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AIは広告をつくることができるのか──「AI×クリエイティブ」、その多様な取り組み【アドテック東京2020レポート】

2021.01.13
#アドテック東京2020
現在、ビジネスの広範な分野でAI技術の活用が進んでいます。では、広告クリエイティブの分野でAI技術はどのように使われているのでしょうか。本稿では、10月29日、30日に開催されたアドテック東京2020のセッション「クリエイティブにAIを活用する」の模様をお届けします。当セッションでは、クリエイティブという「人間的活動」の領域におけるAI技術の可能性について、各社のクリエイティブテクノロジストが語り合いました。

毛利真崇氏
株式会社サイバーエージェント
AI事業本部 AIクリエイティブDiv統括

並河 進氏
株式会社電通
エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/データドリブン・クリエーティブ・センター長

栗田昌平
博報堂統合プラニング局 インタラクティブディレクター/クリエイティブテクノロジスト

〈ファシリテーター〉
坂本達夫氏
Smartly.io
日本事業責任者

「AI×クリエイティブ」のさまざまな取り組み

坂本
はじめに、それぞれの「AI×クリエイティブ」への取り組みについてご紹介いただけますか。

毛利
AIやCGの技術進化を取り入れ、過去になかった表現を生み出していくことにチャレンジしています。その中で生まれたツールの一つが「極予測AI」です。これは、広告クリエイティブの効果予測をAIが自動的にしてくれるツールで、すでにユーザーは500アカウントを超えています。また、このツールのバリエーションとして、高い広告効果が期待できるバーチャルモデルを自動生成する「極予測AI人間」があります。ほかにも、CGを活用したクリエイティブサービス、屋内で背景と人を融合させた撮影ができるLEDスタジオなどを提供しています。

並河
電通では2020年2月にデータドリブン・クリエーティブ・センターが発足しましたが、それ以前からAIに関するさまざまな取り組みが行われてきました。これまで、AIコピーライター「AICO」、動画広告・テレビCMの効果予測ツール「ブランド・リフト・チェッカー」、SNS広告のCTR予測ツール「モナリザ」、バナー自動生成ツール「アドバンストクリエイティブメーカー」などを発表しています。「アドバンストクリエイティブメーカー」は、CTRだけでなく、アートディレクターのナレッジをAIが学習してデザインのよしあしを判定できるツールで、これを活用することでコンバージョンが4倍以上になるケースも出ています。

AIを活用した自動化はシステムの領域で先んじて進んできましたが、この数年でクリエイティブ領域の自動化も格段に進歩しています。今後は、その二つの領域が組み合わさって進化していくと考えています。

栗田
これまで、料理レシピやラジオCMなどの制作にAIを活用するチャレンジを続けてきました。2019年にはクリエイター向けのツールである「AIブレストスパーク」をパートナーと共同開発しました。これは、アイデアの創造領域にAIを活用するツールです。具体的な機能としては、例えば「ビール」というキーワードを入力すると関連する言葉や意外な言葉が瞬時に表示される「ひらめきマップ」、言葉と言葉の意外な接着をアシストする「ブレストアイデア」、作詞家、ビジネスパーソン、主婦などの発想を言葉選びに生かす「他人アタマで考える」などがあります。僕が特に気に入っているのが、言葉と言葉の多様な組み合わせが次々にPC画面に出てくる「連続刺激モード」という機能です。

AIにできることとできないこと

坂本
お話をうかがっていると、クリエイティブ領域におけるAI活用はすでに実用のフェーズに入ってきているようですね。進化の過程で見ると、現在はどのくらいの段階にあるのでしょうか。

並河
この1、2年で目覚ましく進化しましたが、CMのストーリーをつくるといった能力は現在のAIにはまだありません。

毛利
予測はかなりのレベルまでいっていますよね。しかし、広告クリエイティブを自動化するのはまだ難しいのが現状です。クリエイティブは決まった要素の組み合わせによって生まれるものではないので、そもそも自動生成に向いていないとも言えます。しばらくは、AIがクリエイティブの素材を自動生成し、それを人間が選択して組み合わせていくということになるのではないでしょうか。

坂本
AIには得意分野と不得意分野があるということですね。

栗田
効率化や数値化はAIの得意分野です。一方、人の心の動きや感情の深さなどを見極めるのはまだAIは不得意だと思います。そもそも、AIが学習できるような教師データがその領域にはまだ少ないからです。逆に言えば、そこにチャレンジの余地があるということです。

毛利
インターネット広告の効果予測のように「正解」がある領域ではAIは力を発揮できます。しかし、人の心や感情などには正解がありません。心や感情に関するデータが集まれば、正解を仮定できるようになるかもしれませんね。

並河
現状のAIの使い方は、「効率化」のゾーン、ファネルでいえば下の方の領域で使うのが最も適していると考えられます。一方で、栗田さんが紹介されたように、人間の想像力を刺激するためにAIを使うのは、とても魅力的なチャレンジだと思います。

「便利なツール」としてのAI

栗田
これはぜひ強調しておきたいのですが、クリエイティブ領域におけるAIは人の発想力をサポートしてくれる「ツール」であるということです。いっそ、AIと言わず「便利なツール」くらいに捉えておいた方が、クリエイティブとAIの距離が縮まるのではないでしょうか。

毛利
僕もまさにそう思います。AIの登場は、以前のフォトショップの登場に似ています。フォトショップを活用することによって、デザインの作業が効率化し、クオリティも向上しました。しかし、フォトショップはあくまで一つのツールであり、それを使いこなすのはデザイナー、つまり人です。同様に、人の能力を拡張するツールがAIであると捉えるのがいいと思います。もっとも、新しいツールには使い方を習得するのが難しいという問題もあります。

並河
クリエイターには職人気質なところがありますから、新しいツールを使うことへの抵抗感がある人も少なくないと思います。とくに「勘」を大切にしているクリエイターは、あまりAIを使いたがらないかもしれません。しかし考えてみると、勘もまた過去の学習データの集積から生まれるもので、その点ではAIと共通しているんですよね。ですから、職人の勘とAIには相乗効果があるはずなんです。その効果を上手に生み出していくことが必要だと思います。

栗田
僕は、クリエイターが直感的に使えるUI/UXや、最初の答えが簡単に出る仕組みづくりも大切だと考えています。気軽に使うことができて、答えがすぐに出れば「意外と使えた」という実感をもってもらえると思います。それによってAIへの抵抗感も薄らいでいくはずです。

坂本
クリエイティブにAIを活用する取り組みを今後さらに活性化させていくために必要なことは何でしょうか。

栗田
クリエイターには「AIが自分たちの仕事を奪う」という意識がまだあると感じています。AIは「奪う」ツールではなく「サポートする」ツールである。そのことを丁寧に説明していくことが必要です。もう一つは、AIをブラックボックスにしないことですね。AIがそのキーワードを導き出した理由をクリエイター側が納得できる仕組みづくりが求められると思います。

並河
対クライアントで考えると、AIを活用してつくったクリエイティブが結果的に多くの手直しを必要とするものだとあまり響かないと思います。一方で、人がつくったクリエイティブと大差がないと「AIっぽくない」と言われてしまいます(笑)。AIは万能ではなく、あくまでよりよいクリエイティブをつくるための手段の一つであるという考え方を広めていくことが重要です。

より強力なクリエイティブパートナーに

坂本
クリエイティブをすべてAIに任せるということにはしばらくはならないと考えた方がよさそうですね。

毛利
繰り返しになりますが、現在のAIはあくまでツールであって、それを上手に使いこなせるクリエイターが優れたクリエイターということなのだと思います。

並河
AIをどこに使うかという視点も大事ですよね。AIが得意とするのは、つきつめれば「分析・予測」と「素材の自動生成」の2つです。その2つの用途で確実に成果を上げていくことをまずは考えるのがいいと思います。

坂本
将来的に、クリエイターとAIの協力関係はどう進化していくと思われますか。

毛利
これまでクリエイティブの作業の多くは人間の頭の中で処理されてきました。ですから、クリエイティブの過程に関するデータはほとんど存在しません。そのデータを獲得する方法さえあれば、AIは今よりも強力なクリエイティブパートナーになると思います。

栗田
それは重要な視点ですね。「AIブレストスパーク」は、実は社内のエグゼクティブクリエイティブディレクターの発想をAIに置き換えていくというコンセプトでつくっています。まずは一人のクリエイターの創造のパターンをAIに覚えさせて、そこからいろいろなバリエーションをつくっていくのは一つの有効な方法だと思います。

坂本
AIがさらに強力なクリエイティブパートナーになるまでどのくらいかかりそうですか。

並河
意外と早いような気がしますね。この2年ほどの進化のスピードを考えると、2年後には想像以上に能力が向上している可能性があると思います。2年後にぜひこのメンバーでまたお話をしたいですね(笑)。

毛利真崇氏
株式会社サイバーエージェント AI事業本部 AIクリエイティブDiv統括

2005年、サイバーエージェントに入社。広告代理事業の営業に従事した後、セントラルアカウントデザイン室を立ち上げ、広告プロダクトのアルゴリズム解析および運用設計、自動化ツールのプロダクトマネージャーを担当。
2017年、AIクリエイティブセンターを立ち上げ、AIや3DCGを活用した広告クリエイティブ制作フローの改善や、自動生成の研究を行っている。

並河 進氏
株式会社電通 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター/データドリブン・クリエーティブ・センター長

2017年4月、電通デジタルに、テクノロジーとクリエーティビティの融合を目指す「アドバンスト・クリエーティブ・センター」を立ち上げ、AIによるバナー自動生成ツール「アドバンスト・クリエーティブ・メーカー」等の開発を手がける。
2020年2月、電通に「データドリブン・クリエーティブ・センター」を発足し、同センター長に。
京都芸術大学客員教授。著書に、『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた』(木楽舎)、『ハッピーバースデイ 3.11』(飛鳥新社)他多数。TEDxTokyo Teachers 2015スピーカー。

坂本達夫氏
Smartly.io 日本事業責任者

グローバルの広告テクノロジー企業の日本進出を歴任。Google AdMob, AppLovinを日本で成功させたのち、2019年2月からは世界トップティアのFacebook Marketing PartnerであるSmartly.ioの日本展開を、日本第1号メンバーとしてリードしている。
30以上のスタートアップに対してエンジェル投資やアドバイザーを行っている。

栗田昌平
博報堂 統合プラニング局

インタラクティブディレクター/クリエイティブテクノロジストとして、マス、デジタルのプランニングに加えて、データやテクノロジーを活用した、体験やサービス開発業務などに従事。(SMAPとあいみょんが好き。)

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