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ヒット習慣予報 vol.393『余白カスタム』

2026.01.13
#トレンド

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの平山です。
年が明け、2週間ほどが経過しました。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
私は新卒1年目として駆け抜けた2025年を振り返ると、目の前の仕事に必死に取り組みつつも、プライベートでは日本国内様々な場所に旅行できたことが記憶に残っています。 その中でも、宿のみ予約し、何もプランを決めなかった湯河原旅行は、忘れられない思い出です。旅館の窓を開け、ただ満月を眺め続けたひと時。空白の時間を「自分の好きな自然」で満たしていくことが、情報の波におぼれていた自分の心を癒してくれました。
確かに世の中では、効率化で埋め尽くされた日常の中に、自分らしさを取り戻せる「余白」が求められつつある気がします。今回は、あえて未完成さや不便さが残されていることで自分らしく編集できる「余白カスタム」の事例をご紹介したいと思います。

1つ目は「麻辣湯」です。
ご存知の方も多いかもしれませんが、麻辣湯とは、自分で好きな具材を入れて煮込む中国発の薬膳系スープ料理です。麻辣湯専門店では、ブンモジャや魚卵入り団子、さつまいも春雨、鴨血など珍しい食材も含めて、数十種類の具材の中から自分の好きなものを選ぶスタイルが取られています。
そんな中、最近SNSでよくみられるのは「お気に入り具材の紹介動画」です。また、「具材や辛さを選べる自由さが楽しい」「いろんな組み合わせを試して自分のベストを見つけたい」といったコメントも見受けられます。
麻辣湯がブームになっているのは、おいしさだけではなく、自分だけの一杯をカスタムして作り上げられる楽しさや満足感にあるのではないでしょうか。

2つ目は「カプセルトイを詰めたポーチ」です。
このポーチでは、中身が見えるクリアポーチを利用し、カプセルトイをまとめて収納します。カプセルトイの組み合わせやポーチの種類、詰め方には個性が宿り、「自分だけの世界観を表現できるキャンバス」として楽しまれています。
先日電車内で見かけた学生は、今流行しているキャラクターで埋め尽くされたポーチを、通学カバンにつけていました。またSNSを覗いてみると、白や黒のアイテムでまとめた「モノクロポーチ」、推しが常備しているアイテムや推しの好きな食べ物を詰めた「推し概念ポーチ」、ミニチュアコスメを入れた「可愛さ×実用性ポーチ」など、様々なテーマのポーチが作られていることが分かります。
このように、色味を統一したり、ストーリーのある組み合わせにしたりと、カスタムする工程にこそ熱量が注がれています。完成されたキャラクターグッズを買うのではなく、バラバラの要素を自らの手で組み合わせるという「余白」が残されているからこそ、愛着が湧くアイテムに昇華されていると考えます。

3つ目は「スマホなし旅行」です。
実際にスマホなしで旅行した友人がいるのですが、普段ならスマホを見ている電車内でも外の景色を眺めるようになり、旅先で出会う様々な風景がよりダイレクトに記憶に残ったそうです。また、まず飛行機に乗るところから大変だったという話を聞かせてくれました。
旅行よりもスケールは小さくなりますが、私もスマホを持たずに、井の頭公園まで一人で散歩に出かけたことがあります。スマホがないだけで、普段よりもなんだかそわそわした気持ちを抱きつつも、池のきらめきや風の音、木や花が揺らめくさまが美しく感じたことを、今でもはっきり覚えています。また、隣のベンチに座っていた方に話しかけられ、その後互いに持っていた一眼レフで写真を撮り合うという嬉しい出会いもありました。
スマホに支配されているからこそ、物理的にスマホから距離を取ることで生まれた「余白の時間」と、その時間をカスタムして得られた体験に価値を感じる人は、増えていくのではないでしょうか。

出典:Googleトレンド(「スマホなし」検索量)

このように、余白があるものを自分で編集して完成させることに価値を見出す動きが生まれたのは、主に2つの背景があると考えられます。

1つ目は「アルゴリズム疲れ」です。
おすすめされる動画や商品ばかりを見ていると、自分の意思ではなく、システムの意思で生きているような感覚に陥ります。だからこそ、「自分で選ぶ」「自分で決める」という余白のあるプロセス自体が、自己効力感を取り戻すためのエンターテインメントになっているのです。

2つ目は、「効率化・正解主義への反動」です。
タイパが重視され、失敗しないための「正解」ばかりが求められる世の中ですが、だからこそ「自分らしさ」を欲している人が増えているように感じます。麻辣湯の具材選びやガチャ詰めポーチづくり、スマホなし旅行は、いずれも一見すると非効率で手間がかかります。しかし、そういった非効率性や手間が、予定調和ではない「自分だけの物語」を生み出し、深い充足感につながっているのではないでしょうか。

かつては、誰もが持つ共通の基準で価値あるものが決まっていました。しかしこれからは、「あらゆる選択肢から自分らしさを取り戻せる行為」や「余白があるからこそ出会える偶然性」に、より価値を感じるようになっていくかもしれません。

最後に「余白カスタム」のビジネスチャンスとして、下記のようなアイデアを考えてみました。

「余白カスタム」のビジネスチャンスの例
■ 色付けやメッセージ刻印、香りの調合など、仕上げを購入者が行い完成するギフトショップ
■ 自分で釣った魚や育てた野菜など、具材を持ち込んでプロが調理するレストラン
■ 旅先でスマホを預けるとチェキが貸し出され、自分の心が動く瞬間を記録できる観光サービス

2026年は、スマホも予定もない「空白の日」をつくるところから始めてみたいと思います。

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

平山はな(ひらやま・はな)
ストラテジックプラニング局
ヒット習慣メーカーズ メンバー

2025年 博報堂入社。
写真を撮ることと、人の人生の話を聴くことが好き。
最近は山伏やマクロビオティックに興味があり、人と自然の交差点を探している。

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