
<プロジェクトメンバー>
(写真左から)
石淵 順也氏
関西学院大学商学部 教授
柿原 正郎氏
東京理科大学経営学部国際デザイン経営学科 教授
杉谷 陽子氏
上智大学経済学部経営学科 教授
西村 啓太
博報堂DYホールディングス
Human-Centered AI Institute 所長補佐
本プロジェクト共同代表
澁谷 覚氏
早稲田大学大学院経営管理研究科 教授
本プロジェクト共同代表
米満 良平
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター GM 上席研究員
西村
前回(第9回)は、博報堂 メディア環境研究所(以下、メ環研)のレポート「AI時代の『検索』どうしてる?最前線」の調査結果をもとに、検索が“無意識化”していることや、若年層が「検索上位」や「フォロワー数」などを情報の信頼性の拠り所にしている点などを取り上げてきました。
澁谷
マスメディアからSNSへ信頼の拠り所が移っているように、30年ほど経って今の若い人が50-60代になったとき、今度はSNSからAIに拠り所が移っている可能性もありそうですね。
米満
今の深化のスピードからすると、もしかしたらもっと5年10年と早いペースで移ってもおかしくなさそうです。
西村
そうですね。信頼の拠り所は、世代論にかなり依存していて、若い人たちがSNSの次にAIを受容していくと、そのほうが信頼できるというパーセプションを築くかもしれません。一方で、現時点では先の調査では、AIは「若年層が信頼する情報源」として下位であることです。デジタルネイティブなら、よりAIのほうを信頼してもよさそうです。これがなぜか、とても興味がありますね。ハルシネーションなどの話もありますが、さらには「感情を揺さぶらない」からだと思うんです。
ここまでの一連の議論で、我々は「感情が揺さぶられるとそれがトリガーとなって、『評価する』ことを飛ばして購買行動に至るのではないか」といったことを話し合ってきましたが、AIの情報は現時点でそのようなトリガーになっていないと捉えられます。AIの情報も、近い将来に感情を揺さぶるようになるのでしょうか?
石淵
現状では、AI検索は、たとえばビジネスホテルの膨大なレビューをまとめたりしてくれるので、それは個人的にとても便利です。けれど、まだ楽しいわけではないので、感情が揺さぶられるかというと違います。ここで、心に訴えるような楽しい提案ができるかどうかが、今後の進化を左右しそうです。

澁谷
たしかに現時点ではそこまで至っていませんが、確実に「感情を揺さぶるもの」になると思います。現に、単なる検索・探索を超えたディープリサーチのようなことを進めると発表しているAIエージェントもあります。ただ、それは情報そのもので感情に訴えるというより、インフルエンサーや動画配信者がエモーショナルに物事を伝えるのと似たことを実装する形のようです。基本はその人に合う情報を提供するための便利さ、使いやすさの勝負になるのだと思いますが、今はもう基盤モデルの差がだんだんなくなってきていますから、伝え方の勝負になってくるのかなと。