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博報堂が取り組む、「SDGs コーポレートプログラム」とは

2018.10.18
#PR#SDGs#博報堂ブランド・イノベーションデザイン
企業のSDGsを組み入れた経営・事業推進をサポートする「SDGsコーポレートプログラム」が始動。担当する博報堂のブランド・イノベーションデザイン 兎洞武揚と原節子、PR戦略局コーポレートPR部 高橋啓一と島田圭介に、プログラム立ち上げの経緯や意図、今後の展望などについてうかがいました。

企業のSDGsの取り組みをサポートするため
ブランディング、PR、IRのプロが集結

兎洞
ご存じの方も多いと思いますがSDGsとは、2015年に国連で採択された、国際社会における2030年までの共通開発目標のことです。持続可能な開発を実現するために、貧困、消費と生産、生物多様性などについての具体的な方針が策定されていて、企業はその主要なプレイヤーとされています。企業活動を通じ経済的・社会的インパクトの両方の実現を達成できるように私たちがサポートしていきたいというのが、本プログラムの根底にある思いです。


近年、企業のコーポレートコミュニケーションやブランディングという点において、「顧客価値に加え、ひとつ上の社会価値を実現していけるか」がすごく問われているんですね。そこで2015年9月、SDGsの採択とほぼ時を同じくして私たちは有識者のプラットフォーム「OPEN 2030 PROJECT」を立ち上げました。その中で出てきたさまざまな意見から、博報堂のリソースをもっと活用すべきではないかと考えるに至り、ブランディングを専門とする博報堂ブランド・イノベーションデザインやPR戦略局、そして企業IRを専門とするグループ会社のエッジ・インターナショナル社の3者が中心となって進めてきた取り組みが形になったのが「SDGsコーポレートプログラム」なんです。

高橋
PR業界においても、昨今はいわゆる個別の商品をPRするのではなく、企業の総体、あるいは社長その人やドメインとする事業内容を主体とするコーポレートPRへのニーズが増加しているという実態があります。PR戦略局としてもそうしたニーズを受け、たとえば経営者が解決すべき中長期の課題に対しても、トップと同じような視座をもちつつPR技術を使ってお応えしていこうとしていたところ、兎洞さん、原さんに今回の話を聞く機会があった。我々も温暖化対策を謳ったプロジェクト「チーム・マイナス6%」などを経験していたこともあり、プログラムの主旨に共感し、是非一緒にやりましょう、ということになりました。


実際、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)に配慮した企業に向けての投資「ESG投資」が注目を集める中、企業としても、投資家や消費者、さまざまなステークホルダーに対し、SDGsのレンズを通して自分たちの活動を解説していくことが必須であるという認識が高まってきています。最近ではSDGsをバックボーンに中計を立て、事業活動や統合報告書に落とし込んでいくという一貫した流れも出てきている。そういう中で、私たちのもとにも、「新しいコーポレートコミュニケーションはどうあるべきか?」「グローバルなレピュテーションを高めるためにどんなブランディングをすべきか?」といったご相談が来ていたんです。

高橋
IRについても、クライアントの統合レポートなどを主に手掛けるエッジ・インターナショナル社に対し、単にレポートをつくるだけではなく、「シンボリックなアクションをつくりたい」とか「そのために社内啓発したい」といったオーダーが来ていた。そこで、だったら我々の持っている技術、ネットワークを一度集約させていこうという流れになったんです。

ESG投資の意義がますます高まる中、
博報堂の総合力で企業の統合コミュニケーションを実現する

兎洞
実際はさまざまなバリエーションがありますが、プロジェクトの進め方の一例を大まかにご説明しますね。まずはマネジメント層、中間管理職の方々を対象に有識者を招いての勉強会を行い、SDGsそのものや企業との関わりについて知識を深めていただきます。それから自社の企業活動とSDGsが掲げる17の目標がどのようにリンクしているか――それこそ調達、加工、製造、販売といったバリューチェーン全体で、環境や社会に対しどういったプラス・マイナスのインパクトを与えているかを社員の方々と一緒に見ていきます。当事者が見たくないような現実までも徹底して掘り下げる必要があるので、ここでは主にひざを突き合わせて真剣に議論できるワークショップ形式をとります。その上でどのようなアクションを取るのかを議論したうえで決定し、その内容を社内向け、アウター向けに発信することが次のステップとなります。

高橋
最後に求められるのがステークホルダーコミュニケーションとなる以上、インナーや投資家、あるいは取引先に対し、「我々はサプライチェーンのこんなところまでを見ていますよ」ということを可能な限りわかりやすく伝えていく必要があります。単に細かいデータを並べるのではなくて、たとえばキーメッセージをつくるだとか、映像をつくるだとか……トップマネジメントはここまで本気だということを、言葉と態度でしっかりと示していかなくてはならない。その際の見せ方、伝え方において、我々が持つPRのスキルや知見が非常に有効になってくるわけです。
さらに言うと、カンヌクリエイティブフェスティバルでも今年からSDGs部門ができたように、これから企業全体としての取り組みや思想をシンボリックに伝えるには、クリエイティブの力が欠かせなくなってくる。よりよい社会、世界をつくるための事業活動について、しっかりとフェアに世の中に伝えていくという点において、我々博報堂グループの全体力が大いに活かせるのではないかと考えています。

島田
投資という視点からこのプログラムの背景をもう少し詳しく説明します。まず、昨年7月から、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)という世界最大規模の年金運用機関がESG投資を始めたことのインパクトがかなり大きく、それによりESG投資が広く意識され始めるようになりました。当初SDGsの盛り上がりを受け、企業活動のごく一部のよい取り組みだけにスポットを当てることで“グリーンウォッシュ”などと批判されるケースもあったわけですが、昨年頃からは兎洞さんの話にあったような、本当にゼロベースで企業活動を見直し、悪いところを洗い出すという姿勢がきちんと評価され、その結果投資が集まるという流れが急速に早まってきているような印象を受けます。言い換えれば、企業側のマインドとしても、もはや本当の意味で持続可能な事業活動を行わなければESG投資を呼び込めない、資金調達ができなくなるという切迫感のようなものが広がり始めている。短期的な利益を追求した結果のリーマンショックのような失敗を繰り返さないためにも、本当の意味で世界の安定秩序を目指すべきだという国連や金融機関の大きな意向があり、そこに日本企業も沿っているという背景があるんです。

兎洞
そうですね。そうした背景がある中、企業の体質を改善していきながら、企業が社会と環境面でどんな取り組みを行い、その上できちんと利益を出しているのかを総合的に発信していけるようサポートするということが、私たちの本質的なミッションとなります。

日本企業はアピール下手!?
世界に誇れる事例を掘り起こしていきたい――


SDGsに関しては、毎年ニューヨークでハイレベル・ポリティカル・フォーラムという会が開催されていいます。そこで企業の事例が共有されれば、その企業にとってグローバルな評価を高めるチャンスにもなる。そういう機運だからこそ、この「SDGsコーポレートプログラム」が活きてくると思っています。

兎洞
確かにそうですね。正直なところ海外に比べて、日本企業のSDGsへの取り組みは遅々としてスタートしたところがある。一方でもったいないことに、環境・社会面においてきちんと企業活動として取り組まれているにも関わらず、それを発信しない日本企業も多いということです。たとえば調達基準などを驚くほどレベル高く設定しているにも関わらず、それをアピールすることはない。日本独特の奥ゆかしさがあるというか、「自分たちはやるべきことをやっているだけでいい」という姿勢の企業がまだまだ多いんです。その奥ゆかしさは、これまでの時代においては美徳であるとも考えられるかもですが、これからの時代においては、ESG投資を呼び込むという観点や、「いい社会をつくっていこうよ」と他企業や社会全体へ呼びかけるという意味においても、リーダー的企業の役割として積極的な発信が必要だと思いますし、それこそが大きな社会的変化を呼び起こしていく基点になると思うんですよね。

島田
GPIFの方も、日本企業の“開示しなさ”については時折言及されています。特に日本企業はESGのE、つまり環境面での取り組みがものすごく進んでいるにも関わらず、ことさらそれを主張しない。「海外だったら10やっていることをあたかも100やっているようにアピールするが、日本はたとえ100やっていても、10やっているようにしか言わない」と(苦笑)。そのあたりの、発信に関するリテラシーを高めることは、日本企業の一つの課題かもしれませんね。

高橋
我々も少しお手伝いした、外務省主催の「ジャパンSDGsアワード」という賞で表彰されたクライアントは、海外の特定の地域の社会課題を解決しながら、地元に雇用を呼び込み、サステナブルな仕組みを生み出している。世間的にはあまり知られていないかもしれないけれども、実はそんな風に世の中に誇れる事例はいくらでもあるような気がしていて、我々もそこをぜひ掘り起こしていきたいなと思っています。

丸ごとのお付き合いで
企業の血流にSDGsの思想を浸透させていけたら


企業にしてみても、IR、マーケティング、経営企画と、組織を横断して一気通貫でコミュニケーションを変えていこうとすることのハードルが結構高いことは確かです。ただ、明らかに今、流れが変わってきているので、大きなうねりが生まれる可能性はあると思っています。業界横断のオールジャパン企業で世界に発信していくということも可能かもしれません。

兎洞
本当にそうですよね。恐らくたくさんある“奥ゆかしい”日本企業が、じゃあ実際にどういう風に発信しようかとなったとき、たとえば中計とか統合報告書のような投資家向けだけではなくて、企業広告や広報をどうしていこうかという視点もあるだろうし、生活者を啓発していくような戦略的なエシカルマーケティングといった視点も必要になってくると考えています。そういう場面で、パートナーとして頼りにしていただけるような関係性が築けたらいいと思います。
たとえば若い世代にとってエシカル消費についての関心は高いですし、ファッションとか“もったいない”思想とか、安心安全とか……環境が入り口ではなくてもインサイトはいろいろとありますよね。
経済と社会インパクトの双方を大事にする時代に入った今、私たちの役割は、対処療法の薬を処方するのではなく、体質改善のアドバイスをするお医者さんのようなイメージかもしれない。食生活をこう見直してみましょう、次はヨガをやってみましょうか、あるいは漢方だったらこう……という感じで。丸ごとのお付き合いをしていけたらと思います。

高橋
消費税が上がり、G20があり、その後はオリンピックを控えている。来年、再来年と、これから日本のビジネスは変化の局面を迎えます。世界へ向けて日本企業の良い取り組みを発信するためにも、今のうちに仕込みを始めておくべきだということを主張したいですね。SDGsを活用した、中長期的な取り組みをスタートさせるタイミングにまさにいま来ていると思います。


これからは企業コミュニケーションだけではなく、事業活動からマーケティング活動、商品のブランド価値まで、すべてを見直していかなくてはならないのかもしれません。そういう意味でも企業の血流に自然にその思想が浸透するような形でなければならない。私たちもパートナーとして、その思想の部分から一緒につくっていけたら、と思います。

兎洞 武揚

博報堂ブランド・イノベーションデザイン 副代表

1992年博報堂入社、マーケティング業務に携わる。2002年より、博報堂ブランドデザインにおいて、ビジョンの自分事化や組織の関係の質を高めるインターナルな組織開発の実践を担う。企業の今後の在り方として、経済インパクトと社会インパクトの双方を創出する進化に強い関心を持ち、2011年、企業、行政、NPO、アカデミアなど、マルチステークホルダープロセスによるソーシャルイノベーションの実践プロジェクト「bemo!」を立ち上げ、現在に至る。 主なプロジェクトとして、フードロスチャレンジプロジェクト、未来教育会議、かいしゃほいくえん、SDGs OPEN 2030 PROJECT、未来を変える買い物 「EARTH MALL」など。

原 節子

株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 部長
博報堂ブランドデザイン 副代表

2000年博報堂入社。以来、運輸、自動車、金融、流通サービス、不動産、飲料、トイレタリーを中心とした企業のブランドコンサルティング業務に従事。グループおよび企業の統合ブランド戦略立案、CI・VI開発、ネーミング開発、ブランド体系構築、統合情報コミュニケーション、インナーブランディング、組織変革等に主に携わる。昨今は、社会への価値創出をマルチステークホルダーで取り組むソーシャルイノベーションプロジェクト等を推進。金沢工業大学客員教授。日本マーケティング協会 マーケティング・マイスター

高橋 啓一

博報堂PR戦略局コーポレートPR部長
シニアPRディレクター

1991年博報堂入社。大手自動車メーカー、日系グローバル金融企業、流通、製薬企業、飲料メーカーのブランディング、商品発表、リスクコミュニケーションなどを担当。社会テーマ型業務として、環境省の地球温暖化防止国民運動「チーム・マイナス6%」のPR責任者として関わる。 09年9月より内閣府へ出向。男女共同参画、ワークライフバランス、少子化問題を担当。11年3月11日 東日本大震災発生直後、併任で内閣官房内閣広報室にて勤務。12年3月、博報堂に戻り、4月より現職。

島田 圭介

博報堂PR戦略局コーポレートPR部
シニアPRディレクター

民間企業や官公庁等の広報・PR領域全般におけるコミュニケーション業務の企画立案および実施を担当する他、さまざまな危機発生時の対応コンサルティングやメディアトレーニング等の講師を務める。

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