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【別解が生まれた瞬間 #1】別解は、未来に新しい選択肢を提示する。クリエイティブディレクター近山知史「COGY(コギー)」プロジェクト

2019.07.25
博報堂のクリエイティビティには、「別解」を生み出す力がある、と考えます。論理的にたどり着く「正解」では解決できない課題が増え続ける社会において、常識を打ち破る「別解」で課題を突破し、新しい価値を生み出していく。すでにさまざまな別解の芽が生まれ、未来を切り拓く挑戦が始まっています。
このインタビューシリーズでは、クリエイティビティで別解を生み出し、その社会実装に取り組む社員たちに「別解が生まれた瞬間」を尋ねていきます。第1回は「COGY」プロジェクトを担当した近山知史です。

車いす業界のAppleを目指して

――近山さんが「COGY(コギー)」プロジェクトに参加したきっかけは?

近山
COGYは、脳卒中などで半身が麻痺した方、脊髄損傷などで歩行が困難な方でも、取りつけられたペダルによって、足を動かすきっかけを生み出す車いすです。仙台を拠点とするTESS社が開発・販売している製品で、僕たちはこのペダル付き車いすのブランディングと世の中に広めるためのプランニングをサポートしています。

2016年に、当時の同僚から「すごく面白いプロダクトを作ってる会社を見つけたんですよ。一緒に会いに行きませんか?」と声をかけてもらったのが始まりです。最初に、その同僚から「足が動かない方でも漕げる車いす」の話を聞いたときは、内心「そんなものあるの?」という思いもあったんです。しかし実際に目にして、販売しているTESS社の鈴木堅之社長の話もお聞きして、これは画期的な製品だと確信しました。「車いすにのる=足は動かさない」という社会の認識をくつがえす可能性のあるものだと。

――COGY、一度聞いたら忘れられない名前ですね。

近山
もともとこの車いすは、開発者である東北大学の半田康延教授の名にちなんで「Profhand(プロファンド)」という名前がついていたんですが、世界中で使ってもらいたいから、世界中の誰もが分かる名前にしようということで、日本語の「ペダルを漕ぐ」という動作を連想させ、海外の方でも発音しやすい「COGY(コギー)」というネーミングを付けて、あらためてローンチしました。

ただ、COGYは購入価格が30万円台と、ほぼ電動車いすが買えてしまう価格帯です。それでもあえてCOGYを選ぶ理由を作ることこそが、このプロジェクトのキーになってくるだろうと考えました。そこで、僕がクリエイティブディレクターとしてチームに示したのは、「車いす業界におけるAppleになる」という方向性です。iPhoneの発売によって、携帯電話というカテゴリーに全く新たなジャンルが生まれたように、僕たちも車いすユーザーにまったく新しい選択肢を提示したいと考えました。「車いすか、COGYか」という選択肢を作ろうと。その結果生まれたのが、「あきらめない人の車いす」というコンセプトです。

――「あきらめない人の車いす」。感情にストレートに訴えるコンセプトという印象を持ちました。

近山
「自分の力で足を動かしたいという思いのある方には、この車いすを選んでほしい」という意味ですが、当然反発を受けることも予想していました。だったら普通の車いすに乗っている人は諦めているということなのか?と言われてしまうかもしれないなと。それにCOGYでも、両足が完全に麻痺した方や関節がかたまって動かなくなった方など、足の状態によって漕ぐことができない場合もあります。色々な立場の方の気持ちを想像すると、このコピーを世に出すことに躊躇する気持ちもありました。

でも最終的には、たとえ賛否が分かれたとしても社会に一石を投じる挑戦をしようと判断しました。正解かどうかわからないけど、いま世の中にないものを出してみようと。鈴木社長も、プロジェクトメンバーの皆も、全員が賛成して後押ししてくれたのですが、あのとき少しでも僕や誰かに迷う心があれば、もっと当たり障りのないコピーになっていただろうと思います。

「新しい選択肢」を世の中に提示するという勇気

――なぜ、そこまでチャレンジングなアプローチに踏み切れたのでしょうか?

近山
やはり製品が素晴らしかったからです。僕も試乗したのですが、足をペダルに置いてわずかな力をかけるだけでペダルが前に出て、一度弾みがつくとそのままスイスイ動き出す、本当に魔法のようなものなんです。仕組みは東北大学の研究によるものなのですが、実にシンプルで、人に本来的に備わっている脊髄反射、右足が出たきっかけで左足が出ようとする反射を応用しています。さらに、COGYに乗って足を動かすことによって、人とのコミュニケーションなど日常生活が改善したという例もあります。フィジカルとメンタルはつながっていますから。COGYは、人間の色々な力を引き出すポテンシャルのある製品だと感じています。

そして、鈴木社長に伺った話に心が動かされました。足が動かせなくなった直後は誰もがリハビリを頑張ろうと思うけれど、回復が見えないと、やる気を失ってしまう。でも、多くの方がずっと後になって、「あの時もっとリハビリを頑張っておけばよかった」と思うのだそうです。鈴木社長は、この2つのタイミングの間にCOGYを位置づけたいと語られていました。そんなこと聞いちゃったら、もう頑張るしかないですよね。
僕、いまでもCOGYの話をすると胸が熱くなって涙が出てくるんですよ。

――初めてCOGYに乗った方たちの様子を映したドキュメンタリームービーも、公開から1~2週間で100万回以上再生され話題になりました。

近山
この撮影中にも、COGYをめぐる様々な出会いや気づきがありました。参加して頂いたある男性は足を動かせる喜びに感動されて、収録後すぐ実機を購入して今ではSNSを通してCOGYを普及する活動をされています。一方、撮影時にCOGYを一番うまく乗りこなしていた女性からは、「こういう製品もいいと思うけれど、私にとってはふだん使っている手で動かす車いすが自分の足になっているので、それ以上のものは今は必要ありません」という意見を頂きました。

当たり前のことですが、足の不自由な方の中にも、それぞれ違った考え方や価値観があります。COGYを体験した方は、「楽しい」と言って下さることが多いのですが、楽しいからといって、すべての人がそれを実際に使ったり買ったりするわけではない。僕たちはつい、あるユーザーを想定して理想のストーリーを構想しがちですが、そもそもユーザーひとりひとりが多様なストーリーや、多様な価値観を持っているということを再確認しましたね。

体験して下さった方は「乗る前は、ぜったい無理だと思った」「でも乗ったら楽しくてめちゃくちゃ気持ちよかった」

――ドキュメンタリームービーの発表後、印象的だった世の中の反応はありますか?

近山
「うちのおばあちゃんは今こういう状態なのだけど、COGYは使えるのだろうか?」というような、車いすを使う当事者以外の、家族やサポーターからの問い合わせが多かったことです。ムービーの中でも本人だけでなく付き添いの方もCOGYに驚いたり、感激されたりする様子が記録されています。当事者の周りの人にも知ってもらわなければいけないんですよね。よくよく考えれば当たり前のことですが、これも発見でした。
先ほどお話ししたように、COGYを世の中に打ち出すことはセンシティブな面もあり、施策について悩むことも多かったのですが、勇気を持ってこの新しい選択肢を世の中に打ち出していこうと前に進めました。

別解に終わりはない

――COGYプロジェクトにおいて、別解が生まれた瞬間はどこだったのでしょうか?

近山
今回に関して言うと、「あきらめない人の車いす」というコンセプトが生まれたシーンは一つのタイミングになると思いますが、このコンセプト自体にはかなり初期の段階で思い至りました。もともとTESS社ではCOGYを「足こぎ車いす」というフレーズで説明されていて、はっきり言って、これ以上に分かりやすい商品説明ってないんですよ。でも僕たちの仕事は、「すごい車いすができた。でも、このすごさをなかなか分かってもらえない」というところに貢献することです。これ以上の正解がない中で、それこそ別解的なアイデアが必要だと思いました。

別解が生まれたまさにその“瞬間”を挙げるのであれば、最初にCOGYの話を聞いた際かもしれません。「そんな車いすが本当にあるの?」という半信半疑な気持ちもはらみながら、ワクワクする感覚がありました。

――確かにCOGYのプロジェクトは、何か新しいことが始まりそうというか、未来の社会においては一般的になっていそうなものを世の中に登場させる原型をつくったプロジェクトという感じがします。

近山
それがおそらくパイオニアになるってことなんだと思います。みんなが共感できる「いずれ社会はこうなる」というモデルを提示できれば、人は興味を持って集まってきて、当事者になって関わってくれたりするんですよね。僕がこれまで携わった中だと、認知症を抱える方々が料理店の店員となってサービスをする「注文をまちがえる料理店」(2017年~)もいずれやってくる社会に向けて新しいモデルを提示するプロジェクトですが、このモデルに賛同してくれた人たちの手によって、いま日本中でどんどん広がっています。今後もこういった先駆的な試みに挑戦し続けたいと思っています。

――最後に、近山さんにとって別解とは?

近山
「別解に終わりはない」と言えるだろうなと。多分、別解にも別解があって、そのまた別解がある。常に考え続け、これがベストではない、もっと別解があると常に考え続けることが、携わるプロジェクトや自分自身にとっても成長につながるのではないかと思います。僕の尊敬する先輩クリエイターを見ていても、本当にすごい人ってA案、B案、C案と考えて、結果的にA案が大ヒットして「よかったですね!」と言っても、「いや、やっぱりC案だったかも…」と考え続けてるような感じなんです。別解は、哲学にも近いように思います。
世界が目まぐるしい勢いで変化している今、そうやって別解を考えることもスピード感をもって進めていかないと、世界は良くなっていかないと思います。もちろん、長く続いているブランドのキャンペーンや、普遍的でコアな価値観を捉えたプロジェクトは非常に価値のあるものですが、それらにすら別解があるのではないか、と考え続けたいですし、従来にない新しい別解を出すことに恐れないでいたいですね。

「COGY」あきらめない人の車いす WEBサイト:https://cogycogy.com/

プロフィール

近山知史(ちかやまさとし)
TBWA\HAKUHODOエグゼクティブ・クリエイティブディレクター。CMプラナーとして数多くのナショナルクライアントを歴任した後、TBWA\CHIAT\DAYでの海外実務経験を経て現職。現在はグローバルクライアントの戦略立案、認知症理解の支援、AKB48のMV制作など、幅広い領域で活躍。2015年クリエイター・オブ・ザ・イヤー・メダリスト。2016年Campaign Asia Pacific誌クリエイティブ・オブ・ザ・イヤー。直近では2019年カンヌライオンズシルバー受賞。

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