

産田
桐山さんとは10年ほど前、あるクライアントの案件で出会いました。ガラスのコーヒードリッパーの製作をお願いしたんです。ガラスメーカーさんとご一緒するのは初めてでしたが、製作過程で、目的が明確な製品ほど想像以上に制約が多い、ということを実感しました。その感覚が、僕らが日頃向き合っているデザインの在り方ととても近いと感じたのをよく覚えています。

桐山
理化学ガラス器具って身近なものではありませんし、パッと思い浮かぶのはビーカーや試験管だと思います。日常に存在するガラス製品とは違って、ほとんどの方が理科の授業で接したくらいですよね。
今回、産田さんから「デザイン」というテーマでお話をいただいて、とても興味深く思いました。我々の製品は、ものによっては外側のデザインから考える場合もありますが、理化学ガラスの用途を考えると、主に3つの条件でデザインが成り立っていくのかなと思います。
ひとつは、「我々がつくれるかどうか」。理想の形をイメージしても、物理的に製作できなければ仕方ないので、我々の技術や設備で製作できることが前提になります。
2つめは、「安定的であるか」。実験では、ガラス器具の中に液体や蒸気を入れて、それを熱したり冷やしたり、なにか化学反応を起こさせたりするわけですよね。すると、我々の用語で“跳ねる”と言いますが、ガラスにひずみが生まれて割れることもあります。なので、内側に何を入れ、何が起こるかを考えて、安定的な形や丈夫な材質にすることが必要です。
そして3つめは、「洗いやすいか」。これは特に実験に密接な方でないとピンとこないかもしれませんが、実験が終わったら必ず器具を洗います。その際、洗い残しがあると次の実験テーマに影響してしまうので、洗いやすい形状でないといけません。溶剤を混ぜたり焚き上げたりしてから、洗い流すまでが、実験の一連のラインなんです。

産田
すごくエンジニアリング的な思考ですね。目的達成のために、条件がシステマチックに積み上げられている。桐山製作所さんといえば50年以上前に開発された「桐山ロート」が有名ですが、こちらも目詰まりしにくく洗浄しやすいのが特徴だそうですね。ロートといって思い浮かぶ逆三角型ではなく、バケツのような円筒形で、わずかに傾斜した底面には特殊な溝の構造が施されています。
桐山
はい。他の製品も、基本的に先ほどの3つからできあがっています。
産田
「できあがっている」という表現が印象的です。先ほども、3つの条件で「成り立っている」とおっしゃっていましたが、デザインするというより、結果的にそう“成る”ということなんですね。
清水
私が取り組んでいるグラフィックデザインは、手を動かしながら“決まるところ”を探って、なぜこうしたのかという理由はあとから気づくことが多いです。なので、必ず理由が先にあるというのは興味深いです。
産田
同感です。逆にいうと、より用途に合った形や、複数の機能を効率よくまとめた器具などは、桐山製作所さんの設計に期待されている点ではないかと思いました。それが結果的に、徐々に外側のデザインに表れてくる。
普段のお仕事では、器具を改良していくことは多いのでしょうか?

桐山
はい、それは日常茶飯事ですね。ビーカーや試験管に明確に“2026年モデル”みたいな型はありませんが、少しずつアップデートしています。我々が見れば、明らかに過去のものだな、いつごろだな、というのはわかります。
ただ、多くの研究者の先生方には、慣れた器具を変えたくないという心理があるようにも感じるので、新しい器具の改良や開発がどんどん進むかというと少し違うかもしれません。
産田
一気に大きく変えるのではなく、改善点を自然に組み込んでいるのですね。
桐山
たとえば、理論的にはもっと洗いやすい形を考案できても、いきなり斬新な形にせず、それまでのデザインを継承しながらうまく盛り込んでいくような。そんなことが大事だったりします。
産田
研究者の先生から「こういう器具がほしい」と頼まれて改良や開発をすることもあるのですか?
桐山
はい、そうした業務が我々の仕事のほとんどを占めています。既製品ではカバーできないからと、実験計画や必要な器具の条件をお聞きして、具体的にどう実現するかを相談しながら製作します。もっと手前からの打診だと、「こういう結論を導き出すための装置を考案してほしい」とご依頼を受け、器具の設計を提案することもあります。これはもう、その先生のその実験テーマのためだけの製品です。
清水
完全な特注品ですね。その場合、まず頭の中でイメージするのですか? それとも、先ほど説明いただいたように、やはり内側から考えていって外側ができるのか。
桐山
それは、お話を聞いているうちに徐々に出てくる、という感じですね。ただ、こうやったらいいのではという案が出てきても、器具の形状や強度的に本当にうまくいくかはわかりません。なので、試作品で模擬的な実験をして検証したりします。

産田
僕らの仕事の多くはクライアントワークになりますが、やはり1件1件違うからこそのおもしろみや深みがあり、また難しさもあると感じています。桐山さんがクライアントワークを受けられるときは、どんな醍醐味や大変さがありますか?
桐山
基本的には、産田さんの感覚と同じじゃないかなと思います。クライアントの要望はそれぞれ違うので、何を求められているのかを細かくお聞きし、どうしたら困りごとを解決できるか。それはきっと、まったく一緒でしょう。
理化学器具の提案で難しいなと思うのは、言葉にするなら、技術者とそうでない方との視点の違いかもしれません。ご要望をいただいて、技術的にできないと考えたりもっといい案がパッと思い浮かんだりしますが、それを頭ごなしに説明してもあまりうまくいきません。先方の話に肉付けをしながら、ときには時間をかけて、技術的な落としどころに一緒にたどり着くようなイメージです。
清水
先方とすり合わせながら“0から1”を探っていくのは、私たちにも共通しているように思います。ただ、桐山さんのクライアントワークは、最初の段階では、もしかしたら器具として成り立たない、つくれないかもしれない状態ですよね。そこで「このほうがいいのでは」と提案していくときの根拠は、長年やってこられた知識や経験になるのでしょうか?
桐山
そうですね。経験もお話ししますし、それをすぐに示せなければ、実験の一部を再現して納得いただいたりもします。
清水
理化学ガラスのメーカーでありながら、研究の専門的な知見も必要になりますね。
桐山
ええ。同時に、先方のこだわりがどこにあるのかを把握することも大事だと感じています。

産田
冒頭でお話ししたコーヒードリッパーの製作でも、そうした部分を丁寧に汲んでいただきました。耐熱性や香りの立ち方、ほかにもいくつかクライアントのこだわりがあったので、複数のメーカーから技術力に優れた桐山製作所さんにたどり着いたんです。
なるべく紙のフィルターのにおいを感じさせず、豆の香りを生かせるように、クライアントと僕と桐山さんとの間でキャッチボールを重ねました。
桐山
取っ手の部分や、内側のらせん状のデザインに紙のフィルターがうまく吸着するかなど、試行錯誤した覚えがあります。
清水
実験器具とは、やはり違いましたか?

桐山
いえ、“抽出”という行為は理化学実験でも一般的なので、実はかなり近かったです。コーヒーなら、抽出の過程で味と香りをどう効率よくお湯に落とし込むか。抽出結果を化学の実験に使うのか、それとも人が飲むのか、くらいの違いです。
清水
そうお聞きすると、たしかに、と思えてきますね。桐山さんの柔軟な捉え方が、お仕事の幅を広げられているようにも感じます。
清水
SNSで、商業施設のクリスマスツリーをお手伝いされていたのを拝見しました。こうしたアート的な活動にも対応されているのですね。
桐山
ツリーに飾るバブル状オーナメントの製作技術で支援をさせていただきました。ほかにも、例えば小学校をリノベーションした科学体験施設で、ガラス実験装置のインスタレーションを製作したり、飲食店やバーなどに内装デザインとしてガラスの造形物を提供したりもします。過去の事例をご覧になって、相談いただくことが多いです。
また、装飾と機能を合わせた提案もあります。2020年、香水などを展開するブランド、オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーから依頼があり、表参道の青山骨董通り店に商品の香りを試せる壁一面のガラス器具を提供しました。私も一連の製作に加わっていましたが、先方にとても喜んでいただけました。

清水
私、お店で実際に試しました! さまざまなガラス管が組み合わされて、とても美しかったです。アートでもあり、香りを体験できる装置でもあって、楽しめました。あれはビュリー側から、なにかお客さんの体験になるようなものを、とオーダーがあったのですか?
桐山
そうですね。「香りを試すのに普通のやり方ではつまらないから、桐山さんのガラス製品にそんな要素を盛り込めないか」というお話でした。これも基本的には実験器具の考え方で、ガラス内部を通過しながら香りをどう残すかを考えましたが、同時に、やはりアイキャッチの役割やお客さんの楽しみを期待されているので、そうした部分もよくよく加味しました。
実験目的ではないクライアントも、それぞれの領域の視点から、うちの技術や発想を生かしてくださっているところがあるなと思います。
産田
デザインでは、情緒的な側面も制作物の質を左右する大事な要素ですが、桐山さんのガラス製品でも発揮されるのだなと思いました。一方で、僕らの仕事よりもずっと、成型や色の部分で制約が多いとも感じます。たとえば色は基本的には透明ですよね? 桐山さんは、形や色といった装飾要素に対してどんなイメージを持たれていますか?
桐山
ときどき「色をつけたい」というご相談もありますが、色については、私はやはり「ガラスは透明だからこそガラス」という思いがあります。まず、素材として耐熱性や耐薬品性があり、中が見えて、加工ができる。この加工技術がなかなか難しいですが、このような長所をいくつも兼ね備えた素材はそうありません。なので、長所を生かしながら、同時に今おっしゃった情緒みたいな部分を必要に応じて意識するようなイメージです。
産田
理化学ガラス器具のメーカーの中でも、御社は前段でお話しされていたように、ほとんどの業務がクライアントの希望を加味した加工品や特注品の製作なのですよね。
桐山
非常に多品種で、かつ少量生産です。直径50㎝にもなるフラスコが必要な会社や研究室は、世の中に何百もありませんから。

産田
工業製品のデザインに携わっていて思うのですが、人に支持されるプロダクトにするには、なるべく多くの人の要望に沿うように、と絞り込みを甘くするとうまくいかなくて。過去に類似品がなく、ユーザーの課題をしっかり解決し、かつ時代の要請にも応える、そんなオーダーメイドのような考えで生み出したものが、結果としてロングライフの商品になるのではないかという気が最近しています。絞り込んだ分、最初は少量でも、やがて大量の生産につながるような。
桐山
我々の製品でも、特注品は少量生産や1点ものが多いですが、中には「突き詰めた結果、多くの方に支持される」かたちでロングライフになっている製品もあります。「桐山ロート」も、ある需要家から「使いやすく、濾過漏れが少ない濾過器ができないか」とのご要望から生まれました。このテーマを満たして、透明なガラスで製作可能な形状な何か、を追求した結果が、マンホールの蓋からヒントを得た溝と中心の孔である構造・デザイン的な構成となり、それが多くの方に支持されて、当社の代表的な商品になりました。実は1964年の発売以来、ほぼモデルチェンジをしていないんです。
個々のご要望にお応えし、オーダーメイドの製品を手掛けながらも、こうしたロングライフの製品につなげたいという思いは常にありますね。我々の技術力で、ガラスの加工性能をどこまで引き出せるか、どれだけ提案の幅を広げられるか、と考えています。

清水
そうした考えや姿勢が、そぎ落とされた美しさに通じているのかもしれないですね。私の場合、グラフィックの広告やロゴなどのデザインでは、いろいろな要件を満たしつつ、最終的に人が見て「きれい」「好ましい」と感じるものを目標にしています。桐山さんのお仕事は、プロセスは異なっていても、着地点が一致するのはおもしろいなと思いますね。お話をうかがっていて、とてもシンパシーを感じます。
産田
ここまで今のお仕事に対する姿勢をお話しいただきましたが、今日のお話を通して、理化学ガラスのデザインが、外側の造形ではなく、内側の条件や思考から立ち上がってくるものだということが、よく伝わってきました。
桐山
デザインという点でいうと、実験器具という性質もあって、固定観念に縛られてしまうことがあるなと思うのです。保守的な世界でもあるので、今までがこうだったからこれは踏襲すべき、という考えに我々も囚われることがあります。でも、凝り固まらずに挑戦していきたいですね。より効果的な形や配置、構造がきっとあるはずなので、そこを我々が追っていかなくてはいけないと思っています。
産田
制約があるからこそ見えてくるデザインがあって、分野は違っても、ものづくりの根っこは近い。その感覚を今日は改めて共有できた気がしますね。

Photo by 末長 真

1963年東京生まれ。小学校3年生の時、夏休みの宿題で小さなフラスコを箱に詰めて提出したことが、ガラスとの初めての接点となった。10代後半に父が創業した桐山製作所に入社。以降、現場、工場長を経て、2014年5月代表取締役技術担当に就任。新製品の開発、顧客の技術的な要望に対応している。

多摩美術大学プロダクトデザイン学科卒業。MEDUMでは、インダストリアルデザインを軸とした幅広いクリエイティブ業務に携わる。手がけた製品はグッドデザイン賞、 iF design award、 Red dot design awardなど国内外の賞を多数受賞。自社R&Dにも取り組み、ミラノデザインウィークで発表した照明はイタリアのAlessi社にて「Tsumiki」として製品化、ADI design index 2025にも選出されている。

多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。広告制作会社での実務経験を経て、2023年よりHAKUHODO DESIGNに所属。ブランド開発やリブランディング、既存ブランドの運用・拡張、広告キャンペーンにおけるキービジュアルやグラフィック制作を通して、ブランドの「らしさ」を可視化するデザインに取り組んでいる。