
登壇者:
山田崇臣氏/日本放送協会 デザインセンター 映像デザイン部 部長
茂呂譲治/博報堂プロダクツ 取締役常務執行役員
佐藤カズー/地球中心デザイン研究所 CEO/CCO
ファシリテーター:
江村千草/博報堂 経営企画室 サステナビリティ企画部 部長
茂呂 サステナビリティは「構想して、伝える」だけではなく、いまは“社会実装”までやり切るべき段階に来ています。だからこそ博報堂グループ、そして博報堂プロダクツとしては、「構想から実装まで」を責任をもって担い、「みんなのうれしい」をカタチにしていきたい。そのために掛け合わせるのが、IDEA(発想)/TECH(実現手段)/TOUCH(顧客接点の手触り)です。

まずご紹介するのが、実写の撮影を行わず、バーチャル空間で成立させる次世代の撮影サービス「Green Lights™」です。センサーでカメラの動きを検知し、リアルタイムレンダリングで光や反射まで連動させることで、限られた環境でも走行シーンやドローン視点のような画づくりが可能になります。撮影を伴わない分、環境負荷の低減にもつながり得ます。
時間やコストの短縮、長尺編などへの横展開も出来ることに加え、面白いのは、事前につくったCGを当てはめるだけではなく、クリエイターがインスピレーションを活かし“その場で見て判断できる”こと。「この感じ、いいね」という直感からアイデアが広がっていく余白がある。表現と生産性、そして環境配慮を同時に進めるための選択肢として、可能性が大きいと感じています。


続いてご紹介する「カーボンシミュレーター」は、イベントの制作から廃棄までの炭素排出量とリサイクル率を数値化し、設計段階から推奨素材を選びながら制作プロセスに組み込める、脱炭素のためのWebプラットフォームです。採用実績は30件以上で、業界・業種をまたいで活用が広がっています。
この領域は、がんばっても成果が見えにくいことがある。だからこそ数値化されることで“達成実感”が生まれ、クライアント側にも手触りのある納得感につながります。たとえばエコプロ出展時のケースでは、通常の木工パネルなどを作ったブースと比較して、炭素排出量は約87%削減、リサイクル率99.8%を実現することが出来ました。
シミュレーターの開発では、イベント経験とテック理解を併せ持つ人材が“現場で使える形”に落とし込んでおり、業界初の測定基準標準化にもつながっています。さらに、脱炭素でも体験の質を下げない——デザイン力と工夫まで含めて、実装として成立させることを大事にしています。

親子インサイトに着目するママクリエイターチーム「ハハハクリエイティブ」でも、サステナビリティに関する商品開発に取り組んでいます。ここでポイントとなるのは「我慢して捨てない」ではなく、「うれしい/楽しい体験として循環する」発想です。短くなったクレヨンを集めて、新しいクレヨンに生まれ変わらせる「ぐるぐるクレヨン」。サイズアウトした子ども服をぬいぐるみにして手渡せる「ZOOtto」。“もったいない”をワクワクに変え、商品のデザインや体験のあたたかみを大切にすることで、結果としてサステナビリティにつながります。

環境とコストと質は、トレードオフに見えることもあります。ここをWin-Winに変えていく。そのために、アイディアはもちろんのこと、テクノロジーと手触りまで含めて“実装までやり切る”。そこに、いま私たちが担うべき役割があると思っています。
佐藤 広告の進化を段階で捉えると、1.0はアテンションをとり商品を売るためのもの、2.0はデジタルで効率とリーチ、3.0はパーパスや共感。そしてこれからが、サステナを前提に「持続可能な成長をどう支えるか」を面白くつくるフェーズです。地球中心デザイン研究所では、地球を真ん中に置き、クリエイティビティでビジネスや社会の仕組みを持続可能にデザインすることを目指しています。

「地球中心って、人間中心への否定なの?」と聞かれることもありますが、そうではありません。人間も資源も動物も、同じ地球の枠組みの中で共生していく“仲間”だという考え方です。人にも自然・生物にもメリットがある形でビジネスや社会の仕組みをデザインする。たとえば道路建設が生態系を分断するなら、その上に動物が行き来できる通路を設計して、人の利便性と自然の両方を守る——そんな発想です。
取り組んでいる実例を3つ紹介します。一つ目は「AI×カーボンニュートラル」の映像制作です。AIはデータセンターの電力や水の使用という論点もありますが、広告制作においては使い方次第で環境負荷を下げ、脱炭素につながる可能性がある。東京都のグローバル広告『Tokyo Tokyo』では、浮世絵をAIで動かすことで表現の拡張と環境負荷低減の両立を狙いました。

二つ目は「ゲーム×ネイチャーポジティブ」の取り組みです。年々アサリの漁獲量が減少しているという課題を抱える浜名湖を舞台とした環境学習イベント『メタもバース(META-MOVERSE)』では、マインクラフト上にデジタルツインをつくり、ゲーム内でアマモ(アサリの稚貝にとって重要な生息地)を植えると、それによるCO₂吸収量や生態系の状態が反映される仕組みに。さらにデジタル上で植えた場所にリアルでもアマモを植え、バーチャルとリアルを融合させて自然再生を実装しました。今後、日本中の湖・海に広げていけたらと構想しています。

三つ目が「ソーシャルジャスティス✕カーボンニュートラル」への貢献を目指す自社プロジェクト『shuwa²(シュワシュワ)」。空気中のCO₂を回収して作った炭酸水と、規格外フルーツを活用したモクテルを販売し、手話でしかオーダーできないカフェで雇用の選択肢も増やす。雇用の選択肢拡大×脱炭素×フードロス削減の“トリプルインパクト”を目指しています。

サステナビリティの視点を組み込むことはどんな仕事の中にも“打席”はあると思っています。サステナビリティって、ちゃんと面白い。自分の仕事の中で取り組めそうな場面があるなら、ぜひ挑戦してみてほしいです。

山田 CMのバーチャルプロダクションは“技術が見えない”ほど自然ですね。広告業界での、スクリーンプロセス※1とインカメラVFX※2の比率はどのくらいですか?
※1:LEDスクリーンに背景映像を出し、人物に限らず車やガラスなどの光の反射や透過をリアルに再現する撮影手法
※2:カメラに取り付けたセンサーが、CGの世界でそのカメラの動きを再現。動きに合わせてリアルタイムで動く背景をLEDスクリーンに映す撮影手法
茂呂 全体傾向までは把握しきれていないですが、私たちが担当する案件では多くがスクリーンプロセス。体感で8割以上です。予算と時間の制約が大きい一方、ダイナミックさが必要なシーンはインカメラVFXを選ぶこともあります。
山田 インカメラVFXは3D背景制作のカロリーが高い。AIで制作負荷が下がれば、比率も変わっていくのかもしれないですね。もう一つ、AIを活用した映像は、放送に出すことの判断がリテラシー上難しい領域でもあります。広告ではどう線を引いていますか?
佐藤 慎重な倫理性による判断が必要だと思っています。『Tokyo Tokyo』の浮世絵は博物館や専門家に一枚ずつヒアリングし、途中経過も共有して、元の作品へのリスペクトをベースに合意形成を重ねました。AIの広告活用については、各社が自主的にルールを設けているものの、海外でも議論は続いていて、移行期の揺れの中にあります。目的をどこに置くか——脱炭素に資する余地も含め、サステナ領域の大きな論点になっていくと思います。
Q1 バーチャルプロダクションをドラマに導入する中で、苦労した点は?
山田 前例のない規模だったので、表現の素地づくりから取り組む必要があったことに加え、技術開発と同時並行で経営層への説明や社内外の啓発も必要で、その部分は工数が大きかったです。
Q2 「地球中心」という新しい考え方で、仲間をどう集めた?
佐藤 「これが新しいクリエイティブのドメインだ」と旗を立てたら、面白がって仲間が集まってくれました。優秀なクリエイターほど新しい技術や領域への感度が高く、学びながら楽しんでアウトプットしているように感じています。
Q3 取り組みを通じて、周囲にどんな変化があった?
山田 大河ドラマの実装が一歩前進した事例として認識され、他ジャンルへの波及も加速しています。
茂呂 脱炭素などサステナビリティに繋がる取り組みも、大前提に「いいものを作る、クリエイティビティにこだわる」という想いがあり、それが大切なのだと再確認しました。
佐藤 私も、「いいものを作りたい」の延長で、サステナビリティにつながる。それが大切だと思います。また、関わる人が広がり、問いやブリーフが変わり、クリエイティビティが刺激されています。
Q4 売上・コストやコストなど短期課題もある中、社内・クライアントの反応や今後の可能性は?
佐藤 よいことをして収益を上げる・企業としても成長することは、決して簡単なことではないと思っており、その中でトップダウンの効く企業は取り組みが進みやすいと感じます。
茂呂 組織の中で様々な組織がそれぞれのミッションを抱える中で、全体を見ている意思決定者と大きなアジェンダを共有し、「まず一歩」を一緒につくる仲間となって進めていくことが大事だと思っています。
Q5 これから、どのような取り組みをしていきたい?
山田 フェイクニュースやAIなどで本物が分かりにくい情報空間の中で、公共メディアとして健全性を維持しオーセンティックなものを残していくことが、社会全体のサステナビリティに繋がると思っており、そのようなところに引き続き取り組んでいきたいです。
茂呂 自身のアスピレーションでもある「愛される成長」を目指し、生活者・企業・社会・地球など様々な関わりの中で、みんなの“うれしい”と“成長”を両立させていきたいです。
佐藤 “よいこと”“ワクワクするプロジェクト”を実装し、その成果を社会に還元していきたい。仕事を通した循環で社会・地球がよくなっていく、そんな循環を実現させたいです。
博報堂グループの脱炭素ソリューション「サステナクリエイティビティ for Carbon Neutral」ご紹介サイト
https://hakuhodo.co.jp/scforcn/

1997年、NHK入局。映像デザイナーとして、主にエンターテインメントおよびドラマ分野の番組制作に携わる。伝統的な制作フローに最新技術を融合させ、コンテンツに新たな価値を創出する取り組みを続けている。

2011年、同業他社から博報堂に入社。アクティベーション、クリエイティブ、デジタル領域の部門長、
およびHDYグループ横断のCX領域のプロジェクトリーダーを経て、2024年より博報堂プロダクツの取締役常務執行役員に就任。
営業、クリエイティブ、AI・データ、デジタル、リアル、映像、SP/コマース、ビジネスプロセスサービス等、全18の事業領域を統括。ad:tech tokyoアドバイザリーボードメンバー。カンヌ他国内外賞受賞。

1973年生まれ。大手レコード会社、外資系広告会社を経て2010年9月にTBWA\HAKUHODO入社。2024年10月に地球中心デザイン研究所(ECD)を設立し、持続可能なクリエイティブ・システムの構築を目指している。広告のみならず、プロダクトやサービス、建築など公共施設のデザインなども手掛ける。また、カンヌライオンズなど国際クリエイティブ賞の受賞数は数百を超え、審査員、審査員長なども歴任。Campaign誌 アジアクリエイターオブザイヤー受賞。地球環境学修士。慶応義塾大学院 SDM未来社会共創イノベーション特任准教授。

2010年博報堂入社。多様な業種において統合マーケティングの戦略立案からアクティベーション、メディアプラン構築まで一貫して従事。2018年より経営企画室にて全社戦略策定や経営の意思決定支援を担う。2024年からサステナビリティ領域を専任、2025年より現職。現場知見と経営視点を融合させ、サステナブル経営の実践を推進する。