デジタル上で行われる買物の総量は、毎年世界中で右肩上がりに増えていますが、今回の研究では、ベトナムのZ世代はオンラインとオフラインを上手に使い分けながら買物をしているという結果が浮き彫りになりました。例えば、「ショールーミング」と呼ばれる実際の店舗で実物を確認した後にオンラインで購入をする行動や、「ウェブルーミング」と呼ばれる、その逆のオンラインで確認した後に店舗で購入する買物行動のどちらも、東京の生活者と比べてハノイの生活者は積極的に行っています。つまりベトナムのZ世代にとっての買物とは、普段の生活の如何なる場所でも起こりうる行動であると言えます。
そうしたことからショッピングラボベトナムは、店頭に重点を置きデジタルは付属的に全ての買物客に均質なプロモーションやアプローチを行う旧来の「デジタル付属型モデル(attachment model)」から脱却し、ネットでも店頭でも最適な体験ができるように、デジタルによりそれぞれの買物客に最適化(パーソナライズ)されたスムーズな買物体験を提供する新たな「デジタル抱擁型モデル(embracing model)」を提唱しました。

こうしたブランド接点から購入までの快適な買物体験をいかに設計できるかが、今後ブランドコミュニケーションの価値基準になると考えています。

今回の研究は、ベトナム・ホーチミン市に約2,000平方メートルの広大な売り場面積を有するライフスタイル全般を提供する大型店舗で実施しました。そこで、ショッピングラボベトナムのオリジナルソリューションであるセキュリティカメラを活用したAIによる来店者の属性判定と、その属性に合わせたコンテンツを流すことができるデジタルサイネージを組み合わせた機器を店頭に設置し、ショッピングラボ分析チームの長谷川恭平さん、阿部佳織さん、中川愛理さんを中心に来店者の購買行動を調査しました。

それらの取得データから、来店客は20~29歳の女性が最も多く全体の約40%、次に若い男性が多く約15%を占めることが分かりました。また、こうした若い男女は特に週末の夜7時~9時に複数人で来店しており、友人やパートナーと週末の外出を楽しんでいる様子が推察されました。
そこで、若年層が共感できるビジュアルとして、店舗ブランドの服を着て週末の外出を楽しむ世界中の人々の写真をタイムリーにサイネージ上に映し出したところ、ターゲットの店頭への立ち寄り率が向上することが分かりました。
更に、Tシャツのプロモーション期間には、「高品質な素材訴求」「価格訴求」「口コミ」の3種類のビジュアルを映し出し、効果の違いを測定しました。その結果、男性来店客には「価格訴求(値下げ)」を掲出した時が最もTシャツの売上が上がり、Tシャツコーナーへの立ち寄り率も向上しました。
この結果だけを見ると、値下げのような価格訴求が最も効果的と思えてしまうかもしれませんが、女性の場合では、同じ訴求を見せた場合でも全く違う購買行動をとることがわかりました。女性の場合には、「高品質な素材訴求」が最もTシャツの売上につながり、かつ女性の売場滞在時間を長くする効果も見られました。
ショッピングラボベトナムはさらに、Web広告や店頭での男女の行動の差に注目しました。例えば、Facebook広告や店頭サイネージにおいて、動画を使ったコンテンツは女性よりも男性を惹きつけることが分かりました。一方、女性は、コメントや「いいね!」シェアボタンを押すといった他人との共有行動に移ることが男性の3倍高いことが分かりました。こうした男女によるデジタル上や店舗で起こす行動特性の差は、それぞれ属性にあったより効率的なプロモーションを考える上での示唆を与えてくれました。
具体的なアイデアとしては、短期的には、若い男性の買物客には動画を使った価格プロモーションを中心にオン・オフの施策を設計することが考えられますし、女性に対しては高い品質を訴求するコンテンツで友達紹介キャンペーンを組み立てることも考えられます。
長期的には、Web上のターゲティング広告で店舗に誘引し、入店時にスマホをかざしたIDタッチにより店内の至る所に設置されたサイネージからそれぞれの買物客に最適化された情報を送信したり、接客をするアイディアなども考えられます。さらに購入後は、より個人の嗜好性が精緻化されたデータが得られるため、エンゲージメントをさらに高めるような施策も考えられます。
最後に、ショッピングラボベトナムは、Z世代の買物におけるマインドセットは、これからの買物のあり方を占うものであり、その行動志向を理解することはブランドにとって重要であるということを改めて説明しました。
今後、ショッピングラボベトナムから買物行動に関する新たなインサイトが語られる日も近そうです。今後のショッピングラボベトナムの研究成果にご期待ください。



