
-橋本さんはキャリア採用で博報堂に入社されたのですよね。
橋本:はい。2020年に博報堂に入社する前は、総合広告会社で7年間ストラテジーとクリエイティブを担当し、その後事業会社でマーケティングマネージャーを務めていました。2020年はちょうど、博報堂として「ブランド・トランスフォーメーション®」という概念を打ち立てた時期。変化する社会のなかで、クライアントとともに企業や事業の存在意義を問い直し、ブランドの変革と成長をサポートするという考え方です。僕自身、ストラテジックプラナーとしてもう一歩進化したいと考えていた時期だったので、仕事の領域を拡大する意味でもよいタイミングで入社できたと思います。
-「イノベーションプラニングディレクター」という少し耳慣れない肩書きですが、何をする仕事なのでしょう?
橋本:ストラテジックプラナーとしてブランドの戦略を描くだけでなく、クライアントと一緒にブランドの未来の姿をつくるのが僕の仕事。そのためのビジョン・クリエイティブがイノベーションの鍵になると考えています。
ビジョンをつくるまでにはたくさんのプロセスがあって、社会の見立てとブランドの歴史、その交点から現在から未来にかけて作れるであろう価値を特定する、 そこからビジョンの原型をつくり、ディスカッションして合意形成をはかる…。その一連のプロセスをブランドの一員となって併走する役割を担っています。

-ビジョンづくりのプロセスにおいて大切にしていることは?
橋本:ブランドの責任者と膝を突き合わせて「一緒につくる」ということですね。せっかくビジョンをつくってもただのお飾りになってしまっては意味がない。かっこいい言葉にしすぎて言っている本人が気恥ずかしいと感じたり、難解すぎてピンとこないものだと、一瞬にしてお飾りになってしまうんです。旗振り役の方の熱量が重要ですし、その人が「これでいこう!」と納得できるものができるまでとことん話し合います。僕にできることは、その確信に至るまでの傾聴と整理。その繰り返しです。
-責任者が納得いくビジョンをとことん擦り合わせるということですが、具体的に意識していることはありますか?
橋本:その方の使う言葉や視点の置き方を汲み取って、それに合った言葉でビジョンをつくるということ。企業の語り口として、その人の語り口として「言語が揃っている」ということは大切にしていますね。
2024年に花王のパーソナルヘルス事業のミッション・ビジョンづくりをお手伝いしたのですが、そこに出てくる「Usual」「Reliable」「Holistic」という言葉も、もともと花王さんで使われてきた言葉と、担当者ご自身から出てきた言葉だけを使っているんです。

-花王さんの事例についてききたいのですが、はじめの課題は何だったのでしょう?
橋本:パーソナルヘルス事業部というのは、入浴剤の「バブ」や、デイリーヘルスケアブランドの「めぐりズム」、「ピュオーラ」などのオーラルケア商品を扱う組織。これからの時代に即した強いプロダクトを生み出していける、骨太な方針をつくりたいというご依頼でした。
はじめに花王の歴史を紐解くと、いまから130年以上前にまだ石鹸が高級品だった時代から手に入りやすく高品質な石鹸をつくり、人々にとって清潔を手に取りやすくした企業であるという成り立ちが分かりました。
特別な買い物ではなく、スーパーやドラッグストアで手軽に買える日用品で生活者の健康を守る。そのためのプロダクトをつくるのが花王のパーソナルヘルスなのではないか、といったことを当時の事業部長の方と対話をしていきました。そのうえで、未来に向けてどうブランドの価値を位置付けるか。ポイントにしたのは、むずかしいことを簡単に。ちょっと面倒なことをやりたくなるものにしようということです。

-それが「勝手にどんどん元気に」という言葉に表現されているんですね。
橋本:そうですね。誰もが健康に暮らしたいけれど、実現するのはむずかしい。花王は無理せず続けられるソリューションを提供するブランドだという位置付けです。このミッション・ビジョンをつくったことで、たとえば「めぐりズム」では単にリラックスができるアイテムではなく、生活の様々なシーンで気軽に使えるヘルスケアブランドとして、処方やパッケージの変更を含むグローバルでの大幅なリブランディングを花王さんと一緒に行っていきました。また、いつものお風呂を高濃度炭酸浴にというご提案での「バブメディキュア」のリニューアルや、直接の担当ではありませんが、オーラルケアでもミッション・ビジョンに基づいた様々な商品の発売や改良が行われていくのを見ていました。いま挙げた商品やブランドについてはいずれも好調な傾向にあったと伺っています。ビジョンの創造がビジネスに貢献する実感を持ちました。

-ビジョンをつくることで、商品開発にも新たな切り口が生まれたのですね。
橋本:ものにあふれた飽和状態の世の中では「昨年よりもバージョンアップしていいものをつくりました」という企業の努力も限界がきている状況です。そういう時代だからこそ、未来を見据えて、何を提供すべきなのか改めて問い直すフェーズが重要になっている。新しいビジョンを持つことで、社内にも次のチャレンジをしようというモチベーションが高まるはずですし、それが結果として生活者の満足につながっていくと考えています。
-ビジョン・クリエイティブがイノベーションの鍵になるということがよくわかりました。ブランドのビジョンづくりの伴走者として、あらためて橋本さんの強みを教えてください。
橋本:「クライアントから生まれたビジョン」をつくれることだと思います。厳密に言えば、僕がやっているのはビジョンを生み出すことではなく、クライアントのビジョンの「種」にいろいろな角度から光を当てること。そこから、信じられるビジョンを探し、語りたくなる言葉で表現するのが僕の仕事です。
だから決して「博報堂がつくったビジョン」にはならないし、ブランドの責任者が「自分がつくったもの」として胸を張って旗を振ることができる。最終的に、僕の名前が出てこないことが一番いいと思ってるんです。
僕は「ビジョン・クリエイティブのプロです、いいビジョンをご提示します」というスタンスではなく、社内の仲間のような感覚でパートナーとしてご一緒させていただきたい。だからこそ、ビジョンをつくって終わりではなく、社内に浸透させるためのワークショップを行ったり、実際のアクションプランをつくったり、変革の現場まで併走することも大切にしています。
時代が大きく変わる変革期、必要なのは、変化の旗印になるビジョン・クリエイティブです。企業の第二創業期や新規事業の立ち上げ、リブランディングなど、ぜひご相談いただきたいと思います。


総合広告会社、デジタルエンタテインメントの事業会社を経て、2020年博報堂入社。様々なブランドの戦略立案を手掛ける。担当実績にJPMプラニング・ソリューション・アワード ベスト・プロモーショナル・クリエイティブ、朝日新聞社ウェルビーイングアワード、ACCマスメディア×インタラクティブ賞。