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関西の隠れた“一品”を世界に発信するリブランディングプロジェクトが始動。第一弾、「ベンサン」開発秘話

2020.04.13
博報堂関西支社が手掛ける関西の中小企業活性化プロジェクト「the KANSAI~関西の一品を、世界の一品に。~」が始動する。第一弾プロジェクトとしてコラボしたのは、サンダル製造の老舗で、ゴムサンダルの高い全国シェアを誇るニシベケミカル社。おしゃれに生まれ変わった“便所サンダル”の姿とは!?驚きのリブランディングを実現に導いた、博報堂関西支社の飯沼俊彦と三宅達也に、プロジェクト立ち上げの背景や、リブランディングへのこだわり、今後の展望などについてうかがいました。

意識したことは、“変えすぎない”こと。

飯沼
我々が今回、奈良の老舗サンダルメーカーであるニシベケミカルとコラボすることになった背景には、もともと食品を中心に奈良県の地元企業との商品開発などを行うプロジェクトがあったのですが、それを知った食品以外のさまざまな企業から興味を持っていただいたため、今回、関西支社独自の地域創生の取り組みとして「the KANSAI」を立ち上げるに至りました。そして、私の上司に当たる者がニシベケミカル製サンダルの熱心なユーザーで、「素晴らしいサンダルをつくる企業が奈良にあるよ」と推薦されたことが、実は直接的なきっかけになんです。2019年4月に最初のご連絡をしてからすぐに西邊会長からご返答があり、実は30~40年前にパンフレット制作などの仕事で、博報堂関西支社が関わらせて頂いていたそうで、また一緒に仕事ができることが楽しみだというお話をいただきました。そんなつながりがあったとは知らず、とても驚きましたね。

履物製造は奈良県の地場産業で、歴史も古く、中でも国産のゴムサンダルのほとんどは奈良県で生産されています。ニシベケミカルはその地で40年ほど高品質のゴムサンダルをつくっていて、一番代表的な製品がいわゆる“便所サンダル”、通称「ベンサン」です。なかでも「ダンヒル」というブランドは、同名のハイブランドとはまったくの無関係ですが(笑)、庭先や学校、公共施設などで誰もが一度は目にしたことのある、多くの人に馴染み深い製品です。便所サンダルはチープなイメージもあるかもしれませんが、水気のある場所や庭先などで使用し続けても品質を保てる充分な耐久性があり、抗菌性にも優れていて多くの病院でも使用されている。モノとして非常に高いポテンシャルがあるんです。昔から一定数のファンがいましたし、最近では日常生活でベンサンを愛用する芸能人が“ベンサン愛”を公言していて、注目が高まっている製品でもあります。

三宅
歴史の中で改良を続けてきた結果、ベンサンはいまの完成された製品になった。ニシベケミカルの大切な企業資産であり、守っていくべきものです。なので、私がデザイナーとして意識したのは、“変えすぎない”こと。つまり「本体の形状などには手を加えないまま、新たなデザインを付加する形で新商品をつくる」、「ニシベのゴム靴の良さを生かしたデザインにする」ことを考えました。そしてたどり着いたのが、「color mask」「hanao」「clear shoes」の3シリーズです。

「color mask」は「ダンヒル」のモデルにクリアカラーマスクを装着したもの。便所や玄関先といったイメージの強い「ダンヒル」を、街中でもおしゃれに履きこなせる、ファッション性の高いサンダルに仕立てたいと思いました。「ダンヒル」らしいデザインはそのまま生きるよう、マスク部分はあえて透明にしました。つま先までカバーされるので、ちょっとした雨でも濡れる心配がありません。

「hanao」は、その名の通り鼻緒をかかと止めに活用しました。ベースとなったモデルは廃盤になって出回っていないんですが、型を引っ張り出してつくっていただいた、非常にレアな一品です。また鼻緒は履物同様奈良の地場産業なので、地元の鼻緒メーカーに協力を仰ぎ、モダンな和風デザインの鼻緒を合わせました。

「clear shoes」は、履く人が服装や気分に合わせて好きなようにデザインできれば面白いのではないかと思い、企画したデザイン。靴下やペディキュアなどで自由に遊べるようなシューズです。ちなみに最近は海外セレブの間でも透明ブーツが流行っているそうなので、反響を期待しています。

飯沼
最初は夢見がちにいろいろと提案していたんですが、あるときニシベさんの方から「ちょっとうちのリソースを見てください」と話があったんです。工場を見せていただいて初めて現場の制約を理解しました。さらに在庫管理のリスクも避けながら、社内で生産を完了させ、なおかつ無理なく生産が持続できる商品は何かを考えた結果、この3種が現実的なラインナップとなりました。

三宅
ちなみに技術的に最も難しかったのは「clear shoes」ですね。金型に流し込んだゴムを剥がす際にどうしてもくすんでしまったりして、透明をキープしにくい。なので「できればやりたくない」とも言われました。それでも社長に面白がっていただき、やってみようということになり、ニシベの高い職人技術によって商品化が実現しました。ちなみにサンダル、鼻緒と同様、奈良では靴下の生産もさかんなので、地元の靴下メーカーと組み、「clear shoes」に合わせた靴下も企画しています。

ハードルを乗り越え、持続可能なプロジェクトを目指す

飯沼
ニシベケミカルに限らず、どの中小企業も、限られたリソースや人手を使って、現段階でめいっぱいの状態で生産しているので、当然ながら製造コストの面でも大きなハードルがあります。通常我々の仕事でプロモーションや広告を考える際、在庫や最小ロット、原価率といったことを意識することはあまりないですよね。しかし、今回立ち上げた関西中小企業活性化プロジェクト「the KANSAI~関西の一品を、世界の一品に。~」では、協業先の会社規模や環境などに合った、本当に持続可能なものづくりの方法を考えることをとても大事にしています。第一回のベンサンの開発で、もっとも知恵を振り絞った点でもあり、クリアして醍醐味を覚えた点でもありましたね。

現在国内のさまざまなものづくりの業界において、海外企業に大きく市場を奪われていて非常に苦しい状況下にあります。いくら「新しいことをやりたい」という気持ちがあっても、リソースを考えると難しいし、なにより不安で躊躇してしまう。だからこそ、外部の我々のような立場が入って、博報堂のクリエイティビティを発揮し企画を一緒に考え、サポートしながらプロジェクトを推進していく――。そこに意味があるのではないかなと思います。

三宅
それから、広告業界でよく見聞きするような「地方のものをお金をかけておしゃれにデザインしただけ」のプロジェクトにはしたくなかったんです。その時だけ“瞬間風速的に”派手に盛り上げるようなやり方ではなく、本当に息が長くメリットがあって、続けられることを目指したかった。だからまずは、ちゃんと売れるものをつくる。そして、売れ続けるための仕組みも考える。ただのデザインコラボとは違うものにしていきたいと思っています。

博報堂ならではのクリエイティビティで地域産業に貢献したい。

飯沼
万博もありIR構想もあり、この先の関西地域はそれなりに盛り上がることが期待できますが、そうは言っても多くの企業にとって、なかなかしんどい状況なのは変わらないのではないでしょうか。そんな中で少しでも、博報堂関西支社がお役に立てることはないだろうかと模索しています。たとえば関西圏にたくさんある日本酒メーカーさんや、多品種少量生産を行っている奈良の農業など、ものづくりや一次産業まわりでいま何かしら困りごとを抱えているところに、博報堂のクリエイティビティでサポートできることがあるのではないかと思っています。

三宅
それから、多くの中小企業を見ていると、どこも素晴らしい技術、素晴らしい製品がある反面、それらをどう売っていったらいいのかわからないとか、どういうものをつくればいいのかわからないといったことに悩まれているケースが多い。ニシベさんのように、ご本人たちにとっては当たり前なことも、外部から見てみれば「そんなすごいことをやっているの?」と驚くことだってある。そうした自分たちの魅力に気づかせてあげることも、一つ大切なことかもしれません。

飯沼
現在プロジェクト第二弾として進行しているのが、奈良の吉野杉箸屋というお箸屋さんと取り組んでいる企画です。ぜひ楽しみにしていただきたいですね。
いまは本当にたくさんの企業で当たり前のように「ものが前程売れない」「ずっと右肩下がり」という話が出る。だからこそ、微力ながらも、我々が埋もれている優良中小企業を開拓し、企画力でもって力を添えつつ一緒にプロダクトを世に出していけたら。これ以上のことはありません。

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