
永渕 雄也 博報堂ケトル / PROJECT_Vega クリエイティブディレクター・PRディレクター
藤波 真由 博報堂ケトル / PROJECT_Vega プラナー
井上 優介 オズマピーアール
佐野 裕太 オズマピーアール シニアPRディレクター
香野 夢友 オズマピーアール アソシエイトPRディレクター
-Creative PAはPROJECT_Vegaとオズマピーアールの合同プロジェクトということですが、これまでの活動について簡単にご紹介ください。
永渕:はい。PROJECT_Vegaは、生活者や国、企業など立場の違うそれぞれの課題や想いを重ね、「共創機会」を見出すことでよりよい社会の創出を目指して活動しています。私は博報堂に入って20年以上ストラテジーとPR、そしてクリエイティブの領域に携わってきました。同じくメンバーの藤波も、PRの現場でキャリアを積んだ人間。一方オズマピーアールはPR会社としてパブリックアフェアーズの専門チームがあるんですよね。

井上:そうですね。オズマピーアールでは2021年からPAの専門チームを設けています。なぜPR会社がパブリックアフェアーズ?ときかれるのですが、さまざまなステークホルダーを巻き込んでつなげることは我々PR会社の得意分野。実はすごく親和性の高い領域なんです。そこに、独立行政法人でキャリアを積んだ香野や、公益財団法人や在外公館での経歴を持つ佐野など、パブリックに強いメンバーも加わることで、PR会社が得意とする「世論形成力」「巻き込み力」と、実際に「ルールを変える力」を併せ持った独自のアプローチが可能になっています。
永渕:我々は真ん中に「PR」という基盤をおきながら、クリエイティブ領域に長けたVega、PAの実績を持つオズマピーアールの力を融合させて新しいサービスをつくっていこうとしているところなんです。
-そもそもPA(パブリックアフェアーズ)とは?
井上:企業や団体が、政治家や官僚などといった市場の外側にいる人を巻き込むことによって、ルールに変更を与えるためのコミュニケーション活動を指します。政治家に対する働きかけをロビー活動と言いますが、PAは、メディア、NGO、シンクタンク、アカデミア、さらには生活者まで幅広いターゲットへの働きかけが大切。だからこそ、コミュニケーションの専門家である我々が取り組む意義があるんです。

-Creative PAはそこにクリエイティブの要素がプラスされているのですね。
永渕:そもそも、PAにおいてはルール=法律と捉えられることが一般的ですが、前提として僕らの考えるルールには、生活者の意識によって形成される社会規範や世論といったものも含まれます。それを意図して「生活者ルール」とよんでいるのですが、そのうえで、実際にルールメイクをするためには誰をどう巻き込んでいけばよいか、という仕組みを熟知しているのがオズマピーアールのPAチーム。そこにVegaは「ルールが変わった後、暮らしがどう変わるか、ブランドの見え方がどう変わるか」というルールの先にある新しい当たり前を創造する価値をプラスしています。
その未来に向けてみんなが応援してくれるムードづくりや、新たな共感を生み出すのがクリエイティブの力。Creative PAとは何かを一言で表すと、「アイデアと共感で新しい暮らし方をつくっていくこと」と言えるかもしれません。

井上:日本でも最近ようやく、ビジネスにおいてルールメイキングが重要であると認識されはじめているんですよね。法律をはじめ、ルールをつくることで自社ビジネスをより成長させるというのは海外では一般的。日本でも取り組みがはじまって、注目されています。
-日本では、特定の企業のために法律やルールを変えていくことに抵抗を感じる人も多いように感じます。
佐野:たしかにそうかもしれません。私はこれまでに40カ国以上の国を回ってきましたが、日本社会ではやはりルールは守るものという意識が根強いですよね。法律は守るものだし、日常的に空気を読むことが大切とされています。法律も社会規範も、変えるものというより従うものだという認識が強いと思います。一方で国際社会を見てみると、必要に応じてルールを変えていこう、ルールは変えるべきである、という考え方は一般的であるように感じます。こういった意識は、今後日本にも必要になってくるのではないでしょうか。

永渕:先に述べたように、Creative PAの特徴として、法律や業界規制のように明文化されたものだけでなく、社会規範や世論といった暗黙のうちに守られているものもルールと捉えています。たとえば、ノンアルドリンクで乾杯してもいいじゃないかとか、配達される荷物も置き配でいいじゃないかといった、生活者の新しい価値観に沿ってルールを変えていくこともPAのひとつです。それが、企業にとってのチャンスになり得ると考えています。

この図の左側にあるいわゆる法律や規制というのは企業のなかの法務部や渉外部などが管轄する領域。一方、右側の社会規範や世論は広報やマーケティングの領域とされていて、それらをまとめて考えるというのは企業にはあまりない発想でした。我々はPublicルールとPeopleルールをトータルで考え、コミュニケーションの力で事業やマーケットを変えていこうと考えているんです。
井上:昨今さまざまなテクノロジーが生まれていますが、それを社会実装するためには法律だけでなく、世論も巻き込んだルール整備が必須になります。それは市場規模としてもかなり大きいものになり得る。世論や社会規範といったルールにも着目することで、よりパワフルな解決策を導き出せるというのが、これまでのPAとの大きな違いです。
永渕:やはりそこがチャンスだと思うんですよね。従来のPAは、新しい技術が使えるようになるための法整備を主目的にしています。しかし、それだけだと、ルール的にはOKなんだけど、みんなが「ココロの中では納得していない」から使いにくい環境のまま、、では意味がありません。僕らは生活者の意識変化までワンストップでマネジメントすることに大きなチャンスがあると考えています。
-その視点に博報堂の生活者発想が生きてくるということなんですね。
藤波:そうですね。私たちが大切にしているのは生活者個人の思い。「保育園落ちた日本死ね」の書き込みではないですが、N=1の声から世論の流れを拾って、ルールを“チャンス”にしていくというのがPAとクリエイティブの掛け算で生み出せることだと考えています。
身近な例でいえば、なぜ花嫁はブラックドレスを着てはいけないの?という疑問から、いまは式場でも黒のカラードレスを置くようになっていますし、何度も配達してもらうのは申し訳ないという思いから置き配もこれからの当たり前になろうとしています。

香野:これまでPAが扱ってきたPublicルールだけでなく、世の中の規範であるPeopleルールを取り入れることで、生活者がより変革を享受しやすくなるというメリットがありますよね。
永渕:ルールと聞くと「制限されるもの」というイメージがありますが、そうではなく、ルールを機会と捉える。たとえN=1の声だとしても、同じように感じている人はもっと他にもいるんじゃないかと発見する。我々の培ってきた生活者発想で機会を見つけ、それに紐づくルールを変えていくことで、新しい暮らし方を生み出していくことができるはずなんです。
井上:そのプランニングメソッドをまとめたのが「生活者ルール発想」。企業活動がどのようなルールに影響を受けているのか、PublicルールだけでなくPeopleルールとの両輪でアプローチしていくことが我々の強みです。
-もともと独立行政法人にいた香野さんは、このPAのアプローチについてどう感じましたか?
香野:政策をつくる側だけでなく、世の中を巻き込みながらPAに取り組むというのはすごく新しいですし、次世代型だと思いますね。PAの領域としてもPR業界としても最先端なのではないかと感じます。
たとえばオズマピーアールでは、2019年より不妊症・不育症の当事者団体であるNPO法人Fine の不妊(治療)啓発の活動をお手伝いしてきています。数十年前まで、日本では不妊が少数の人の特殊な問題だと捉えられていましたが、実は多くの人が人には言えず悩んでいる現状があり、Fineは長年にわたりその課題の解消に取り組んでいます。そういった声なき声を当事者ヒアリングや繰り返しの調査を通じて顕在化させ、その結果が学術研究や政策立案に活用され、また少しずつ広くメディアに記事として取り上げられていったことで、不妊に対しての社会認知が高まり、現在に至ります。FineのPR活動の大きな成果として、2022年には当事者の要望の一つであった不妊治療の公的医療保険への適用というルール改定を実現しました。

それから、著名人がご自身の体験をメディアで発言されるようになり、社会的な理解が少しずつ進み出したところに、保険適用の流れがきたんです。Fineの取り組みは、生活者(当事者)の声を起点に世の中の新しい当たり前をつくることができた、ひとつの好例だと思いますし、オズマピーアールは大変意義深い活動にご一緒できました。
井上:この事例はNPOとの取り組みでしたが、企業との取り組みだとしても同じこと。クライアントの利益のためだけではなく、世の中の人にとっての利益にならなければ意味がありません。N1の声を理解して、社会に対してきちんと影響力を持つものにするというのが我々の大切にしている視点です。
-PROJECT_Vegaとオズマピーアールはどのように連携してサービスを提供するのでしょう?
井上:どちらもPRのプロフェッショナルですので、世論をつくるという得意分野でお互いの知見を掛け合わせながらプロジェクトを推進します。オズマピーアールには官公庁出身のメンバーも在籍していますので、ルールメイクの実行性を高めるという領域では我々がリードする部分が大きいですね。
藤波:Vegaとしては、プロジェクトをより大きな取り組みにするためのクリエイティブジャンプをもたらすことが役割のひとつだと考えています。地方創生やソーシャルグッドに取り組んできたメンバーなど、さまざまな専門性を持ったクリエイターがいるので、その知見を活かした提案で貢献していきたいです。
永渕:さきほど「アイデアと共感で新しい暮らし方をつくる」と言いましたが、そのビジョンを伝えるために、最終的には言語化やビジュアライズする力も必要。コピーライティングなど、広告で培ったクリエイティビティを発揮することも重要な役割だと考えています。

-最後にこれからどんな取り組みをしていきたいかなど、展望をきかせてください。
永渕:長年同じルールのもとで事業をされている企業も、常にルールが更新され続ける環境の企業も、同じようにイノベーションの可能性があると考えています。PublicルールとPeopleルールの両軸で検証するというアプローチは、おそらくどの企業もチャレンジしたことがないのではないでしょうか。その視点を持って新たなルールメイキングに取り組むことが、生活者から応援される企業へとつながっていくと思います。
井上:実は市場の外側にもさまざまなステークホルダーがいて、そこに着目することが市場を広げることにもつながるんですよね。ルール形成戦略を取ることで成熟市場でも有利な立場をとることができる。
またPAという手法は、世論を変えるだけでなく行動変容までもたらす可能性があるというのも重要なポイントです。現状の活動に限界を感じている企業さまや、行動変容に至らずお悩みの場合はぜひお声がけいただければと思います。
永渕:やはり日本人はルールに真面目なので、ルールが変わると行動も変わりやすいんですよね。僕らが常に注目しているのは、現状のルールと生活者の価値観とのズレやスキマです。そのズレやスキマを埋める新しいルールがつくれたら、それは大きなチャンスになるはずですし、新しいルールをつくることがこれからのクリエイティビティの発揮のしどころだと思います。
Creative PA サイト:https://www.hakuhodo.co.jp/vega/#creative_pa




