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日本トコトコッ /#7 たたら ②そんなことをこんなとこまで

2017.05.09
#地域創生

深谷 信介

スマート×都市デザイン研究所長 / 博報堂ブランドデザイン副代表

<写真1|船通山>

山を削った? えっ、どこを??

昔やまを削ったんですよ、削って平らになったんです。
とても気さくなそして身のこなしの綺麗な役場職員が、仁多米を頬張りながら、笑顔でその先のまちの歴史文化を語りはじめてくれた・・・

<写真2|残丘のある風景②>

「へえ〜っ、やまを削ったんですか? どの辺りですか?」
「この辺りは、見えているところ全部ですかね〜」
「え〜〜っ、ぜんぶですか?ぜんぶ!!! え〜、どうしてっ???」

ふつうの自然にしかみえないむちゃくちゃ綺麗なこの風景は、大規模にひとの手の入った人工自然美で、それを含んで重文景*にも、日本遺産**にも指定されています。

「たたらって知ってます、深谷さん」
「た・た・ら???」
「鉄をつくっていたんです、昔この地域は・・・」

た・た・ら?
んっ、もののけ姫でみたような・・・?
そこからわたしのたたら勉強会が永遠とはじまった。。。

<写真3|たたら場>
<写真4|たたら場内部>

山の木々をどんどん切って、木炭にします。
山をがんがん切り崩して土砂をながし<鉄穴(かんな)ながしという>、その中に含まれる砂鉄を取ります。
あつめた砂鉄とつくった木炭をあわせて(PPAPよろしく・・)、日本特有の製法で、3日3晩昼夜ぶっ通しで火を起こし燃やしつづけると、(うっ♪)大量の鉄ができます。和鉄です。

へーっ!
鉄づくりって、欧州のものかと思ってましたが、日本にもあったんですね。古くから、しかも独特のやり方で。良質の砂鉄と木炭になる木々を大量に求め、先人たちが探しに探して、中国山地のこの山深いこの奥出雲エリアにいきついたのでしょう。

しかしこの圧倒的に広大な平らな土地が、昔山々だったとは、いかにも信じがたい・・・
しかもここにあっただろう、ダンプ何倍分かまったく想像もできない超大量の土砂は、どこへ行ってしまったんだろうか?

<写真5|斐伊川・出雲平野>

あっそれ、出雲平野になったんですっ。
鉄穴流しで流された土砂が奥出雲に源を発する斐伊(ひい)川から日本海へ。江戸時代には宍道(しんじ)湖へと流れを変え、流れ下った土砂は湖を埋め、新たに生まれた土地には水田が造られたんです。鉄穴流しで流され宍道湖を埋めた土砂は、2億m²(東京ドーム161個分)もあるらしいんですよ。私たちの慣れ親しんだ出雲地方の景観は、たたらによって育まれたものなんです。

お話を1つ1つ聴きながら、ふむふむと頷いて、次第に前のめりになっていく。

山合いで鉄をつくり下流域で鉄を加工して。下流のまち安来(やすぎ)はハガネの町で世界的にも有名ですよね。そこから北前船で、主に鋤や鍬などの農機具になるために、日本各地へ、時には海外まで運ばれていたんだそうです。

鉄の発明は、いまのIT革命以上にすごかったのかもしれません。鋤や鍬などの鉄を使った農機具は、山を開墾し、田畑を耕すことが雲泥の差でラクになり、あらゆる場所で農地ができ、農業が広がっていったことでしょう。まさにくらし革命!すごいぞ、和鉄!
ってことは、たたらは、企業城下町に留まらず、いまの農商工連携や6次産業化、広域連携、はたまた、地域商社じゃないか!笑

うっ
しかし、まてよ・・
砂鉄を掘って、山から木を切り倒し続けていたら、山は荒れ果てまちはみるも無惨な姿になっているはず。ほら、軍艦島ってそうじゃない・・・でもそんな感じじゃないんだよね、このあたり・・むしろ自然真っ只中100%に見えるし・・・
あっそうか〜、まだ見てないんだねその場所は・・・

そうですか〜 じゃああの山の向こうとか、きっとすごい状態なんでしょうね〜。
えっ?

このまちの奥深さにますます取り憑かれていく自分が、そこにいました。

次回は たたら〜③キセキのキセキ です。

にっぽんトコトコッ
トコトコカウンター* ただいま126トコトコッ

*トコトコカウンター:2016年4月より訪れた場所ののべ数

島根県奥出雲地方

https://www.okuizumogokochi.jp/ 奥出雲ごこち
http://tetsunomichi.gr.jp/ 鉄の道文化圏推進協議会

*重文景(じゅうぶんけい)・・・重要文化的景観(文化庁)の略語。
地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないもの(文化財保護法第二条第1項第五号より)
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/keikan/

**日本遺産(にほんいさん)
地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産(Japan Heritage)」として文化庁が認定するもの
http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/nihon_isan/

*写真①は奥出雲町さまに、写真⑤は鉄の道文化圏推進協議会さまよりご提供頂きました。

★バックナンバー★
#7 たたら ①奥に行こう。
#6 うずしお
#5 すべらない砂
#4 東京から日本一遠いまちの、ゴーコン!
#3 こうえん
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#1 金持(という名の・・・)

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