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2020 60th ACC TOKYO CREATIVITY AWARD 総務大臣賞/ACCグランプリ受賞「緑の伊右衛門」
クリエイティビティと生活者発想の挑戦

2021.02.18
#クリエイティブ#ブランディング#マーケティング
博報堂グループが2020 60th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDにおいて、総務大臣賞/ACCグランプリを受賞した作品にクローズアップ。キャンペーンの詳細や企画制作の裏側、受賞後の反響などについて担当者にインタビューしました。
今回ご紹介するのは、マーケティング・エフェクティブネス部門で総務大臣賞/ACCグランプリを受賞したサントリーホールディングス「伊右衛門」のキャンペーン、「緑の伊右衛門」です。一大リニューアルを経て売上を大幅に挽回、“世紀の大逆転”を可能にした戦略アイデアとは? サントリー食品インターナショナルのブランド開発事業部 多田誠司氏、同社コミュニケーションデザイン部の木下卓也氏、ハッピーアワーズ博報堂の外山徹郎にお話を伺いました。

※「ACC TOKYO CREATIVE AWARD」とは
ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSは、1961年より開催されてきた広告賞「ACC CM FESTIVAL」を前身とし、2017年よりその枠を大きく拡げ、あらゆる領域におけるクリエイティブを対象としたアワードにリニューアルしました。名実ともに、日本最大級のアワードとして広く認知されており、総務大臣賞/ACCグランプリは、クリエイティブ業界で活躍する関係者の大きな目標となっています。

誰もが瞬間的にわかるお茶の価値、それが「緑」だった

――まずは、「緑の伊右衛門」キャンペーンが生まれた経緯について教えてください。

多田
ペットボトル入り緑茶「伊右衛門」は2004年の発売後、売上が翌年の2005年をピークに2019年まで右肩下がりが続くという絶望的な状況で、非常に大きな危機感を持っていたことが当初のきっかけです。緑茶カテゴリーはこの20年間で3品しかヒット商品は出ていないと言われている、なかなか動かない市場です。そのような緑茶市場で勝つためには、「何かを大幅に変える必要があるのではないか」という話になりました。ただ、店頭でのお茶選びは2秒で決まりますから、直感的に、瞬間的にわかる価値がなくてはなりません。その頃、たまたま別の商品開発の過程で、緑茶飲料をきれいな緑色にする技術が実現していたこともあり、伊右衛門もその技術を使って一新させることになっていました。開発も間に合いそうだということで、キャンペーンも「緑一本で行く」ことを最初に決めたんです。

外山
これまで僕自身もさまざまなコミュニケーションに携わってきましたが、何をやっても市場が動かない難しいブランドというのがある。伊右衛門はその筆頭でした。伊右衛門は2004年の発売以来、京都の老舗の雰囲気や、本木雅弘さん演じる“伊右衛門はん”を中心とした世界観、ストーリーで勝負してきた歴史がある。ある意味それを捨てきれないまま、気づいたら売上も低迷し何年も経ってしまっていました。そこで今回のキャンペーンでは、これまで描いてきた世界観の軸となる部分は維持しながらも、「緑」という新しい価値を前面に押し出す方法を考える必要がありました。

木下
今回、商品やブランドに低関与な層をターゲットにするのも初めての試みでしたね。それまでの僕らには、伊右衛門のファン、ヘビーユーザーの声は入ってきていましたが、低関与な人にはあまり目が向いていなかった。しかし実際売り上げを大きく左右するのは、マーケティング用語でいういわゆるライト層です。今回僕らはその低関与な層(ライト層)を、“伊右衛門にまったく興味のない人である”と一度割り切った。そして、彼らが店頭で一目見ただけでしっかり伝わる価値は何だろうか、というところから考えたわけです。

多田
商品が売れていないからこそ、メーカー側は原価を上げてどんどん商品の中身をよくしてきた自負はありました。ただ、つくり手としてはそれを語りたくなってしまうんですよね。でも世の中のお客様は誰も聞いてくれないことにようやく気付いたというか(笑)。冷静に自分たちの商品の置かれている状況を把握することから始まった気がします。

――発売以来培ってきた価値もある中で、一大リニューアルにあたり、変えること、変えないことのバランスを判断していくのは難しかったのでは。

木下
確かに難しかったですね。伊右衛門らしいトンマナを守りつつ、“変わった”ことをいかにわかりやすく伝えるか。結果的に外山さんには、普段のキャンペーンを考える3倍くらいの期間をかけて、大量の企画を出していただきました。ちょっと羽目をはずした企画も多数出していただいたおかげで、逆に伊右衛門として守るべきラインもクリアになっていったことは確かです。その過程でチームの共通認識がだんだん固まっていった気がします。

外山
たとえば世界観をがらっと変えた「コンビニ物語」なんて企画もありましたね(笑)。最終的には、「緑=淹れたてである」という価値をきちんと中心に据えたこと、そして“伊右衛門はん”という、京都福寿園の創業者をモデルにしたキャラクターの立ち位置は変えないことで、伊右衛門らしさを担保できたかなと思います。

多田
個人的に大きなポイントだったと思うのは、制作チームの要を変えなかったことです。たとえばパッケージデザインは、従来の竹筒のモチーフからロールラベルの角丸ボトルにがらっと変わりましたが、ずっと担当してきた同じデザイナーが書体など細部へのこだわり、心遣いをもってリニューアルしてくれた。結果的に、大きな変化がありつつもどこか根底に伊右衛門らしさが感じられるデザインになったと思います。
コミュニケーションについても同様で、長年ずっとお世話になってきたHAKUHODO DESIGNの永井一史さん率いる博報堂チームに今回もお願いできた。言語化するのは難しいのですが、変えていい部分と変えてはいけない部分というのは、そのブランドに長く携わっているからこそ感覚的につかめるものなのかなと思うんです。

木下
「コンビニ物語」の企画は、思わず「これでいこう」と言いそうになるようなものでしたね(笑)。でもやっぱり、本木さんが“伊右衛門はん”という職人の姿で出てくるいまの形に着地した。我々自身も、「やっぱりこれを求めていたんだ!」と改めて納得するような感覚がありました。

さまざまなピースが偶然はまって果たせた大逆転

――広告コミュニケーション効果は絶大で、緑茶市場における売上は長年続いた最下位からリニューアル後は1位へ。現在も引き続きその順位を維持されています。成功の秘訣は何でしょうか。

多田
通常のCMなら、ラベルをきちんと見せて、新しくなったパッケージを強調するのが定石だと思う。でも今回、芦田愛菜さんがCMの冒頭からこのラベルを剥がします。「伊右衛門=緑である」という、一点勝負に賭けたんです。

外山
ラベルを剥がすことで、お茶の色そのものも楽しめる商品であることを伝えられると思いました。そこから「裸の伊右衛門」というコミュニケーション上のコンセプトも生まれ、ラベルレスのボトルをつくったり、篠山紀信さんに新聞広告を撮影していただくなど、さまざまなメディアで展開しました。

木下
当初は緑一本で本当に大丈夫なのかと不安で仕方なかったんですが、進めていくうちに、リニューアルを通して緑の価値、つまり伊右衛門の本当の良さを伝えるんだ、というように確信が持てるようになっていきましたね。また「裸の伊右衛門」というコンセプトによって、購入して終わりではなく、購入後ラベルを剥がし、色を楽しみながら飲むという一連の体験価値が設計できたのもすごくよかったと思います。
あと、そもそもこれまでは、「本当は急須で淹れたお茶が理想ですが、ここまで再現しました」という見せ方になっていたわけです。でも今回、急須で淹れたお茶の代替品ではなく、ペットボトルで飲んでこそ美味しい最高品質の商品が実現できた。そういう意味で、緑茶市場の中で一線を画す立ち位置に行けたと思います。

外山
なかなか説明が難しいのですが、“グリーンミラクル”が起きたのかなとも思いますね。コロナ禍で社会に閉塞感があったために、緑という、気持ちがほっとしたり、穏やかになるようなトンマナが受け入れられたのかなと。

多田
さまざまな業界や各社がコロナ禍で手を止めた、止めざるを得なかった時期、弊社トップがあえてアクセルを踏めと号令をかけたことも、伊右衛門のコミュニケーションが際立つ結果につながったのかなと思います。いずれにしても理由は一つではありません。タイミング良くさまざまなピースが偶然はまって、こうした結果につながったのだろうと思います。

――ACC TOKYO CREATIVITY AWARDの審査委員の方から、「全国のマーケターを勇気づける作品」というコメントもありましたが、身近なところでの反響はいかがでしたか。

外山
近年、広告施策においては非常に複雑なコミュニケーションやビジネス視点を求められます。当然、それは重要なことですが、クリエイターにとっては少し息苦しい時代とも言えます。今回のように、商品の原点の部分に答えがあり、それをシンプルにシンボル化し伝えていくことでこれだけ売れるようになったという事実は、特に弊社の人間に勇気を与えた側面はあるかもしれません(笑)。

多田
コロナで在宅期間が長かったため、正直社内からの反響はあまり感じられませんでしたが、それでもじわじわと評価をいただいているのを感じます。また流通側との商談の際に、コロナで大変な時期、こんなに売れるものをありがとうございますといった話をされたときは、嬉しかったですね。

――今後の展望について教えてください。

多田
今回はたまたまホームランが打てたわけですが、プロ野球でもそんな選手はたくさんいる。やはり2打席連続で打って初めて本当に意味があるのかなと思います。一番大事なのはこれから。そのために博報堂チームにもフルで協力していただいていますから。

外山
頑張りましょう!今後もよろしくお願いします。

多田 誠司氏

1997年サントリー株式会社入社。
現在、伊右衛門(特茶含む)担当。

木下 卓也氏

2012年サントリー株式会社入社。
現在、コミュニケーションデザイン部で伊右衛門をはじめ健康茶、BOSSを担当。

外山 徹郎

2001年博報堂入社。現在、ハッピーアワーズ博報堂 クリエイティブディレクター/取締役
戦略も広告もアクティベーションも。Create Everything!

「緑の伊右衛門」
博報堂グループ 制作スタッフ
ECD/永井一史(HAKUHODO DESIGN)
ECD/塚田雅人(SIGNING)
クリエイティブディレクター/外山徹郎(ハッピーアワーズ博報堂)
プランナー/鈴木智也(博報堂)
プランナー/寺岡重人(ハッピーアワーズ博報堂)
プランナー/青沼克哉(博報堂)
コピーライター/坂本美慧(博報堂)
AD/柿﨑裕生(HAKUHODO DESIGN)
デザイナー/北原聡一郎(HAKUHODO DESIGN)

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