

2025年の夏は、日経平均株価の上昇や関税引き下げ、GDPのプラス成長など象徴的な金融ニュースが報じられました。もちろん、こうしたマクロ経済の動きが私たち一人ひとりの生活実感や行動に直結しているかといえば、必ずしもそうではありません。実際、今回実施したアンケート調査(※1)でも「印象に残ったニュースは特にない」と答えた人が7割を超えました。日々の金融ニュースは、生活者にとってまだ距離の遠い話なのかもしれません。

しかし、その中でも興味を持って反応している一定の層が存在しています。すこし見ていきましょう。今回、最も生活者の消費意欲/投資意欲を高め、景気が良くなると生活者が感じたニュースは、「日経平均4万5000円突破」のニュースでした。次いで、「最低賃金1,100円超え」「アメリカ利下げ決定」「GDPプラス成長」に注目が集まりました。日本経済にとってインパクトのある、史上初・GDP・最低賃金など、市場や株価がビビットに反応しそうなニュースが上位に君臨しました。

年代で見てみると、特に投資意欲が上がるニュースにおいて傾向が出てきました。
20/30代がグーグル親会社「アルファベット」の時価総額に対して関心を示しているのに対して、40/50代は自動車関税についてのニュースが他年代に比べて大きく挙がっています。投資先やカテゴリについても、年代別で国内外や関心分野に差があることが分かります。


続いて、今回のテーマである「住宅購入意識」について深掘っていきましょう。
東京オリンピック前後から続く住宅価格の高騰は、多くの生活者にとって「今住宅を買うのは損」という感覚を定着させました。今回の調査結果を見ても、未だにその意識は強く残っていることが伺えます。「価格が下がれば買いたい」「価格は下がらない」という検討層以上に、「賃貸や実家で充分」と、初めから住宅購入を選択肢に入れていない層が全体の1/4(24.9%)を占めています。

「賃貸や実家で充分」という意識は20代/30代の若年層に多いかと思いきや、世代別で見てみると、年齢に関わらず一定程度確立された意識であるということが分かります。


この意識だけを見ると、「“買わない”という合理性を選択する人が増えている」と結論づけることも可能ですが、果たして本当にそうでしょうか?もう少し、「住宅に対する理想」という視点でも深堀りました。

「賃貸か持ち家かどちらが自分に合っているか?」という質問に対しては、「賃貸/実家で充分」という人でも意見は半々。昔からある“持ち家神話”は絶対ではなくなり、“買わない”という現実的な選択肢が可視化されてきました。
ただし、その背景は“合理性”の一言で片づけられるものではなく、価格要因やライフイベント、価値観の多様化が複雑に絡み合って「”今は”賃貸が合理的」という結論を出した生活者が多いことが読み取れます。
では、局所的に見ていた「住宅に対する理想」を、様々な視点でも見ていきたいと思います。
現在の住宅関与に引き続き、二律背反の選択肢で住宅における考え方も聴取しました。

理想とする住宅タイプについては、各々拮抗しつつも「持ち家」「戸建て」「新築」「注文住宅」「利便性(駅近など)」「郊外」を理想とする傾向が多く見られます。


資産運用やローンの借り入れの傾向を見ると、「固定金利」「頭金」「給料の3割まで」と、変動する経済状況の中でも影響されない安定した返済計画を望んでいる傾向が強く出ています。日本人の将来予測ができないことに対する嫌悪感や恐怖感がここに現れており、この資産運用機運が高まっている時代にも関わらず、住宅を資産運用のいち商品として捉えることはまだまだ遠い先の話になりそうです。
ちなみに、本調査では前述の二律背反質問を「Aに近い」「どちらかといえばAに近い」「どちらかといえばBに近い」「Bに近い」の4段階で聴取しました。その中で、「どちらかといえば」の中間択が最も多かった(=悩んでいる/確信が持てない)のは「変動金利か、固定金利か」という設問でした。

反対に、中間択の選択が少なかった(=明確に答えが決まっている)設問は「マンションか、戸建てか」という設問でした。生活者各々に解像度の高い理想の住まいはあるものの、昨今の状況や先の読めない経済状況の中では、どのような返済設計が正解なのか確信を持てず、ハードルを感じている人が少なくないことが分かります。

最後に、東京在住の方とそれ以外で、意識として差が大きい項目を比較してみたいと思います。

意識の差として大きいのは地域差として推測しやすい「都心・マンション・利便性」などの項目ですが、反対に地域差がないのがローンに対する意識。ペアローンなど、地域差が出やすそうな意識においても、同様の傾向が出ました。
今回は、最近の金融ニュースへの関与と「住宅」についての意識を見ていきました。
改めて、今回の調査で取り上げたトピックをまとめてみましょう。

住宅に目を向けると「アドレスホッパーが増えている」「不動産投資が増えている」…など、センセーショナルなトピックが多く目に入りますが、それでもこうしてデータを見ると、まだまだ「堅実な様子見」勢が多くを占めていることが分かります。今後下がるかも分からない住宅価格と、堅実な返済プランを考えている生活者の間にある溝にどう働きかけることができるのかというのは今後の課題点です。
一部のイノベーターに目を向けることももちろん大切ですが、同時にマジョリティである「堅実で、最低限を求める生活者」のリアリティを突き詰めていくことが、金融マーケティングにおける重要なポイントなのではないか。今回の調査では、改めてそう感じさせる結果が多く出たように思いました。
「Finance Insight News」では、今後も金融にまつわるニュースやトピックを皆さんにお届けします。次回をお楽しみに!
■調査概要
※1 博報堂「金融マンスリー調査」2025.09
【調査エリア】全国
【調査対象者】20~60代男女 1,000名
【実施時期】2025年9月

2018年博報堂入社、マーケティングディレクター/UXUIディレクター。
広告マーケティング、商品開発、ブランディングなどの業務を経て、UXUIを主戦場に出口無限の体験をデザインします。
生活者体験を具体的にイメージできる戦略と、骨太な戦略のあるUXを、一気通貫で設計していきます。

新卒で外資系大手SIer入社。その後、大手メディアサービス企業にてネット業界ブランディングに従事、総合広告会社を経て現職。クリエイティブ・事業からシステム基盤と振り幅の広いスキルを最大限に活かすフィールドを求め、博報堂に転身。現在は、BtoB、飲料、通信・自動車・HR・Fintechとあらゆる業種を担当し、事業視点からのマーケティング戦略を策定するチーフイノベーションディレクターとして活動。JAAA懸賞論文戦略プランニング部門3度受賞、共著「ウェルビーイング市場を拓く技術開発戦略」