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新エネルギー自動車普及の兆し【アジア生活者のリアル Vol.12 : 中国編】

2018.10.29
#グローバル#中国#生活総研
博報堂生活綜研(上海)は、株式会社博報堂の独資子会社として2012年に上海に設立された、中国の博報堂グループのシンクタンク組織です。日本で蓄積してきた生活者研究のノウハウを生かし、中国における企業のマーケティング活動をサポートしていくと同時に、これからの中国の新しい暮らしのあり方を、中国現地で洞察・提言しています。その活動の一つとして、中国の生活者の今についてレポートいたします。
今回は、博報堂生活綜研(上海) 総経理の鐘鳴(ショウ メイ)が、EV(電気自動車)が浸透していることが実感できるようになった大都市の様子をレポートしています。

中国では、スマホ決済、IoT家電に次ぐ、EV(電気自動車)は新たな消費トレンドとして浸透していることが日々実感できるようになりました。最近、北京や上海、広州の街中でも、EV専用の緑のナンバープレートが付いている車をよく見かけます。EV関連の報道やメーカーのイベント情報などもメディアで頻繁に報道され、一般生活者の日常的な話題にも上るようになっています。

9月12日、「中国版テスラ」と呼ばれる新興自動車メーカーのNIO(蔚来汽車)がニューヨーク市場に上場したニュースが業界にかなりのインパクトを与え、ホットな話題となっています。2014年に創業のスタートアップ企業NIOはテンセントからの出資も受けており、また中国政府からも世界のEV業界をリードするような存在になるとの期が寄せられているようです。NIOの創業者のウィリアム・リー(李斌)は、北京大学・社会学専攻卒の43歳で、彼は「中国のイーロン・マスク」と称されています。フォーブスの2018年版ビリオネアリストにも登場するほどで、今の中国ではBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)の創業者などに次ぐような有名人となっています。

BYDや北京汽車、上海汽車などの従来型の自動車メーカーに加え、IT技術の強みを発揮しながら近年はEV車の開発と販売に乗り出した新興勢力であるNIO(ニオ、蔚来汽車)、BYTON(バイトン、拜腾汽車)、Weltmeister(ウェイマー、威馬汽車)といった企業の動向は常に注目されていますが、まだ現車が発売されていないバイトン、ウェイマーに比べ、今年の6月から新社の納車が始まっているNIO(蔚来汽車)は、中国初の”ITプラットフォーマーが手掛けたEV”として、特に高い注目を集めているのです。

業界の動向もさることながら、一般自動車ユーザーにとっても今までの自動車生活と異なるEV化によって、生活環境は着実に変化しているとも言えます。例えば、この一年間でEV車の充電スタンドがいつの間にか、都市部の住宅地や商業施設の駐車場で急ピッチに増設されていることも特徴の一つです。生活綜研(上海)が入っているオフィスビル(長寧来福士広場)の地下駐車場のあるフロアでも、ある日から突然全てが充電可能なEV専用駐車スペースとなってしまいました。EV車以外はここに駐車できないと警備員に注意された時に、EVに乗っていない自分がもしかしたら時代遅れになっているとか、なんとなく肩見が狭いなとの印象さえ受けました。大手EVメーカーのイベント会場で人々が賑わっている様子を見ても、多くの生活者がEVに対して関心が高まっているなと実感できます。

NIO(蔚来汽車)上海ショールーム
CESアジア2018 BYTON(拜腾汽車)展示ブース

一方、新エネルギー自動車(HV、PHEV、EV)における外国ブランドと中国国産ブランドに対するイメージについて、生活綜研(上海)が先月に実施した調査結果から、今までの理解と少し違った発見がありました。
過去、ガソリン車カテゴリーにおいて、外国ブランドに対して中国国産ブランドが劣っていた認識がありましたが、今回の新エネルギー自動車に関する調査結果を見る限りでは、むしろ国産ブランドのほうがどの層でも高い支持率が出ていることは予想外でした。

データ:生活綜研(上海) ※スコアは4段階評価 TOP2(①非常に検討したい+②比較的検討したい)の合計値

中国の新エネルギー車市場の発展は、中国政府の政策指導によって大きく左右され、従来型の中国国産メーカーが少し先行しているとも言われています。その環境変化の中で、日系自動車メーカーの優位性は今後どのように確立していくべきかは、日系自動車メーカーにとってかなり重要な事業課題だと理解できます。一方、EV化によってユーザーの購買行動、使用習慣にも大きな変化が訪れていると考えられます。
従って、従来のガソリン車と異なって、新しい車価値観の出現によって、今まで例のない車マーケティングの方法論、コミュニケーション施策やアイディアがどんどん生まれてくるだろうと予測できます。

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<調査概要>
調査形式: ウェブアンケート(「愛調研」ネットパネル)
調査都市: 北京、上海、広州
サンプル数: 1440名(480/都市)
対象者年齢: 20~59歳
世帯収入: 7,000~29,999元

鐘 鳴(ショウ メイ)
博報堂生活綜研(上海) 主席研究員/総経理

1998年
博報堂C&Dにコピーライターとして入社
2002年
博報堂に転籍。マーケティングプラナーとして自動車、嗜好品、飲料、化粧品等幅広い業界のプラニングに携わる
2012年
博報堂生活綜研(上海)の設立と共に上海に赴任。各種研究、講演、ブランドコンサルティング業務などの領域で活動
2016年
博報堂生活綜研(上海) 総経理

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