THE CENTRAL DOT

コロナ禍の若者達の暮らしと展望

2020.06.05
#博報堂ブランド・イノベーションデザイン若者研究所
若者を未来社会の先行指標と捉え、若者との共創をコンセプトに掲げる博報堂ブランド・イノベーションデザイン若者研究所(若者研)では、都内の大学生を中心とした20人程の学生研究員たちと、「学生会議」と呼ぶ定例会を実施しています。各回にテーマを設けて、若者達の最新トレンドや価値観に関する情報収集とこれからの未来に向けたディスカッションをおこなっているのですが、今回、新型コロナウイルスの影響を受けて、オンラインでの学生会議を実施。コロナ禍における若者達のリアルな暮らしぶりと、若者達自身が考える今後の展望が見えてきました。5つの領域、10のファインディングスにまとめましたので、どうかご覧下さい。

~コミュニケーションと関係性の領域~
①「もはや“オンライン同棲”」繋がりつづける暮らし。
②「“よっ友”が消えた」人間関係の淘汰がおこっている。

~感覚と感情の領域~
③「推しも人間なんだ」五感の共有が一体感を生み出す鍵。
④「洗濯機がクラブになる」アガる体験をDIYする若者達。

~自己認識と自己表現の領域~
⑤「16:9の私」加速する画面のなかの自己表現。
⑥「今は自分が主人公」人生の主導権を取り戻す。

~時間の領域~
⑦脱タイムパフォーマンス意識。時間感覚に変化の兆し。
⑧「生活に波をつくりたい」リズムと計画が求められている。

~消費の領域~
⑨「stayhomeノイローゼ」ご自愛消費が広がりをみせる。
⑩「おうちカフェ」自粛生活での体験が消費の選択を変える

~コミュニケーションと関係性の領域~

①「もはや“オンライン同棲”」繋がりつづける暮らし。

外出や人と直接会うことが難しい自粛期間、オンラインでのビデオ通話の機会が爆発的に増加したのは若い世代に限ったことではありませんが、若者達の間では、仲の良い友人や恋人と「一日に10時間以上も繋いだまま過ごした」なんて人も多く、“オンライン同棲”といった表現も生まれています。切るタイミングもないことから長時間化したビデオ通話では、お互いに無言だったり違うことをやっていたりしながらも空気を共有しているといった状態になるのが特徴です。コロナ以前から、アプリをつかった位置情報の共有やライブ配信、ルーティーンの公開等、自分自身の情報をとにかく積極的に共有してしまうことで、同じような関心を持っている相手の方から声をかけてもらう、自分の興味のある情報を引き寄せるといった行動に特徴があった若者達ですから、これをきっかけにして、公私の境目やプライバシーの意識は更に曖昧なものへと変わっていくのかもしれません。

②「“よっ友”が消えた」人間関係の淘汰がおこっている。

大学生の間では、数年程前から「よっ友」という言葉が使われるようになりました。特別に親しい訳ではないけれども顔見知りで、大学や街中で出会った際に「よっ」と軽く挨拶を交わすくらいの仲の関係を指す言葉ですが、コロナによる自粛とオンライン化によって、こうした緩い関係が消滅し、頻繁に、長時間オンラインで繋がる友人だけにコミュニケーション相手が狭まる傾向があるようです。4月〜5月のシーズンが自粛期間となったことで、サークルや部活動の新歓もオンラインでの実施になっていますが、オンラインは関係性の深い人との会話には良くても、初対面の人が親しくなるのは難しいという傾向があり、コロナが若者達の人間関係に与える影響も見過ごすことができません。失われてしまった「出会いの春」を取り戻すことはできませんが、新たな出会いや緩やかな関係を生み出す試みが求められていくことになりそうです。

~感覚と感情の領域~

③「推しも人間なんだ」五感の共有が一体感を生み出す鍵。

コロナの影響で良かったことはあるかを話してみると、「推し(好きな芸能人)がSNS等を通して個人として発信してくれて、素の生活を感じられたこと」「世界中の人が同じ状況を共有しているという一体感がある」そんな意見があがりました。気軽に会うことが許されない、分断された状況のなかだからこそ、同じゲームで盛り上がる、SNSで一年前のストーリーを振返る、◯◯チャレンジといった数珠つなぎの投稿でお互いの「好き」を反響させるなど、共有によって一体感を生み出そうとする行動が沢山おこりました。興味深いのは、ただオンラインで繋がるのではなく、同じ料理をつくる、同じ飲み物を飲む、同じコンテンツを同時に見る、同時に筋トレをする、そうした五感への刺激を揃えることで、一体感が格段に上がるという発見です。コロナ以前には意識されていなかったこうした気づきは、これから先、様々な社会の分断を乗り越えるヒントや、新しいエンターテインメントのヒントにもなっていきそうです。

④「洗濯機がクラブになる」アガる体験をDIYする若者達。

「動画再生中のスマホを洗濯機に入れ、そのなかに頭をつっこむとクラブ感覚が味わえる※」そんな発見がtwitterでシェアされると、これを真似する若者が続出。長引く自粛生活のなかで決定的に不足している「アガる体験」を自ら生み出してしまった驚きのクリエイティビティです。ベランダに椅子を出してご飯を食べたりハンモックを吊るしたりしてピクニック気分を味わう「ベランダ進出」を行う若者も多く現れました。クラブやフェスやテーマパークのように、非日常的でテンションがアガる体験は、当面の間不足しつづけることが想像されるなか、どうやったらそれを創りだせるのか?多くの若者にとって切実な課題であり、思わぬ可能性も広がっていそうです。
そんな議論をしていると、「洗濯機はスタンディングデスクにちょうど良い高さ」なんて意見も。コロナによる制約が、家にあるものを思わぬ方法で利用するという発想を刺激しているとも言えそうです。自宅で過ごす時間が長い生活が今後も続くと考えると、家具や家電、空間の使い方は更に見直されていくかもしれません。
※あくまでもtwitterで発信されている若者のコメントの一例としてご紹介しています。この使用法を推奨するものではありません。

~自己認識と自己表現の領域~

⑤「16:9の私」加速する画面のなかの自己表現。

授業も、面接も、飲み会だってオンライン。そんな状況化で生まれているのが、16:9の画面のなかだけで自分を表現し、楽しむ工夫です。洋服は全身のコーディネートの重要性が低くなり、画面に写る襟が可愛い洋服やこだわりのピアスに注目が集まる。自然でオンライン映えするメイクの研究。instagramのストーリーに上げることを前提にした縦向き写真を基本にしていた若者が、バーチャル背景に設定するための横向き写真を撮るように。好きな有名人やアニメの画像をつかってバーチャル彼氏/彼女として紹介。といった行動も広がっているようです。「話をしている自分自身の顔を見るようになったことで、自分を俯瞰してみられるようになった」、「(オンラインでの会話の性質から)相手へのエチケットとしてリアクションが大きくなった」といった話もあり、自己表現のあり方に関する変化は様々な領域に影響を広げていきそうです。

⑥「今は自分が主人公」人生の主導権を取り戻すきっかけに。

自粛期間中、自分の意思で使える時間が増えたことで、初期には断捨離、模様替え、衣替え等、「忙しくてできていなかったこと」をかたづける段階がありました。その後は、派手髪にする、髭を伸ばす、料理をしてみる、楽器をおぼえるなど、「人目を気にしてできなかったこと」や「新しいこと」に挑戦する若者が多く出てきました。分析を行った学生メンバーからは、「いつもやるべきことに追われ、自分と他人を比べてしまいがちだったのが、自分中心の時間を取り戻した感じ。自分が自分の人生の主人公という感覚が今は持てる」というコメントも。「死んだらどうなるのかについて考えていた」「分厚い哲学書を読み始めた」といったメンバーもいて、若者達が立ち止まり内省する時間を得たことで、それぞれの幸福観や創造性に気がつくきっかけになったのだとすれば、主観の時代とも言われる未来に向けて、希望も膨らみます。

~時間意識~

⑦脱タイムパフォーマンス意識。時間感覚に変化の兆し。

コロナ以前から若者達の行動や価値観の特徴をみてきたなかで、若者研究所では「タイムパフォーマンス」という意識の高さに注目していました。膨大な情報に溢れ、目まぐるしい変化を続ける将来が見通せない時代を生きる若者達は、ひとつのことにじっくりと時間を使うのではなく、いくつものことを同時に、高速にこなしていくという所作が基本になっています。映画を見ながらご飯を食べ同時にinstagramに投稿するといったようなマルチタスクは当たり前で、副業(スラッシュキャリア)や多拠点生活、複数コミュニティへの所属といった暮らし方そのもののマルチ化志向も特徴です。そうやってタイムパフォーマンス(時間あたりの情報量や体験量)を最大化させることが、時代を生き抜くための戦略になっていたのです。しかし、今回突然に自由な時間を得た若者のなかには、読書や便箋で手紙を送るなど、いままでならば眼を向けていなかった時間のかかることや、ひとつに集中しなければいけないような事柄に取組みはじめた人も多く、そうした体験から、じっくりと時間をかけて物事に向き合うことの楽しさや大切さを感じたというのです。社会がもとの目まぐるしさを取り戻せば、そうしたことも難しくなってしまうかもしれませんが、この体験が若者達の時間に対する意識変化にも少なからず繋がっていくのではないでしょうか。

⑧「生活に波をつくりたい」リズムと計画が求められている。

この3ヶ月の間、「忙しかった生活が落ち着いて、自分でコントロールできる要素が増えたことで、以前よりも規則的で健康な暮らしをできるようになった」という若者と、「電車の時刻や営業時間などのはじまり・終わりがなく、ベッドがある空間にいるのでダラダラしてしまい、生活リズムが乱れて不健康になった」という若者にはっきりと二分されました。これは個人の性格によるところも大きそうですが、「受験勉強の時期に培った自分で時間割を決めて目標に向けて生活した経験が活きている」「友達とスケジュールを共有し、朝の決まった時間にオンラインで話をしたり筋トレをしたりするようにしている」など、前者の若者には自ら生活に波やリズムを生み出す工夫をしている様子が伺えました。会議のなかで多数派をしめた後者の若者達のなかにも、海外で自宅学習をする子どものためのホームスクールスケジュールを調べるなど、生活に波をつくりたいという想いは多くの若者がもっているようです。「以前はタブレット菓子をよく食べていて、授業やアルバイトなどの切り替えになっていたけど、外出自粛中は全く食べなくなった」という気づきもあり、新しい環境下では気分転換や切り替えのための商品やサービスにも新たなバリエーションが必要とされているのかもしれません。

~消費の領域~

⑨「おうちカフェ」。自粛生活での体験が消費の選択基準に影響

外出自粛期間中、女子学生のSNSを中心に「おうちカフェ」というキーワードが溢れました。韓国発祥で人気のあるダルゴナコーヒーやいちごサンドなど、おしゃれなカフェメニューを自宅で再現し、背景となる空間にもこだわった写真を投稿する若者が沢山いたのです。若者研究所でも「おうちカフェ」を実践したり料理をするようになったという学生メンバーが多数いましたが、彼女達はこうした体験によって、今後カフェや飲食店に求めるものが変わりそうだと言います。「おでかけや外食につかっていたお金を、イエナカに回すようになりそう」といった意見や、「意外と自分でつくれる料理が多いことに気づいたので、飲食店にいくなら、自宅では再現できない美味しさや空間を求める」「味以上に店員さんの人柄や接客の良い飲食店かを意識するようになる」といった意見に賛同が集まりました。「今までは通学など移動の途中に音楽を聞いていたけど、部屋で聞くにはテンポの速さや日本語の歌詞が気になって、音楽配信サービスでタイや台湾など他の国の人気曲を聴いてみたら好きになった」というように、食の領域に限らず、自粛生活での体験が、今後の行動や消費選択の基準に様々な影響を与えていきそうです。

⑩「stayhomeノイローゼ」ご自愛消費が広がりをみせる。

自粛期間を楽しみ、前向きなきっかけにしている若者がいる一方で、「stayhomeノイローゼ」ともいえるような精神状態だという学生メンバーもいました。ニュースに長時間触れるなかでウイルス感染の不安が過度に大きくなる。アルバイトもできない状況のなかで金銭的な不安が増していく。人生をかけて挑戦した留学から突然強制帰国することになってしまった。打ち込んできた活動の大会が無くなりモチベーションを保てない。といったように、沈み込む気持ちの理由は様々あります。今回の会議のなかで注目されたのは、「自粛期間のイエナカ時間がSNSでのアピール合戦になっている面もあり、家のなかでの過ごし方もSNSから逃れられなくなった」ことや、「後ろ向きな発言をしても状況は何も変わらないから、ポジティブな言葉を発言しなきゃという義務感や正義感に脳が支配されて疲れる」といったコメントでした。海外ではコロナ禍にひよこが売れている、保護猫や保護犬の引き取りが増加したなど、生き物に癒しを求めた行動が生まれニュースにも取りあげられていますが、都心で一人暮らしをするような日本の若者には、住宅事情や生活環境からもそうした選択はあまり現実的でありません。今後も新たな種類のストレスと向き合わざるを得ない暮らしのなかで、“自分の機嫌を自分でとる術”としての「ご自愛消費」は更に重要なキーワードになっていくと思われます。企業には新しい発想やテクノロジーを用いて、若者をはじめとした人々の健やかさを保つための商品やサービスの提供が求められています。

コロナ禍の若者達の暮らしにまつわる10のファインディングス、いかがだったでしょうか。若者達との議論を進めながら、新型コロナウイルスが暮らしや価値観に与える影響は思った以上に大きなものだということを実感しました。ここに上げた変化のなかには、ウイルスの収束状態に応じて元に戻るものもあれば、残るものもあるでしょう。何より、こうしている間にも、若者達は刻々と変化する状況に対して新しい発想や行動を生み出しているはずです。企業は、私は、ここに生まれている苦しみや課題をどうしたら解決できるのか?この状況をより良い社会に向けた前向きな契機にできないか?若者達と共に引き続き考えていきたいと思います。

ボヴェ 啓吾
博報堂ブランド・イノベーションデザイン 若者研究所 リーダー/ストラテジックプラニングディレクター

1985年生まれ。法政大学社会学部社会学科卒。2007年(株)博報堂に入社。マーケティング局にて多様な業種の企画立案業務に従事した後、2010年より博報堂ブランドデザインに加入。
ビジネスエスノグラフィや深層意識を解明する調査手法、哲学的視点による人間社会の探究と未来洞察などを用いて、ブランドコンサルティングや商品・事業開発の支援を行っている。
2012年より東京大学教養学部全学ゼミ「ブランドデザインスタジオ」の講師を行うなど、若者との共創プロジェクトを多く実施し、2019年より若者研究所リーダー。
著書『ビジネス寓話50選-物語で読み解く企業と仕事のこれから』

illustration:チチチ
東京都 在住 イラストレーター/デザイナー/映像作家

懐かしさを感じるシンプルな人物イラストや、似顔絵が得意。
イラスト制作を軸に、アパレルやグッズ制作、アニメーション制作まで幅広く活動中。

博報堂に関する最新記事をSNSでご案内します。ぜひご登録ください。
→ 博報堂広報室 Facebook | Twitter

FACEBOOK
でシェア

X
でシェア

関連するニュース・記事