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こそだて家族を解放する新視点 第7弾
子どもを伸ばす“コンディショニング”の考え方とは?
~科学と実践に基づいた、「身体と運動の新視点」を探る

2026.03.05
博報堂こそだて家族研究所による、親世代の子供時代から刷新された最新の子育て・教育の常識に知見を持つ方々へのインタビュー連載。今回は株式会社ライフパフォーマンスの代表取締役CEO大塚慶輔さんをゲストに迎え、「身体×運動」をテーマに、「育つ」の新視点について探っていきます。
数々のアスリートやプロサッカー選手のフィジカルコーチを務めてきた大塚さんが提唱する、“コンディショニング”の重要性とは。現在の親が知っておくべき、「成長」の新しい常識とは――。身体と運動を切り口に、こそだて研のメンバーがうかがっていきました。

ゲスト:
大塚 慶輔 氏
株式会社ライフパフォーマンス代表取締役CEO
サッカーU-19日本代表フィジカルコーチ

こそだて研メンバー:
豊田 丈典
博報堂 / TEKO LEVERAGE クリエイティブディレクター / コピーライター

神長 澄江
博報堂コンサルティング コンサルタント

伊尾木 文佳
博報堂 ストラテジックプラニング局 ストラテジックプラニングディレクター

■再現性のある方法で調子の波を最小限にする、コンディショニングという考え方

豊田
今回私たちは、子どもの成長に対する常識が私たち親世代が子どもの時と今とで異なるのではないか、という点に着目しました。小学生から高校生という育成世代を対象に長年フィジカルコーチを務められ、コンディショニングやトレーニングに関する最先端の知見を持つ大塚さんに、運動や身体といった観点から、現代の親たちが子どもの成長をどういった視点で見つめていくべきかをうかがえればと思っています。
まずは大塚さんが普段取り組まれているテーマ、また事業について、簡単にお聞かせください。

大塚
事の発端でいうと、2001年から2003年まで、僕はとある中学・高校で非常勤講師とサッカー部コーチをしていたのです。そこで、「生活習慣を整えると学力が上がる」という実践研究に携わる機会を得ました。その学校では体育の授業が週に3回ありますが、欠かさず出席した子は学力も上がっていくんです。受験勉強を乗り越えて入学した当初、子どもたちの朝食はパンと飲み物だけといったスタイルが多く、基礎体温が低く背筋も曲がっていて、筋量も少ない子が多いんです。しかし週3回、保健体育の授業を通して運動しつつ栄養のこともしっかり学ぶことで、基礎代謝が上がり栄養状態もよくなり、授業の集中力も増していきました。生活習慣を整えるとパフォーマンスが上がるのを教育現場で目の当たりにしたんです。

その後は20年間にわたりJリーグのフィジカルコーチを歴任し、J1、J2、J3、また育成年代の子たちを対象に、高いパフォーマンスを発揮するための日常習慣づくりに主眼を置いたコーチングを行ってきました。
そして、2017年に株式会社ライフパフォーマンスを設立して以降は、広くビジネスパーソンやジュニアアスリートなどを対象にトップアスリートのコンディショニング手法を提供する事業も行っています。

豊田
ありがとうございます。
コンディショニングの手法についてもう少し詳しく教えていただけますか。

大塚
まず「コンディション」というのは、一時点(定点)の調子ということになります。たとえばお酒を数日飲んでいないので調子がいいとか、寝不足なので調子が悪いといった感じです。アスリートはこの調子を右肩上がりにしていく必要があり、点であるコンディションを望ましい方向に導いていくプロセスを「コンディショニング」といいます。

成長期の小中学生や、生理周期がある女性アスリートの場合は、コンディションに波が出やすくなります。まずは何をもって調子が悪いと判断し、悪い場合はどういった対処をすれば波を最小限に食い止めることができるかを理解する必要がある。そうやって対応に再現性を持たせることが、コンディショニングでは非常に重要になります。

コンディショニングの目的は、パフォーマンスを上げることにあります。アスリートなら競技で、社会人なら仕事で、児童生徒なら学業や部活で結果を残すこと。そうしたパフォーマンスの土台になるのが心と身体の状態であり、日頃の生活習慣です。この土台をしっかり作り、適切なコンディショニングを行って初めて、トレーニングが十分な効果を発揮することになります。

豊田
しっかりとした土台があってこそのパフォーマンスなんですね。確かに、かつてはプロの選手は試合後にお酒をがっつり飲みにいくという姿もあったと記憶していますが、現代のトップアスリートを見ているとものすごくストイックですよね。日常生活のあらゆる側面で、いかに競技でのパフォーマンスを高めるかを意識しているように見えます。

大塚
パフォーマンスを有機的にとらえるようになったのは実は最近のことなんです。栄養、睡眠、入浴などは個別の要素ではなく、すべてが一本の軸上でつながっています。それらをトータルで整える視点こそが重要です。

■ゴールから逆算して、子どもに必要な生活習慣を導き出す

豊田
現場で接する親御さんたちが、昔と違う最新の常識に驚かれることはありますか。

大塚
いまの親御さんは、子どもの成長に関わってあげたいという想いが強い一方、休ませる、寝かせる、ことの重要性をあまり認識できていない方が多いかもしれません。塾や習い事があったり、親御さんの帰宅が遅かったりして、どうしても子どもの就寝時間が遅くなる傾向があります。しかし、9歳から12歳のいわゆるゴールデンエイジにある子は特に、寝なければ身体は大きくなりません。そう伝えるとハッとされる親御さんが多いですね。

豊田
戦略的には、どのような休み方が有効ですか。

大塚
まず子どもには8~9時間の睡眠時間が必要だとして、起きる時間が6時、7時と決まっていれば、おのずと就寝時間は決まってきますよね。次に睡眠の質を上げるには、胃の中に食べ物がない状態をつくらなくてはなりません。消化には最低でも2時間半~3時間かかりますから、9時に寝るのであれば6時には夕食をとった方がいい。さらに、人は体温が下がるときに入眠しやすくなりますが、湯船につかって上がった体温が下がっていくまでに90分~2時間はかかりますから、7時にはお風呂に入ろうということになります。また、寝る30分前にはなるべくスマホやテレビ、パソコンのブルーライトはカットする。あるいは神経が落ち着くような間接照明にする。
週末試合があるなら、そこに向かって何をどれだけ食べたらいいか、どれだけ運動してどれだけ水分をとればいいか、プロのアスリートはすべて逆算して生活しています。

豊田
1時間なら1時間、いかに質を高めていくかが大切なんですね。特に運動しているお子さんの栄養摂取のタイミングについても教えていただけますか。

大塚
なるべくバランスよく、たくさん食べるのは大前提です。そのうえで、スポーツをしている場合は筋肉を動かすのに糖質、つまり炭水化物が必要ですから、小腹がすく場合はバナナやカステラ、羊羹や消化が早いゼリーなどをとるのがいいと思います。一方練習後は筋肉が壊れているので、なるべく30分以内に修復のためのタンパク質を食べたいですね。炭水化物とタンパク質を3対1の割合でとると吸収されやすいので、たとえば鮭おにぎりを食べるといい。家ではそれ以外の栄養素を野菜や乳製品、果物からとることで、最終的にはバランスよくエネルギーを摂取できます。

おにぎりが無理なら、タンパク質はゆで卵やサラダチキンから、炭水化物はバナナやオレンジジュースからとる。それでも足りない場合はサプリなどを活用する。知識があれば、数ある選択肢の中で優先順位を決められますし、状況に合わせて正しい選択ができます。

僕の子どもは、食卓を見て何か足りないなと思ったら、さっと冷蔵庫に行って納豆をとってきたり、牛乳を足したりする。そういう選択ができます。すべてを親に任せっきりにするのではなく、そうやって子どもの自走、自律を促すんです。それはある意味で、教育活動の最終課題でもあると思います。

■日常の中で自律のポジティブループを回していく

豊田
子どもたちが自分のコンディションを自覚するにはどうしたらいいんでしょうか。とあるトップクラスのサッカー選手の自伝を読んでいたら、小学校時代、試合前に揚げ物を食べた後はパフォーマンスがとても悪いことに気付き、試合前の揚げ物はやめたというエピソードがありました。小学生時代からそこまで体調に敏感なんだと驚きました。

大塚
鍵となるのはフィードバックです。推論ですが、おそらく当時のその選手にも、誰かが「はたから見て身体が重かったよ、何でだと思う?」と声を掛けたんじゃないでしょうか。そこで彼は、試合前の自分の行動を思い起こし、揚げ物を食べたという事実に突き当たった。その気づきを得させるための誰かからのフィードバックがあったのではないかなと思います。
こちらの図は、自律した人材を育成するためのループを示しています。

子どもたちにとっては、まず「トップ選手は唐揚げを食べないらしい」という事実が導入になり、内発的意欲につながる。次に、「唐揚げを食べない理由はパフォーマンスが落ちるから」という学習を受け、「じゃあ唐揚げをやめてほかの調理法にしよう」という主体的行動が生まれる。「茹でてみよう」「グリルしてみよう」というプログラムを経て、「鶏のグリルでも十分美味しいじゃん」という満足感を得る。その後に来るのが、フィードバックです。

「唐揚げじゃなくても、グリルチキンで十分美味しいし、パフォーマンスは上がって体重は落ちているね」というフィードバックがあれば、「唐揚げじゃなくてもいいんだ」「それでパフォーマンスが上がるんだ」という自己認識になります。そうすると次は、「ポークやビーフならどうかな」と、ほかの食材を考え始める。「自分のトリセツをつくる」と言っているのですが、このサイクルを自分で回せるようになれば、課題感を持って自律して生活できるようになります。僕はこのフィードバックが子どもにとって一番重要だと思います。また、特にフィードバックが有効なのは成功したときです。人材育成もそうですが、ポジティブフィードバックを繰り返すことで自律のループがしっかりと回るようになります。

伊尾木
親がサポートできるのが、この図の青い矢印の部分ですね。

大塚
そうです。専門知識がなくても、ポジティブループが回るようなコミュニケーションはとれると思います。僕の場合は子どもを塾に送迎する5分間は必ず、「今日どうだった?」「〇〇がダメだったら、来週はどのように取り組んだら良いと思う?」といった会話をすることで、子どもが自ら考え発言する環境を作り出します。その繰り返しが行動変容の持続性を生み、習慣になっていきます。

神長
子どもが栄養素の知識をつけ、自律して考えられるようにするには、自然と知識を得られる環境づくりも必要になりますね。

大塚
栄養素と食品群の表をダイニングの見えるところに貼っておいて、食事の際に話題にするのもいいと思います。そのためにはやはり、家族で食卓を囲むことが大事ですね。うちの場合、夜は無理でも朝は家族全員で食べます。海外遠征後の時差ぼけでも、7時には必ず起こされます(笑)。

伊尾木
塾の帰りなり食卓なり、日常のルーティンのなかでできることを続け、習慣にするということですね。大塚さんが、子どもたちが自分の生活習慣に対して意識的になるための種を、普段からさまざまなシーンでまかれているのが印象的です。

大塚
成長途中の子どもにとってなぜ食事が重要かというと、まずこの時期に骨が伸び、密度が上がり、そこから筋肉がつくからです。女の子の場合、一番身長が伸びるのは初経の前ですから、そのときいかにたくさん食べて、たくさん寝ているかが重要です。

■正しい知識を伴う親のフィードバックが、子どもへの最大のギフトになる

豊田
栄養状態や身体の動かし方など、今の子どもならではの傾向はありますか。

大塚
可動域が狭く、身体の柔軟性が低いという印象があります。かつては遊びの中で木登りをしたり柵をよじ登ったりすることで、股関節の柔軟性や、上半身と下半身の連動性などを獲得していましたが、いまの子どもたちにはそういう機会が少ないので疑似的に体験させるしかありません。すぐに成果が出なくても、そうして獲得した活動経験は中学生以降になると一気にパフォーマンスに収束されるようになります。

神長
先日、水泳の体験教室に息子を連れて行ったところ、大泣きされて(苦笑)。親としてはそうした子どもの気持ちを受け入れるべきか、それとも背中を押した方がいいのか、悩みます。

大塚
親ができることは環境設定です。水泳が必要だと思うなら教室に連れて行き、その後はノータッチでいること。子どもの視界に入らない方がいいと思います。親は1時間後にしか帰ってこないとなれば、意外と子どもは受け入れていくはずです。指導者と子どもの相性もある。同じ教室でもほかの指導者がいる時間帯にするなどの工夫が必要かもしれません。水泳教室に行く前に、川遊びや海水浴を通じて、水に親しみ楽しさを体感させることも大切です。

神長
マーケティングと似ていますね。態度変容をうながす体験設計が重要だということがわかりました(笑)。

伊尾木
いまは見守っておけばいいのか、それとも手を伸ばした方がいいのかなど、判断が難しいこともあります。

大塚
大切なのは、子どもたちの言動や発言内容をしっかりと見ておき、ごくわずかなシグナルも逃さずにキャッチすることです。進学や環境の変化で不安定になる時期はだいたい予測できますよね。状況をあらかじめ理解した上できちんと会話を重ねれば、それが自然とフィードバックになり、子どもが自分の状況を言語化できるようになり、自律的な成長へとつながるはずです。

豊田
最後に、スポーツを頑張る子に親から与えられる一番のギフトは何だと思いますか。

大塚
「正しい知識を持ったフィードバック」。ここの「フィードバック」は「コミュニケーション」と読んでください。情報過多な時代ですが、親がどれだけ正しい知識を持ち、子に伝えていけるかが大切だと思います。

豊田
今日のお話を聞くと納得です。

大塚
親としてどうしたらいいのかもし迷ったら、まずはお子さんのことをしっかりと見てください。子どもはどういう状況で、そのために自分ができることは何かというところに立ち返れば、答えはそんなに難しくないと思います。

豊田
大変参考になる話を聞かせていただきました。今日はありがとうございました!

スタッフ後記

「答えではなく、視点を手渡す」
「正しい知識を持ったフィードバック」こそが、大人の立場から子供達に渡せるもの。渡すべきもの。そのセリフにハッとしました。忙しい日々の中で、どうしても「いいからこうして」と親にとって都合の良い答えを渡してしまいがちです。親の余裕と待てる強さ、何より正しい知識を学び続ける姿勢。それが大切なんだと感じました。とはいえ、それが難しいのですが。(豊田)

「子供の小さな変化に気づけるように」
子供の日々の小さな変化(ノイズ)に気づいて、適切なタイミングでコミュニケーション(フィードバック)をすることが、子供のコンディションを整えて自走する基礎づくりに大切だと気づかされました。わたし自身もコンディションを整えて、子供の日々の変化に関心を寄せられる余白を持ちながら対話を楽しんでいきたいと思います。(神長)

「”自走する子”を育てる環境設計」
大塚氏の提唱する「コンディショニング」は、能力開発以前に生活という土台を整える思想でした。正しい知識とフィードバックが子どもの内省を促し、「自分のトリセツ」をつくる力が育つ。親が担うのは管理ではなく環境設計と伴走で、走るのは子ども。変化の時代にこそ、自ら考え動く力の土台作りが最大のギフトになるのだと感じました。(伊尾木)

大塚 慶輔 氏
株式会社ライフパフォーマンス代表取締役CEO
サッカーU-19日本代表フィジカルコーチ

フィジカルコーチとして20年以上にわたりJリーグクラブや日本代表チームなどトップレベルの現場で活動し、育成年代からプロ、女子日本代表(なでしこジャパン)まで幅広いカテゴリーのコンディショニングとパフォーマンス向上を支えてきた。運動・栄養・休養といった生活習慣を統合的に整えることで成長と成果を最大化する「コンディショニング」の重要性を提唱し、ジュニアアスリートやビジネスパーソンへの指導、健康教育、指導者育成にも取り組む。知識を日常に生かす力を育てる取り組みとして「ライフパフォーマンス検定」の普及にも力を注いでいる。
https://lifeperformance-kentei.jp/

博報堂こそだて家族研究所

博報堂こそだて家族研究所は、子育てに正解はなく選択肢が無数にあるこの時代に「こそだて家族」のこれからの姿を研究・調査・情報発信を行うプロジェクトです。現役のパパママ世代が中心となり、クリエイター、ストラテジックプラナー、PRプラナー、メディアプラナーなど、多様なスキルを持つスタッフが所属しています。「小学生の子を持つファミリー」を中心としながら、マタニティから大学生の子を持つファミリーまで幅広いこそだて家族を対象としたマーケティング&コミュニケーションの専門家として、新しい視点や考え方の提案を行っています。
https://www.hakuhodo.co.jp/kosodatekazoku/

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