THE CENTRAL DOT

AI・ブロックチェーン・生体認証等の最新技術がもたらす「生活者主導型CRM」への可能性【第1回】分散型ID(DID/VD)がどう課題を解決できるのか?

2025.09.30
国内の人口が減少し市場が縮小していくこれからの日本において、顧客と長期的な関係を築いていくCRMは、多くの企業にとってこれまで以上に重要な取り組みとなります。AIやブロックチェーンといった最新技術を駆使した新しいCRM。その方法論を探る連載記事をお届けしていきます。第一回となる今回は、事業会社で新しいチャレンジに取り組んでいるお二人と、博報堂グループでweb3事業をプロデュースする博報堂キースリー、博報堂マーケティングシステムコンサルティング局のメンバーを招いて、現在のCRMの課題と、新しいCRMを構築する道筋について語り合いました。

樋口 雄哉氏
NEC デジタルプラットフォームビジネスユニット
バイオメトリクス・ビジョンAI統括部
web3ビジネス開発グループ

岸本 隆平氏
トヨタファイナンシャルサービス 戦略企画部
ブロックチェーングループ シニアマネージャー

白子 義隆
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局

松井 大輔
博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局

ファシリテーター:寺内 康人(博報堂キースリー)

生活者情報のトータルな把握は可能か

寺内 博報堂は「生活者発想」というフィロソフィーを掲げています。消費や購買という行動だけではなく、人々の生活を360度の方向から理解し、その洞察に基づいてマーケティング活動を行うべきである──。それが生活者発想の考え方です。

しかし、この考え方と従来のデジタルマーケティングの間には、乖離があるように感じます。デジタルにおける生活者理解は「点」や「線」にとどまっており、360度からの理解が必ずしも実現していないのが実態です。

今回お招きした皆さんは、その課題を解決できる視点をお持ちの方々です。連続座談会を通じて、生活者発想に基づいたCRMの新しい可能性を探っていきたいと思っています。

はじめに、現在のCRMの課題について、NECの樋口さんに伺いたいと思います。

樋口 デジタルマーケティングにおけるCRMには、「打率の低さ」という課題があると感じています。例えば、ある人にメールで情報を送っても、その人がその情報を本当に必要としているかどうかはわかりません。むしろ、その人のニーズにヒットする確率の方が低いでしょう。アプローチの「打率」を上げるには、その人の行動データや購買データを統合して、その人が何を欲しているかといったファクトを把握する必要があります。

もう一つの課題は、情報のフレッシュさです。企業がAという人の情報を最初に獲得した時期がその人が学生の頃だったとすると、Aさんの登録上の属性はずっと「学生」のままである。そういうケースが少なくありません。同様に、職業、家族構成、住所などの情報も、最初の登録時のままということがよくあります。そのような更新されていないデータを持ち続けていても、確度の高いアプローチは実現しません。

これからのCRMには、フレッシュな情報を1つのID(アイデンティティ)(※)としていかに把握するかといった視点が求められると思います。

※ID …本座談会では、単なる識別子という意味だけではなく、個人の属性や行動ログも含めたデジタルアイデンティティという概念で使用。

白子 そういった課題は、プラットフォーマーだけでなく、ファーストパーティデータ(※)の保有者である事業会社も抱えていますよね。多くのプレーヤーに共通する課題と言っていいと思います。
※ファーストパーティデータ…企業が直接収集して保有する顧客データのこと

岸本 生活者の立場に視点を移してみると、「自らをトータルに表現することができない」という課題と言えるかもしれません。デジタル上では、プラットフォームやサービスごとに異なるIDがあります。一方でリアルにおいても、店舗や施設ごとにIDが存在します。それらが統合されて、自分をデジタル上で表現することが可能になれば、生活者はあらゆるタッチポイントで自分に合ったサービスを利用できたり、本当に欲しい商品のリコメンドを受けたりすることができるようになるはずです。

寺内 それを実現できるテクノロジーはあるのでしょうか。

岸本 「DID/VC」はその一つになるかもしれません。一人ひとりの生活者がIDを直接管理して、自らの意思に基づいて開示することを可能にするのがDID/VCで、DIDは「分散型識別子」、VCは「検証可能な証明書」を意味します。特定のプラットフォームに依存してIDを管理するのではなく、ユーザー自らIDを管理できるのが大きな特徴です。

FACEBOOK
でシェア

X
でシェア