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【担当者に聞く】地域創生、博報堂だからできること―

2016.06.23
#博報堂ブランド・イノベーションデザイン#地域創生

いま、全国各地で地域創生の取り組みが加速しています。地域が抱える課題の解決に広告会社はどのように貢献できるのでしょうか。マーケティングやブランディングなど博報堂ならではの手法を活かし、多くの市町村でまちづくりにかかわっている深谷信介(ふかや・しんすけ)博報堂ブランドデザイン副代表 / スマート×都市デザイン研究所所長に話を聞きました。


■社会人大学院で都市計画の専門家とつながる

 3年ほど前から現所属先の博報堂ブランドデザインにいますが、その前から、電気自動車を基点としたインフラ環境整備への興味が高じて「スマートシティ(環境配慮型都市)」についての研究とプロジェクト実施にかかわっていました。また、同じく数年前、まちづくりについての知識を本格的に深めるため「まちづくり大学院」という社会人大学院に入学。行政関係者や都市計画コンサルタント・設計士・ディベロッパーなどが多く集まる中、初の広告業界の人間として、長期的視点に基づいた都市計画について学ぶことができました。そこで出会った先輩・後輩達、先生方と見識を深め、ネットワークが出来たことはとても大きかったです。

現在私は同時進行でさまざまな自治体のまちづくりのお手伝いをしていますが、ここでは主に、昨年度重点的に取り組んだ3つの事例についてご紹介します。

 

■地域創生、3つの取り組み事例

 【富山県富山市】

 富山市は戦後から計画的な都市整備がさかんに行われていて、全国の中でもコンパクトシティ(集約都市)構想を推進している先進的な都市です。富山で成功した事例は、全国1718の市町村に瞬く間に伝播していきます。ある案件をきっかけに市長にお会いする機会を得て、まちの活性化のためにどんなことができるかさまざまな話をさせていただきました。市長は熱心に聞いてくだり、その場で「政策参与になってほしい」と言われました。市の政策に関する外部アドバイザーの立場です。そこから生まれた仕事のひとつが「コンパクトデリ・トヤマ」の企画・設計・MDプロデュースです。公共施設の一部を大改装し、地元の食材を使った料理や日本酒が味わえるデリカテッセンをつくりました。観光客はもちろん、富山市民が日常使い出来る、ワンストップで富山の魅力を知り体感できる場として好評をいただいています。

 

「コンパクトデリ・トヤマ」の様子。店舗内には常時約20種類のデリ惣菜のほか、地元の工芸品などが並ぶ。

 

【島根県江津(ごうつ)市】

 島根県は実は過疎という言葉の発祥地でもあり、もう30年近く人口減少問題に直面しています。そのなかで移住定住施策の成功と失敗を繰り返してきていて、相当のノウハウを有している。中でも江津市は早くからビジネスコンテスト等の独自の取り組みを続けた結果、ユニークな起業家精神溢れる若者のU・Iターンが増加し、彼らによる新事業が次々と生まれるなど活性化が進んでいます。そんな江津市から博報堂ブランドデザインに依頼をいただき、江津市版総合戦略立案のサポートを行い、「GO▶GOTSU 山陰の『創造力特区』へ」というブランドスローガンを策定しました。その最初のアクションとして、渋谷で行われた「東京なんて、フっちゃえば?展」と題したPRイベントの企画制作・実施に携わりました。江津で活躍するクリエイタ―と世界で活躍するクリエイタ―によるパネルディスカッションや商品展示・物販は好評で、江津には東京でもグローバルでも勝負できる素材・人材が集まっていることを知っていただけました。

 

「東京なんて、フっちゃえば?展」の様子。深谷をモデレーターにパネルディスカッションが行われたほか、江津市の若手クリエイタ―の作品が展示・販売された。

【茨城県桜川市】

 2015年はじめ、「内閣府地方創生推進室の地域創生人材支援制度を活用し、市の参与として来てほしい」というお話をいただきました。地方創生は国の内閣官房と内閣府で推進しており、それぞれ「まち・ひと・しごと創生本部事務局」と「地方創生推進室」がご担当されています。わたしはこの「まち・ひと・しごと」という言葉の順序を後ろから読んで、つまり最初に「しごと」を創り、次に「ひと」を呼び込み、そして「まち」を活性化するという優先順序で考えて進めていくのが地方創生業務の分かりやすいポイントだと思っています。そこでまず行ったのは、“住民+産官学金労言”―つまり産業界、行政、学校、金融、労働団体、メディアなどすべてのステークホルダーにまたがたった、エスノグラフィー的なヒアリング調査。広告的な手法でもありますが、すでにある定量データと、実際にまちの皆さんが何に悩み、どんな思いでくらしを営んでいるのかといった定性データとを掛け合わせることで、より深い対象理解に基づいた有効な戦略を立てたかったんです。また、地元では何世代にもわたる血縁、地縁のネットワークがまるで生態系のように複雑に絡み合っていて、それは外部の人間が簡単に紐解けるようなものではない。その反面、人として信頼されれば丸ごと任せてもらえるようなところもあります。わたしはお酒を一滴も飲めませんが、行政や住民・企業や団体の方が集まるあらゆる会合に出席したり、宿泊した宿の女将を介してさまざまな家業を営んでいる方々を紹介してもらったりと、地道に足で情報を稼ぎ関係性を広げることができました。そうやって、総合戦略のベースとなる生の活きたデータを揃えていきました。

実は桜川市は古来から「西の吉野、東の桜川」と言われるほどの山桜の名所で、名勝や天然記念物に指定されています。春、ピンク色に染まる山々は地元では当たり前の光景ですが、わたしはそのあまりの見事さにことばを失うほど驚きました。さらにその山々にある水源がふもとの農地を潤し、主要産業の農業を支えている。桜川市の一番の魅力で、観光資源の可能性が秘められていると同時に、守っていくべき、生活を支える大事な資産なのです。そういう意味をこめて総合戦略では「農とヤマザクラの里づくり」を強く謳いました。

 (左上)美しい桜川市の山桜。(右上)桜川市総合戦略室のメンバーと。
(左下・右下)産学協定を締結した県立真壁高校生をハブにしたワークショップの様子

 

■広告会社だから、博報堂の人間だからできること

 広告会社の強みは、ほぼすべての業種に深くかかわるオールラウンダー&スペシャリストだということ。ふだんから産・官・学や、また老舗もベンチャーも担当する可能性があって、それらの課題にマーケティングなりブランディングなりの手法でソリューションを提供している。あらゆる業界の言語が話せ、理解できる通訳者でもありますしカタリストでもある、ワークショップに代表されるような合意形成プロセスをきちんとマネジメントできる能力もある。さらには、戦略を立てるだけでなく実行フェーズまでつなげていくノウハウがある。間違いなく稀有なスキルです。

 まちがテーマである以上、目立つ表層的なプロモーションは意味をなしません。確かにイベントなどで瞬間的に人を動かし盛り上げることは広告会社の得意分野ですが、そもそも現地に各種インフラ整備やグルメスポット・お土産品の充実などの受け入れ態勢がなければお客様は満足できないしリピーターは生まれない、移住・定住にもつながりにくい。そういう意味で、例に挙げたような市町村は、時間をかけて本当の意味でのブランディングに取り組める場所とも言えます。

僕は広告会社はスタイリストのようなものだと思っています。が、博報堂という会社は表層的なスタイリストではありません。「生活者発想」という理念の通り、その人の生活習慣、暮らしぶり、果ては生き方や考え方まで掘り下げて最適解を探ります。それこそが真のブランディングだと思いますし、だからこそ、博報堂がまちづくりにかかわる意味もあるのだと思います。

今年度は、内閣府の地方創生人材支援制度による派遣先が2市町増えたこともあり、さらにかかわるエリアを拡大しています。ひとつは「茨城県つくばみらい市」。人口が非常に増えている全国でも稀有な成長力の高いまちです。もうひとつは、「鳥取県日野町」。人口約3300人で、2040年には1800人余り、2060年には約1000人になると予測される中山間地域ののまちです。まちにより課題はさまざまで、つねに新しい発見がありますね。定型のソリューションを提供するのではなく、まちの魅力に合わせた個別解をオリジナルでしっかりつくっていきたいと考えています。

 

■ソリューションはグローバルに展開できる

 日本は課題先進国と言われますが、地域はそのなかでも課題“最先進地”です。何百年と続いた家業やまちの生業の跡継ぎがいない等、課題はあちこちで無数に無限に起きています。そして実は、一見無関係に思えるような都会のビジネスの最先端でさまざまな困難な仕事を体験してきた人のほうが、課題解決の糸口を見出し構築できるような気がしています。そういった人たちがもっとこのテーマに向き合ってくれればと思いますし、課題最先進地だからこそ、そこで得られた解決策は間違いなくグローバルにも展開できるものとなるでしょう。わたしはいまその点にこそ大きな可能性を感じているのです。

<終>

【プロフィール】

博報堂ブランドデザイン副代表 スマート×都市デザイン研究所 所長
深谷信介(ふかや・しんすけ)

事業戦略・新商品開発・コミュニケーション戦略等のマーケティング・コンサルティング・クリエイティブ業務やプラットフォーム型ビジネス開発に携わり、 都市やまちのブランディング・イノベーションに関しても研究・実践を行う。主な公的活動として、環境省/環境対応車普及方策検討会委員、総務省/地域人材ネット外部専門家メンバー、富山県富山市政策参与などのほか、茨城県桜川市参与・つくばみらい市参与、鳥取県日野町参与など内閣府地方創生人材支援制度による派遣業務も請け負う。

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