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~若者と探求する、新たな暮らし~ Vol.2
偏愛会議 若者たちの生活に“偏愛”が与えてくれるもの(後編)

2021.04.09
#博報堂ブランド・イノベーションデザイン若者研究所#生活者研究#生活者調査
前編(リンクつき)でお送りした”若者と偏愛”について、今回の後編では、彼らが”偏愛”とどう過ごしているのか?というリアルな実態や、彼らの未来について言及していきたいと思います。

若者たちはどう“偏愛”と過ごすのか ~対象を知り尽くしたからこその“心地いい”共存方法~

インターネット社会と密接な関係にある”偏愛”という気持ち。
だからこそ、彼ら自身がインターネット上でどのように過ごしているのかも気になります。

学生たちに「自身の“偏愛”について、インターネット上で周囲に発信することはあるか?」と聞くと、
それぞれ自分なりのルールを持っていることがわかりました。

特に、同じ“偏愛“を持っていない人と関わるかどうかは人それぞれで、偏愛の発信用のアカウントを持つ人もいれば、リアルなつながりがあるアカウントでもどんどん発信していくという人もいました。この違いの背景には、「新しい誰かに魅力を知ってもらうことが、偏愛するものにとって良いことなのか」という判断軸があるようです。たとえば、ロシアロマン派音楽偏愛大学生さんは、「音楽は誰かに演奏されて続いていくからこそ、知ってもらうことに意味がある」というように話されていました。

また、インターネット上ではないリアルな空間での同じ偏愛を持たない人との接し方についても、それぞれのルールを持っていることがうかがえました。
初対面でも偏愛について語りたいという声もあれば、自分や偏愛対象について深く知らない人にはあまり語りたくないという意見もありました。「あまり語りたくない」と答えた特撮偏愛大学生さんは、その理由について、「特撮好きだと言って相手から思い描かれる“私”は、“私の思う私”ではない」からだと述べていました。ここからも、“偏愛”のきっかけは周囲との関係の中にあるのではなく、あくまで自分自身の自由な感性に基づいている様子が伺えます。

このように、対象物をとことん深く探求したからこそ、周囲への発信の仕方も自分なりに工夫しているようでした。

また、日常の暮らしとの関わりという点では鳥偏愛大学生さんの話も印象的でした。
彼女は、鳥を見ることで季節や時間を感じ、鳥を通し山や川への関心を広げているといいます。偏愛対象の存在が、いつしか自身の生活リズムや感受性をも司り、養うようになっているのです。

若者たちはこれから“偏愛”とどう生きていくのか ~あくまで“マイペース”に偏愛を~

ワークショップの最後に、学生に向けて「将来、“偏愛しているもの”に携わる仕事がしたい?」と聞くと、全員が「積極的に仕事にしたいとは思わない。」と答えました。

その理由としては、「仕事にしてしまったら、嫌いにならないか不安」という声がほとんど。彼らは、純粋に“(対象物について)知ること”を求めていて、これからもそうありたいと願っていることがわかりました。

一方で、彼らの中には、鳥のボランティアに行く、なるべく紙の本を買って本屋に貢献する、SNSで音源を布教し地名度向上を目指すなど、対象物のために行動を起こしている人も見受けられました。
そのため、偏愛対象に貢献したいという思いが、結果的に仕事につながるという場合はあるのかもしれません。

ただ、楽しいことでも強制されるとやりたくなくなってしまうもの。
ずっと“偏愛”を持っていたい彼らにとって、 “自分のペースで偏愛できること”が、何よりも大切なのではないでしょうか。

終わりに ~新しい時代における“偏愛”の可能性~

以上が、今回の座談会から得られた気づきでした。

“オタク”や“推し”の根幹概念でもあり、
決してコミュニケーションや自己表現のためではなく、自分自身の自由でひたむきな探求心と共にある“偏愛”。

対象物を深く突き詰め、想像する…そんな“好き”という気持ちが“知りたい”という気持ちにつながっていく“偏愛”。
今回の座談会に参加してくれた若者たちの“偏愛がある生活”は、とても充実して魅力的でした。改めて、人生を豊かにしてくれる、“偏愛”の持つパワーを感じることができました。

これは少し想像が過ぎるかもしれませんが、人工知能やロボティクスといったテクノロジーが急速な進化を遂げるなかで「人間がすべきことは何か」が問われ、「暇といかに向き合うかこそが重要なテーマになる」とも言われるこれから先の未来においては、「偏愛」はますます大きな意味や役割を持つことになるかもしれません。

そしてさらに今回、参加者の学生たちから嬉しい反応もいただけました。

座談会終了後、参加した6名の学生に座談会の感想を聞かせて頂いたのですが、全員が内容に「満足」と回答し、「他の人と会話することで新たな発見があった」とポジティブに答えてくれました。学生たちにとって、“偏愛”という共通点だけで見ず知らずの学生同士集まる機会はこれまで勿論あるはずもなく、初めて体験する空間でした。だからこそ、自分自身の“偏愛”を初めて客観的に見つめる時間となったのかもしれません。

また、感想の中でも興味深かったのは、「偏愛している人にしか見えない視点があるのでは」という気づきです。
参加者の一人は「何かを“偏愛”できる人は他の人と比べて世界の感じ方が違っているのではないか」と述べていました。

たしかに、”偏愛”する彼らには共通点があるように感じました。

たとえば
・探求心を極め、疑問を疑問のままで放置しない。
・探求は終わらない、新たな疑問は自分で作る。

やまない探求心と向き合ってきた彼らだからこそ、手に入れた視点があるのではないでしょうか。
そんな彼らからの対話からは、様々なテーマにおいても新しい発見が生み出せる気もします。

「時間が足りなかった」「もっと話したい」と、会話をも楽しんでくれる彼らとの対話にはまだまだ発見が眠っていそうです。
たとえば、新たなイノベーションを生み出そうとする企業や組織が、まだ見ぬ機会を探索する際の力強いパートナーとして。たとえば、成熟したブランドやコンテンツのこれからを考えるうえで、ひょっとするとその作り手をも凌ぐほどの愛と独自の視点を持っているかもしれない存在として。若者研究所では、偏愛を持つ若者たちの力を借りるような仕組みも含めて”偏愛会議”の実施を続けていきたいと思います。

執筆
若者研研究員 瀧﨑 絵里香

執筆協力
若者研学生研究員 上迫 凛香

※肩書は当時のものです

株式会社トモノカイ
1992年に東京大学出身者を母体とした学生団体からスタート、2000年に株式会社として設立。
「人と社会を豊かにする『教育』の原点にもどり、『教育』の再設計をしたい。関わるすべての人と“共に”未来の教育を創り、 学ぶ人・学びを支援する人と“伴に”走る会社でありたい」。そんな想いから、「東大家庭教師友の会」を起源に、教育に関わる様々な事業を展開。
現在では、東大生国内最多登録数の「東大家庭教師友の会」/現役大学生約25万人が登録している大学生向け情報メディア「t-news」/国内最大の塾講師求人サイト「塾講師ステーション」の運営の他にも、学校と連携し中高生の学習をサポートする教育プログラムや、「探究」教材の制作販売、中高生を対象に外国人留学生人材によるグローバル教育支援等を行っています。

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