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博報堂ブランド・イノベーションデザインが考える、真にワークするオープンイノベーションとは

2020.03.25
#イノベーション#博報堂ブランド・イノベーションデザイン#生活者インターフェース市場
ブランディングとイノベーション創出を専門とする博報堂ブランド・イノベーションデザインが考える、オープンイノベーションの考え方や注意すべきポイント、実践例をご紹介する連載です。
初回となる本稿では、内閣府 価値共創タスクフォースの委員も務める博報堂ブランド・イノベーションデザインの代表宮澤正憲が、日本のオープンイノベーションの現状について解説するとともに、博報堂ブランド・イノベーションデザインが考えるオープンイノベーションの在り方について語ります。

オープンイノベーションの現在地点

「オープンイノベーション」と聞くと、異業種の参画、協業、社外のアイデアを取り入れる、大学とコラボレーションする……などさまざまなイメージを抱くと思いますが、まずはその定義について整理させてください。そもそもオープンイノベーションは、2003年に当時ハーバード大学に勤務していたヘンリー・チェスブロウ博士が「企業の内部と外部のアイデアを有機的に結合させ価値を高めること」を指す概念として提唱したことから、広く知られるようになりました。日本でも、現在、企業同士や、企業とベンチャー、企業と大学、自治体などとの連携が多数行われはじめています。ただ、オープンイノベーションといっても実は形式は多様で、例えば企業外から中に情報を入れていくインバウンド型や、企業が持つ技術を外へ展開させるアウトバウンド型、あるいは複数の企業や組織で進める連携型などがありますが、これらのどの形を想定しているか確認しないまま話を進めてしまい、現場で認識の齟齬が起きていることがよくあります。

日本でオープンイノベーションに対する関心が急激に高まりを見せたのは2014年くらいからで、その頃(黎明期)は技術連携を軸とした基礎的なオープンイノベーションがほとんどでした。その後2015年~2017年(加速期)においては、オープンイノベーションを事業開発に役立てようという気運が生まれてきます。ベンチャー連携、CVC投資、アクセラレーターといったキーワードと共に、オープンイノベーションが研究開発の一領域だけではなく、経営の大きなマターとなっていきます。そして2018年から現在にかけて(定着期)は、SDGsといった社会課題解決のためというスタンスが増え、IoTやAIの活用や、フューチャーセンターやリビングラボなどの場をつくる、ネット上のプラットフォームを活用するなど、その手段も多様化してきています。

当分野で先行する欧州では、すでにオープンイノベーション2.0と言われるフェーズに入っており、日本でもここ数年でこの2.0型へのシフトが少しずつ起きています。研究開発や事業の効率向上のために1対1の連携が行われるのが1.0とすると、2.0では、産官学民の4つのステークホルダーを1つのエコシステムとして連携させながら、社会課題解決を起点に包括的に考えることが特徴です。その手法も多彩で、アイデアソンのようなものもあればコンテストもあるし、ベンチャー投資やリビングラボなどもある。これといった正解はなく、オープンイノベーションにおいては、目的に合わせて手法や方法論を変えていく必要があるのです。

ビジネスの文脈で見るオープンイノベーション

では次に、オープンイノベーションがなぜいま重要性を増しているのか、ビジネスの観点から考えてみましょう。背景には、生活者の購買行動や意識の変化や、テクノロジーの進化による大きな環境変化が起きていることがあげられます。詳しく説明すると、もともとビジネスというのは、良い製品をつくり、マーケティングによって製品力を生活者に伝え届けるという、モノ中心の“グッズ・ドミナント”モデルが基本でした。しかしいま、人口減少や価値観の変化によるモノ余りの状況で、ビジネスもコト中心の“サービス・ドミナント”モデルへと移行している。モノからコトへというのは大昔から言われていることですが、実はここ数年それが急速に現実化しているのです。モノが溢れ飽和化してきている現代では、生活者と一緒に本当に欲しいものは何かから考え直していかないと、新しい商品や事業も生まれにくくなっているからです。さらに、その変化を、テクノロジーが加速させています。たとえば通信も銀行も買い物もスマホの中で完結するようになり、これまで明確に分かれていた業界という枠組みや区分が曖昧になってきている。業界がまじりあい、すべてがサービス業化するという状態がすでに一部で起きているのです。こうしたコネクテッド社会――博報堂で言う生活者インターフェース市場――においては1社だけではビジネスは完結できないため、必然的にほかの業界と組んでいくことがマストになります。だからこそ、ここまでオープンイノベーションが経営において注目されているのです。

そしてあらゆる企業や産業が連携していくと、その融合の中で自社ビジネスの再定義が必要となり、「あなたの企業はこの社会において何を提供できますか?」という問いを突き付けられます。つまりその企業にしかない社会的存在意義、「パーパス」が問われるのです。パーパス抜きにしてはオープンイノベーションは語れませんし、パーパスがあるからこそ新しい技術や知恵を入れていく意味がある。そこが大きなポイントです。

こうして生まれる新しい社会においては、かつてのような製品自体の差別化だけではビジネスになりにくくなります。魅力的な製品やサービスをほかと一緒になってつくりあげることができた企業こそが、これからのビジネスの勝者になるのだと思います。そういう意味で、ブランドは差別化のツールではなく、いまや仲間集めを意味し、それこそがビジネスのスケールになっていくと考えるべきでしょう。どんなパーパスを掲げ、いかに仲間を集め、共創するか。それがこれからの大きなトレンドになりつつあります。

オープンイノベーションを成功させるために必要な組織設計とは?

ではなぜ日本ではオープンイノベーションがいまひとつうまく機能していないのでしょうか。私が参画していた内閣府のオープンイノベーション推進タスクフォースで出た議論を一部紹介します。オープンイノベーションがうまくいっていないという日本の企業を見ると、大抵は「とりあえず出島型の専門部署をつくりました」「アクセラレーターをやれと言われたけどどうしたらいいかよくわからない」など、方法論や形式、組織ありきで進めようとするケースが多くみられます。本来は、未来の社会に向けて必要な事業のために、オープンイノベーションを活用するという話なのに、オープンイノベーション自体がゴールになってしまい、目的と手法が逆になっているのです。メンバーも、指示されたからやるという人も多く、モチベーションが低い場合も散見されます。しかしオープンイノベーションはそもそも、通常のビジネスよりパワーもいるし面倒くさいことです。いろんなステークホルダーを混ぜるより、自社だけでやってしまった方が当然効率もいいし早いわけで、外部と組んで行うオープンイノベーションには起業レベルの熱量が求められるのです。にもかかわらず、うまくいかないと、経営者は現場に責任を転嫁し、一方の現場は上からの指示がないし評価もされないからやられない、となる。さらには、短期的な収益も上がりにくく成果までに時間がかかるため、周囲からの横やりが入りやすいという組織上の問題も起こりがちです。このように、及び腰の経営層、モチベーションの低い現場、推進を阻害する組織という、3すくみの「付け回し」状態が多くの企業で発生しているのです。

逆にそのテーマが好きで仕方がない人、会社の評価に関係なくやってみたいという人が自主的に関わっていると、オープンイノベーションがうまくまわっていることが多い。また、経営者や企業レベルでも、我々は社会に対してこういう企業でありたいんだという強い理念や想いがあれば、それが大きな原動力になる。個人レベルにしろ企業レベルにしろ、“これがあれば社会がよくなるに違いない”といった強固な想い、言い換えれば「内的動機」がオープンイノベーションをけん引するのです。そしてそれを実現させるための組織体制、人集めができてこそ、オープンイノベーションは成功するのだと考えます。

「3すくみ状態」から脱却するには

従来のオープンイノベーションは、技術をベースに製品をつくり販促するという、いわゆるビジネスの川上から川下型フローモデルの一部に取り入れるという考え方でした。しかし前述のように、オープンイノベーションは経営のマストプロセスです。本当にオープンイノベーションを成功させるには、研究開発だけでなく、マーケティングもセールスも、さらにいえば本社部門も含め、全組織型で取り組む必要があります。その上で共通のパーパスに向かい、プロトタイピング型でビジネスを回しながら、うまくいかない場合はそこを随時アップデートして改善していく。モノ中心の企業であっても、すべての産業がサービス業化しているいま、“改善のフローを常に回し続ける”というビジネスモデルが求められてくるのだと思います。

いずれにしてもよく見られる「3すくみ状態」から脱却するには、まずは経営層のリーダーシップが肝心です。オープンイノベーションに優先的に取り組む必要があることを、経営から全社にしっかりと伝え、オーソライズすることが欠かせません。そしてパーパスを明確にしたら、その先の活動ではできるだけ口を出さないこと。なぜならば、オープンイノベーションでは、上位下達の従来の縦のビジネスモデルと違って、横とつながり横へとひろがっていく力、そのモーメンタムをいかに加速させるかが重要だからです。ある意味現場同士が勝手につながって勝手に進めていくという状態にしなければ、推進は難しくなります。よくあるケースは、たとえば3社でオープンイノベーションを進めようとしたところ、A社が「一度持ち帰って経営層に伺いをたてます」といい、「ここがダメだと言われたので変えていいですか」となる。すると今度はB社が「じゃあうちも…」となって、気づいた時にはそれだけで半年が過ぎていたと。これは笑い事ではなく、実際に非常に陥りやすいケースです。

2つ目に肝心なのが、従業員のフォロワーシップ。会社のミッションではないプロジェクトは評価されないからいやだとか、上から指示されたわけじゃないからやりたくない、などというタイプの従業員は実際多いものです。でも必要なのは、上がどう言おうが我々はこれをやりたいから勝手にやりますよ、という内的動機重視モデルなんです。「やりたいけどやれないんだよな」という人が多いのですが、「好きだから、指示を待たずに実行する」というフォロワーシップを持つことこそが必要です。

そして3つ目に肝心なのが、バックヤード他さまざまな周囲部門のサポートです。ただ、中でも知財部門などは、その企業や業界を守るための守備のプロフェッショナルである反面、ことオープンイノベーションにおいては技術を漏出させないため判断が障壁となる可能性があります。知財のしばりは会社によってさまざまで、ある企業が「ここにリスクがあるから改善しないと進められない」となると、今度は別の企業が「そうすると、うちではここに問題が」となって、話がそこでストップしてしまいがちです。皮肉にも知財が優秀であればあるほどリスク管理が徹底しているため、そういう事態に陥りやすいのです。そうすると、「あの企業は素晴らしいけど、時間がかかるし面倒なので、一緒に組む相手としては見送ろう」なんてことにもなりかねない。ガードを緩める部分と締める部分のバランスが取れる、柔軟性をもった組織体系に変えなくてはなりません。

博報堂ブランド・イノベーションデザイン流オープンイノベーションとは何か?

ここまで述べてきたように、オープンイノベーションを成功させるには、様々なポイントがあります。私たち博報堂ブランド・イノベーションデザイン(以下、博報堂BID)は、目的をどうつくり、どんな仲間を集め、そしてどう動かしていくかがポイントになると考えています。これは、従来から実践している「未来生活者発想型オープン・イノベーション」において、「志、属、形」という考え方で説明しています。

まずは、企業レベルでも個人レベルでも街レベルでも、未来に向けた「志」(未来起点型オープンイノベーション)が大事。そして生活者にとってプラスにならないことは、今後ビジネスとしてどんなレイヤーでも受け入れられなくなるでしょうから、主体である生活者をそこにどう「属」させ(生活者共創型オープンイノベーション)、巻き込んでいくかが大きなテーマになる。欧州に比べ日本ではなかなか市民参加型のオープンイノベーションが進んでいないので、この点はこれから特に大事なポイントだと考えています。最後に机上の空論にならずに、生活者が「いいね」と言ってくれるようなインターフェースに落とし込むなど、とにかく具体的な「形」で実行すること(生活実装型オープンイノベーション)。これらが我々博報堂BID流のオープンイノベーションです。

上記を基本思想として、博報堂BIDは様々なオープンイノベーションを実現してきました。産官学民のマルチステークホルダー型だけでなく、若者やシニア、アーティストと共創するオープンイノベーションなども行ってきています。

生活者のことを深く知っている強みを活かし、組織同士をつなぎながら、クリエイティビティで社会実装していく。そのようなオープンイノベーションをこれからも推進し、実現していくことは、博報堂としての社会的ミッションであるとも思っています。
次回からは、BIDの具体的な取り組みをお伝えしていきます。

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宮澤 正憲
博報堂ブランド・イノベーションデザイン 代表

東京大学文学部心理学科卒業。株式会社博報堂に入社後、多様な業種の企画立案業務に従事。2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)卒業後、ブランド及びイノベーションの企画・コンサルティングを行う次世代型専門組織「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」を立ち上げ、経営戦略、新規事業開発、商品開発、空間開発、組織人材開発、地域活性、社会課題解決など多彩なビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。イノベーション支援サービスを提供する株式会社SEEDATA非常勤取締役。主な著書に『東大教養学部「考える力」の教室』『「応援したくなる企業」の時代』など多数。東京大学教養学部教養教育高度化機構 特任教授。

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