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連載対談企画「キザシ」第6回 / 変わりつつある地域活性化

2016.08.02
#グループ会社#地域創生

博報堂人が、社会テーマや旬のトピックスを題材に、生活者の暮らしの変化を語る対談企画「キザシ」。
地方創生やインバウンドで地域をとりまく環境が変わりつつある中、第六回目は、博報堂DYメディアパートナーズ傘下の専門会社・株式会社ONESTORYの大類知樹(おおるい・ともき)とhakuhodo i+dの筧裕介(かけい・ゆうすけ)が、「地域活性化」をテーマにこれからの地域と生活者ついて語ります。

高額の参加費を払ってもいいと思える、 新しい地域の表現、DINING OUT。

筧:大類さんの「ONESTORY」は、博報堂DYメディアパートナーズの子会社なんですか?

大類:そう。もともと、地域の新しい表現フォーマットのアウトプットとして「DINING OUT」っていうイベントをやっていたのね。地域の資源・資産の再発掘・再定義を行って、それを表現する期間限定の野外レストランをやるんだけれども、2012年から始めて今まで8回やったのかな。もう、地域の価値創造に特化する事業会社としてやっていこうということで、2016年4月に立ち上げたのよ。

筧:DINING OUTは年に2、3回のペースですか?

大類:そうだね。年に2、3回やってきて、今では協賛社も複数付いて頂いている。それから自治体からの予算も得て、参加費が一人15万円前後。1本やるのに半年ぐらいの時間をかけて、かつ非常に手を掛けて制作するので、それらで何とか収益化している感じかな。

筧:15万円なんですか。その高額な参加費で集客できているってすごいですね。

大類:それでもすぐ満席になっちゃう。僕ら広告会社がやる地域の価値創造では今まで一泊二日15,000円だったツアーを、付加価値をつくって15万円にできるかどうか。これが、まず一つのチャレンジだったのね。それがうまくいって、最近ではオファーが来すぎていて、そろそろ断らなきゃいけない状況になってきてる。そんな状況と継続的なマネタイズも視野に入れて、今後は地域の表現をしていくためのバリューチェーンをイベント以外にも広げていきたいなって考えて会社にしたっていうこともある。地域の商品開発をやる専属のチームをつくったし、それから既存の雑誌とも連携して共同で連載ページを立ち上げたり、地域に特化したメディアをつくっていく予定。DINING OUTを立ち上げたことが呼び水となって集まった地域のタネをビジネスにしていきたいと考えてる。

地域に深くかかわって課題を解決する、issue+design

大類:筧君の「issue+design」は、社会課題をデザインで解決するっていうプロジェクトだよね。

筧:そうですね。社会課題を解決するためのアクションを一番やりやすいフィールドが小さな自治体なんですね。だから必然的に「地域」がテーマになる。

大類:ワークショップを手始めにアクションを広げていく感じ?

筧:いや、そういうわけでもないんですよ。そういうやり方をするときもあるけれど、何をやるのかほとんど決まらない段階で地域に入る場合が多いので、入ってから自治体の人や現地の方と話をしたりしながら何をやるかを決めていく。

大類:最初はどういう話で来るわけ?僕らの場合はわかりやすくて、DINING OUTを誘致したいってオファーが来る。でも筧君の場合は、地元が何をやっていいのかわからない状態で話がくるんだよね、きっと。

筧:そう、ふんわりと、そんな状態で来ます。

大類:そうだよね。そこからどうするの?

筧:まず、一緒に取り組んでいけるかどうかを考えるところからですね。信頼できて、なおかつ積極的に動いてくれる人が地域の中にいない限り、こういうプロジェクトは絶対にやれないですよね。そういう理想的な関係を築けている自治体の一つが、今深く関わっている高知県高岡郡佐川町です。

大類:それは役場からオファーが来るの?

筧:佐川町の場合は町長です。現在40代後半で、東大を出て一流企業に勤務した経歴の持ち主で、請われて町長選に出馬して町長になった方なのですが、公約がこれからの町の10年ビジョンみたいなものを地域の人達みんなと一緒につくるということだったんですね。

大類:そういう計画書って、役場がコンサルみたいなところに依頼するがゆえに、どこでも同じようなものになりがちだよね。

筧:そう。それでは意味がないので、もっと本気で町民が一体となってつくることを公約にされたんですね。当選してすぐにパートナーを求めて連絡をくださって、2時間ほど話をして、「この方なら」と思った。以来、ずっと取り組んできていて、今3年目になります。

新潟県佐渡市には32カ所も能舞台がある! 文化の高さに気づきを与え、価値創造をする。

筧:地域に対するアプローチはまったく違うけれど、大類さんのところもうちも、対象となる自治体は小さめで、その規模のレベルはそんなに変わらないんじゃないかな。

大類:そう、変わらないと思うよ。

筧:大類さんのところへオファーしてくる自治体はどういう問題意識を持っているんですか?

大類:大きく分けて2パターンあって、一つはまず地域のブランド化。町をブランド化したいというときもあれば、地元の生産物や特産品をブランドにしたいっていうケースもある。DINIG OUTって、メディアの露出まで全部パッケージにしているんですよ。複数の雑誌での特集や、テレビの露出として小さなものから1時間の特番まで全部、僕らが最初から設計しているので、露出量だけでも広告費換算で少なくとも1憶円を超えるんですね。自治体からも予算を出していただくんだけれども、税金の使い方として地元への説明もできるので、この辺りがパッケージとなっているのは、かなりの安心材料なんじゃないかと思います。

筧:素晴らしいパッケージですね。

大類:あとは人材育成と地域の価値創造ね。まず、DINING OUTって国内外の一流シェフをアサインするので、終わった後に地元のレストランのレベルがどんと上がるんですよ、間違いなく。地元の運営スタッフは開催前の半年間僕らと一緒に動くんだけれども、その過程で気づいていなかった地域の価値を見出すということが起こる。第一回の佐渡がすごく象徴的で、「清水(せいすい)寺」っていうお寺をレセプション会場にしたんですね。僕らは、それこそ夜のスナックまで回って2、3カ月かけてヒアリングやロケハンを繰り返すんだけれども、その結果、浮上したのが清水寺。地元では観光資源としてそれほど高く評価しているわけではなかったんだけれど、でもそこは、京都の清水寺を模して平安時代に建立されたとされる、とても歴史的なお寺なんですね。調べれば調べるほど、佐渡は文化の香りの濃いところなんです。これ、なぜかって考えると、流刑が背景にあるんですね。奈良時代から室町時代には政治犯や思想犯が佐渡に流されていて、順徳天皇、世阿弥、日蓮とか、トップクラスの文化人が流されているんですよ。そういう視点で見ると、32か所もの能舞台があることも、清水寺みたいなお寺があることも納得できる。地元の方々はあまりに日常なのでそれらの価値に気づいていなくて、お客さんが清水寺を見て「わー」って歓声をあげると「え!?」ってなるわけ。ほんとに佐渡っておもしろくて、島民の女の人には能を舞える方が多いんですよ。佐渡の文化度の高さを一番表現できるのはそれかなと思って、DINING OUTでは女性だけで能を舞ってもらったんです。

高知県高岡郡佐川町の小学校でプログラミングの授業。 小さな自治体だからこそ可能なスピード実施。

大類:筧君のところは、なんだかわからないけど助けてくださいみたいな感じじゃない? そのとき、課題が具体的に示されるときってあるの?。

筧:うーん、それは人によって違いますね。自治体職員の方なので、その方の仕事と関連して、観光をなんとかしたいとか子育てとか育児とか、何かしら問題を抱えて来られるんですけれど、その時点では何をしたいかわからないし、問題点をよく把握しておられない状態ですよね。

大類:そうだよね。問題点をつかんでいる人は、もう問題を半分解決してる。

筧:そうですね。そこを見つけるところが仕事の8割で、見つけた後に解決策まで整えてあげるということがすごく大切。

大類:地域でワークショップやるときは、みんな協力して参加してくれるの?

筧:その前段階がすごく大事ですね。うちのスタッフが数カ月現地に行って、町の皆さん一人ひとりへ丁寧に話を聞きに行って、地元の堀り起こしをやってからワークショップをやります。そのワークショップに何人来てくれるかっていうところで、そのプロジェクトがうまくいくかどうかがある程度見えてきます。佐川町の場合は、2015年の2月に町内の大きなホールを借りて総合計画をつくるためのキックオフをやったのですが、結果的に15,000人の町民のうちの約200人が集まってくれました。それぐらいになると、こちら側も地元とかなり目線が合ってくるし、地元も協力的になるし、このプロジェクトはうまくいくだろうなと思いました。

大類:じゃあ、通常は地道にそういう活動をしているんだね。

筧:佐川町の場合は、観光客が来ても泊まるところもないし昼飯を食うところもないんですよ。なので、観光みたいなものとは全く違う、ものづくりと地域の方々の意識の向上を、地域の内部からつくっていくモデルというか。観光や物販ではなく、外から人を呼んでくるのでもない成功モデルの一つとして、佐川モデルみたいなものがつくれるといいかなと思うんです。2016 年から、1学年5、6人しかいない尾川小学校で、6年生の総合学習の時間に20時間もらって、1年かけてロボットをつくる授業をやっているんですね。子どもたちが自分で葉やドングリなどの自然素材を集めて、どんなロボットをつくるのかをデザインして、電子工作とプログラミングもやる。僕が提案したら「やりましょう」ということで、すぐに校長先生のところに行って、1カ月後くらいにもう授業が始まるっていうスピード感でした。町長クラスの方と問題意識を共有して並走していると、課題も明確になるし、いい取り組みができますよね。

都市も地域も同等の選択肢という 若い世代の新たな価値観に見るキザシ。

大類:最近は、地域をよくしたいっていう若い人が出てきているような感じがすごくあるよね。

筧:そうですね。その人達は、Iターンの場合もあればUターンの場合もあるんだけれど、東京にいたとか、都市から移住して来ましたっていう人に、そういう意欲が強いような感じがなんとなくあります。

大類:地元にちゃんと根付いていながら、僕たちと共通の価値観もあるような人が、キーマンになる場合が多いかな。

筧:都市と違って、そこで暮らして仕事をしてそこで生きていくということと、町がどうなっていくかっていうことがほぼイコールなんですよね、彼等にとって。だからこそ、自治体職員の方と一般の方の間の境目もほとんどない。

大類:そうだね。

筧:自治体職員の方も当たり前に町民だし、土日も祭りをやったりしているので、ほぼ週7日働いているみたいな役場職員もいますね。でも仕事っていう意識で動いてもいない。Iターンとか移住者も、ちゃんと地域の中へコミットできている人はそういう意識があるので、地域のことを全て自分ごと化できますよね。まだそう多くはないとは思うんですけど、そういう人がちゃんと生まれてきている自治体は、けっこう変わってきているかなという感じです。そこに大きなチャンスがあって、今の若い世代は地方で働くことに対する意識が劇的に変化していて、すごく前向きな感じがします。彼らにとって、企業に入ることも就職しないこともそれぞれ選択肢の一つだし、田舎に移住するみたいなことも同レベルで選択肢にある。佐川町では、デジタル工作の工房の運営で普通に採用をかけたところ、30人以上の応募があり、優秀な人が来てくれています。そういう時代なので。だから、地方は地方でちゃんと活躍の場を与えてあげることが必要で、それによって東京からのIターン的なものがすごく加速化するから、そこはチャンスだと思うんです。

大類: DINING OUTで会う人は、30代40代で真剣にこの町を自分達で何とかしようと思っている人ばかりだから、それはすごい希望に見える。その一方で、地域へ講演に出向くと、「地域おこし協力隊」の人達が聞きに来てくれていて、彼らに話を聞くと「マジでヒマでヒマでしょうがないです」とか言ってるわけ。地元はその人達をどうやって活用したらいいのかわからないんだよね。

筧:佐川町の僕らのプロジェクトでは5人の地域おこし協力隊が関わってくれているけど、彼らはホントによく働きますよ。土日も深夜も。

大類:彼らはやることが明確になれば、喜んで働いてくれるんだよね。

筧:プロジェクトの中で彼らを動かすことが必要ですよね。

大類:DINING OUTでもものすごく動いてくれる人がたくさんいて、東京から来た地域おこし協力隊の人もいる。そういう地域の希望みたいな若い人が中心になろうとしていることはすごくいい兆しだと思う。そういう人達を活動の現場やメディアで応援していくということは、僕らの仕事の一つだと思います。地域おこし協力隊も含めた地域の人材育成をしていかないと。せっかくの仕組みがネガティブなものに傾かないようにしたいし、志を抱いて地域に入る人達の流れを止めないようにしたいよね。

筧:地域おこし協力隊や移住者に対して、僕らみたいなものが果たせる役割って確実にありますよね。

シニア層を生かす。過去へのベクトルを持つ。 地元に寄り添って生まれる、地域を動かす視点。

筧:地元の若い世代の中から元気な人達が出てきている自治体はいいのですが、そんな人はいないという自治体も多いと思うんですよ。佐川町もそうなんですけれど、20代30代は少ないけれども、50代60代はものすごく元気です。佐川町は、牧野富太郎さんっていう植物学者が生まれた町で、その方の名を冠した公園がある。そこにはけっこう珍しい植生があるんだけれど少し前に荒れてしまったので、毎週毎週花を植えてもう一度植物の名所にするっていうことを数年掛かりでやっていて、その活動がどんどん大きくなってきているんですね。最近はこの公園のベンチづくりのプロジェクトが動き出して、「この花を見るためには、この高さのこういうベンチがあるといいよね」ってみんなで考えて模型をつくり、僕らがそれをデータ化して町の木材で切り出し、みんなで組み立てて塗装してメンテナンスして、みたいなことを毎月やってる。たとえ若い世代が少なくても、50代60代のおもしろい人達を巻き込むことの中にも可能性はすごくあると思いますよね。

大類:東京というのは最先端で未来に向かうベクトルが強い都市なんだけど、これからは、デジタル化とグローバル化の反作用として、歴史や文化的な背景などの過去のほうへ掘り下げていくベクトルを持てるところって、元気になる可能性がすごくあると思うんだよね。DINING OUTでやれたらいいなと思うのは、そこを見つけて「すごいよ」って言ってあげること。地元が元気になって、掘り下げれば掘り下げるほど未来に向かう力になるみたいな。そこがポイントのような気がする。ルーツがあることがかっこいいってことになる気がするんだよね。

筧:僕の場合はめちゃめちゃ地味ですけど(笑)。

大類:偉いよな、そこをやっているって。公園のベンチづくりとかは、年齢を問わず町のみんなが参加できる、いい取り組みじゃない。

筧:次は鳥の巣箱をつくるそうです。

大類:地元に住んでいる人が自分たちの地域をいいと思わないとね。

筧:地域に関しては、問題意識のある当事者がいて、その当事者に寄り沿う形で僕らは入らないといけないんですね。年代を問わず、そういう人達を増やすことが大切だという思いはあって、特に佐川町みたいな誰も知らないような町を変えていく仕事をちゃんと見せていくことで、自分たちの町でもできると思ってもらうみたいなことは、しっかりやっていきたいとは思いますね。

<終>

PROFILE

大類 知樹(おおるい・ともき) 株式会社ONE STORY

1993年博報堂入社。2003年博報堂DYメディアパートナーズへ。2012年に地域に残された自然・文化・歴史・伝統・地産物等を再発掘・再編集し「プレミアム野外レストラン」を通じて表現するプロジェクト「DINIG OUT」を立ち上げた。2016年4月1日株式会社ONESTORYを設立、代表取締役社長に就任。

筧 裕介(かけい・ゆうすけ)hakuhodo i+d

1998年株式会社博報堂入社。 2008年ソーシャルデザインプロジェクト issue+design を設立。以降、社会課題解決のためのデザイン領域の研究、実践に取り組む。 主な著書に「ソーシャルデザイン実践ガイド」「地域を変えるデザイン(共著)」他 。グッドデザイン賞等、国内外の受賞多数。

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