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【日本タイダン。】第2回ゲスト 北村森さん
無類のトレンドウォッチャーがサステナブルな地方活性化に挑む

2019.02.28
#ブランディング#地域創生
日本の地域を訪れ、体験や発見をつづる連載コラム「日本トコトコッ」の執筆や地域のまちづくりに関わる、スマート×都市デザイン研究所長・深谷信介が、日本の地域活性について、様々な分野のオピニオンリーダーと対談する連載コラムです。第二回は、『日経トレンディ』編集長を経て、2008年に独立され、モノづくりを通じた地域おこしのアドバイザーとして活躍されている株式会社 ものめぐり代表の北村 森さんをゲストに対談します。

深谷 森さんと地方のお仕事を何度かご一緒させていただいて、ずっと感じていたことがあります。仕事のスタイルに「あっさり派」と「こってり派」があるとすれば、森さんはもう完全に後者ですよね(笑) 必ずその地域に深く入り込んで、熱く、濃厚にお仕事されている。さらっと、あっさり関わる人が多い中で。

北村 そうですね。僕はあっさりしてないです。ドロッとしてます(笑) どんな仕事でもそうですよ。商品のコラムを書くなら、ほぼ必ず責任持って自分で買って使ってみるし、地方の仕事では必ず現地にできるだけ深く入り込み、当事者になってとことんやる。それが自分の性に合っているんでしょうね。

深谷 今日はその辺りのお話をぜひ聞きたいと思っています。というのも、地方活性化の仕事に外部の立場から取り組むとき、現地との関わり方の「深さ」とか「濃厚さ」、「熱量」みたいなものが結構重要になってくると感じていたので。
森さんは独立されて「ものめぐり」というブランドを立ち上げ、地方活性化の分野で活躍されていますが、その前は雑誌『日経トレンディ』の名編集長として知られた存在でした。

北村 編集長になったのが2005年、38歳のときでした。すでに深刻化していた雑誌不況の荒波に、ひたすら抗い続けるのが僕に与えられた任務で。名編集長かどうかはわかりませんが、数ある雑誌の中で、当時『トレンディ』はV字回復で部数を伸ばすことができた数少ない存在と思う。その自負はあります。
奇をてらったことをしたわけじゃありません。日本の雑誌が売れなくなったのは、様々な環境変化ももちろんありますが、クライアント企業にばかり阿(おもね)るようになり、読者を見なくなったからだと思っています。少なくとも僕が子どもの頃に出会った雑誌には、ただ読者のことだけを考え、正しいものは正しい、駄目なものは駄目だと伝える揺るぎない編集倫理があった。そんな編集者になりたいと、子ども心に思ったものです。自分が編集長時代にやったのも、そういう編集倫理に忠実な雑誌をつくること。臆することなく、ただ本当のことを書けと部下によく言っていました。

深谷 今のお仕事のスタイルや理念が、当時から出来上がっていたのですね。それほど熱意を持っていた編集業をお辞めになったのは?

北村 まぁ、無理がたたって身体を壊したのですね。当時、長時間労働の是正と売上増が同時に求められて部下たちに負担がかかり、チーム全体が疲弊していました。悩んだ末に、僕が編み出した最良のソリューションが「24時間、常に編集長である自分が会社にいること」だった。いつでもデスクに座っていれば、進行管理もしやすいし、部下の健康状態にも目が届くし、いざとなったら自分が徹夜で手を動かせばいい。そうしてずっと働きづめにして明け方に30分だけ寝て、という生活を続けたら身体と心がパンクしてしまった。

深谷 そんなことがあったんですね。

北村 あれほど憧れていた編集者人生を、そこで辞めることになりました。
ただ不思議なもので、これが地方の仕事をするきっかけにつながっていくんですね。退職してすぐ、妻に「しばらく無職でいる。だから100万円くれ」と無理を言いました。1年間、まだ幼かった息子と二人で旅することにしたんです。寝てる間に帰って、起きる前に出ていく生活で、僕は息子が動いているところを見たことがなかった(笑) 北海道から沖縄まで、息子の記憶に残るような土地を巡りました。編集長時代、ホテル・旅館のランキング企画などをよくやっていたので、旅の勘所もわかっていました。思えば、あれがフリーになって最初の地方行脚でした。
借りた100万円を返すつもりで書いた本が無事出版され、のちにNHKでテレビドラマ化。これが編集者の自分から、新たな自分に一歩踏み出す大きな契機になりました。

深谷 地方と関わる道筋が見えてきたわけですね。

北村 そうですね。仕事柄、全国の地域産品をよく見ていました。それぞれに魅力があるけど、商品化の仕方や伝え方で損しているケースが少なくない。例えば伝統工芸の技術で単に今どきのモノをつくるようなアイディアは、僕は違うと思う。伝統工芸である必然性がないからです。逆に、歴史ある伝統工芸品でありながら、今の生活にごく普通に溶け込んでいける商品もある。その違いがどこから来るのか、面白いなと。

深谷 マーケットインか、プロダクトアウトか、ですね。

北村 その通りです。僕が直感したのは、もはや生活者にほしいものを聞くマーケットインの時代ではない。この商品はどういうものであるべきか、作り手が自ら旗を揚げることが重要だと気づきました。
誰が何と言おうがトマトジュースとはこうあるべきだとか。地方発信の金属製品とはこういう使い方ができないと駄目だとか。既存流通からさんざんダメ出しされ、仕方なく自力でネット販売してみたら、月1万個を超えるオーダーで注文が来たという例もあります。ラジオ、テレビ、新聞、雑誌など自分の媒体でそれらを伝えていたら、地方から仕事の声がかかるようになりました。

【地方活性化とは、その地域にしかない“美しい絵の具”を再発見すること】

深谷 今では、単なる商品紹介の枠組みを超えて、モノづくりを通じた地方活性化などに取り組んでいますよね。そんな森さんに聞きたいのが、冒頭でも話した、地域との関わり方の「深さ」や「熱量」のバランス感覚です。
地方の仕事で、浅い関わり方で短期的な成果を上げるのは、わりと簡単なんです。相当のお金と知恵をつぎ込んで地元の商品を大々的にPRして一時的に売上を倍増させるとか。でも、もともと100個しか作れないような商品で、1000個ものバックオーダーを抱えても仕方がない。それがかえって地域を疲弊させてしまう。東京の企業がグローバルビジネスで目指しているようなゴール設定や戦略設計を、地方でやっちゃいけないんです。このあたりは、外部からお客様感覚で地方創生に取り組んでいては絶対にわからないと思います。

北村 同感です。僕が尊敬している地域コンサルタントであるワールドリー・デザイン代表の明石あおいさんが、同じ主旨のことをおっしゃっていました。東京から豪華な100色セットの絵の具を持っていって、地元のことを考えずに色鮮やかに塗るような地方活性化策をやっては駄目だと。そうではなくて、現地には地元の人も気づいていない美しい絵の具が必ず3つは隠れている。3色もあればいろいろな絵がかけるはず。その3色の絵の具を地元の人たちと一緒に探して、絵を描くお手伝いをする。それが優れた地方活性化コンサルタントだと思いますよと。

深谷 いい表現ですね。そのとき、「今は100個しか作れないけど、次は105個売れるように頑張りましょう」と、“半歩先”を目指すように促すことも地方活性化には重要だと思っています。それは地元の人だけでは難しい。外部の人が見定める必要がありますね。

北村 そのさじ加減が難しいし、それを見定めるのが深谷さんの取り組んでいるお仕事ですよね。そのためには、やはり地域に根ざしている必要がある。外部の目を持ちながら、当事者のような立場にいないと。

【地域のステークホルダーとどう向き合うか〜地方創生と熱量の関係】

北村 地方の仕事の難しさの一つは、ステークホルダーが多くて利害が複雑なこと。地元愛の熱量もベクトルもみんな違って、同じゴールになかなか向かっていけないことがありますね。

深谷 そうですね。地元愛のある人々が集結したとき、東京にいる私たちが予想もできないような凄いものが生まれます。ただし、それにはみんなが同じ熱量を持つことが不可欠で、それが本当に難しい。
その意味で、森さんにご協力いただいた富山市の「COMPACT DELI TOYAMA(コンパクト デリ トヤマ)」は本当に印象深いプロジェクトでした。森さんがいなければ、あれほどのものはつくれなかった。

北村 僕としても、非常に勉強になった案件でした。

【COMPACT DELI TOYAMA(コンパクト デリ トヤマ)】
総務省「公共施設オープン・リノベーション推進事業」の第一弾として、2016年春に開業。富山国際会議場の店舗スペースをリノベーションし、市内の名店の味を再現したデリ総菜や朝獲れ鮮魚の刺身、地酒やワインなどをデリカテッセンスタイルで提供するものだった。富山市政策参与である深谷信介と北陸博報堂がプロデュースし、店舗の企画総指揮・マーチャンダイジングを北村森氏が務めた。

深谷 私が富山市の政策参与に就任して2年目のことでした。富山市の中心にある国際会議場を、外部の人たちが会議や学会だけで利用するのではもったいない。ぜひ地元の人も旅行者もみんなが気軽に集まって交流できる場にしようと。そのために施設の中核に置きたかったのが、富山の食材がワンストップで体験できるデリでした。森さんには店舗のマーチャンダイジングをお願いしました。

北村 はい。その話を聞いて、「富山の食材を活かした料理が楽しめる」なんていう在り来たりのコンセプトを掲げたら、集客できないのは目に見えていました。そんなの、地元の人たちは絶対に来ないですから。
その場で僕が提案したのは2つ。1つは、地元民でも滅多に予約のとれない富山市の名店に協力してもらって、それらの料理人が考案したメニューが味わえる惣菜を提供すること。もう1つは、「富山と言えば魚」ですから、一線級の鮮魚店にお願いして、朝獲れ鮮魚の刺身を毎日出すことです。しかも繰り返し来てもらえるように、季節ごとにメニューを変えてもらう。

深谷 どれも、簡単にできることではないですね。

北村 秘策があったわけじゃなくて、和食、料亭、寿司、フレンチ、イタリアンと、とにかく1軒1軒のお店に何度も足を運んでオーナーに頼み込みました。「北村の頼みだから」と二つ返事で協力してくれた人もいれば、僕たちの熱意にようやく折れてくれた人もいました。みなさんの地元愛とご協力のおかげで、どうにか開店にこぎ着けたんです。当然、僕も責任があるから、運営に関わることも何でもやりました。料理人とのやり取りはもちろん、酒やグラスの注文やら、SNSでの日々の情報発信やら、店へのクレーム処理まで。誰かがやらないとプロジェクト全部が瓦解してしまう。僕がやるしかなかった。

深谷 地元の日本酒も数多く並びましたね。その並々でない奮闘のおかげで、見たこともないような素晴らしいデリが出来上がりました。あれは本当に感動しました。

北村 ありがとうございます。ただ、その後に予算などの問題が出てきて、結果的には大きな方向転換を余儀なくされました。行政を含め、じつは関係者の熱量にかなりの温度差が生まれていたのですね。僕も本意ではなかったですが、担当を外れることになりました。
自分の最大限の熱量で取り組んだからこそ、「コンパクトデリトヤマ」は大変な反響をいただきました。それは間違っていなかったと思っています。しかし、サステナブルなプロジェクトにできなかったという反省もあります。成功のために自分が無理することは必要だが、それが他人に無理を強いることになってはならない。あの失敗は本当に勉強になりました。

深谷 私もあの件に関しては、サステナブルなプロジェクトにするために行政サイドへのアプローチがもっと必要でした。官民連携の地方創生プロジェクトこそ、行政が最もよいかたちで下支えしていくべきでしょう。これは広告会社の一員としてというより、政策参与としての自分の反省でもあります。

北村 ステークホルダーの多い地方の官民連携プロジェクトでは、誰が上とか下とかではなく、どれだけ目線を揃えて粘り強く説得していけるかが特に求められますね。地方創生では「発想力」より「説得力」が大事だというのが僕の考えです。

【「トレンド」と「サステナブル」が同居する地方のモノづくりの魅力】

深谷 ところで『日経トレンディ』と言えば、まさに「トレンド」を追いかけているイメージがあります。そんな森さんが今は「サステナブル」な地方創生をやろうとしている。トレンドとサステナブル。一見矛盾するような言葉ですが、この2つをどう捉えていますか?

北村 地方でも、安易な意味でのトレンドはいろいろありますよね。「B級グルメ」や「ゆるキャラ」はその最たる例でしょう。「B級グルメ」の宣伝に予算を投じたって、本当の意味での地域のブランド力や集客力が高まるわけじゃない。惑わされてはいけない。
その一方で、日本に新たなトレンドを生み出すような斬新な商品は、着実に地方から生まれています。僕がコラムを書くとき、かつては大手企業の商品を取り上げることが圧倒的に多かったのですけど、最近は地方事業者の商品を取り上げることが増えている。
ちなみに最近一番感銘を受けたのは、山口県・油谷湾(ゆやわん)の「百姓の塩」。天然塩は本来、季節ごとに味が違うというんです。在庫リスクがあるから誰もやらないが、それを日本で初めて商品化したのがこの「百姓の塩」なのだと。一般の消費者も作り手も諦めていた分野に、圧倒的な熱量で挑戦する事業者が地方にたくさんあります。
彼らは新しいトレンドを生んでいる意識はないんですよね。事業規模が小さいから、むしろ商品のライフルサイクルをできるだけ長く、サステナブルなものにしたいと考えている。大企業がスケールメリットを使って短期的なトレンドを目指すのとはまったく違う発想です。

深谷 なるほど。「サステナブル」と「トレンド」が同居しているところに、地方発信のモノづくりの魅力があるわけですね。
2019年、2020年と世界規模のスポーツイベントが続き、これは地方にとっても追い風ではあります。地方活性化の今後をどう見ていますか?

北村 トレンド予測風にいえば、2019年は今の追い風をどう活かせるかが地方に問われる1年になると思います。アジアからの訪日客が増えるから外国語表示を多言語に増やした方がいいかとよく聞かれますが、そこは本質じゃない。初めてフランスに行ってお寿司屋を探す日本人は、まずいないでしょう。フランス料理が食べたいんです。それと同じで、日本の価値をどれだけ正しく伝えられるかということ。変に洗練されたものではなく、その地にしっかり根ざしたもの。それを理解したモノづくりやサービス構築が地域に問われていく。2020年にはすべて終わっているので、たぶん今年で勝敗が分かれるはずです。

深谷 森さんもおっしゃった通り、あえて差異化をつくろうとしなくても、その地域ごとに差はすでにあるんですよね。そして、その差が魅力的だから、わざわざ日本に海外から3000万人もの人々が来ている。
おそらく、これからの日本は「観光」というものを、サービス業の一角として捉えるのではなく、日本の価値を適切に発信する活動として再定義すべきだと僕は思うんです。観光業を他の産業と並列させるのではなく、一次産業・二次産業・三次産業を包括的につなぐ産業だと考えると、見え方が違ってくるでしょう。

北村 なるほど。その役割を果たせる企業は限られてきますね。

深谷 そうなんです。おそらく森さんのような地域のプロフェッショナルか、コンサルティング会社か、手前味噌ですが博報堂のような広告会社なのではないかと。「広告と地方創生」というと狭い意味に見えますが、もっと大きな可能性があると考えています。観光目線というと、例えば、商品パッケージとかPRとか多言語対応とか、いわゆる周辺環境整備にヒト・モノ・カネ・トキが使われているのをよく目にします。もちろん、それも大切なのですが、かゆいところに手が届かないというか・・・ やっぱりモノやサービスがどれだけ素晴らしいか?ここにさらなる磨きをかけていくことに注力することが、地域内外での相乗効果を生む原動力になる、そんな気がしてならないんです。

北村 その通りですよね。我々は外部目線を大切にしながら、今後も地域のひとびとをこってりとした熱量でつなげていきたいと思います。大いに期待しています。

深谷 わたしは若干薄味ですが、森さんの熱量をいただけて嬉しい限りです。本日はありがとうございました。

対談を終えて | 博報堂 深谷信介

振り返ってみたかった。
汗をかき、1つのブロジェクトに花が咲き、予期せぬカタチで終焉する。
実は地域に本当によくある話。
これを、共に公に振り返る。
これこそが、横展開すべき価値ある営み。
過ぎた時間軸の下、地域に通う回遊魚的生き様を伺ってみたかった。

強面で、髪型がユニークで、発言がストレート。
繊細で、にくい心遣いをされ、相手のことばかり考えている。
そんな森さんは、あっという間に場をつくってしまう。
ぶつかり稽古のように正面から向き合う、ガチな熱量高き対談の場を。

マーケティングは一回転してプロダクトアウトに。
特に地域は、モノ・コト・トキ磨きに熱量持って、ただひたすら邁進すべし。
いつからか、こんな実感値を身につけはじめている私に、
大いに勇気づけてくださった森さんの、徹底した現場感・実地感。

芯ある元敏腕編集長の、地域を紡ぐ多角的行動力に脱帽しつつ、
また一緒に何か必ずできるという確信を、
寒さ厳しい東京のオフィスビルの中で熱量高く感じていました。

北村森さん、ほんとうにありがとうございました。また、やりましょう!

プロフィール

北村 森
日経トレンディ元編集長/商品ジャーナリスト/株式会社ものめぐり代表

1966年、富山県生まれ。1992年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に入社。『日経トレンディ』編集長を経て、2008年に独立、商品ジャーナリストとしての活動を開始する。現在は8媒体で月に計15本のコラム連載を抱えるほか、テレビ・ラジオ番組でコメンテーターを務める。モノづくりを通じた地域おこしのアドバイザーとしても活躍中。著書『途中下車』は2014年12月、NHK総合テレビにてドラマ化された。

深谷 信介
スマート×都市デザイン研究所長 / 博報堂ブランドデザイン副代表 / 博報堂ソーシャルデザイン副代表

事業戦略・新商品開発・コミュニケーション戦略等のマーケティング・コンサルティング・クリエイティブ業務やソーシャルテーマ型ビジネス開発に携わり、 近年都市やまちのブランディング・イノベーションに関しても研究・実践を行う。主な公的活動に環境省/環境対応車普及方策検討会委員 総務省/地域人材ネット外部専門家メンバー、富山県富山市政策参与などのほか、茨城県桜川市・つくばみらい市・鳥取県日野町など内閣府/地方創生人材支援制度による派遣業務も請け負う。

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