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FOR2035 来るソロ社会の展望を語る- vol.2後編 / ゲスト:社会学者・詩人 水無田気流先生

2017.05.15
#ソロもんLABO
日本が世界に先駆けて直面する「独身5割の社会」とはどんな社会なのか?そのとき社会には何が生まれ、いまとはどう変わるのか?本企画は、ソロ活動系男子研究プロジェクトリーダーである荒川和久が専門家を訪ね、20年後のソロ社会で起こりうる課題に対し、解決のヒントを探っていく対談連載です。第2回のゲストは『「居場所」のない男、「時間」がない女』(日本経済新聞出版社)、『シングルマザーの貧困』(光文社新書)などの著書で知られる社会学者で詩人の水無田気流先生。前編に引き続き、社会学者という立場から見つめる日本の“超ソロ化”による問題点や課題、そして目指すべきポジティブな未来について語りました。

超ソロ社会だからこそ、人とのつながりが重要になってくる

水無田気流さん(以下、水無田):今、日本は人口減少に加えて未曾有の高齢化が同時進行していますが、とにかく私はチルドレンファーストであるべきだと思うんですよ。次世代を担う子どもたちの間の平等や権利、機会の均等を目指すという方向にいかないと国の未来はない。重要なのは、「理想の家族像」や「旧来の家庭規範」を守ることよりも、現に今この国で生活している子どもたちや、これから産まれてくる子どもたち、さらには既婚/未婚に限らず産み育てたいと思っている人たちを支援することだと思います。

荒川和久(以下、荒川):おっしゃる通りです。私もチルドレンファーストには賛成です。

水無田:ただ、日本では、いまだに「結婚=出産」規範が根強い中で、ソロは独身というだけでネガティブに語られがちですよね。この超ソロ社会に向き合っていく上で、そうしたネガティブさに付き合いつつ、ポジティブさを上げていくために、具体的に今できることって何でしょうか。

荒川:老若男女関係なく、一人一人が経済的にも精神的にも自立することでしょうね。それが今は全くできていないんですよ。高齢者も含めてなんですが、大人も自立ができていない。

水無田:なるほど。でも逆に言うと、この社会自体が個人を自立させない方向に向かわせて来たのではないでしょうか。たとえばこれまで日本では、会社員として働く男性は、ケアワークを妻に丸投げして仕事だけしていれば良いとされてきました。このため妻に依存する夫の問題は深刻で、たとえば50歳時点での婚姻継続がある男性と離婚した男性とを比べると、離婚した男性は平均より9年も余命が短くなっているんです。つまり、妻のケアワークがなければ生きていけなくなる男性が本当に多い。

荒川:本当にそうですね。奥さんがいなくなった途端、自分自身の中身が空っぽになってしまう旦那さんも多いんですよね。だから、依存先が奥さんしかいないというのが問題だと思うんです。

水無田:依存先というのは?

荒川:職場だけではない人間関係や趣味を通しての友人関係などですね。とにかく交流する人としての依存先ですね。人間関係も、職場だけ、奥さんだけという唯一依存がつらいわけです。

水無田:なるほど。ただ、そもそもこの国は、個人が依存先を絞らざるをえないですよね。「会社村の住人」であることを要求する雇用環境や、既婚女性がきめ細やかに家族全員のケア負担に従事することが前提の家庭生活の在り方は、個人が職場と家族へのみ依存することを要請する社会ですよね。今でも会社や家庭にコミットせねばならない部分が大きすぎるため、個人が自分の意見は言わずに自立を阻害されがちな社会である訳ですが、どうして行けば良いとお考えですか。

荒川:大切なのは、個々人の多様性ではなく、個人の中にある多様性に気付くことだと思っていて、よく若者が自分探しと言いますが、本当の自分なんて実はどこにもいないんです。むしろ自分の中に沢山の自分が存在している。それは、人との出会いの中で次々と生まれているんです。たとえば、Aさんという人が好きだとしましょう。それは、Aさん自身が好きというよりも、Aさんと一緒にいることで生まれた自分が好きなんですよ。出会った人や付き合う人ごとに自分が生まれてくる。そう考えてほしいですね。本当の自分が核のように存在すると考えること自体、「唯一無二の自分自身」への依存です。それが苦しみに繋がっている気がするんですよね。

水無田:自分との距離感というか、他者との関係性を計ることが自立に繋がるということですね、なるほど。

荒川:自分だけじゃなく、相手にも当然影響与えますよね。以前、DV男とばかり付き合ってしまうという女性にインタビューしたことがあるんです。彼女は、なぜ何度も同じようなDV男と付き合ってしまうのか、その理由がわからないようなんですが、これって彼女が相手に尽くしすぎるが故に、結果的にDV男を育ててしまっているという側面もあるんじゃないかと思ったんです。

水無田:尽くす系女子、「尽くしちゃん」ですね……。結婚できないアラサー女子を描いた東村アキコさん原作『東京タラレバ娘」がドラマ化されましたけど、実はあれも、みんな尽くしちゃんです。独身女子たちも、相手に依存してしまい、パートナーシップを上手に結べないというリアルがあるのかな。依存先の分散は既婚も未婚も全ての人が生きる上で必要なことなんでしょうね。

荒川:結局、他者とのつながりでしか、自分は生まれないし、他者と付き合うことでしか自分は育てていけないんじゃないでしょうか。ソロ社会だからこそ「人とのつながり」が重要になる、と。それは「超ソロ社会」の本にも書きました。

水無田:なるほど。それはすごく、社会学でも扱うソーシャルキャピタルの考え方と親和しますね。

ソロでも「子ども育てる」達成感を得られる社会へ

荒川:一方で、特にソロ男は、趣味や飲食などたくさん消費をする中で色々な人と関係性を作っていて、まあ、結婚はしていませんが、それはそれで楽しそうなんですよ。それも一つの生き方ですよね。結局、生きるということは誰かとの関係性を作ることなので、その力がなければ、たとえ奥さんや子どもがいたとしても、その人は心理的に孤立する可能性もあります。

水無田:確かに、結局は婚活支援事業に「成功」した結果、結婚した男性が家計責任の重さから独身時代の友人関係や趣味縁などをすべて失い、結果的に仕事と家庭の行き来だけで半生を費やし、退職後には居場所をなくしてしまうような事態よりも、結婚だけでは解決しない問題の対処法を考える方が、個々人の生活満足度を高めるためには有効ですよね。つまり、個々人が幸せに生きていくにはどうしたら良いのか。それは地域社会のソーシャルキャピタルであれ、SNSであれ、人間関係が潤沢になっていくことだろう、と。

荒川:人生の選択肢が結婚しかないというのも、ある種の唯一依存ですからね。

水無田:一方で、そういう色々な関係性を結べるソロ男たちが、結婚に限定されないパートナーシップを持ち、子どもを産み育てられる社会になれば少子化対策にもなって一石二鳥ではないですか?

荒川:そうですね。とはいえ、生涯未婚の人もいるでしょうし、結婚しても子どもを産まない選択をする夫婦もいます。子どもを産むことだけが人間としての価値ではないと思うんですね。ですが、子どもがいようといまいと次世代の子どもたちのために全員が役割は果たすべきで、ソロの彼らでも参加しやすい、何らか貢献しやすいシステムを構築する必要はあるでしょうね。

水無田:次世代の子どもたちのために、ソロが具体的に貢献しやすいシステムとは?

荒川:昨年公開されてヒットした「この世界の片隅に」という映画があります。あれは、制作費をクラウドファンディングで集めたんですよね。映画のエンドロールに自分の名前が載るという達成感をみんなが買ったわけです。そういったことを、待機児童の問題だったり、保育士不足の問題だったりに応用できればいいと思います。税金としてお国に搾取されるのは嫌だという彼らでも、自分の参加や支援が直接的に子どもたちの笑顔につながるという達成感を感じられると違うと思います。

水無田:なるほど。子ども関連の施策にお金を払ったら、その分が控除になるとか具体的なメリットもあると良いかもしれないですね。

荒川:ソロにとって、承認感や達成感はとても大事で、「自分の支援がこの子たちの笑顔を作った」という気持ちになれば、彼らはドーパミンとともに喜んで出費してくれるでしょう。ソロの消費はとかく自分のためだけにお金を使うエゴ的なものととらえがちですが、彼らが一生懸命働いて、税金を納め、消費で経済を活性化することは巡り巡って世の中のためになりますから。

水無田:良いですね。そうすると、ソロへの世間的な風当たりもだいぶ変わっていきますよね。

荒川:人口減少や少子化は避けられないでしょう。ですが、だからといって、無理に結婚や出産を強要するのではなく、今いる子どもたちをみんなでどう育てていくかに関与し合える社会になればと考えます。自分の子は自分の家族だけが育てるという唯一依存に陥ることなく、ソロはソロとしての役割を果たしていく。それが結果として、「結婚していなくても子育てに貢献している」という達成感の共有につながっていくと思います。

水無田気流(みなした・きりう)

1970年生まれ。詩人・社会学者。詩集に『音速平和』(中原中也賞)、『Z境』(晩翠賞)。評論に『黒山もこもこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望』(光文社新書)、『無頼化した女たち』(亜紀書房)、『シングルマザーの貧困』(光文社新書)、『「居場所」のない男、「時間」がない女』(日本経済新聞出版社)。本名・田中理恵子名義で『平成幸福論ノート』(光文社新書)など。

荒川 和久(あらかわ・かずひさ)

博報堂ソロ活動系男子研究プロジェクトリーダー
早稲田大学法学部卒業。博報堂入社後、自動車・飲料・ビール・食品・化粧品・映画・流通・通販・住宅等幅広い業種の企業プロモーション業務を担当。キャラクター開発やアンテナショップ、レストラン運営も手掛ける。独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・WEBメディア多数出演。著書に『超ソロ社会-独身大国日本の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち-増え続ける未婚男性ソロ男のリアル』(ディスカヴァー携書)など。

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