
德田 晃弥
株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局
CRM推進部 CRMコンサルティングチーム
「お客様との関係性を強化し、LTV(顧客生涯価値)を向上させたい」――。
多くの企業がこの命題を掲げ、その有力な打ち手として「ロイヤリティプログラム」を導入・運用しています。しかし、その実態に目を向けると、多くのご担当者が共通のジレンマを抱えているのではないでしょうか。
「結局のところ、割引やクーポンがなければ顧客は離れてしまうのではないか」
「ポイント還元率の競争は、もはや"体力勝負"の様相を呈している」
「会員数は増えても、事業収益への貢献が見えづらい」
これらは、私たちがクライアントの皆様から実際に耳にする切実な悩みです。もし、貴社のロイヤリティプログラムが、こうした「お得感」の提供、すなわち「経済ロイヤリティ」の追求に留まっているのであれば、それは顧客との間に真の絆を築く絶好の機会を逃している危険なサインかもしれません。
本稿では、変化し続ける市場と生活者の中で、企業が顧客から真に選ばれ続けるための、新しいロイヤリティプログラムのあり方を、広告会社である博報堂ならではの視点で解き明かしていきます。
「なぜ今、ロイヤリティプログラムの根本的な刷新が求められているのか」について、その背景と本質に深く迫ります。
多くのロイヤリティプログラムは、購入金額や頻度に応じてポイントを付与し、そのポイントを値引きやクーポンに交換できる、という仕組みを基本としています。これは顧客にとって分かりやすいメリットであり、短期的な利用促進には確かに繋がるでしょう。
しかし、その効果は永続的ではありません。よりお得な条件を提示する競合が現れれば、顧客はいとも簡単にスイッチしてしまう可能性があります。割引率の競争は、短期的には顧客を惹きつけますが、長期的には企業の収益性を圧迫し、ブランド価値を毀損する可能性があり危険です。これは、多くの担当者が抱える「安易に廃止すれば顧客が離れてしまう」という恐怖の根源であり、「お金の切れ目が縁の切れ目」という言葉が、まさに大きな不安として横たわっています。
なぜ、このような事態に陥ってしまうのでしょうか。
それは、ブランドと顧客の間に「お得」という経済的な繋がり以上の関係性、すなわち「心理ロイヤリティ」が育まれていないからです。
「心理ロイヤリティ」とは、顧客が企業やブランドに対して抱く「愛着」「信頼」「共感」といった、目には見えない感情的な繋がりのことです。この「心理ロイヤリティ」こそが、価格や利便性といった合理的な判断基準を超えて、「このブランドでなければならない」と顧客に思わせ、長期的なファンでい続けてもらうための、揺るぎない土台となるのです。
一方でロイヤリティプログラムが正しく機能していない企業では、会員の年間利用額が非会員を下回るという衝撃的なケースも出てきており、プログラムが意図せず「価格重視の顧客」を育ててしまっている場合もあります。今こそ、私たちはロイヤリティの本質に立ち返り、顧客の「心」を動かすプログラムへと舵を切るべきなのです。
