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対談!EC+【第3回】──E2Cってなに?
「スタッフ」を起点にECの可能性を拡張させる

2021.12.27
博報堂DYグループ内のEC領域のナレッジやスキルを集約し、クライアント企業のEC事業を戦略構築から実装・運用までフルファネル、ワンストップでサポートする「HAKUHODO EC+」がお送りする、EC事情の最前線をさまざまなプロフェッショナルの方とご紹介する連載「対談!EC+」。
「対談!EC+」連載の第3回は、リアル店舗の販売スタッフによるオンラインコミュニケーションを支援するツール「STAFF START」を展開しているバニッシュ・スタンダードの執行役員、田中悠氏にご登場いただきます。スタッフが生活者との窓口になる「E2C」という新しいモデルの可能性や、「人」を媒介としたオンラインとオフラインの融合のあり方について語っていただきました。

「人」が生み出す最高のCX

奥山
「STAFF START」は、店舗の販売スタッフが商品の写真や動画などをECサイトやSNSに投稿して直接生活者にリコメンドできるソリューションです。そこから商品販売にダイレクトにつなげられる点で、「E2C(Employee to Consumer=従業員から顧客へ)」という新しいモデルを実現するツールと言っていいと思います。まずは、E2Cというモデルについて、お考えをお聞かせいただけますか。

田中
企業が生活者に直接商品を販売するモデルがD2Cだとすれば、E2Cはスタッフが生活者への販売窓口になるいわば「スタッフドリブンなモデル」です。スタッフという「人」が購買の接点となることによって、安心感や信頼関係をベースにした購買行動が生まれる。それがE2Cの大きな特徴です。

奥山
ECの大きなメリットは、ボタン一つでダイレクトにものが買える利便性にあります。スタッフを介することで、プロセスが一つ多くなり、むしろ効率が悪くなる。そんな意見もありそうな気がします。

田中
最高の顧客体験(CX)をつくるには、「人」の存在が極めて重要であるというのが私たちの考え方です。これまで、テクノロジーによってCXを向上させる取り組みが続けられてきました。顧客のデータを取得し、プロファイリングを行い、顧客が必要としている情報を届けるといった取り組みです。

しかし、テクノロジーの力だけで顧客が本当に望むことを把握し、ベストなタイミングで情報を届けるには限界があります。そこに「人」の力が加わることによって、顧客を本当に理解し、深いコミュニケーションを実現することができる。そう私たちは考えています。テクノロジーの力とスタッフの力、データの力と人の力の掛け算によって、これまでになかったCXを実現できるはずだ、と。

北川
テクノロジーによって「クリックした/しない」「買った/買わなかった」など定量的なデータを得ることができても、あいまいさを含む趣味嗜好や価値観といった定性的な情報まで正確に捉えることはなかなかできません。しかし、ラストワンマイルのコミュニケーションでスタッフの皆さんがポテンシャルを発揮すれば、テクノロジーの壁を乗り越えられるということですよね。テクノロジーと「人」が補完し合う非常に新しい視点のソリューションだという印象を持ちました。

奥山
DX(デジタルトランスフォーメーション)によってAIなどのデジタルツールの活用が進めば、人は単純作業から解放されることになります。では、そのとき人は何をすればいいのか──。その問いに対する一つの答えをサービスとして提示しているのがSTAFF STARTと言えそうですね。人とテクノロジーの関係のあり方を示す素晴らしいサービスだと思います。

スタッフの成功体験をいかに向上させるか

奥山
このソリューションを導入しているのはどのような企業なのですか。

田中
すでに1600以上のブランドに利用(※2021年9月末時点)していただいていますが、その中で最も多いのはアパレル系ですね。ほかにもコスメ、家具・インテリア、家電、食品、事務機器、ウエディングなど、幅広い業種業態の企業に導入いただいています。

奥山
企業がこのソリューションを導入する理由についてもお聞かせいただけますか。

田中
店舗を展開する企業にとって、店舗スタッフは最大のアセットです。スタッフがもつ豊富な商品知識や接客力をリアル店舗だけではなくECにもいかしてほしい。そんな動機で導入される企業が多いですね。

ECで売上を上げるには、購買時に顧客の背中を押したり、迷いを払拭したりすることが必要です。そこで役立つのが、スタッフによる商品解説やコーディネートの写真などです。また、STAFF STARTを通じて特定のスタッフのファンになっていただくことで、リアル店舗への誘客も期待できます。さらに、一人ひとりのスタッフはブランドを体現している存在であると考えれば、STAFF STARTによって企業のトータルなブランド価値を向上させることも可能です。

北川
スタッフの立場から見た場合、情報を投稿することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。モチベーションを持続させる要素といいますか。

田中
それは非常に重要なポイントです。というのも、私たちは「スタッフの成功体験をいかに向上させるか」という視点を重視してサービスを設計しているからです。

以前は、店舗スタッフがECやSNSで売上に貢献したとしても、それを評価する仕組みはありませんでした。しかし、STAFF STARTを使うことで、どのスタッフのどのコンテンツを経由して商品が売れているかをすべて可視化することが可能です。いわば、スタッフのオンライン上の「頑張り」が見えるようになるわけです。企業によっては、その「頑張り」を評価や処遇と連動させ、売上の一部をスタッフに還元する仕組みをつくっています。

また、EC経由の売上はすべて可視化されるので、以前は個別店舗ごとに完結していた評価の仕組みがオープン化されることになります。それによって、全国の店舗の誰が売上上位かが明らかになることが成功体験につながるという面もあります。

さらにもう一つ、ECサイトに投稿しているコンテンツを見た顧客が、リアル店舗に足を運ぶケースが少なくありません。「投稿されたコーディネートの写真を見て、その服が欲しくなってお店に来た」と言われたら、それ以上の喜びはないですよね。

北川
一人ひとりのスタッフが「個」として認識されて、顧客からも会社からも評価されるということですよね。

田中
ええ。アノニマス(匿名)だと、顧客からするとどうしても親近感がわきにくいし、信頼感も生まれません。つまり、ファンになってもらえないということです。本名を出さないとしても、顔を見せ、個性を示すことで、まさに「個」として認識していただくことが大切です。

北川
ECと店舗の循環構造が成立する点も新しいスタイルですね。

田中
ECとリアル店舗は売上において競合するという考え方もありますが、スタッフを介してECとリアル店舗がシームレスにつながれば、オフラインとオンラインの壁がなくなります。私たちが提唱しているのは、それを人事評価や組織構造と連動させることです。例えば、ある店舗に所属しているスタッフのECでの売上を店舗の売上に加算することで、そのスタッフだけでなく、店長やエリアマネージャーの評価も上がる。そんな仕組みをつくれば、ECでの売上向上にチームとして取り組むことが可能になります。

奥山
STAFF STARTを導入することで、会社全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいくわけですね。

田中
そのとおりです。DXは単に売り方をデジタル化する取り組みではありません。デジタルによって顧客の体験設計を変えて、顧客価値を向上させる経営戦略です。私たちはSTAFF STARTを提供するだけでなく、導入にともなうDXの支援もさせていただいています。コンサルテーションというと大げさですが、例えば、ECとリアル店舗を連動させた報酬制度の再構築を進めるために、人事のご担当者とお話をするといったこともよくあります。

スタッフから始まるトータルなマーケティング

奥山
バニッシュ・スタンダードとLINEとの協業によって2021年11月からスタートした「LINE STAFF START」の狙いについてお聞かせください。

田中
多くの生活者にスタッフのファンになっていただくには、スタッフへの共感や信頼を醸成することが必要であり、そのためには双方向のコミュニケーションが欠かせません。そのコミュニケーションを実現するプラットフォームとして、LINEは非常に強力であると考えました。LINEの国内月間ユーザー数はおよそ8900万人です(※2021年9月末時点)。一方、STAFF STARTを活用しているスタッフは10万人(※2021年9月末時点)にのぼります。顧客や潜在顧客とスタッフをLINEという強大なプラットフォーム上でつなげていくことを可能にするサービス。それがLINE STAFF STARTです。

北川
LINEをCRMのプラットフォームとして活用するということでしょうか。

田中
ええ。スタッフを起点としたCRMプラットフォームですね。従来のCRMの起点は企業でした。しかし、CRMの活動は本来、顧客を最もよく知っている人が起点になるべきであり、それがスタッフということです。スタッフが顧客リストを適切に管理し、どの顧客に、どのタイミングで、どのようなメッセージを発信するかを決めることができれば、ベストなアプローチが実現するはずです。

奥山
LINEアカウントと紐づいたユーザー行動データなど*を活用すれば、よりきめ細やかなコミュニケーションが実現しそうですね。
(* LINEアカウントと紐づいたユーザー行動データの取得には、利用者の許諾が必須としています)

田中
そのような構想もあります。加えて、店舗側の情報をオンラインデータと統合することができれば、さらにきめ細やかなコミュニケーションが可能になると思います。例えば、LINE内のLINEミニアプリを使って会員証データとオンラインデータを紐づけることで、顧客の購買行動などを解像度高く捉えるといった方法です。そうして把握した顧客情報は、情報の自動配信だけでなく、ターゲット拡張や広告など、さまざまなマーケティング活動に活用することが可能になると思います。

北川
一人ひとりのスタッフが販売員からマーケターとなって顧客を捕捉し、そこからマーケットを広げていくという展開ですね。個々のスタッフがマーケティングの起点になり実践するという考え方は、画期的だと思います。

コンテンツやデータの企業間連携を

奥山
今後の見通しをお聞かせください。

田中
CXを向上させるには、顧客が望んでいるものを揃えて提示することが必要だと思います。例えば、あるアパレルメーカーの服に、別のメーカーの時計や靴や帽子を組み合わせて提案するといった方法です。そのような世界観が実現できたら面白いかもしれないですね。

北川
企業が連携して、カテゴリーを超えた商品をコーディネートして一つのコンテンツとして提示していくということですよね。利用シーンや嗜好性などに基づいてトータルな世界観を提案するというのは、たいへん有効な方法だと思います。

田中
商品やコンテンツの連携だけでなく、個々の企業がもっているファーストパーティデータを掛け算できれば、顧客の解像度は格段に上がります。それによって顧客もメリットを得られるし、各社の売上も向上するはずです。

さらに、データを活用した顧客とスタッフのマッチングにもいずれチャレンジしてみたいと考えています。顧客との相性がいいと考えられるスタッフを個別にリコメンドし、コミュニケーションを活性化させる取り組みです。

北川
個々のスタッフの皆さん自身がコンテンツやメディアになることで、売上を上げたり、ECとリアル店舗を融合させたりするという視点は、とても新鮮でした。ECの新しい可能性を切り拓いていく取り組みを、今後ぜひご一緒させていただければ幸いです。

田中
ええ。それぞれの強みを生かした展開を実現できたらいいですね。

奥山
まさに、「EC+」の「+」がもつ可能性を確認できたお話だったと思います。今日はありがとうございました。

田中 悠 氏
バニッシュ・スタンダード 執行役員

新卒でキヤノン株式会社に入社。一眼レフカメラのグローバルマーケティングを経験後、2015年より株式会社プレイドに参画。アパレル業界を中心にECサイトのCX向上に向けた取り組みをプランニングから技術的な実装まで幅広く支援。その他パートナーとのアライアンスや事業開発など様々なプロジェクトに従事し成長を牽引。2020年に株式会社バニッシュ・スタンダードに参画し、STAFF START事業全体を統括。2021年4月より現職。

奥山 貴弘
HAKUHODO EC+リーダー/博報堂 データドリブンプラニング局
ECプラニング部長

2004年博報堂中途入社。大手通信会社を中心に長らく営業職を担当し、2019年より現職。ショッパーマーケティング・イニシアティブのメンバーとして、EC領域に特化した組織横断型プロジェクトチームである「HAKUHODO EC+」を推進する。

北川 貴樹
博報堂 データドリブンプラニング局長代理

1996年博報堂入社。自動車・金融といった得意先を中心にストラテジックプラナーとして川上~川下領域まで広く経験。2021年より現職。得意先、プラットフォーマー、メディア、博報堂Gのデータを利活用したマーケティング戦略・施策の提案に従事。

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