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ビューティー業界におけるデジタルトランスフォーメーションの深化

2021.05.28
2020年、コロナの長期化を受けて見直しが進んでいるビューティー業界各社のビジネスモデル。これまで限定的だった「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が、コミュニケーション領域を超え、より広い領域で進んでいます。ビューティー業界におけるDXを主としたソリューション開発に臨む博報堂の社内プロジェクトチームのメンバーが、その現状と今後の見通しについて語ります。

スピーカー:
阿部 佳織 博報堂CMP推進局
泰永 麻希 博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
嵯峨 美和子 博報堂 第一BXマーケティング局

■長期化するコロナの影響で変容するビューティー業界

阿部
コロナ禍を受け休業や店舗閉鎖などが相次いだ2020年上期は、ビューティー業界各社が緊急対策としてさまざまなトライアルを行っていました。しかしWithコロナの長期化により、現在はより戦略的なデジタルトランスフォーメーション施策に各社が取り組もうとしています。具体的には、特に中価格帯以上の化粧品ブランドに所属する美容部員(ビューティーアドバイザー)の方たちの仕事が減少してしまったり、それまで売り上げに大きく寄与していた商品を肌の上で試してもらう「タッチアップ」を行う接客が制限されたことによる売り上げ低下という本質的な問題が浮き彫りになっており、早急な見直しが進められているところです。また、実店舗のみを主要な売り場と考えずに、続々と誕生する新しいメディアやソリューションを取り入れ、新規のお客さんとつながっていくべきだというのが、2020年全体の主な争点になっていました。たとえば高級ラインはECでは販売しない方針だった一部メーカーも、自社ECをより活用するようになっている。「ブランドに特化した美容部員から対面で接客を受けた上で買ってもらう」という販売方法に強いこだわりをもっていた企業も、変わり始めているのが現状です。

嵯峨
やはり、物理的に店舗への来店や接客に制限ができたというのは大きいですよね。私が担当するクライアント企業を含め、業界全体を見ても、DXを進める動きが強まっています。ECにおいても、最小限の事務的な活用にとどめるのではなく、お客さんにもっと楽しい、面白い体験をしてもらえるような、コンテンツとして成立するものが求められるようになっています。

泰永
一方で、いろんな事例を見ていると、まだまだDXが飛び道具的に使われていることも多いように思います。時流に乗ってECを拡充させたとしても、果たしてそれは本当に売上に寄与しているのかビジネス観点での現実的な検証が必要だと思っています。そして今後は、CRMを目的にお客様とつながり、顧客を育成していくといったことへのデジタル活用がより求められるようになるでしょうし、そこに私たち広告会社ができることも増えていく気はします。

阿部
また、カスタマージャーニーにおいても2つの大きな変化が見られます。まず、もともと化粧品は、比較検討し、店頭で実際にトライアルし納得して購入するという流れが主流でしたが、Withコロナの世界では、比較検討・トライアルの部分までがオンラインに移行しているケースが増えてきた印象です。もう一つの変化は、ライブコマースやライブ配信などを通して、1つのコンテンツを見ている間に商品の認知から購入まで完結するケースが、特に若い人のなかで増えていること。著名な美容家によるライブ配信などは、興味のある人が集まり、楽しくコンテンツを視聴しているところへ「一定の期間中に買ってくれた方にはサンプルをプレゼント」などと呼び掛けられることで購入が激増することもあるようです。

嵯峨
目的をもってそうしたコンテンツを見に行くというより、InstagramやTikTokなどを始めとするさまざまなSNSを回遊する中で、偶然知った商品を即断即決して購入に至っている動きが見られますね。それがZ世代を中心とした若い人たちに特徴的な消費傾向です。彼女たちはつねに「自分はどうかわいくなりたいか」「最先端の“かわいい”は何か」を模索していて、それが、メイクに関係するライブ配信などコンテンツへの関心の高さ、ひいては購入率の高さにつながっているのだと思います。
同じ化粧品でも、スキンケアなど効果が可視化しづらいものは雑誌で美容家さんが何を推しているかを見ますが、メイクアップ品の場合は、SNSであの韓国アイドルがつけている色がかわいかったとか、使用している子の写りが魅力的だといったことが判断材料になっていて、ライブコマースとの相性はいいようです。

泰永
そんな新しい購入スタイルが生まれる中、大手企業の場合は、やはり基本は自社ECサイトで顧客を囲い込み、フルファネルでマーケティングを進めたいと考えています。中小企業の場合は外部のECサイトを活用することも多いですが、いずれにしてもEC戦略を考える上でマストになるのは、最初の獲得の部分をどうするか。立派なサイトを立ち上げることに注力し、その後の「誰が自社ECサイトに来てくれるのか?」という検討が抜けがちなのは課題だと思います。

嵯峨
数年前の業務で、まさにいま泰永さんがおっしゃったようなEC戦略を考えるにあたり、私は美容部員さんに主軸においたコンテンツ開発まで提案しました。それらは、いまは多くのECサイトで定番になっていますが、今後は時代に合わせた、引きの強い面白い戦略やコンテンツが求められています。誰かのためにするものだったメイクが自分の趣味に近い分野になり、コミュニケーショントピックとしての化粧品、メイクの意味合いが強まっているんですよね。

■自社リソースの見直しによる、新しい体験の創出

阿部
今年は各社で、美容部員、店舗、ECを通して集まったデータをどう活用させていくかが見直されています。たとえばブランドの重要な資産である美容部員の方々に、オンライン接客などのデジタル施策にもっと参加してもらうとか、通常型の店舗の数を大幅に削減し、EC拡充や、体験型のフラッグシップ店舗に注力していくという話もあります。

嵯峨
体験型のフラッグシップ店舗では、たとえばブランドの世界観を表現する内装、オリジナルの什器などが採用されているほか、テクノロジー・デザインを活かした新しいビューティー体験ができるようになっています。多くは都心の一等地にあり、気軽に行きにくいという印象もあるかもしれませんが、そこをライブ配信のスタジオにしてデジタルコンテンツに活かそうという動きもあります。こうした店舗は実はインバウンド消費に合わせて整備されていましたが、非接触のオートテスターや、現場で気になった商品があればQRコードからすぐにECサイトに行って購入できるといったシステムは、いまや「Withコロナでも安心して快適に買い物できる体験空間」としての意味合いを強めています。

泰永
リアル店舗をバーチャル店舗に移行させるという流れもありますよね。たとえば海外ブランドのパリのお店などは、興味はあっても実際に行ける人は限られている。そういうお店がバーチャル店舗を整備し、たくさんの人に来店を疑似体験してもらうという取り組みを行っています。

阿部
ほかにも、ゲーム的に楽しめる空間にしていたり、動画を見たり、ARを使った肌診断などが1つの空間のなかで完結するといった、ECの体験をもっとリッチにするようなバーチャル店舗の関連施策も今年の下期くらいから増えてきた印象です。ゲームはもはや若い世代だけでなく、中高年含め幅広い年代が親しむものになっているので、ゲーミフィケーションを活用したECコンテンツは珍しいものではなくなってきています。

美容部員による情報発信に力を入れ始めた企業も増えています。たとえば、アパレルの販売員がサイト上でおすすめのコーディネートを発信し、販売につながればインセンティブがもらえるというプラットフォームがあって、それを化粧品メーカーが導入した事例がいくつか出てきています。また、自社ECサイト上で美容部員がおすすめの商品、使い方を短いコメントと商品タグとともに紹介するという方法も活用されていますね。タレント然、インフルエンサー然としていない、これまで店頭で接客を中心に活躍されていた美容部員の方でも投稿しやすい仕様になっている。ただし、始めから全店舗のすべての美容部員を起用するというわけではなく、やはり選抜された一部の美容部員の方々でトライアルをしているという印象です。

嵯峨
オンラインでの情報発信となると、それなりのスキルも必要ですよね。社外秘やプライベートな情報を出さないとか、その辺りの教育も必要だと感じます。社員さんを一番魅力的に見せる方法含め、そこは、広告会社としてもサポートしていきたいです。

阿部
中国では、コミュニケーションアプリで美容部員とお客さんが「友だち」としてつながり、商品購入後も質問に応じて商品の使い方をレクチャーしたり、キャンペーン情報を発信したりしています。売り場外でも顧客との関係性を維持するこうしたやり方は日本でも注目されていて、少しずつ採用するケースが出てきています。

高付加価値型のオンライン接客も増えてきています。たとえば、予約した時間にオンラインで美容部員の接客を受けるという通常型のオンライン接客は、ハードルが高いためか、なかなか一般まで広がっていない印象です。そこで、各社オンライン接客にさまざまな工夫を施すようになってきました。ある企業は、購買力はあるけど、仕事があって平日昼間に化粧品を買えなかった層が接客を受けられるよう、夜間限定のカウンセリングを実施しました。あるいは、20~30人くらいの参加者にあらかじめ商品サンプルを送っておき、時間が来たら1人の美容部員のレクチャーに沿って、商品サンプルを試すというオンライン体験会の事例も出てきています。実際日本だと、1対1で初対面の人とオンラインでやりとり対話することに抵抗を感じる人が少なくはなく、数十人と一緒なら安心感もあるし、皆でわいわい感想を言い合うことで気持ちも高められるわけです。

泰永
そうしたトライアルは、もともと高いスキルを持った美容部員を擁してきたハイブランドで行うことが多いですね。お客さんとのつながりを強化し、ファンを育てていくという意味でも有効なのかもしれません。

■新メディア・チャネルの台頭とデータ活用の現在地点

阿部
ARの活用も進んでいます。先述の、EC体験のリッチ化に活用されているほか、海外では商品のローンチイベントなどでVR/ARを使うケースが出てきています。ある海外セレブが、自分のスキンケアブランドのローンチイベントをオンラインで行った際は、自宅で開いたホームパーティのなかで新商品がお披露目されるというストーリーが仕立てられており、さまざまなゲームが楽しめたり、動画を見たりしながら、商品についての情報が知れるようになっていました。特にアメリカの化粧品業界で、プレス向けのローンチイベントの代替として、こうしたデジタル空間の活用が進んでいます。

泰永
いわゆるプレステージブランドのローンチといえば、ホテルや施設を貸切るなどし、インフルエンサーやメディアなど限られた人だけを招待して大々的に豪華に行ってきたわけですが、それができなくなってしまったいま、なんとかバーチャルで同様の体験を実現できないか各社検討されていますね。

嵯峨
技術的にはVRやARは充分実現可能な内容なので、あとはどのように実装していくか、使いこなすキャパシティがあるかといった点がポイントになってくるでしょうね。化粧品の新商品の販売はWithコロナでも続きます。それを売るためのテクノロジーを活用した仕組みづくりが、各社とも喫緊の課題になっていると感じます。

泰永
データ活用についても、外部メディアが蓄積している独自データをうまく活用し、メーカーが新商品開発に活かすといった流れも出てきています。某化粧品通販サービスのスタートアップ企業は、データ活用と同様アジャイル開発を得意としていて、非常にスピーディに開発からD2C販売まで実施できる体制にあり、業界内でも存在感を増し続けています。

嵯峨
大手メーカーもブランド単位ではベンチャー企業のD2Cの仕組みに着目はしていますが、既存の流通経路や自社、他のECとの兼ね合いもあり、同じ進め方は難しいですね。また大手メーカーでは購買データや会員データを整理、統合する動きはありますが、有効活用の方法は今後取り組みながらというところだと思います。

泰永
データを実際に貯めることもそうですが、それを動かせる体制が整っていないことも課題かもしれません。たとえばデータを貯める部署も情報システム部門だったりデジタル推進部門だったりと、各部署が分断され、一気通貫の動きが難しい企業が多い印象です。そこに対して、データ設計・分析から活用まで動かす体制のある博報堂であれば、外部の目線からリードをしていくことが可能です。いきなり「顧客のライフスタイル全般に及ぶデータ収集」となるとハードルが高いですが、一つ一つの小規模な施策でこつこつとデータを貯めていくことはできる。さらに博報堂では生活者に関する多角的な蓄積データも保有しているので、うまく組み合わせながらターゲット理解を深めることが可能です。

■博報堂が提供できるビューティーソリューションとは

阿部
たとえば店頭の施策だったりオンライン接客のトレーニングだったり、メッセンジャーアプリを活用した体験拡充といったシステム的な設計など、個別のノウハウや施策実施はもちろん提供・ご支援可能ですが、もっとも大切だと考えるのは、クライアント企業の状況をよく把握したうえで最適な施策をカスタマイズし、それらをすべて統合して全体のDXを設計していくという点です。博報堂はクライアント企業の特徴や強み、課題をよく理解しているパートナーだからこそ、全体感を持ってDXを設計していくことができると思います。

嵯峨
各社のブランディングも担当しているので、各企業のUSP(Unique Selling Point)をしっかりと理解したうえで、どういったデジタル戦略を組めば今後のCRM、ビジネス成長にもっとも寄与するかが考えられる。それぞれの企業、ブランドの色を踏まえたDXを提供できることも私たちの強みです。例えばオンラインカウンセリングにしても、ブランドストーリー、価格帯、美容部員との繋がりの強さによって1対1でやったほうがいいブランドもあれば、1対20が適しているブランドもある。ブランドのことを理解しているからこそ、それぞれのブランドに適した方法を設計することができ、なおかつ実装から運用までを一緒に併走できるというのが、博報堂グループならではだと考えます。

泰永
コロナも長期化し、各社すでにさまざまな施策を実施されてきています。一方でそれがビジネス成果に結びついていないケースがあるとすれば、生活者発想を起点にユーザーが本当に求めているブランド体験がなにかを突き詰めていく必要があると考えます。
関連して、今後コロナがさらに長期化するとしても、人と人とのリアルなコミュニケーションへの希求はなくならないでしょう。それをふまえたうえで、いかに快適な体験をデジタルで実現できるかがより問われてくるような気がしますね。

阿部
そうですね。対面販売がなくなることはありませんが、リアルのコミュニケーションをデジタルで再現したり、デジタルだけで購入が完結したりする道筋も今後拡大していくはずです。オフラインとのシナジーで、それをいかによりよい体験にしていけるかというのが、今後コロナが落ち着いていくにつれて争点になっていくでしょう。ただ、ソリューション先行で入ってしまうと、同じソリューションを入れているところは、どこもそっくりな体験になってしまう。そこをいかに、各ブランドらしく、手触りのある体験にしていくかが問われます。

嵯峨
体験型店舗もデジタル活用によって今後さらに進化しますし、ECサイトもコンテンツのリッチ化が進むと考えられます。それぞれが連携するOMOも進み、リアルとオンラインとの境目はさらになくなっていくことが予想されます。その新境地でできることを、私たちも追求していきたいですね。

泰永
無機質に終わらない、ブランドの色が出た、「愛されるDX」をぜひ実現させたいですね。

嵯峨
本当にそうですね。ビューティ領域において、特に、図にあるような1.Brand-oriented、2.User First、3.Long Termの考え方を独自の強みとして、企業からも、生活者からも、長期に渡って愛される「新規価値創造のためのオーダーメイド型DX」ソリューション を提供していきたいです。私も化粧品が大好きですが、美容や化粧品は、気持ちがときめいたり高揚したり、日々の原動力にもなるもの。そんな気持ちをさらに盛り上げるDXにトライしていきたいです。

阿部 佳織
博報堂 CMP推進局
ストラテジックプラニングディレクター

2013年入社後、トイレタリー・化粧品・食品・OTCなど消費財領域を中心にマーケティング戦略立案を担当。
現在はグローバル領域における企業のデジタルマーケティング推進支援、及びビューティー領域に特化したDX研究・DX化支援に取り組む。国内・グローバルそれぞれの業務で培ってきた知見を活かし、「その国の当たり前」にとらわれない広い視野でのプラニングを目指す。

泰永 麻希
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
イノベーションプラニングディレクター

2016年博報堂入社後、ストラテジックプラニング職として化粧品・食品など中心にコミュニケーションプラニングに加え、金融などのサービス立ち上げに従事。
インサイトワークやコンセプトメイキングをコアスキルとしつつ、将来は、前職のオフィス空間デザインやワークスタイルコンサルティング経験を活かしてブランド体験×OMO領域のイノベーションプラナーになるべく奮闘中。一級建築士。

嵯峨 美和子
博報堂 第一BXマーケティング局
ストラテジックプラニングディレクター/プロジェクトマネージャー

2017年博報堂中途入社。美容業界、特に化粧品中心に、マーケティングプラナーとして、独自の美容への造詣の深さを活かし、中長期事業戦略、ブランディング、パーパス立案などを担当。また、前職までのSE、コンサルタント経験を活かし、DXコンサルタントとしても様々なPJを主導。DX戦略〜実行、新規EC サイト/マイページサイト構築戦略〜開発PM、自社ソリューション開発などに幅広く従事。
美容業界の包括的な事業変革支援により、”すべての女性の自分らしい美しさの実現”へ寄与することを目指している

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