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【博報堂コンサルティングの事業変革コラム】
なぜ事業変革が進まないのか?社内コンテストを成功させる本当の秘訣とは

2019.12.18
#グループ会社#ブランディング
博報堂グループのコンサルティングファーム、博報堂コンサルティングのコンサルタントが、激変する市場環境で複雑化する経営課題・事業課題を読み解き、企業のさらなる成長に向けた事業変革のポイントを解説します。

事業変革やイノベーションを掲げる企業の多くは、新規事業コンテスト、アイデアソンやハッカソンなど、社内アイデアコンテストの実施を考えたことがあるのではないでしょうか。起案のためはもとより、手を挙げる人材を発掘するという意味でも、この取り組みは有効といわれ、実際に広く取り入れられています。

一方で、実施にはかなりの手間やコストがかかる割に、参加者が少ない、年々応募が減っていってしまう、新鮮味が薄れたといったことから、いつの間にか形式的になってしまうことが多くあります。

実は、社内からアイデアを募る「コンテスト」を進める上で、見落としてはならない心理学的に重要なポイントがあります。
ここでは、そのポイントと「コンテスト」を成功させるメカニズムをご紹介します。このメカニズムは、社内コンテストのみならず、人材を獲得する/活性化するといったHRブランディングに向けた取り組みにもつながりうるため、その参考にもしていただければと思います。

1.「コンテスト」の成否を分けるポイントは、参加の動機

事業変革を行うには、社会や業界が変革するなかで、社員・メンバーに会社などの組織のビジョンへの共感を促し、それを担う人材のモチベーションを上げることが必須です。そのために社内アイデアコンテストなどが行われますが、重要なのは、このモチベーションとは何かということです。

モチベーションは、「取り組みになぜ参加するのか」という動機です。社内コンテストなどを行うことで、その場でのアイデア創出やビジョンへの共感が得られたとしても、社員・メンバー一人ひとりがそこに「参加する動機」のベクトルと、「その取り組みの結果、会社が、社会がどうなるのか」というベクトルが一致していないと、それはただの一過性の共感やイベントで終わってしまいます。

つまり、コンテストの主催側の狙いが「儲かる事業の開発」だとしても、参加者側は「儲かる事業の起案」を通じた異なる動機によって参加していることを読み外しているのです。

では、コンテストに参加する「動機」はいかなるものなのでしょうか?

2.適切な動機付けとは一体何なのか?

もちろん、すべての人の動機をわずか数種類に類型化することは乱暴であることは承知の上で、弊社の経験則とそして心理学的側面から定義します。

動機の裏側には、必ず欲求がある。皆さんも聞いたことがあるであろうアメリカの心理学者アブラハム・マズローによって提唱された「欲求段階説」は、この人間の欲求を階層化したものです。「欲求段階説」によると、人間の欲求は「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」という5段階のピラミッド階層になっています。そして、人は低位層の欲求を満たすと、より高次の階層の欲求を満たすことを目指すといわれ、この考え方は、組織心理学において、従業員の動機付けの説明として多く用いられています。

この説に基づき、従業員の就業動機を階層化して示したのが下記の図です(図1)。

図1:マズロー欲求段階説を就業動機へと読み替え

最下層にあたる「生理的欲求」とは生存に関わる欲求のことで、最も根本的な欲求です。これを就業の動機として捉えなおすと、基本的な待遇を保証されることが大切になります。例えば固定給がきちんともらえるとか、あちこち転勤させられないとか、生活の安定につながる要素です。次に「安全の欲求」は、この会社などの組織が潰れることなく存続するかとか、組織のなかで自分の居場所があり続けるか、というようなことで、「生理的欲求」と並ぶ根本的な欲求とされています。3番目の階層である「所属と愛の欲求」は、会社などの「組織への帰属意識」や愛着を持てるかどうかであり、4番目の「承認の欲求」は、自分の実績が評価されたり認められたりすることです。そして、最上位層である「自己実現の欲求」は、その会社などの組織において「自分の望むキャリアの実現」ができるかどうか、と捉えることができます。

このように、欲求の段階は人それぞれに異なり、その人の欲求がどの段階のものかによって、取り組みへの動機となる要素も異なります。そのため、対象となる人の欲求の段階に合った適切な動機付けを行う必要があるのです。

では応募者は、スタッフでも専門職でも、はたまたマネジメントであってもその動機は同じなのでしょうか?

3.応募者に合わせた適切な動機付けの構造と設計の方法とは?

これを、社内コンテストなどの活動への参加動機に置き換えて見てみましょう。以下は、実際に行った調査の結果です(図2)。

図2:従業員の活動参加・継続動機の差異(博報堂コンサルティング調べ)

ここで特徴的なのが、「活動に参加する時の動機」と「活動に参加し続ける動機」では内容が少し異なってくるということです。最初は待遇など職の安定につながる要素が満たされていれば満足だったのが、参加し続けているうちに欲求の階層が上がり、その欲求が満たされないとモチベーションが上がらず辞めてしまったりします。

さらに、従業員といっても、事務・スタッフ系なのか営業・専門職やマネジメント層なのかによって大きく2種類に分けることができますが、細かく見ていくとここでも違いがあることがわかります。まず専門・マネジメント層は、活動への参加の時点で、待遇の良さなどの生理的欲求や安全の欲求に加えて、大手企業と関われるかとか最先端のものに携われるか、ということを見ています。これは第3階層である所属と愛の欲求にあたるものです。そしてその後、活動に参加し続けるうちに、欲求がより高い階層へと移り「評価されない」「横のつながりやネットワークがない」といったことが不満となってきます。

一方でスタッフ層は、最初は給与や待遇などで参加を決めますが、次第に欲求が第3階層まで達し「案件が回ってこない」「必要とされていない」「連絡がきちんと来ない」など、活動の場や職場において自分の居場所がないことを嫌がるようになります。

つまり、スタッフ層にとって大切なのは、この会社などの組織に所属するスタッフとして安定していることであり、スタッフとしてきちんと「見られている」ことなのです。だから、活動に参加することで仕事が大変になるとか給料以上の仕事をさせられるとなると、参加を嫌がります。そして、参加したとしてもそのなかで必要とされていなかったり、参加したために他の仕事が回ってこなくなったり、失敗したら外されるようなことがあると、続いていきません。

同様に、専門・マネジメント層が大事にするのは、会社などの組織や社会における自分の評価やポジションです。もちろん最初は生理的欲求や安全の欲求も求めるが、それだけでなく、それが大きな案件かどうかとか、先進的な内容であるか、社会的ポジションがとれるかということが必要になります。そして、そこに参加し続けていくには、同じような志向を持つ人間と良いネットワークを築けたり、社内外から注目され評価を得られたりすることが強い動機になるのです。

このように、「活動参加時」と「活動継続時」という時系列での欲求の変化だけでなく、参加者がどの職種の人間なのかによっても、軸がずれてきます(図3)。この構造を理解した上で、それぞれに響く動機付けを設計することが大切です。

図3:従業員の就業動機構造と職種

4.個人の動機をふまえた仕掛け事例

ここまで見てきたように、取り組みへの動機とひとことで言っても、その内容はまちまちです。そのなかで、どの部分を捉えて動機付けするかによって、結果に大きな違いが生まれます。だからこそ、個人個人の「参加の動機」と「継続する動機」をそれぞれの層に対して読み分けて、きちんと仕組み化して仕掛けていく必要があるのです。

例えば、社員・メンバー全員を対象とした社内コンテストを行う場合、まず「どこにいてもあなたは仲間ですよ」というメッセージがとても大切になります。それを証明するためには、特定の部門にだけ連絡がいかなかったり遅れたり、自分にだけ連絡が届かないということはあってはなりません。階層の上下も地域の差もなく、全員が均等であるための1to1コミュニケーションを徹底しなければなりません。それができて初めて次のステップに進めるのです。

また、有効なのが横のつながりです。例えば、アイデアが公開され、様々な階層の人からコメントフィードバックがもらえることが、組織的な承認欲求を満たすことにつながり、またそれが参加および活動の継続動機につながっていきます。

一方、専門職やマネジメント層を対象とした取り組みの場合は、「社会的にどう見られるのか」とか「これをやることで、これまでよりも横のつながりやネットワークが広がっていくのか」「社内外の評価が高まるのか」といったことに対する仕組みを用意することも必要です。

このほかにも、様々な対象者が、それぞれに合わせた個人の動機を持っています。その違いを踏まえた上で、仕組みづくりをするのです。

事業変革を目指して社内コンテストを行い、会社などの組織の掲げるビジョンへの共感を得るのは大切なことです。しかし、いくらそのビジョンが素晴らしく社員・メンバーが共感したからといって、それにいつまでも共感し続けることは難しい。だから、そこで取り組むべきことはポスターや広告を打つことでも賞金を豪華にすることでもなく、コンテストのような取り組みに「参加しよう」「活動・取り組みを続けよう」と思わせるための、個人の欲求に合わせた進め方と仕組みづくりです。

コンテストそのものが会社の将来につながるものだとして、その活動の参加で得られることこそが、参加者にとっての取り組みへの動機につながります。

主催者であるトップやマネジメントから見れば、経営ゴールや事業目的を実現する「途中経過で得られるもの」に見えるでしょうが、実はそれがモチベーションの源泉であり、その動機が満たされる延長線上に本来の目的の実現があるという構造が大切なのです。

5.採用や人事への活用

最後に、採用ブランディングや離職防止との関連性について触れておきます。

もうお気づきかと思いますが、ここまで述べてきた動機付けのメカニズムは、そのまま採用強化と離職防止に応用することができます。つまり、社内コンテストへの参加の動機付けは、そのまま「この会社/組織に入りたい」という動機付け、すなわち採用ブランディングにつながり、活動に参加し続ける動機付けは、「この会社/組織に居続けたい」という離職防止や会社などの組織の価値を社内に浸透させるインターナルブランディングにつながります。

いずれにしても、会社などの組織の向かう方向性と、個人の取り組みへの動機をすり合わせていくことが成功の秘訣なのです。

≫博報堂コンサルティング Webサイト
https://www.hakuhodo-consulting.co.jp/

株式会社博報堂コンサルティング パートナー
清水 慶尚

東京工業大学工学部卒、同大学大学院物理情報工学科修了。視覚およびバーチャルリアリティの研究を行う。
グローバル監査法人グループのコンサルティングファームにて、小売、製造・流通業、ホテルや外資消費財の日本マーケットインのリサーチおよび事業戦略立案から、管理会計・原価計算制度設計、業務設計、システム導入まで上流から経営基盤整備までのプロジェクトに従事。その後、ライフスタイル提案企業の経営戦略室室長および新規事業部長として、ブランドマーケティングから経営基盤構築などのビジネスモデル改革、新規事業立上げなど事業ポートフォリオ革新に携わり、国内大手ライフスタイル企業への売却を実現。のちにベンチャー2社を創業したのち、現職。
主に、ブランドをレバレッジしたBtoB事業戦略構築/マーケティング実行支援と新規事業開発/新製品ローンチ等に従事。BtoB領域では、ICT、医薬品(創薬)メーカーに、またBtoC領域では飲料メーカー、サービス業におけるマーケティング、流通戦略を中心としたサービスを提供している。

■株式会社博報堂コンサルティング
「トップラインの成長支援に特化したコンサルティングファーム」として独自ポジションを築く。特に経営革新、事業変革を実行支援する「実践型ブランディングアプローチ」に秀でたプロフェッショナル集団が在籍・活動している。直近のプロジェクトテーマは「人事・人材開発の機能改革」「イノベーション事業開発」「コーポレートブランド経営革新」「マーケティング業務のデジタル革新」がホットイシューにある。2001年4月設立。東京、大阪、シンガポールで事業を展開している。

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