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ゆるい『部活型』プロジェクトが、イノベーションを加速させる。

2018.12.12
IoTやSNS、コミュニティ形成分野など、おおよそ広告という枠を大きく逸脱したジャンルで多くの成果を生み出し続けている“スダラボ”。開発型の発想そのものを、純度高く社会に提供していく姿勢はクライアントからの評価も高い。「仕事場に“部活”がないのはなぜだろう?」から発想したという須田和博にスダラボの運営のポイントと、アイデア開発のビッグヒントを語ってもらった。

ゆるすぎず、縛りすぎない仕事における部活動

──スダラボは、独特な社内プロジェクトですが、設立のきっかけをおきかせください。

須田 僕たちは、スダラボを“部活”と称しています。一応、プロジェクトと呼ばれるもので、正式な組織ではないです。僕は中学の時は剣道部、高校では美術部と映画研究同好会に入っていましたが、もし当時、学校が授業だけだったら随分とつまらない学生生活だったろうと思います。社会人になって会社という組織に入ると、日々の業務だけが目の前にあります。最初は仕事を覚えるだけで精一杯ですが、長年、仕事をやってきて、ある時ふと、なぜ会社には仕事以外のものがないんだろう?と思いました。仕事の中にも部活的な取り組みがあった方がモチベーションが上がるんじゃないかと思ったのが“スダラボ”の原点です。高校の時、部活と同好会に在籍していたことが、その後の僕の人生に決定的な影響を与えたのは確かなので、仕事にもそういう場があった方が、先々の人材育成に良いのではないかと思ったのです。

──いわゆる本業でもなく、趣味とか気分転換でもない“部活動”ということですか?

須田 もちろん会社にはラグビー部や書道部など、いわゆる福利厚生的なクラブはありますが、そういうものではなく、自分たちが欲しているスキルや、仕事としてやりたいことに極めて近く、かつ自主的に行うもの。そういうモチベーションの源泉になりえる、部活のような自主活動が、仕事の現場にもあった方 がいいと思いました。Googleの有名な「20%ルール」とか、多くの会社で似たような制度を持っている所もありますが、自分たちには“部活”という言い方が一番しっくり来ると思いました。実際のスダラボの活動は放課後ではなく、水曜日の午後に2時間の定例会を定めています。議題があってもなくても、とにかくその時間は集まろうと決めていて、出張土産のお菓子を食べながら無駄話だけで終わってしまう日もありますが、まさにそれも含めて部室でダベっているような感覚。そういう時間も大事なんじゃないかと。

キーワードは「最古×最新」。 新しいものと古いものの組み合わせで「新しい普遍」を生む。

──実際にスダラボでのプロジェクトはどのように進めていくのですか?

須田 常にテクノロジー・パートナーは、外部に求めます。僕らはプランナー集団なので、エンジニアリングは外部と組みます。様々なテクノロジー・シーズを元に、僕たちが「文脈」と呼んでいるコンテクストの意味づけを行って「広告の新しい形」にして、まずスピーディーに世に出す、ということを基本的にやっています。「広告」という立ち位置だけは絶対にずらさないようにしていますが、ここで言う「広告」とは、一般的には「コミュニケーション」と言われるようなものなので、僕らが「広告です」と言っても、見る人には「ソレって広告なの?」と言われることも多いです。だから、いつも「広告の未来の形のプロトタイプです」と説明しています。扱う領域は多岐にわたりますが、「広告」という芯だけはブレないようにした上で、自由に発想しています。部活といっても、勤務時間中にやっている「広告制作者の部活」ですから。

──その際にどのような発想で新しい広告に取り組まれるのでしょう?

須田 最新テクノロジーにアイデアを注入していく時に重要なキーワードが、「最古×最新」です。人間にとって一番古いものと、一番新しいものの掛け算。たとえば「RICE CODE」というプロジェクトは、“田んぼ”という人間の昔からの営みを、最新技術でそのままメディアにしてみようという発想でした。“画像認証”というテクノロジーによって、“田んぼ”を直接、売り場にするというトライアル。また最新作の「風神雷神図屛風」のプロジェクトでは、ミックスド・リアリティの「ホロレンズ」によって、国宝である260年前の俵屋宗達の絵画が生き生きと三次元空間に飛び出してきます。スダラボのプロジェクトは、どれもシンプルな発想で、言うなれば「ベタなネタ」ですが、誰でもわかるものに、誰もまだ知らない技術を掛け算すると、誰もが理解できて、誰もまだ見たことがないものになるはずだ、という考え方がスダラボの発想の根本にあります。

──確かに最新発想のプロジェクトですが、最古つまり人間本来の営みみたいなものが重要なわけですね。

須田 そうです。僕が過去に広告の仕事として開発したものに、「赤ちゃんが泣きやむ動画」というのがあります。赤ちゃんに泣きやんで欲しいという思いは、お母さんにとっての最古からの悩みだったわけですが、その最古の悩みに対して、「定位反射現象」を起こす音響という最新の科学的知見を掛け算した結果でした。また仕事における他の例では、水分補給飲料で実施した、インターハイの全競技・全試合を生中継する「メディアの形をしたプロモーション」があります。部活の晴れ舞台を見て欲しいと思う高校生の普遍的な気持ちと、モバイル動画配信というネットによって可能になったシステムによって、実現したプロジェクトでした。それまでは、インターハイの試合は会場に行く以外、見る手立てがなかったんです。それをどこからでも観戦でき、応援できるようにした。これは、企画した時点では出来る保証はなかったんですが「こういうのがあった方が絶対いいよね」という素直な気持ちを出発点に、多くのスタッフの努力で実現できたものです。この2つの例は共に、価値観や悩みは昔からのもので、解決策を実現する手立てが最新のものだ、ということ。この組み合わせこそが、大事だと思っています。

イノベーションに一番大切な『とりあえず、やってみよう』精神

──その部活的なスダラボのようなイノベーションを目指している企業は多いと思うのですが、うまく運営するコツはあるんですか?

須田 僕自身が一番大事にしているのは“居心地の良さ”、つまり“嫌じゃない場”であることです。自主活動によって仕事へのモチベーションを上げることが、始めた時の目的ですから、無理強いはしないし、できない。自主だから成果のノルマもないけど、それでもグダグダにならずにすんでるのは、サブリーダーの鷹觜さんはじめ、ミドルリーダーの江口くん・志水さんたちメンバーがみんな自発的に動いてくれるから。どのプロジェクトも毎回すべてが新領域のアジャイルで、やり方が確立していないから常に手探りなせいもありますが、僕のスケジュール管理の甘いところも、スタッフへの分業指示のズサンなところも、すべて自発的にサポートしてくれます。みんながこの場で自発的に「面白さ」を追求していく、チームそのものが“ティール”であり“ボトムアップ”なところが、スダラボの活動の最大の特徴だと思います。
日本の名だたる企業でイノベーションを起こせ!起こせ!と、特別に組織を作り、旗を振っているけれど、なかなか思うようにいかないのはなぜかといえば、それは「とりあえず、やってみたら?」という“いいかげんさ”を良しとしない空気があるからだと思います。スダラボは、とりあえず「思いついたら、やってみる!」ことを最初期から最重要なミッションに掲げています。こういう技術やネタが使えるらしいよ?へー、じゃあこうしたら面白いね!どうしたらスグできるかな?誰々さんに聞いてみよう!というような軽いフットワークでいつもやっている。やってみて、作ってみて、実施の現場に立ってみて、お客さんの反応を観察していると、“ここだ!”っていうポイントが必ず見つかります。ここがこの企画のポイントなんだ!っていうのを、実施の最中にプランナーの目で見つけるんです。これは普段の現業ではありえないことです。現業だったら企画する前に、企画のポイントをわかってなきゃいけないから(笑)。でも、今の時代、新しいことをやろうと思ったら、わかってからじゃ遅いんです。まず、思いついたら、やってみる。やる中で、コツを見つける。見つけたら、次にそのコツを応用して、さらに良く発展させる。この繰りかえしこそが、最重要ですね。

──ある程度の“ゆるさ”みたいなものが必要だということですね。

須田 ゆるく始めて、進めていく中で見つける。多分、イノベーションをしたくても、なかなか出来ない企業というのは、キチンと計画してイノベーションをやろうとしているんだと思います。イノベーションって、そもそも、起こそうとして起こせるようなものじゃないと思うんです。やってみたら、結果的にイノベーションになってた。それが実際だと思います。思いついて、やってみて、やる中で見つけて、気づいて、伸ばしていく。僕はスダラボは“わらしべ長者”だと、ある時期に気づきました。わら1本から始めて、アブを結び付けたら、ミカンに換えてもらえて、そうして転がって転がって、気がついたら世界的なIT企業から最新技術で何かやりませんか?という相談まで来る。最初にわかってたことなど、何もありません。何が何につながるか?なんて、まったくわかっていなかった。スティーブ・ジョブスが言う“コネクティング・ドッツ”です。どれもこれも、やってみたらこうなった、という連続の中で、ただ楽しくやること“ジャスト・フォー・ファン”で続けてきた。イノベーションを起こすのに一番大事なことは、まず、やってみること。そして、やってみる中で発見すること。だから、まずは、始められる規模でさっと始める。そして、一緒にやりますよって言ってくれる仲間やパートナーなど味方を増やす。あとは、アイデアを忘れないように、止 まらないように、定期的に集まること。大事なことは、そのくらいです。

──発想が広告の枠組みを超えてしまうこともあるんじゃないですか?

須田 僕たち広告制作者というのは、アイデアを考え、短くて強いキャッチフレーズを書き、わかりやすいビジュアルを作ります。それで興味を持ってもらえるように、面白い“ストーリーテリング”をして、映像にもできますよ、という仕事です。スダラボがやっていることも、本質的にはそれと同じなんですけど、スキルの使い方をちょっとだけ変えているという感覚です。つまり、かつては洗濯機や冷蔵庫を売りたい!というオリエンをもらったら、それをどう魅力的に見せることができるかアイデアを出して、ポスターやCMという形にしてた。今は、画像認識エンジンや顔認識APIで何かできないか?というお題に対して、じゃあこんな風に使ったら魅力的じゃないですか、というアイデアを出して、それを形にして見せる。実は、同じなんです。広告の普通の仕事と、使っているスキルも、やっている作業も、ほぼ同じなんですが、仕入れるものと、形にするものとが、今までとちょっと違う。そんな感じです。

“使わせる”でも“使える”でもなく、“使ってもらえる”ことにこそ価値がある

──スダラボのこの先の夢はどんな方向を向いていますか?

須田 今、集中して開発しようとしているのは、やはりミックスド・リアリティ。そして、その先にあるものを発見すること、でしょうか。僕たちは今、大きな歴史の変化の中にいると捉えています。19世紀まで「テキストの時代」があって、20世紀に「映像の時代」があって、21世紀、次は「体験の時代」が来る。空間を媒体にした三次元コンテンツを体験するのが当たり前の時代が到来するだろうと。AR、VR、MRと呼ばれている領域ですが、次世代はまさにMRの時代です。要は、TVやパソコンで見ていた情報を、スマホで見るようになり、次は何で見るんですか?っていったら“眼鏡”です。というより“視界そのもの”が一番ユーザーに近いスクリーンになる。今はまだ、ホロレンズは重いし、バッテリーも持たないですが、やがて軽くなり、電池も改善され、視界への投射方法も改良されれば、劇的に普及するプライマリー・スクリーンになる。その時、視界そのものがスクリーンになるという時代の「広告の形」っていうのを試したいなというのが、いま思ってることです。言うまでもないことですが、Googleも、Facebookも、LINEも、iPhoneも、すべて「広告という領域」に入るものです。これらのユーティリティやプラットフォームやサービスは、全部が広告で、広告の範疇はどんどん拡大している。今後、さらに拡大していく。視界がすべての人にとって一番身近な広告媒体になる。その視界に広告的な何かがバンバン出て来る。もし、それが嫌な広告だったら最悪ですよね。うっとうしいから眼鏡を捨てて、何も見ないって話になってしまう。そうじゃなくて、全視界媒体時代 に合った、生活者が喜んでくれる新しい「広告的な何か」を、なるべく早くプロトタイプして、そこでの企画のコツを見つけないといけないと思っています。視界の中が、嫌なバナーだらけになってしまったら絶対に嫌ですよね。“使ってもらえる”っていう概念が、自分にとってはものすごく重要で、“使わせる”でも“使える”でもなく、お客さんに“使いたい”と思ってもらえてこそ価値があるんです。この広告を見やがれ!って言っても、そんなの誰も見ない。スダラボのメンバーも、これをしやがれ!とか、イノベーションを起こしやがれ!じゃ誰も絶対にやらない。とにかく人間、嫌なものは、嫌なんです。みんながこんなにスマホを持つようになったのは、なぜなんだろうと考えます。ジョブスが世界中の人々にiPhone持ちやがれ!とは絶対に言ってないですもんね。ユーザーに自発的に「使ってもらえてこそ価値」なんです。そこだけは、絶対に忘れないようにしないといかんですね。そのためのヒントが「最古×最新」です。

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