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ヒット習慣予報 vol.384『新・社交場通い』

2025.11.04
#トレンド

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの中林です。

毎年10月になると、街にある金木犀の量に驚きます。
インドア派も出かけたくなる気候になってきましたね。
すこし遠回りして歩いて帰ったり、早起きして出かけてみたり、、、散歩がはかどる秋は、出会いの季節。季節問わず外出好きなわたしですが、最近街を歩いているうち、新しい「社交場」が増えていることを発見しました。
今日は、実際にその空間を覗いて見えてきた、新・社交場に通う人たちのインサイトについて、事例とともに紐解いていこうと思います。

ひとつ目は「ニュースナック」です。
スナックといえば、ベテランのママがいて、そしてママを囲むように並んだ常連さんたちが、歌謡曲を歌い煙草をくゆらす、、、そんな、昭和の匂いがする夜の社交場。一見若者からは嫌煙されるように思えますが、ニュースナックの登場によっていま、スナック人気がじわじわと高まっているのです。

▼「スナック」(「ビジネス・産業」カテゴリ)の検索数推移

出典:Googleトレンド

ニュースナックとは、若い世代が若い世代のために開くスナックのこと。ママを務めるのは、20〜30代の若者たち。したがってお客さんも若者中心です。店の外観もクリーンで、カフェのような顔つきで初めての人でも入りやすいようになっているのがニュースナックのポイントなのだとか。若いスタッフたちが間に入り、来た人同士が自然と会話できる空間をつくっています。わたしの友人の中にも、日中は会社員、夜はスタッフとしてスナックやカフェに立っている人がちらほらいて、仕事というより趣味感覚で接客を楽しんでいる人が多い印象です。
なかには「恋バナナイト」「仕事やめたい会」など、日替わりでトークテーマを設けた店もあり、“飲み場”が、“話し場”へと進化しているのがわかります。大人数の飲み会は得意じゃないけど、お酒は好き。話すのも好き。そんな人たちが集まって、お酒よりも会話に酔う場所として人気を集めているようです。

2つ目は、「ジムカフェ」。
近年の健康志向の波に乗り、いろいろなシステムのジムが増えていますが、なかでも最近若者から人気を集めているのがジムカフェ。その名のとおり、ジムとカフェが融合した空間ですが、目的は「鍛える」ことではなく、「整える」こと。運動と作業、そしてちょっとした社交を混ぜ合わせた空間が、若者にとっての新しいサードプレイスとして活用されているのです。
カフェといっても、ただコーヒーが飲めるだけではなく、個室ブースやWi-Fi環境を備えたスペースが併設されているのです。そのため、トレーニングの合間にメールを返したり、打ち合わせをしたりが可能なのです。SNSで上で実際に使用している人の声を調べてみると、仕事も捗るしカフェ代も浮くしで一石二鳥との声があがっていました。
運動後は脳の集中力が高まり仕事もはかどりやすいため、ルーティンとして訪れる人が多く、次第に顔なじみができる仕組みに。友達でも同僚でもないけれど、なんとなく挨拶を交わすような関係が生まれるジムカフェは、適切な距離感を大切にする若者にとって理想的な社交場になっているのかもしれません。

最後は「シェアギャラリー」です。
従来ギャラリーとはアーティストの作品を展示し、そのアートを鑑賞・購入するための場所でしたが、最近注目されているのは、社交の場として使われるケース。
カフェの一角や、ビルの空きフロアなどを活用し、誰でも作品を展示できるオープンスペースとして開放し、プロの作家だけでなく、会社員や学生、趣味で活動している人の作品などが集まります。また、月額制でスペースをシェアする仕組みもあり、出展者同士がイベントを企画したり、作品を交換したりと、緩やかなコミュニティが形成されているようです。以前家の近くのシェアギャラリーを訪れたときには、「SNS上では得られない生の反応が嬉しく、モチベーションにつながる」という作家さんの話を聞きました。
アートやデザインを通じて自分の世界観を発信したい若者にとって、シェアギャラリーは発表の場であり、同時に新たな価値観を得られる社交場でもあるのですね。

では、なぜいま、このような新・社交場が注目されているのでしょうか?
まず考えられるのは、コロナ以降希薄になっている人とのつながりを感じたい、という欲求が若者の間で高まり、そのニーズを満たす場所が増えている、ということです。SNSで常時接続しているからこそ、オフラインでの対話に価値を感じる人が増え、気軽に他人と交流できる場所が重宝されているのだと推測できます。
上記の3つの場所には、まさにその「他人との適度なつながり」があるため、個人の自由を保ちながら、ふとした会話や共感を分け合える。そんな関係が、現代の新しい社交ニーズを満たしているのかもしれません。
また、タイパ思考の若者は、「目的+α」の価値を重視します。そのため、何かひとつの目的のためだけに時間を使うよりも、ひとつの場で複数の報酬がある空間のほうが有意義との思いから、このような社交の場を利用している人も多いのかもしれませんね。

最後に、「新・社交場通い」について、新たなビジネスチャンスを考えてみました。

「新・社交場通い」のビジネスチャンスの例
■悩みを聞いてくれるAIママのいるスナック。一度来た客は必ず忘れない。
■オフィス内にシェアギャラリーを併設。以外な才能を発掘する場に。
■観光客向けの社交場ガイドブックの発行。旅行者でも繋がれる仕組み。

映画好きだった祖父の横で育ったからか、小さなころから「常連」へのたいへんな憧れがありました。家族でも友人でもない、一定の距離を保った関係。けれどある側面では家族すら知らない顔をさらけ出していて、会話の節々に親密さが見え隠れしている。ああ、いいなぁ、私もいつか行きつけの店で、いつもので、なんて言って、他愛もない話をして、、、とよく妄想したものです。大人になってもその憧れは変わらず、二度目三度目と足を運ぶときは「覚えていてくれますように」と淡い期待を込めて扉を開けたりしています。
やっと涼しくなってきたこの秋に、みなさんも新しい社交場へ足を踏み出してみてはいかがですか?

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

中林 磨美(なかばやし まみ)
博報堂 クリエイティブ局
ヒット習慣メーカーズ メンバー

2021年博報堂に入社。一人前のコピーライターをめざして毎日修行中。いわしが好きです。

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