんなスタイルで仕事をしていきたいですか。

杉山:年齢が若いからと若いターゲット向けの仕事を振られるより、世の中全体を俯瞰しているからこそ、40代、50代になっても「若いターゲット向けの施策を考えてほしい」とオーダーされるようなプランナーになっていたいですね。それに、ただの「SNSに詳しい人」ではなくて、SNSにも精通しながら、みんなが思っていることのど真ん中を言い当てられる…つまり世の中をちゃんと言語化できるプランナーでいたい。そして、一分一秒で流行が変わる今だからこそ、提案の取捨選択をする勇気を持ち合わせた人間でありたいと思います。

<コラム>
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アートを見るのが好きです。特に現代アートですね。展示会にいくと「今年は環境問題系が多いな」といった学びもありますし、表現の仕方の気づきも得られる。例えば女性作家がフェミニズムをストレートに語ると“ウッ”と思ってしまうじゃないですか。それをどう表現すればいいか。その感覚って企画を考える上でも役に立つと思います。

取材・執筆=田代くるみ(Qurumu)、撮影=杉能信介

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