
上門 雄也
株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局
データプラットフォーム推進部 データサイエンティスト
導入した後に直面する「使われない」という課題
生成AIの普及に伴い、多くの企業が実証実験を経て本格的な導入を進めています。セキュリティ環境を整備し、社内マニュアルやナレッジを学習させた「社内用AIエージェント」を全社展開する事例も増えてきました。
しかし、いざ運用を開始してみると現場からは「入念な実証実験を経て導入したはずが、リリース直後の試し使い止まりで、2回目以降の利用になかなか繋がらない」といった悩みや「アナウンスをしても結局いつものチャットツールや検索エンジンを使っている」という実態が聞こえてくることが少なくありません。多くの企業では「ツールを導入したものの、現場で定着しない」という課題に直面しています。
実際、生成AI導入に関与した担当者を対象とした調査データを見ても、導入前に期待していた「一人当たりの生産性向上」や「IT・AIリテラシーの向上」といった効果に対し、現状の実感が追いついていないというギャップが浮き彫りになっています。

利用実態が見えていない「ブラックボックス」化
なぜ期待されて導入したAIエージェントが、現場では成果を出せずにいるのでしょうか。 その大きな要因はAIと社員の間で行われているやり取りが「ブラックボックス」になっていることにあります。
一般的なWebサービスやアプリのマーケティングであればユーザーがどこで離脱したのか、どの機能が使われていないのかをデータで分析し、改善策を打ちます。しかし、社内AIに関しては「導入すること」自体が目的となってしまい、その後の社員の利用実態の検証がおろそかになりがちです。
現状把握のために「社内アンケート」を実施する企業も多いですが、そこにも落とし穴があります。 ユーザーの主観に頼るアンケートだけでは、「なんとなく使いにくい」「期待した答えが出ない」といった感想は集まっても「具体的にどの業務のどのプロンプトでつまずいたのか」「何が原因で利用しづらいと感じたのか」という改善に必要な事実までは特定しづらいためです。
社員も一人のユーザーです。期待してAIに質問をした際、一度でも「求めている答えと違う」「自分で調べたほうが早い」といった不便さを感じれば利用をやめてしまいます。この「なぜ利用をやめたのか」「どのような回答に不満を持ったのか」という原因が見えていない状態で、単に利用を促すアナウンスをしても定着率は上がりません。
導入後の「改善活動」こそが重要
AIエージェントの導入はあくまでスタート地点です。 ツールを用意するだけで自動的に活用が進むわけではありません。システムと同様に「運用と改善」が不可欠です。
費用対効果を高め、業務効率化を実現するためには導入後の「改善活動」にこそリソースを割く必要があります。社員がどこでつまずいているのかを把握し、課題を一つずつ解消していく。そのためには担当者の感覚ではなく、事実に基づくデータの分析が求められます。