

山口
今日は五十川さんのアトリエにお邪魔しました。さすが、LEGOのパーツがすごくたくさんあるのですね。そして、整然と分類されている。
五十川
このテーブル天板は打ち合わせのときにだけ置きます。この下にはパーツボックスがぎっしり並んでいます。壁際の引き出しには、パーツごとではなく、“摩擦が重要”といった要点やテーマで分類しているものもあります。
私は、知る人ぞ知るという人間というか、あまり取材依頼も多くないのですが、どのような経緯で依頼してくださったのでしょうか?

関谷
同僚のデザイナーが、機構的な工夫が必要な仕事をした際、リサーチの中で五十川さんの作品を知り、感動して私に教えてくれたんです。私自身もずっと機械設計に携わってきたので、一瞬で魅了されました。
山口
取材依頼が多くないとおっしゃいましたが、LEGOの世界では唯一無二の存在だと思います。英語版の書籍の出版や、世界的なLEGOの大会の審査員など、国内を超えて海外で活躍されていますね。
LEGOの作品というと、一般的には車やお城といった造形物が思い浮かびますが、五十川さんは歯車やモーターを駆使して「仕組み」を提案されています。まず、五十川さんの活動の根底にある思いをうかがえますか?

五十川
いちばんは、子どもたちに「ものをつくる」おもしろさを感じてほしい。そのきっかけをつくりたいという気持ちですね。プログラミングやゲームづくりに興味を持つ子は増えていますが、いわゆる「ものづくり」を志向する子は減っているように感じます。昔は分解すると歯車やバネが出てくるアナログな製品が身の回りに溢れていて、子どもたちがものづくりに興味を持つきっかけになっていました。しかし最近は歯車やバネは小さな電子部品に取って代わり、そのようなきっかけもほとんど無くなってしまいました。
自分の幼少期を振り返ると、5歳の頃から、親が地元の名古屋の科学館に連れて行ってくれていました。そこに大きな歯車の展示があって、ハンドルを回すとガガガッと全体が動くんです。行くたびに見入っているうちに、親がLEGOを買ってくれたのが、LEGOとの最初の出会いでした。
次に7歳だったかな、歯車を含んだLEGO Technicというセットが登場して、それをもらってからはもう夢中になりましたね。プレゼントをもらえる機会には、新しいセットをねだって、もともと持っているパーツと融合させて自由にものをつくるのに没頭していきました。

山口
それが五十川さんの原点なのですね。ワークショップなどで今の子どもたちに触れると、やはりご自身の子ども時代とは違うなと感じられますか?
五十川
私のワークショップでは、最初の10分ほどでベースを一緒に組み立てたら、「あとは自由にしていいよ」と言うんです。そうすると最初は戸惑う子もいます。親御さんに「どうしたらいいの?」と聞きに行ったりね。でも、少し経てばどんどん自分で作品を拡張させていきます。
ギアやプロペラを足してメカニックを追求する子もいれば、ストーリーを立ててその世界に入っていく子もいる。時代が変わっても、これが本来の子どもの姿なんじゃないかなと思います。
必要そうだったら手助けをしながら、最後にはそれぞれの作品を思い切り褒めると、満足感や達成感でいっぱいの表情を見せてくれます。そんなふうに、ものづくりの楽しさを満喫して、独創性を発揮することを喜んでほしいと思っています。
山口
五十川さんの提案や手助けによって、つくる人が自分の道を見つけていく、そんなイメージですね。
五十川
そうですね。1999年に発売した和書『レゴのしくみで遊ぶ本』の前書きのところを、ちょっと見ていただけますか。

山口
「この本で紹介している作品のほとんどは未完成です」と。未完成、と言い切っているのですね。「完成品はあなたがつくる」……まさに、主体はつくる人であるという思想が明言されている。
五十川
私自身はアイデアの断片を具現化しているだけで、ここから先はみんな頑張ってねという気持ちですね。この和書以降、洋書の『The LEGO Technic Idea Book』シリーズなどを10冊ほど出していますが、ルーツは全部ここにあります。
山口
今の時代、丁寧すぎるほど手順が書かれていないと不安な人も多いかもしれませんが、それだと五十川さんが意図する「自由につくる」ことから離れてしまいますね。本当はもっと広がりが生まれるはずなのに、決まった完成形に誘導されて、自由に制限がかかる。
関谷
そうですね。逆に、既定路線から逸脱したことをするときって、すごく楽しかったりします。
五十川
LEGOは、特にそういうところが大事だと思います。お手本がある、完成度の高い作品づくりも否定はしませんが、私はつまらないかな、と。

関谷
五十川さんの書籍は、たしかに言葉での解説はほぼありませんが、写真でのプロセスの見せ方や、動きの矢印などのレイアウトが絶妙です。ここがこう動くんだな、じゃあ試してみようと思わせる。
五十川
洋書のシリーズは、私が作品をつくり、この部屋のライトボックスで撮影し、その画像データをPCの画像編集ソフトで処理した後、DTPソフトでページレイアウトまでしているんです。矢印などのガイドも、その過程で入れています。
関谷
ご自身で、エディトリアルまでされているのですね。
五十川
はい。さすがに校正は別の人の目でやってもらうほうがいいので、紙面上の写真だけで作品を再現できるかをスタッフがチェックしています。それ以外は全部自分で進めています。
私はもともと、ハードウェアやソフトウェアのマニュアル冊子の企画制作を本業にしていたんです。複雑なことを人に伝える紙面のデザインを数多く手がけてきました。適切なタイミングでの情報の出し入れや、写真の大きさやアングルなども、ノウハウが頭に入っています。

山口
だから直感的に理解しやすいのですね。海外の人に受け入れられている理由もわかります。
五十川
私の本だと、言語がわからなくても理解してもらえるので、特に英語圏ではない国の方々に喜んでいただいているようですね。
関谷
今おっしゃった「情報の出し入れ」という考え方は、とても興味深いです。五十川さんがマニュアル制作から身に付けられた「受け手にどう感じてもらいたいか」という設計が、LEGOの紹介にも反映されているんですね。
五十川
そうですね。いつも最優先で考えているのは、「誰が主役なのか」ということです。本なら、読んでいる人が主役であって、我々はそれをサポートする側。「おもしろいな」「つくってみよう」と思う人の気持ちを邪魔しないよう、装飾的な要素は盛り込まないようにしています。

山口
その装飾要素には、色味も含まれますか? というのは、ここまでのお話から、構造や機構を重視されていることがわかるのですが、五十川さんの作品を見ると、それを超えたどこかわくわくする印象があるのです。カラフルな作品や、キャッチーに目玉がついていて愛嬌を感じる作品もあります。そうしたものに私は情緒を感じますが、五十川さんはどのように捉えられているのかな、と。
五十川
なるほど。情緒というのは、私の視点ではあまり意識していないですね。色味でいうと、構造や機構の区切りをわかりやすくする目的で、パーツの色を変えているのが大きいです。必要なパーツがそろう色とそろわない色があるので、わりと必然的に決まるんです。また、自動車や歩くものの場合、どちらが前か識別しやすいように、目印として目をつけることはあります。その位置を探るうちに、たまたま情緒的なかわいさが生まれているのかもしれないです。

山口
というと、何らかの仕組みを思いついて具現化される過程で、最初から設計図があるわけではなく、手を動かす間に着地点が変わっていくのですか? シンプルながら、とても緻密な機構なので、最初から精緻な設計図があるとばかり思っていました。
五十川
変わっていくのが常ですね。たとえば犬をつくるつもりが、キリンになっちゃうようなことはよくあります。それならそれで、キリンらしい耳をつけようかと、そう転じていくのがLEGOのおもしろさだと思っています。
まさに、子どもたちがワークショップで手を動かしながら、未知の方向へと進んでいくのと同じですね。そこで「いいよ、どんどん進めよう」と促して、それぞれの“脇道”にそれるのを許容するのが、個々の才能や個性を伸ばすことになると思います。
関谷
脇道にそれると、自分の中にアイデアやテクニックの引き出しが増えますよね。想像していなかったつくり方が、後々に生きてきたりする。そういうことが、製品の設計でもよくあります。

山口
五十川さんの作品は、メカニズムとして削ぎ落とされていて、余計なものがないですよね。機能を最小限のパーツで具現化することで、わかりやすくなっていると思います。五十川さんの中で、こんな機構や動きを生み出したいという最初のイメージは、どのように着地するのでしょうか。製作を追求するほど、凝ってしまって、シンプルとは逆の方向にいってしまうのではないかとも思うのです。
五十川
まず、メカニズムとしてのわかりやすさは、常に意識しています。ものづくりのベースは、「足してつくる、引いて仕上げる」ことです。
これは、ワークショップやロボットコンテストなどで、子どもたちにもよく言うことです。足して終わらずに、引いて引いて初めて完成する。その引き方にも個性が出ます。きちんと引いていくと、あるとき、機能美がくっきりと浮き上がってくるのです。
関谷
その過程で、装飾も減っていくのですね。

五十川
余計な飾りも補強もなくなり、なんなら耐久性も若干犠牲になったりします。耐久性や安全性はもちろん軽視していいわけではありませんが、過度にこだわると、全部がブラックボックス化します。すると、使い手にわからない形でどんどん複雑化してしまう。中を開けたらおもしろいことがわかるのかもしれないのに、ものの構造を知る機会が今はすごく減っていると思います。
私の提案は、機能そのものを考案しながら構造がさらけ出されるように形にしていっている感じですね。ミニマムだから、人によっては機能を増長させて構造を発展させるし、また別の人は装飾を足してわくわくするストーリーを生み出していく。それは私の手を離れて、自由にやってほしいなと思う部分です。
山口
引くべきところを引いているからこそ、その上でさらに足すことの意味が、より際立つのかもしれないですね。先ほどお聞きした目玉の話も、そのひとつなのかなという気がしました。
関谷
逆に、引きすぎると、機能自体を損なって意図せず抽象的なものになってしまいそうです。シンプルにしながらLEGOのおもしろさのラインを保っているのが、五十川さんのクリエーションなのかなと思います。

山口
改めてLEGOの特性に立ち返ると、わりと制約の多いプロダクトでもあるなと思うんです。粘土を好きなように成型したりするのとは違って、突起の位置やサイズの規格が厳密で、思い通りに具現化できないこともあるのではないでしょうか。そうした部分は、どう感じられていますか?
五十川
私は、そのようなLEGOの特性は、制約ではなくメリットだと思っています。というのは、同じパーツさえ持っていれば、小さい子でも同じものをつくれるわけですよね。それはすばらしいことですし、組み合わせる穴をひとつずらすだけで、オリジナリティが生まれます。この特性こそが、誰でも自由にトライ&エラーを重ねられる要因なんじゃないかと思います。
関谷
そう考えると、LEGOは世界の共通言語だと言えますね。でも一方で、その中でどうやったら五十川さんのような発想ができるのだろう、とも感じます。

五十川
どうしたらそんなに柔軟な発想ができるのか、というのは、子どもたちからもよく聞かれます。私がいつも伝えるのは、「ひらめくことはみんなひらめくのだけど、それをつかみ取るのが大事」ということです。パッと浮かぶアイデアに、意外とみんな、ちゃんと向き合っていないのです。
ひらめきはたいてい、非常識だったり、箸にも棒にもかからないものに思えたりします。でもそこで思考を流さず、「なぜ非常識なのか。どうやったら実現できるのか」と自分に問いかけてほしい。そして解釈し、メモに残す。それを習慣にすれば、必ず自分自身の蓄積になっていきます。
また、散歩もおすすめしていますね。寄り道や脱線が、個性を育むことにつながります。街にあふれる機械や構造物、ときには騒音までもが情報です。科学を見つける散歩、楽しいですよ。

山口
そんな普段の意識から、五十川さんが生み出す一つひとつの機構が、受け手の創造性を触発しているのですね。
五十川
それが私自身の目標なので、実現できていたらうれしいですね。LEGOをきっかけにものづくりに親しみ、自分の引き出しを増やしていける人は、やがて広くエンジニアリングの世界でも創造の精神を発揮してくれると思います。今、町工場がどんどん減って、日本のものづくりを支えてきた細やかな技術が失われつつあります。そうした課題の解決にも、少しでも結びついたらと願っています。
デジタルが拡大しても、ハードウェアの必要性はなくなりません。そこに興味を持ち、自走できる人を、微力ながら育てていきたいです。

Photo by 末長 真
※肩書は取材当時のものです

学生時代からプログラマー、テクニカルライターとして活動した後、フリーランスを経てイソガワスタジオ設立。最近20年は動くレゴブロックを使ったモデルの制作、イベントやワークショップの企画運営などに携わる。
『The LEGO MINDSTORMS Robot Inventor Idea Book』『The LEGO Power Functions Idea Book』など著作多数。
ROBOTMAK3RS(Recognized LEGO Online Community of Robot Experts)メンバー。
作品映像:https://www.youtube.com/ISOGAWAYoshihito/videos
研究映像:https://www.youtube.com/isogawavideo/videos
書籍情報:https://www.amazon.com/-/e/B0042LH2H2/

博報堂入社後、財務、人事、営業、コンサル、公共部門を経て、2018年より博報堂グループのデザインコンサルティングファームであるHAKUHODO DESIGNに所属。2023年より現職。経営戦略・事業開発からブランディングまで幅広い領域でのコンサルティングを提供。2024年、博報堂が発行する雑誌『広告』の編集長に就任。ACCグランプリ、Spikes Asiaゴールド、D&ADグラファイトペンシルなど受賞。

家電メーカーや複数のハードウェアスタートアップにて、スマートフォン/IoTプロダクト/家庭用ロボットなど多岐にわたる製品の設計開発およびプロジェクトマネジメントを経験。MEDUMではデザインエンジニアとして、試作から量産に至るあらゆるフェーズにおいて、プロダクトの具現化を担当する。