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AIと人間の共創から新たな創造性は生み出されるのか。アーティスト/AI研究者・徳井直生さんが考えるクリエイターが持つべき問題意識

2025.06.11
博報堂 メディア環境研究所では、AIが社会や産業、メディアにもたらす影響について研究・洞察するプロジェクト「AI×メディアの未来」を立ち上げました。その一環として、さまざまな分野で活躍している有識者にインタビューを重ねています。
アーティストであり、AI研究者でもある徳井直生さんは、AIが生成した曲のパーツをリアルタイムでミックスして1つの楽曲に仕立てていく「AI DJ」として活動しています。また、デザイナーやAI研究者、エンジニアなどで構成する株式会社Qosmo(コズモ)の代表取締役を務める傍ら、2023年に設立した株式会社Neutone(ニュートーン)では、AIを用いた新しい音楽制作ツールの開発も手掛けています。
近年、目覚ましい進化を遂げる生成AIですが、徳井さんはその可能性と課題をどのように捉えているのでしょうか。これまでの活動や研究を振り返りながら、生成AIがもたらす未来や、私たちがAIとうまく付き合っていくために必要な視点について、博報堂メディア環境研究所の冨永直基が伺いました。

多くの人は「生成AIがクリエイティブなものを生み出す」と誤解している

――徳井さんの現在の活動内容とご経歴について教えてください。

いま株式会社Qosmoと株式会社Neutoneという2つの会社を運営しています。QosmoはAI技術の開発とそれを使った表現活動、企業のR&Dのお手伝いをしています。一方、NeutoneはAIを使った新しい音楽ツールを作る会社です。

2000年頃から、東京大学で「どうすれば人間の創造性の拡張にAIを活用できるか?」というテーマで、AIを使って音楽を生成する研究をしてきました。

ただ、当時はどうやってビジネスに落とし込めばいいのか分からなくて。アーティストとして美術館で展示したり、依頼を受けてスマホアプリを作ったりしつつ、2013年ごろからAIや機械学習関連の仕事が増えてきました。

僕自身、音楽的な素養は全くないし楽器も弾けません。正直、音楽家としての才能はないと感じているのですが、「AI研究」と「音楽の表現」をブリッジさせることが自分の存在意義だと思っています。

https://www.youtube.com/watch?v=FeNeH-OY66E

Nao Tokui / Emergent Rhythm — Real-time AI Generative Live Set / MUTEK.JP 2022.12.8 (summary)

――最近のAIの変化、進化についてはどう感じていますか?

音楽の分野では、2022年までは楽譜の生成が中心で、30秒の音を生成するのに8~10時間くらいかかっていました。ところが最近のAIは、数分の曲を生成するのに1~2秒くらい。ほぼリアルタイムで作ることができる。

しかも、人間が作ったのかAIが作ったのか分からないレベルの音楽が生成できるようになりました。想像以上に技術の進化が速かったな、と感じています。

ただ、僕が研究していた「人間の創造性を拡張するためのAI」という立ち位置からはズレてきている気がします。AIを使ってまるっと音楽を生成することと、AIを「人の創作を手助けするツール」として活用して音楽を作ることは、似ているようでまったく違うものだと思っているので。

AIは人間の作ったものを学習して模倣するのがうまくなりました。その際、AIは新しい絵や音楽を創造しているように見えるけど、実際には既存のスタイルやパターンを再生産していることが多い。そこを理解した上でAIを使うのであればいいのですが……。

AIは非常に複雑なデータを模倣して再生産できるのと、生成AIという言葉のニュアンスから、どうしても「新しいものが生まれた」「生成AIがクリエイティブなものを生み出している」と誤解してしまう可能性があるな、と。そこはかなり注意が必要なんじゃないかと思います。

――何をもって「新しい」とするかは捉え方が難しいところだと思いますが、徳井さんはどうお考えですか?

おっしゃる通りで、「新しさ」を定義しないといけないですね。僕は「新しさ」には2つあると思っています。1つ目は、既存の表現やスタイルの中から新しいアイデアを作り出す「既存の枠の中での新しさ」、2つ目は枠そのものを拡張する「枠の外側に生まれる新しさ」です。

今のAIがやっているのは、基本的に既存の枠の中で要素を組み合わせて、新しいものを生み出す作業です。ただそれだと、枠の外側にはみ出たものは生まれません。枠を超えて新しいものを生み出すためには、やはり人間の力が必要なのではないか、と考えているところです。

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