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「翻訳力」と「現場力」が強み。PR発想で戦略からエクゼキューションまで描ききる|Next Creativity Map Vol.28 菅野光輝

2026.01.07
企業のコミュニケーションやマーケティング課題に、さまざまな「得意技」でクリエイティビティを発揮する博報堂のクリエイターやマーケター。連載「Next Creativity Map」では、クライアントの課題に寄り添い、解決、変革へと導くランドマーク人材にスポットを当て、その「技」を解き明かします。第28回は、マーケティングプラニングディレクター/PRディレクターの菅野光輝。PR職を出自とするストラテジックプラナーならではの「翻訳力」、自動車会社への出向で身につけた「現場力」を強みとする菅野。PR発想で成功へと導く、独自のプラニングモデルについてもききました。

PR職からのスタート。PR発想を川上からインストールするためストラテジックプラナー職に

-2018年の新卒入社ということですが、博報堂に入社したきっかけは?

菅野:もともとマーケティングに興味があって大学でも専攻していました。多様な業界に携わりながら、人の心を動かしたり、繋げたりしていく仕事をしたいと思い、コミュニケーションを通じたマーケティングが実践できる広告会社に魅力を感じたのがきっかけです。
漠然とプラナー職に就きたいという気持ちはありましたが、職種にこだわりがあるわけでもなく、ストラテジックプラナーでもクリエイティブでもPRでも、なんでもいいと思っていたくらいなんです。ただ、戦略からアウトプットまで、そしてそれも広告やイベント、コンテンツなどの手法に囚われることなく自由に発想し、課題解決に向き合うことができるのが博報堂の強みですし、どの職種も前向きにやってみたいなと当時は考えていました。

-実際はどの職種からキャリアをスタートしたのでしょう?

菅野:はじめはPR戦略局に配属されました。PRの基礎を徹底的に鍛えてもらったこの時期は自分の基礎になっていると思います。博報堂のPR職の仕事は端的に言うと「情報のデザインによって、様々な合意形成を図る編集者であり翻訳者」だと僕は考えています。もはや当たり前ではありますが、今の生活者は様々なコンテンツやメディアで溢れかえっている情報大洪水時代を生きています。そうした環境の中で「広告」という存在が届きにくくなっているのも事実。だからこそ、どう世の中の流れに乗って、第三者的な評判と共感をつくっていくか。PRでは「風を読む」とも言いますが、ブランド価値と社会のストーリーとを接着させていく考え方を学んだ時期でした。
新人の頃は、毎日ニュースサイトのトップ記事を取り上げて、これがなぜニュースになったのかを分析するトレーニングをしていました。ニュースになるには、さまざまな事象の積み重ねがある。事象を「線」で捉えることがPR職の強みであると多いますし、そのスキルセットがいまも自分のプラニングに生きていると感じます。

-現在はストラテジックプラナーとして仕事をされていますが、職種を転換したきっかけは?

菅野:当時はまだ若手だったこともあり、プロジェクトの最後の「話題化」的な部分をスポットで担当する業務が多かったんです。そのとき感じたのが、PRでしっかり話題化するには、ブランドや商品そのもののストーリーをつくるところからはじめたいということ。
PRで培った「社会の潮流を捉えてブランド価値と社会のストーリーを接着させていく」という手法を、企業の川上からインストールしたいと思い志望しました。でも、ストラテジックプラナーに職転したと同時に、自動車会社への出向が決まったんです。

お客さまと直接触れ合う。多くのステークホルダーと向き合う。出向で身につけた「現場力」

-思いがけない異動でしたね。

菅野:そうですね。自分自身、川上から川下まで、越境してすべてに携わりたいという思いがあったので、それを汲んでもらったのだと思います。クライアントの一番近くで向き合い、精度の高いプラニングをしたいという希望で職転したので、出向はある意味その究極のかたちだったのかもしれません(笑)。

-具体的にはどのような仕事をしていたのでしょう?どんな学びがあったかも教えてください。

菅野:自動車会社のブランディングとマーケティングを担う部署で、ブランド自体の認知やイメージを高めていくのはもちろん、ひとつの車種の戦略からプロモーションの実行までを担当していました。
クライアントの一社員としてのイベント運営の機会も多かったのですが、会場で直接お客さまと話してリアルな声を聞いたり、イベントの盛り上がりを目の当たりにしたりすることで、「生の現場をみる」ということの大切さを強く感じました。
もうひとつ痛感したのが、そうした現場の仕事の背景には本当に多くのステークホルダーがいるということ。広告会社は通常、宣伝部や広報の担当者を窓口として企業と向き合いますが、実際、事業会社のなかには、開発、デザイン、営業、協力会社などさまざまな立場の人がそれぞれ仕事をしています。
そういった環境のなかで仕事を進めていくことで役に立ったのが、立場の違う人同士を繋ぐ「翻訳力」であったり、人を巻き込んでストーリーをつくったりしていくPR発想。アウトプットとなる施策の実行はもちろん、社内における上申などのインナープロセスも含め、さまざまな立場の人とワンチームになりプロジェクトを推進するために、博報堂で培ったスキルが生きたと感じます。

意志のある人の思いを繋ぎ、プロジェクトを成功させることがモチベーション

-新しい学びもあり、またPR発想が生きた場面もあったということですね。

菅野:そうですね。会社を離れてみて、生活者発想やPR発想という客観的な視点は、やはり博報堂の強みなんだと感じて。同時に、広告会社の立場でマーケティングをしていると、どうしても数字的な机上の空論だったり、フレームワーク的なセオリーに依存してしまったりすることもありがち。でも、さまざまな立場の「正しさ」が存在する現場では、内部の事情や人それぞれの思いを解きほぐしながら、良い仕事をするために一緒にたたかっていくことが必要なんです。
出向先での経験を経て、現場の人の話を聞き、一次情報を取って仕事をするということが僕のスタイルの基本になりました。意志のある人たちの思いを繋いでプロジェクトを成功させる。それが僕自身のモチベーションにも繋がっています。

-出向先での経験が、菅野さん自身の仕事のスタイルにも大きな影響を与えたのですね。

菅野:そうだと思います。生活者発想だけでなく、現場の視点も捉えたマーケティングを行うことが結果に繋がる。直近の課題がアウター向けのコミュニケーションであっても、根っこでは得意先の社員一人ひとりが意志を持って前に進める道筋をつくることが大事だと考えています。
いまは出向から戻って博報堂で仕事をしていますが、クライアントの業種を問わず、インナーブランディングや、パーパスをつくっていく仕事にも取り組み始めています。

常にフロントラインに立つ。課題提起からエクゼキューションまでセットで提示する

-常駐という形ではなくクライアントと向き合うとき、大切にしていることは?

菅野:どんな会社も創業の歴史やカルチャーが重要な変数になっていると思うので、会社の歴史やストーリーを徹底的に勉強します。統合報告書や決算資料は必ず読みますね。
現場の視点という意味では、ワークショップなどいろいろな職種の人と直接会ってお話しする機会も大切にしています。僕が企業を深く理解するためでもあるし、違う立場の人を繋げていくためでもある。みんなでひとつのチームをつくっていくために大事にしているプロセスです。

-事業会社で学んだ「現場感」は、ほかのクライアントにも活きているのですね。

菅野:そうですね。まず第一に、自分がそのブランドや商材のファンになること。実際に買ってみたり体験したりと当事者意識を持つことは、ストラテジックプラナーとして戦略仮説をたてるために大事にしています。その上で、なるべく多く得意先に通って、課題から一緒に探していくという姿勢で仕事をしています。とにかく前線に立って、フロントラインでプラニングする。現場にはたくさんのモヤモヤがありますが、そのうちどれを掘り下げるべきか決める力が求められていると感じます。
ストラテジックプラニング局での師匠から学んだこととして「課題化力」という言葉があります。そもそも何に取り組むべきか?目まぐるしい社会変化やトレンドの波、多様化する生活者の価値観の中で問題が複雑化し、広告会社へのオリエンテーション自体をどうつくるべきか?と言ったことにも悩まれているクライアントもいらっしゃるのではないかと感じています。そういった状況から並走し、「課題化」をしていくことが博報堂の本来の提供価値かもしれない。
そして、課題を提起するとともに、それを解決するためにはPRがいいのでは?広告を打つのがいいのでは?とさまざまな打ち手を提示できることも、価値のひとつになっているのではないでしょうか。自分の強みは、こうした並走においてストプラでありながらエクゼキューションまでやりきるというところだと考えています。

PR×ストプラのチームで、新たな戦略プラニングモデル「SCOPE」にチャレンジ

-菅野さんはやはり、PRの経験を持つことが強みになっているのですね。

菅野:ストプラには、メディアプラニングにバックグラウンドを持つ人、データに強い人、コンサルのように経営視点を強みにする人などさまざまな特性のメンバーがいますが、いまPRを出自とするストプラのチームをつくって、自分たちなりのプラニングモデルを確立しているところです。
通常マーケティングではSTP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)が重要な要素とされますが、僕らはそれをSCOPEモデルと定義しています。

ターゲット設定の前段階で、短期・中期での社会潮流を読み解き、対象である企業やブランドの社会的価値を規定するところからはじめるというのがいちばんのポイント。いわゆる市場からの発想ではなく、「どうすれば商品やサービスが世の中で受け入れられるか」という社会発想を出発点としたプラニング手法です。そのうえで、ターゲットを見定めながら、その潮流に関わっているなるべく多くの仲間を巻き込むための方法を考える。
通常広告では「どう差別化するか」を重視しますが、そうではなく「どう巻き込むか」を考えるのもPR的発想です。関わる主体が多いほうが、メディアからも報じられやすい。
そして、その上でマーケティング発想での機会探索に加え、課題達成をどうトラッキングしていくかというストプラが得意とする領域を接続させる。そして初めて生活者の態度変容や行動をつくっていくエグゼキューションを設計するという流れでIMC(統合マーケティングコミュニケーション)を立案する。PR的な社会発想とストプラ的なマーケット発想を地続きに接続させていくことを目指した方法論として意識しながら、普段企画に向き合っています。

-PR発想を活かしたプラニングで、今後どのような仕事に取り組んでいきたいかなど、展望を聞かせてください。

菅野:たとえばロングセラーブランドのリブランディングなど、いまの世の中との接点を捉え直すタイミングでは非常に有効な手段だと思っています。また、新しいサービスや商品を開発する際にも、最初から社会視点をインストールすることが重要。新規事業の開発にも併走させていただけたらうれしいですね。
PR発想で戦略を描いたうえで、制作・実行まで一貫して携わるのが自分のスタイル。戦略とエグゼキューションを橋渡しして繋げることが、クライアントに提供できる価値だと思っていますし、そもそも今何をしていくべきなのかというフェーズでの壁打ち相手的な役割でお手伝いさせていただくお仕事も多いです。
今後もフロントで「現場」に対峙しながら、戦略設計からクリエイティブディレクションまで責任を持ってリードしていく存在になっていきたいです。

菅野 光輝
博報堂ストラテジックプラニング局/博報堂ケトル

マーケティングプラニングディレクター/PRディレクター
2018年博報堂入社。事業会社への出向などを経て、現在は博報堂ストラテジックプラニング局と博報堂ケトルを兼務。PR発想”を軸としたマーケティング戦略立案から、ブランド開発、広報戦略、クリエイティブの企画/実行まで、横断的な統合コミュニケーション業務に従事。JPMプラニングアワード、ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS、広告電通賞、日経広告賞、京都アニものづくりアワード等。

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