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【Open Innovation Radio vol.2:異能と語るオープンイノベーション】ワインが開くオープンイノベーションの世界 ゲスト:富田葉子氏

2020.11.27
#イノベーション
博報堂ブランド・イノベーションデザインのメンバーが、多方面で活躍する異能な方たちと「オープンイノベーション」をテーマに、気軽に楽しめるラジオ番組のように語り合うシリーズ。
第2回となる今回は、JSA(日本ソムリエ協会)認定ソムリエで、ワインスクール アカデミー・デュ・ヴァン講師の富田葉子氏をお迎えし、ワインの歴史から見るオープンイノベーションについて、ビジネスディベロップメントディレクターの森泰規と語り合います。

ワインの知識は、オープンイノベーションに通じる


先生のおかげでワインエキスパートの試験、ストレート合格しました。ありがとうございます。今日は「ワインが開くオープンイノベーションの世界」と題して、先生に授業で教えていただいたことを振り返りながら、お話しさせてください。最初に…僕はアーティストとか経営者とか、いろんな方々のインタビューをさせていただくことがあって、その際はいつも必ず聞いているのですが、富田先生は小さいころ、どんなお子さんでしたか。

富田
実はひっそりと勉強と手芸だけやっているような、おとなしい子でした。手芸部長で、そのあと卓球部長です。ちょっと根暗そうでしょ。


意外ですね。そんな富田先生がワインの世界に入られたのは、どんなことがあったんですか。たしかレジェンドと言われるワインマスターのレストランで働かれて。

富田
はい、若いころ縁があって「マスター・オブ・ワイン」のネッド・グッドウィンの下で働くようになって。最初は何年かレストランサービスをしていたんですが、そのうち、ワインを勉強したいなと。そしたら、どんどんそちらのほうが面白くなってしまって。そうしているうちに講師のお話もいただくようになって……。


先生はワインがきっかけで、新しい世界へ展開していかれたんですね。さて僕が「ワインの勉強をしている」と周りに言うと、「優雅なお金持ちの趣味なんでしょ?」ってよく言われます。しかし先生の教室に通って気付いたのは、「レストランで働きながらスキルアップしたい」とか、「結婚式場で働いていて、お客さんの前で説明しなきゃいけなくなって」など、明確な理由を持って学ぶ方が多いことでした。ワインの知識とは職業のための知識であって、変な偏見は捨てなきゃいけない、とその時に心を改めました。そして同じような目的意識を、実際にお客さまにサービスするわけじゃない自分が持つにはどうしたらよいかを考えるようになりました。

富田
それはうれしいですね。よく言われます、表参道のワインスクールなんて、気取った方々がすごく見栄を張っているところなんでしょって。でも、そうじゃないということを知ってもらえたらうれしいです。


そうして思い至ったのが、オープンイノベーションとの関係だったんです。オープンイノベーションは外部の業種や技術との新しい組み合わせで新市場を創ると翻訳して説明することが多いから、ワインと食材のペアリング(組み合わせ)のように考えたらどうだろうかと。ただ、そんなことを考え始めていた時、先生の授業で、「これにはこれ、というふうに公式化して覚えるのは、ある程度の知識としてはいいが、そこに縛られるとかえって不自由になる」とうかがって。たしかにそうです。オープン、と言う以上、「この組み合わせは、こういうもの」と固定化したらとたんに不都合です。

富田
ペアリングの定番五大要素は、(1)濃さを合わせる(2)産地を合わせる(3)格を合わせる(4)共通項を合わせる(5)異質なものをぶつける、です。この中には、伝統的なことと科学的なところとがあって、たとえば科学的な言い方では、胡椒の香り成分「ロタンドン」を持つシラー(赤ワイン用ブドウ品種)と、実際に胡椒を振ったペッパーステーキのペアリング、とかになりますね。
でも、いま森さんが言ってくださったように、「これにはハーブの香りだから必ずハーブの香り」とか、「酸味には酸味」とかだけじゃなくて、やっぱりマーケティング。お客さまを見なければいけません。食べながら飲む人なのか、飲みながら食べる人なのかとか。形式的に「型」を知ることも必要ですけど、最終的には目の前の人たちに合わせていかないと。

ワインの歴史は、自己理解と顧客啓発の歴史


なるほど。マーケティングという場合には、いくつかの性格があります。《目の前のお客さまが欲しいものを提供すること》はもちろんそうですし、一方で《お客さまを啓発して気づいていただくこと》というのもあって、それを“マーケット・エデュケーション”とおっしゃる方もいます。授業で教わったことの中に、「ワイン産業の歴史では、本来あるべきもの・あるべき姿を造り手が提案していった結果、マーケットの方が変わっていった」というお話がありました。それは後者の方ですよね。ワインの造り手たちが明確な理想像を描けていたから、成し得たことだと思います。

富田
日本ワインもそうですよね。もともと、たとえば日本の甲州は、お土産ワインのような甘くて飲みやすいものが多かったわけですけど、海外で学んできた若い造り手さんたちとかが、やっぱりぶどうそのものの素材の良さだよね、甘口のお土産ワインはそれなりに売れるけど、そうではない、もっと本来の味を生かしたものを造りたい、となってきた。当時、味気ないといわれることもあった甲州を、シュール・リー(特殊な白ワインの製法)や低温発酵、ハイパーオキシデーションといった技術でなんとか辛口で飲めるようなワインにするということはもうやめて、ぶどう本来の良さやテロワールを大事にしようと。私は中央葡萄酒の三澤彩奈さんから最初に伺ったのですけど、そういう多大な努力をされている方が、全体として増えてきているのではないかと思います。好みもあるけど、自分たちが本来の素晴らしいものを造りたいっていうのをやっていますよね。


そうそう、もう一つ思い出しました。品種ごとの、ある種の“欠点”だとされている部分を、醸造家は抑えようとするんだけど、むしろそれを素材の味わいだと捉えて活かす人もいるというお話もありましたよね。普通は「欠点」や「課題」と言うと、それは「解決すべきもの」となるんですけど、自分の欠点と結びつけるのもオープンイノベーションになるんじゃないかと思います。誰かと組むのはもちろんですけど、自分の中の何かと組む。それも欠点だと言われていて、自分でもそう思っていたものを活かす。
もちろんその境地に至るには、かなり優れた自己理解が必要です。自分の欠点を正しく認識したうえで、それを長所として逆転させ、お客様を啓発していくということですから。表面的な理解ではできない。

富田
ボルドーのカベルネ・ソーヴィニヨン(赤ワイン用ブドウ品種)だと、杉の香りと相まって、青いのも一つの個性として気にしない方も多いですが、ニューワールド(ヨーロッパ以外の新しいワイン産地)では欠点だとみなす方も結構多いですね。でも欠点が欠点とは限りません。
日本ワインの場合も、ボリュームのなさというか、優しさをすごく皆さん気にされていたと思うんです。日照量が足りないから著名産地の高級ワインのような凝縮感のあるワインは難しい。だけどそれは欠点じゃなくて、一つの日本ワインの個性として、優しいワインでお食事にも合いやすいっていうことを胸張ってやっている方々が多くなってから、日本は日本らしさで、優しいワインとして進歩しています。さらに近年は造り手さんたちの努力によって、著名産地顔負けの偉大なワインも増えてきている。すごいことですよね。産膜酵母のワインとかもそうですよね。醸造上の欠点ではあるんですけど、それはそれでおもしろいんじゃない?ってシェリー(スペイン・アンダルシア地方の酒精強化ワインの製法)の人たちは活かしてますよね。
そう、あの「貴腐ワイン」(貴腐ぶどうで造られた高級な極甘口ワイン)だって……。

『それでも造ってみよう』というパーパスを持った人達が拓いたワインの歴史


授業で見た、貴腐ぶどうの写真は衝撃的でした。あれを見た日には、食べる勇気は出ないですよね。

富田
納豆を最初に食べた人と同じぐらい。貴腐ぶどうが生まれた経緯は、伝令兵の収穫開始が遅れたとか、収穫時期に領主がバカンスに行ってしまっていてゴーサインが出なかったとか諸説あるけど。現場の人たちはそこから、それでも造ってみようと考えたのがすごい。


そこなんです。「それでも造ってみよう」があるかどうか。

富田
「カビて腐っちゃった」で終わっていたら、ルイ14世も絶賛したという貴腐ワインが、そもそも存在すらしていなかった。


オープンイノベーションを実現するためには、新しい企業と企業を結び付ける工夫はもちろん重要で、今は組み合わせをつくるサービスもいっぱいあります。でも、出会った人たち同士が最後までやれるかが課題なんです。いろんな事情でぶどうが腐っちゃいました、本来の工程でできませんでした、などがあっても、「それでも造ろう」という気持ちを関係者たちが共通して持てるかどうか。そういう気持ちがあれば、新しいものを生み出すことができる。この構造で言う「それでもやろう」という気持ちのところを、私たちは「こうありたいという自分たちの存在意義に従って行動する組織パーパス」というふうに説明しています。
この貴腐ぶどうのエピソードは、比喩的に「何かが成功するのは、『それでもやろう』と思うかどうかだ」という教えだと思っています。実際、《大事に育てていたぶどうが、いろんな事情で腐ってしまう》みたいなことは多々あるわけで、そこを乗り越えられるかどうかだと。

富田
すてきな考え方ですね。本当にそうですよね。

ワインという知識は、発想を刺激し、人のつながりを創造する


ワインエキスパートの試験に受かったと周りに報告したら、皆さんからいろいろな話題が出てきました。「じゃ、こんどDRC(ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ)飲みに行こうか」という恐れ多いお誘いまで…。あ、みんな本当は好きだったんだ、潜在的に関心を持っている人も多かったんだなと感じました。まだまだほんのちょっとですけど、ワインの知識を覚えただけで、自分に関心を持ってくれる人が増えたわけです。私は音楽がもともと好きで、仕事のワークショップとしても活用していて、クライアントの会議室で一緒に演奏したりするときに感じる、手元に心を引き寄せていく感じ、「あ、みんな実はクラシックが好きだったんだ」という手ごたえは知っていましたけど、それと同じように広がりのあるものに出会えた気がしています。ワインやその知識は、人をつなげる力を持っているんだなと。また今日もお話ししてきたように、歴史的にも現在もいろいろな工夫やイノベーションが生み出されていて、とても発想を刺激してくれる世界だと感じています。

富田
頑張って良かったですね。ワインは、まだまだ面白い世界ですよ。生産者の方の工夫には私も刺激を受けます。マスカット・ベーリーA(黒ブドウの品種)のあのフォクシーフレーバーと呼ばれる香り、ヨーロッパの人は苦手な方が多いですけれど、パルメだったかな、なにかのブレンドに、少しだけ1回入っていたんです。よく入れてくれたなと。マスカット・ベーリーAの扱いが上手で、全然フォクシーフレーバーがないクリュ・デュ・ボジョレーのように造っている人もいれば、そのチャーミングさを前面に出している人と、両方いらっしゃる。


全然違うものをある一定の比率まで入れると、全体が整うものです。オープンイノベーションも同じです。こうして発想を膨らませてくれるワインを、仕事でも活かす方法を考えています。先日も先生にお越しいただいて、同じ品種で出来た複数の白ワインを飲み比べて「理想の自分たちに近いのはどれか」を考えるワークショップを実施しましたが、とても好評でしたね。ワインとの新結合で私自身が開けたオープンイノベーションの世界を、皆さんにもお伝えしていければと思っています。
富田先生、撮影の早川礼子さん、今日はどうもありがとうございました。

富田 葉子

レストラン勤務時代にネッド・グッドウィンMWの元で働き、老舗ワインスクールのアカデミー・デュ・ヴァンに通い、ワインの奥深さに魅せられる。ボルドーワインの騎士、カルヴァドスの騎士、シャトー・パルメの騎士、サーブルドール(シャンパンサーベル)騎士などを叙任し、ワイン社交界でも活躍。アカデミー・デュ・ヴァンでは、とにかく楽しい初歩的な講座から密度の高い専門講座、熱血指導の試験対策講座、レストラン勤務時代の経験を生かしたマリアージュ講座など幅広く担当。クラス会も頻繁に開催し、一人ひとりとの交流を大切にしている。15年間シングルマザーの経験があり、自身が今も「忙しく働く母ちゃん」であることから、「限られた時間で効率よく身につけていただくこと」に力を注ぐ。クラスが一体となる明るい雰囲気、溢れる熱意と分かりやすい資料に定評がある。マリアージュのご提案やオーダーメイドセミナー、ワインリスト作成、ワインやワイン以外のテイスティングコメント作成、イベントでのベネンシアールやサブラージュの実演、コスプレをしてのワイン受験の替え歌まで、ワインやシェリーの普及のために情熱を燃やし、日夜活動に励んでいる。

森 泰規
博報堂ブランド・イノベーションデザイン ビジネスディベロップメントディレクター

1977年茨城県生まれ。2000年に東京大学文学部(社会学)卒業後、株式会社 博報堂に入社。PR戦略、公共催事・展示会業務を通じて、現在のブランディング業務に至る。専門分野は、B2Bのブランドマネジメント業務、エグゼクティブ・コーチ、組織開発。日本社会学会員・日本庭園学会・日本マーケティング学会員として講演・論文刊行も多数。クラリネットを、生方正好氏、高橋知己氏に師事。作品解析・組織開発の手法を業務にも応用している。富田葉子氏に師事し、2020年J.S.A.ワインエキスパート呼称資格試験に合格。

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