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文化を消費し楽しむ中国の新中流層【アジア生活者のリアル Vol.7:中国篇】

2018.02.02
#中国#生活総研

博報堂生活綜研(上海)は、2017年12月20日と25日に、北京と上海にて、「文化を消費し楽しむ中国の新中流層」に関する研究発表を行いました。博報堂生活綜研(上海)は、毎年1回、中国の生活者の行動と欲求の潮流に関する研究発表「生活者“動”察」を実施しています。今回は、博報堂生活綜研(上海) 主席研究員/総経理の鐘 鳴(ショウ メイ)が研究発表から見えた「中国の新中流層のリアル」についてレポートいたします。

博報堂生活綜研(上海)の鐘 鳴(ショウ メイ)です。
博報堂生活綜研(上海)は、中国伝媒大学広告学院と共同研究を行い、「生活者“動”察」の5回目となる研究成果を2017年12月に北京と上海にて発表しました。今回のテーマは、「新しい『文化消費』を生み出す中国生活者たちとその欲求」についてです。

■「文化消費」が弾けている

近年中国においては、海外の有名な博物館の展覧会に長蛇の列ができたり、海外でも話題になった演劇チケットがあっという間に完売になったりということが日常的に起こっています。博物館・美術館の入場者数はこの5年で約2倍に増加、映画スクリーンにいたっては約4.5倍になっています。こうした統計からもこの数年でいかに「文化」市場が急速に拡大しているかが分かります。

ところで、「文化」というのは「美術や音楽などの芸術を鑑賞すること」に限られるのでしょうか?

中国ではコーヒーを飲む人が急激に増えてきましたが、豆の淹れ方にこだわったり、コーヒーを味わうひとときを楽しむことも「文化」と言ってもいいのではないでしょうか。また、この数年でジムに通ったりヨガをしたりする人が増えていますが、汗をかく気持ちよさを感じたり、体を動かして心身ともに豊かな生活を楽しむこともまた「文化」と言えると思います。ゲームやアニメを楽しむ人も若者に限らず増えています。それらを通じてコミュニティができていて、ゲームやアニメもまた「文化」の一端と言えるかもしれません。

そうした「文化」を楽しみ消費行動は、単に機能や効能といった実利を得ているだけではありません。それにとどまらず、上質な雰囲気や知識に触れることを楽しんでいます。私たちはそうした「心の豊かさ」を得る消費行動を「文化消費」と定義しました。

■「文化消費」を進める新中流層の出現と社会背景

「文化消費」が進む背景には、人々の生活が豊かになってきたことがあります。中国では、2016年に一人当たりのGDPが8,000USドルを超えました。その中で、新中流層※が拡大しており、その数は2017年には3.2億人、2022年には4.8億人の規模になると推計されます。
※1 McKinseyのデータを基に世帯年収1万6千USドル~3万4千USドルの人を新中流層と定義。
世帯年収9,000USドル~3万4千USドルが中流層とされるが、その中で、より豊かな層のボリュームが増えており、彼らを新中流層とした。

「文化消費」が進むのは、単に人々が経済的に豊かになったからだけなのでしょうか?私たちは、新中流層が約3億人ものボリュームに拡大してきていることに加え、経済発展がゆるやかになって人々の気持ちが文化にシフトしてきていること、グローバル化・デジタル化の進歩によって大量の文化情報が流入してきていること、さらに「文化強国」を目指す政策の後押しがあるといった今の中国の社会背景があると考えます。

■7つの消費志向の特徴

私たちは、さまざまな「文化消費」の中でも、数年前から顕著になってきている特徴的な「文化消費」に着目し、実際に「文化消費」を実践している生活者にインタビューを行いました。それらの声から抽出した7つの志向について次から紹介いたします。

①デイリークオリティ志向

お洒落な文房具を買ったり、機能が優れているだけでなくデザインがいいホーロー鍋を買ったり、日常生活の中でクオリティが高くセンスのいいものを使うといった「文化消費」が広がっています。

2000元超もするホーロー鍋を買った外資系企業に勤める趙さん(33歳女性)に話を聞きました。「以前は会社に持って行くバッグとか人の目につくものにはお金をかけても、自分がふだん使う茶碗や鍋に高いお金を払うなんて考えもしなかった。でも今は日常生活で毎日使うものにもお金をかけるようになったし、ただ機能が優れていることだけでなくデザインにもすごくこだわるようになった。特に私は料理が好きなので、キッチン用品は自分が気に入ったものを使いたい。そういうキッチン用品に囲まれると、物凄く幸せな気分を感じる」のだそうです。

②素養志向

少し前から海外旅行などに行った際に、工場や産業博物館を見学することが人気になっています。そうした自分が関心のある商品の背景のストーリーを楽しむことはこの1、2年で顕著になった「文化消費」のひとつです。

日本のウイスキー蒸留所の見学に行ったという陳さん(31歳男性)は「なんとなくウイスキーを飲むことがカッコいい感じがして飲むようになった。いろいろな銘柄を試すうちに、味の違いが少しわかるようになって、ウイスキーの製法に関心を持つようになった。蒸留所で実際につくられる過程を目にして、説明を聞いて、ウイスキーをいっそう深く味わえるようになった」と言います。

③文化趣味+スキル志向

1、2年ぐらい前から、直接仕事とは関係なさそうなフランス語の勉強を始めたり、趣味で油絵や楽器を学び始めたりする人が多くなっている印象があります。

その中の一人、周さん(30歳女性)は次のように語っています。「私は美術やデザインに興味があってオンライン学習を始めました。以前は直接仕事に役立つような英語を勉強したりしていましたが、周りのみんなも同じような勉強をしているし、なにか自分のエッジになるものを身につけたいと思い始めました。それで興味があった美術史の勉強を始めたんです。今の仕事はメーカーの事務職なのでもちろんそれが今の仕事にすぐに役立つわけではないけど、将来どこかで役に立つかもしれないし、周さんは美術に詳しいって思われることはなんだか教養がある人みたいでカッコいい気がします。」

④リアル共創志向

少し前から「2.5次元イベント」や「eスポーツイベント」など、共通のテーマに関心のある参加者が一体となって盛り上がるような文化イベントが増えています。

ある「アニソンイベント」に来ていた李さん(25歳男性)に話を聞きました。「ネットの普及で同じ趣味を持つたくさんの友達と知り合えるようになってきたけど、やっぱりリアルに会って遊ぶ方が楽しい。こういうイベントに参加するとさらに友達が増えるし、それだけじゃなくて、一緒に盛り上がって、大げさかもしれないけど何かをつくりだすような一体感がすごく楽しい」と語っていました。

⑤慢志向

私たちの会社で、毎朝オフィスでコーヒーを手動のミルを使って豆から挽いてハンドドリップで淹れて楽しむ人がいます。 また、携帯用の茶器を持ち歩いて出張中でもゆっくりお茶を楽しむ人もいます。そうした、コーヒーやお茶の道具の市場が広がっています。

「会社のビルの1階にコーヒーチェーン店があるので、コーヒーを飲みたければそこで買えばいいだけの話ですが、自分で豆を挽いて、丁寧に淹れることが好きです。仕事を始める前にゆっくりした時間を持つことで、気持ちが切り替わって仕事にスムースに入れるような感じで、私の朝の習慣になっています。」(劉さん 27歳女性)

⑥熟志向

従来、中国の生活者は「最新技術」が搭載された商品を追求する傾向が強くありました。それが1、2年前から「匠」という言葉が流行し、必ずしも「最新技術」はない、「ハイテク」ではないものが注目されるようになりました。

靴職人に靴をつくってもらったというIT企業に勤める林さん(37歳男性)はこう言っています。「大量生産されたものが好きじゃないという気持ちからオーダーメイド品を買いたいと思ったのがきっかけです。けれども実際に自分の足のサイズを測ってもらい、また、職人の仕事を見させてもらって、手づくりならではのぬくもりというか味わいがすっかり気に入りました。」

⑦ヌーベル“チャイナ”志向

数年前から中国的なテイストをベースにしながら、モダンな要素をミックスさせた「モダンチャイナデザイン」の家具が注目を集めています。また、中華料理のレストランでは壁にワインが並べられていたり、JAZZがかかっていたり、料理そのものも伝統的な料理に西洋の食材が加えられるなど、中国的なものに新しい要素が加わったものが街や人々の生活の中に浸透してきています。

モダンチャイナデザインの家具が好きだと言う鄭さん(27歳女性)は、「いままで椅子やテーブルは海外のデザインがいいと思っていたけど、モダンチャイナデザインの家具を見て、すごく新鮮な感じがした。もともと私は中国人だし、中国的なものが好き。それにモダンな要素が加わることですごく魅力的に感じられる。これからはそういうデザインをもっと探したい」と言っています。

■「文化消費」のおおもとにある欲求

「文化消費」のおおもとにある欲求「文化消費」のもとにある7つの志向を俯瞰してみると、特に何か具体的な目的のために勉強するのではない「素養」を求めたり、あえてゆっくりとした時間を「慢」を楽しんだり、時間をかけてつくられた「熟」に価値を感じたり、「無駄」や「手間」を楽しむ傾向が垣間見えます。 そのおおもとには、一般的によいとされるものを重視する他人目線で効率や手軽さを追求するよりも、自分目線で無駄を楽しんだり手間をかけることに価値を感じ、「感情・知性の質」の広がりである「余」を得たい、「楽」しみたいという欲求があると考えました。 そしてその欲求を、私たちは「余楽」という造語のキーワードで表現しました。

今回、私たちは新中流層が「文化消費」を牽引し、今後さらに新しい文化消費を生み出していくことをみてきました。生活者、中でも新中流層は単にモノやコトを消費するだけでなく、その背景にある文化を感じるようになってきています。それは情報行動や購買行動を含む、ライフスタイル全般に対して影響を与えることにつながります。私たち博報堂生活綜研(上海)は、これから「余楽」がもたらす生活者の意識と行動の変化を、研究し続けていきたいと考えています。今後の研究にもご期待ください。

「生活者“動”察2017」についてのニュースリリースはこちら: http://www.hakuhodo.co.jp/uploads/2017/12/20171220-2.pdf

鐘 鳴(ショウ メイ)
博報堂生活綜研(上海) 主席研究員/総経理

1998年 博報堂C&Dにコピーライターとして入社
2002年 博報堂に転籍。マーケティングプラナーとして自動車、嗜好品、飲料、化粧品等、幅広い業界のプラニングに携わる
2012年 博報堂生活綜研(上海)の設立とともに上海に赴任。各種研究、講演、ブランドコンサルティング業務などの領域で活動
2016年 博報堂生活綜研(上海) 総経理

★アジア生活者のリアル・アーカイブ★
http://www.hakuhodo.co.jp/archives/column_type/asia-seikatsusha

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