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マーケティングシステムの今〜マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【vol.15】そのAIクリエイティブ、本当に使って大丈夫? AI活用を止めない設計図―AIガバナンスを構築するためのポイント

2025.12.10
マーケティング活動において、データとテクノロジーが果たす役割は年々高まっています。データ基盤整備やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)活用、マーケティングオートメーション、AI活用といった言葉は、もはや特別なものではなくなりました。一方で、それらを「実際の事業成長」に結びつけられている企業は、想像以上に少ないのが実情です。本連載では、博報堂マーケティングシステムコンサルティング局(以下、マーシス局)のメンバーが、事業グロースに向けた「生活者発想×データ×テクノロジー」の挑戦について、日々現場で向き合っている知見や視点から発信していきます。
第15回は、AIの価値を真に引き出し、創造性の飛躍的向上と生産性の両立を実現するためのポイントを考えていきます。生成AIは、ゼロからクリエイティブを生成するのではなく、過去の膨大なクリエイティブを参照して生成しています。そのため、利用者が意図せず、誰かの著作権を侵害してしまうリスクは避けられません。
・Q1:現場は迷っていませんか?生成AIの利用可否の判断を現場に委ねていませんか?
・Q2:著作権以外のリスクは整理できていますか?
・Q3:リスクが顕在化したときに、即座に対応できますか?
こういった質問に明確に答えられない場合、AIの潜在力を十分に引き出せていない可能性があります。生成AIの適正利用を推進するうえで、現場の「不安」の原因となる属人的な判断を「客観的な仕組み」に変えることが重要です。
本稿では、我々が実践してきた実務知をもとに、この不安をどう推進力に変えるか、AI活用に伴うリスクを網羅的にカバーするガバナンス設計の「3つの重要な視点」を、AIを事業に組み込む全ての企業が共有すべき、社会への責任(アカウンタビリティ)と継続的な改善のフレームワークを前提にまとめました。

稲毛 隆之
株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局
データプラットフォーム推進部 マーケティングプラニングディレクター

1. ガバナンス設計の出発点:現場運用を妨げる「客観性」と「網羅性」の課題

生成AIの導入が進む一方で、その効果、特にクリエイティブ領域における創造性や生産性の飛躍的な向上という、次なるフェーズの効果を最大限に発揮できていない企業が多いのが現状です。

この効果の最大化を妨げているのが、多くの企業で共通するガバナンス設計の課題、すなわち判断の客観性の欠如とリスクの網羅性の不足という構造的な問題です。

判断の客観性(属人性の問題): 現在、多くの現場で、著作権侵害リスクに対し、特定の作品名などをプロンプトに入力しない、生成物を汎用的な検索でチェックするといった暫定的、かつ手動による低減策に頼りがちです。この運用では、チェックの客観的な基準が欠如しており、利用者の感覚的な判断に依存する属人的な運用になりやすいのが実態です。その結果、「法的に使ってよい内容か判断がつかない」といった不安が現場の停滞を招いています。

リスクの網羅性(未検討リスクの問題): AIの可能性の広がりとリスクの広がりは紙一重です。AIの活用が文章のみならず、画像や動画の生成を含めてあらゆる場面に適応可能となり、自然言語で誰もが簡単に使えるようになったことで、ガバナンスの再整備が急務となっています。特に、プライバシー侵害、公序良俗違反などの著作権侵害以外のリスクに対する検討が未着手であることが散見されます。また、リスク顕在化時の初動対応、部門連携、外部専門家との連携プロセスが未策定であることも、網羅性を損なう大きな要因となっています。

【図表1】AI活用の真の効果をはばむ要因

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