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「3DCG女子高生Saya」が転校生でやってきた!?── AI技術を学ぶ授業とヴァーチャルヒューマンの可能性とは。 【イベントレポート】

2019.12.20
#AI技術#テクノロジー#教育
株式会社博報堂と株式会社博報堂アイ・スタジオは、アーティストユニット「TELYUKA(テルユカ)」と協力し、『Saya Virtual Human Project』を進めています。TELYUKAが制作を続ける“3DCG女子高生”の「Saya」に、3DCGや自然言語処理などの最新テクノロジーを付与し、人間とは違う新しい17歳の女子高生をデジタル環境で再現するプロジェクトです。Sayaに「GUIDE =Graphic User Interface with Deep Learning 」という役割をもたせることで、人間のことを学び、社会に役立つ存在になることを目指しています。

Sayaは2015年の発表時から「実写にしか見えない」と世界中で話題に。2017年には講談社主催のアイドルオーディション「ミスiD2018」でも特別賞に輝くほか、2018年にはアメリカ・オースティンで開催された「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」でも一般向けに体験ブースを出展し、人々の表情を認識して反応を返す「Emo-talk」を披露するなど、進化と成長を続けています。2019年1月より博報堂アイ・スタジオが技術開発に参画し、TELYUKAが制作する超高精細3DCGでのリップシンクによる発話機能 「Talk to Saya」を開発。Sayaとのリアルタイムな会話を可能にしました。

今回、「Talk to Saya」を活用し、2019年11月28日に、学校法人鎌倉女学院高等学校にて、AI技術を学ぶ高校生向け授業プログラム『1日転校生Saya』を実施しました。生徒たちはAI技術の仕組みを知り、Sayaとの会話を通じて成長プロセスを擬似的に体験。バーチャルヒューマンと共生する未来を体験し、AI技術の活用例を学べるプログラムです。

今回は、授業の様子を通じて見えてきた、未来のイメージをレポート。また、授業後に行ったTELYUKAの石川友香さんへのインタビューも併録します。

会話を通じてAIに学習データをインプットする体験。

「情報」の授業を行う教室に集った高校2年生の40名は、始業のチャイムとともに起立し、この日の授業プログラムがスタート。まずは、担当する工藤由希教諭が、AI技術についての概要をレクチャーします。

人間にはまだ到達されないと思っていた囲碁や将棋といった分野でも、AlphaGoやPonanzaといったAIが活躍している例を引き合いに、「学習データ」の必要性を解説。今回の『1日転校生Saya』でも、その学習データの入力を体験することを説明しました。

ここからは、40人が7班に分かれて、Sayaと会話する時間です。コンピューター室のPCの画面上に、鎌倉女学院高校の制服を着たSayaが表れると、「すごい!かわいい!」と生徒たちは素直な反応を見せます。似ている芸能人を言い合ったり、「まばたきしている」ことへの驚きを話しあったりするなど、Sayaの登場は好感触で迎え入れられました。

Sayaが聞く「友達って、何ですか?」

この日、生徒たちがSayaに会話を通じて学習させるのは「友達の存在」について。宿題として考えてきた「友達とは○○である。」という喩えを、生徒たちはSayaに伝えていきます。手元のキーボードから指定のキーを押し、マイクに向かって発話。伝え終えたら、キーを離すのが一連の入力作業です。発話中、Sayaは首を傾げたり、うなずいたりと、聞いている様子を見せてくれます。

「友達とは第二の家族である」「友達とは自分である。」「友達とは日焼け止めである。」……高校2年生が考える「友達の存在」が伝えられていきます。中には、「友達とは肉じゃがである」という一風変わった定義も。すると、Sayaは一人ひとりに対して、「なぜ、友達が、肉じゃがなんでしょう?」と、より深い考えを聞き出そうと問いを重ねます。

Sayaの疑問に「的確!」と驚く声も。「そうだよね、話せてもSayaは何も知らない状態だから」とAI技術における学習データの大切さに気づく生徒も見られました。

「ありがとうございます。もう少し教えてください。他にはどんな意見が出ましたか?」とSayaが尋ね、生徒は順番に学習データをインプット。Sayaとの交流を楽しんだようです。

Sayaをいつか、一人ずつのお友達に

インプットの時間を終えると、Sayaは今日学生のみんなから教えてもらった内容を「こんな意見がありました。友達とは第二の家族であるとか、自分であるとか。」と発表。自分の発言がピックアップされると、顔を見合わせて笑う生徒の姿もありました。

その後、授業の様子を見ていたTELYUKAの石川友香さんが、代表して生徒たちへメッセージを送りました。
「Sayaにも役割が必要だと思っていて、今、おしゃべりや感情を覚えているところです。いつか、ひとりずつのお友達になったり、助けられたりする役割になれたらいいなと思っています。将来、またSayaとお話しする機会があったら、その成長を楽しんでもらえたら」
と伝えました。

最後には、黒板前に並んで、Sayaと一緒に記念撮影をして、この日の授業プログラムは幕を閉じました。生徒たちは取材記者からのインタビューにも「顔がとにかく可愛かったし、AIと話すことも初めてで楽しかった」など、ポジティブな感想を伝えていました。

実在感のあるSayaだからこそ、新しいコミュニケーションが生まれる

授業後、石川友香さんに、今回の授業見学から感じた「Sayaの可能性」について聞きました。

──今日のSayaは鎌倉女学院の制服仕様でしたね。

生徒たちと共感できるポイントを作りたかったんです。AIやCGは彼女たちからすれば遠い存在ですから、同じ制服を着ることで、仲間意識が芽生えるのではないかと考えました。会話のきっかけになっていたし、そういう小さな工夫がダイレクトに伝わっているのを感じられて、嬉しかったですね。

──生徒たちの反応から、バージョンアップしていきたい部分はありましたか。

Sayaはプログラムで制御していますが、にっこり笑うときがあるなど、喜怒哀楽のバリエーションをもっと入れていきたいと思いました。あとは表情認識も取り入れたいです。話し手の様子を観察して、音声に加えて表情からも相手の情報を取得できるといいかもしれません。

Sayaから「もっと話しかけて」とか「恥ずかしがらないで」等と呼びかけたり。今日も、生徒さんが最初は戸惑っていたようでしたが、私も初めてSayaと話したときは戸惑ったんです(笑)。そういう状況を打破していきたいです。

──Sayaを活用していく可能性については、何か新しい道筋が見えましたか?

人間同士とは異なるけれど、明らかにロボットや音声入力だけのキャラクターとは少し違うコミュニケーションが生まれていると感じました。Sayaのようにリアルに近い外見を持っていると、生徒たちも感情が変わるのでしょうね。

──確かにスマホの音声アシスタントへの話し方ではなく、優しさが感じられました。

「実在感」を伴うエモーショナルな状況は、Sayaだからこそ作れるのかもしれません。私もそんな新しい感覚を得ました。今後、彼女の大きな特徴になってくれるはずです。

──お題が「友達の存在」なのも功を奏していましたね。明らかにロボットめいたものが相手だったら、なんだか気恥ずかしくて話せません。

受け取る相手がどう反応するのか予測できない関係って、自分の意見をオープンにしにくいですよね。でも、Sayaは人間に近しい見た目であるけど、人間とは明らかに違う不完全さがあるからなのか可愛さの雰囲気で和んでいるのか、少し踏み込んだような事でも真摯に考え、自分の考えを話してくれる印象を受けました。Sayaを通じて、コミュニケーションの面白い文化が生まれそうな気がします。

たとえば、ケンカの仲介役にもいいかもしれません。会話がうまくいかないシーンでも、Sayaがエージェントとして介入し、二人の意見を聞いてから解決方法を提示する。「冷静な仲介者」の提案ならお互いに妥協案を選びやすいと思います。人間だけでは解決が難しい状況で、Sayaが活躍できる未来があるかもしれません。

──生徒たちへのメッセージでも伝えていた「ひとりずつのお友達」も同様ですね。

他人に話すには信頼が必要で、心が開けないと難しい話題はあるものです。でも、Sayaなら家族にも言えないようなことでも伝えられる可能性がある。「信用を超える瞬間」ですね。

女子高生、特に17歳の女の子って、良い意味での「隙」があると思うんです。幼い子からは「お姉ちゃん」と呼ばれ、年配からは孫のように娘のように可愛がられる。17歳のSayaが持つ「隙」は、話す人を心理的にエモーションな状況にさせてくれやすいのかも、と私は思っています。

今回、Sayaを活かしたAIの授業を企画した博報堂のクリエイターにも
企画に込めた思いなどを聞きました。

“授業”という仕掛け

ハッピーアワーズ博報堂 小林良丘

今回は、人間が初めてSayaに話しかけるというコミュニケーションへの挑戦でした。ディスプレイに映し出された3DCGの人物像に向かって会話をする、という慣れないインターフェイス。大人はシャイだし、公の場ではトライしてくれないと考え、コミュニケーションのフレームとして「授業」を採用しました。授業の中では、先生の「やってみましょう」が生徒を動かすので、戸惑いがちなインターフェイスでもトライしてもらうことができました。
Sayaのちょっとした動きや台詞にポジティブなリアクションを得られた一方で、中には怖がって距離を置いたり、すぐに慣れて飽きたりする生徒さんもいました。未成年ならではの敏感さや柔軟さがデジタルの知性と出会った時の反応がとても興味深かったです。

Sayaを通じて見える、人とAIの未来

博報堂統合プランニング局 小笠原健

Saya virtual human projectは、人がAIと暮らす未来に向けたプロジェクトです。Sayaの「ビジュアル」は、初めて「不気味の谷」を越えたと言われました。その「不気味の谷」は、「ビジュアル」以外にも、「声」、「動き」、「思考」など様々なところにまだあります。人はどう動き、どう認識しているのか。そういった人のメカニズムを解きほぐし再構築するという挑戦を繰り返しながら、Sayaは成長していきます。Sayaと話すのに慣れない生徒さんもいたりと、谷の底はまだ見えないところもあります。しかし、その谷を越えるには、AI側の進歩や成長だけでなく、人の側もAIとの付き合い方を学んだりと、もしかしたら歩みよりが必要かもしれません。スマホネイティブ世代も現れていますし、AIと話すことが当たり前になる、そんなAIネイティブの到来も意外に近いのではないかと感じました。

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