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「若者」は何歳まで? アプリ利用データから見える境界線 ~写真加工アプリからSNSまで~

2021.09.29
#デジノグラフィ#生活総研#生活者データ・ドリブンマーケティング
博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)が提唱する、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法「デジノグラフィ」。
生活総研では数々のデータホルダーと共同研究を行っています。今回は株式会社ヴァリューズの保有する24時間・365日のスマートフォンの利用ログ(使用許諾取得済みのAndroidユーザーのアプリ利用・Web閲覧データ)を分析。そこから見えてきた「若者のスマホアプリ利用行動」について、2回に分けてご紹介します。前編では、世でイメージされる「若者」像を探ります。

伊藤耕太/博報堂生活総合研究所 上席研究員

イメージ上の「若者」は、何歳まで?

皆さんは、「若者」と聞いて、何歳くらいまでの人を思い浮かべますか?

生活総研が2021年6月に行ったインターネット調査で、「『若者』とは、何歳から何歳くらいまでを指すと思いますか?」という質問を行ったところ、
「15歳くらいから27歳くらいまで」
という回答が返ってきました(出典:博報堂生活総合研究所「若者・消費に関する生活者意識調査」、全国15~69歳の男女3,300名)。
つまり私たちが頭の中でイメージしている「若者」というのは、だいたい27歳くらいで終わる、ということになります。

20代男女に利用されているアプリランキング

さてこの「27歳くらいに境界線がある」というイメージは、果たして実態と一致しているのでしょうか?今回はそれを、データを用いた行動観察から検証しました。
まず、ヴァリューズが保有するスマホの利用ログデータから、20代の男女が、他の世代に比べて利用している割合が高いスマホアプリを見てみましょう。するとこのようなラインアップになります。

主なものを、カテゴリに分けてみると、特に上位に目立ったのは、動画共有や写真加工、ファッションといったカテゴリのアプリ。そして音楽や映像のサブスクリプションやコミック、SNSといったカテゴリのアプリでした。
こういった、いわゆる若者らしいカテゴリのアプリ利用率を分析することで、「若者」と「若者でない人」の境界線が見えてくるのでは、と考えてみるわけです。
そこでアプリごとの、2020年度の「一歳刻みの利用率」というデータを使って、次のような折れ線グラフを描き、「若者」の境界線を設定していきました。

まず「そのアプリの利用率の最大値」を探します。例えばこの「アプリA」のデータにおいては、21歳の利用率、「80%」が、最大値になりますね。
次に、その半分となる値を導き出します。この場合は「40%」です。
その40%と最も近い利用率の年齢を探して、右に視線を移していくと「23歳」につきあたります。
このような手順で、アプリAにおける「若者」の境界線は23歳である、と決めていくわけです。

それでは実際のデータを使って、各カテゴリのアプリ利用における「若者の境界線」が何歳に現れるか?を見ていきましょう。

あの人気アプリの、意外な「若者」境界線

まず、若者に人気の動画共有アプリ、TikTokの年齢別利用率のグラフを見てみましょう。
下記のように、「22歳」に「若者」の境界線が現れました。

私たちが調査で聞かれて答える「27歳」に比べて、かなり若いですね。
そして20歳の突出した利用率を見ると、ここに入っていない10代も含めて分析すれば、もっと若くなる可能性もありそうです。
同様に、ZOZOTOWNやWEARといったファッションアプリを見てみましょう。服を買ったり、コーデを見つけたりするアプリですね。これらにおいては25歳前後に境界線が現れました。

次に、写真加工アプリのSNOWやLINE Cameraを見てみましょう。こうしたアプリの特徴は、単に写真を撮るだけでなく、肌や目などをより見栄え良く加工する機能を備えていることですが、「若者」の境界線は、26歳前後に現れました。

このあたりは、「27歳」というイメージ上の境界線からそれほど離れているわけではありませんね。
一方で、より上の年齢に境界線が引かれるアプリもあるのです。
例えばSpotifyやNetflixといった、サブスクリプションで音楽や映像を楽しむカテゴリでは、境界線は30歳前後に現れます。

そして、LINEマンガやピッコマといったコミックアプリにおいては、さらに上、35歳から40歳くらいに境界線が現れました。

最後に、SNSアプリのTwitterやInstagramを見てみましょう。若者ターゲットのキャンペーンなどでも活用されるSNSですが、データで見ると、54歳や59歳といった、さらに上の年齢に境界線が現れました。

こうなってくると、「SNSは若者のもの」というような私たちの思い込み自体を考え直す必要がありそうです。

さて、もともと私たちが調査で聞かれて答えるイメージ上の「若者」の境界線は、27歳くらいだったわけですが、このようアプリの利用データから捉え直してみると、そこに現れる「若者」の境界線は、カテゴリによって、もっと若い年齢だったり、逆にもっともっと上の年齢であったりと、大きく異なっています。

この背景には、各カテゴリのアプリの浸透度合いによって、利用者の年齢の広がりに違いが発生している、ということもありそうです。
それでは、イメージ上には存在していた「若者」の明確な境界線は、アプリ利用データで見ると、もはや存在しない、定義できない、ということになるのでしょうか?

動く境界線と、動かない境界線

もう少し丹念にデータを見ていくと、やや違った「境界線」のあり方が浮かび上がってきます。
こちらのグラフは、先ほどご覧いただいた写真加工アプリの、2020年度の利用率の折れ線グラフに、「過去5年間の利用率の線」を、全て重ねてみたものです。

このように、グラフの形も位置もほとんど変わりません。
少なくともこれらのアプリについては、過去5年間を通じて25歳前後が境界線として固定されています。
ファッションアプリも同様に、グラフの動きが少ないことが見て取れます。境界線は動いてはいても、20代の範囲内に留まっています。

つまり、「若者」の境界線が、私たちのイメージ通りの27歳くらいであり続ける、そういうカテゴリも存在しているのです。

データとリアルから「新しい境界線」を引こう

例えば今見たように、「外見を盛る・装う」カテゴリからは、生活者は20代半ばを境にいわば「卒業」をしていくようですね。
一方で、以前は「若者が使うもの」というイメージが強くても、普及が進むにつれて、どんどん境界線が上の年齢にずれていくカテゴリもあるわけです。
ということは、私たちの「若者」ターゲットのビジネスにおいても、従来から決まっている境界線を、動かさなくていい場合もあれば、常にデータをチェックして、境界線を引き直さないといけない…そういうケースも出てくるでしょう。

最後に、「外見を盛る・装う」というような行動について、スマホ利用率だけでなく、その他のロングデータから捉え返すと何が見えてくるかを考えてみたいと思います。
統計データ分析サイト「社会実情データ図録」を運営する本川裕さんの分析によると、日本女性がおしゃれにかける時間は、1980年代年から2000年代にかけて長くなってきました。ところが2011年から16年のデータを見ると、その時間の伸長傾向は30代以下で縮小し、40代~60代前半で拡大と対照的な動きとなっているのです。

このことから本川さんは「おしゃれ時間の伸びの最前線が30代から40代、さらに50代へシフトしており、アラフォー、美魔女といった流行語が登場した社会風潮がうかがわれる」と指摘をされています。
※参考:
本川裕、社会実情データ図録「世代別おしゃれ時間の変化(女性)」
http://honkawa2.sakura.ne.jp/2329d.html(参照 2021-09-16)

一方で今回スマホ利用率のデータを見る限り、30代から50代において「外見を盛る・装う」といった行動の増加は見受けられません。
しかしもしかしたら私たちは、本当は存在している30代以上の生活者の「外見を盛りたい・装いたい」という欲求に応えてきれていないのかもしれません。あるいは何か重要な市場機会を見落としている可能性もあります。

写真加工やファッションといったカテゴリに限らず、私たちが業務の中で「今までの認識とのズレや違和感」を感じたら、それは生活者の行動が変化していることの兆候かもしれません。
そんな時は、データとリアルを往復しながら「新しい境界線」を引く試みが必要なのかもしれません。

伊藤 耕太
株式会社博報堂 博報堂生活総合研究所 上席研究員

2002年博報堂入社。
国内外の企業や自治体のマーケティング/ブランド戦略の立案や未来洞察、イノベーション推進の支援に携わりながら、企業向けの研修講師や中高生向けキャリア教育プログラム講師を担当。2021年より現職。

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