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「記者ゼロ人の通信社」が目指す報道のあり方 JX通信社・米重克洋さんが考える、今後のメディアの役割とは?

2025.06.25
#生活者インターフェース市場
博報堂 メディア環境研究所では、AIが社会や産業、メディアにもたらす影響について研究・洞察するプロジェクト「AI×メディアの未来」を立ち上げました。その一環として、さまざまな分野で活躍している有識者にインタビューを重ねています。
JX通信社はAIやビッグデータを活用し、「記者ゼロ人の通信社」として速報性の高い情報提供などを行っています。同社が2016年にサービス開始した「FASTALERT(ファストアラート)」は、SNSや各種データを活用し、災害・事故・事件の緊急情報をリアルタイムで収集・処理し、スピーディーに提供するシステムです。
今回は、そんなJX通信社 代表取締役・米重克洋さんにインタビュー。テクノロジーを活用した報道のあり方、今後メディアやジャーナリズムに求められる役割などについて、博報堂メディア環境研究所の冨永直基がお話を伺いました。

正しい情報を社会に届けるために、「情報のライフライン」をつくる

――「FASTALERT」の仕組みや開発に至った経緯について教えてください。

「1億総メディア時代」の今だからこそ、生活者を“バーチャル記者”として捉え、彼らの目撃情報をリアルタイムに収集・分析し、事件・事故・災害をいち早く伝えられる仕組みを作りたいと考えていました。

そもそも、私がJX通信社を創業したのは、報道機関は裏づけのある正しい情報を社会に供給していく「情報のライフライン」として必要だと感じていたからです。そのために、コスト構造上の課題がある報道産業をしっかりとビジネスとして成り立つようにしたい、という想いがありました。

それまでの報道機関は、警察や消防に定期的に電話をかけて確認するなど人手に頼ったアナログな方法で事件や災害などの速報を取材していました。しかし、これではコストがかかるうえに、スピードや網羅性にも限界があります。

「記者ゼロ人の通信社」というと過激なフレーズに聞こえてしまうかもしれませんが、「人がいないという仮定で、どこまで報道の仕事を再現できるのだろうか?」と考え、あえて「記者ゼロ人」という制約条件を掲げてみました。

そうした理由から、集めた情報に対しての意味づけ、解釈、分析を加えて伝える役割はあまり担わず、JX通信社は「どこで何が起きた」という事実の材料となるデータを作っていくことに特化しています。そして、それらのデータは報道機関にも提供しています。最終的に意味づけは、報道機関などに委ねるスタンスです。

――「FASTALERT」の技術を活用しつつ、一般向けに精査されたニュースを配信しているアプリ「News Digest」では、SNSに一般生活者の方が情報を上げていますよね。

最近、「NewsDigest」でも「ここでこういうことが起きた」という決定的な瞬間を押さえた投稿が増えてきていて、独自の写真や動画も多くなってきました。

私たちはデータで社会を可視化することを目指しているので、もちろんSNSの情報だけにこだわりがあるわけではありません。ライブカメラやオープンデータもそうですが、「NewsDigest」ユーザーを通じて収集するUGC(一般の生活者が投稿する情報)も含めて、「どこで何が起きているか?」をリアルタイムで可視化することに力を入れています。

加えて、「それについて人々がどう思っているのか?」という世論の動きもデータとして提供できるようになってきています。

実は、今は報道機関以外のお客さまが圧倒的に多い状況です。「1億総カメラマン」とも言われる時代に、一般の人々の目撃情報を活用して、社会のあらゆる場所で何が起きているかを瞬時に可視化し、必要な人に届ける。今は、そういう大きな取り組みになってきていますね。

情報が溢れる時代だからこそ、何が本当なのかを見極める力が求められている。そのための新しい「情報のライフライン」を作っていくのが、私たちの目指しているところです。

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