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AIは私たち人間を置き換えるものではなく、能力を拡張するツール クリエイティブ・ストラテジーズ会長 Tim Bajarinさんが語る、アメリカにおける生成AIの実情

2025.06.04
生成AIとどう向き合っていけばいいのか。そんな問いへの答えを求めて、メディア環境研究所では、AIが社会や産業、メディアにもたらす影響について研究・洞察する「AI×メディアの未来」プロジェクトを立ち上げました。その一環として、さまざまな分野で活躍している有識者にインタビューを重ねています。
アメリカ・シリコンバレーで最古参のテクノロジー研究・コンサルティング会社の一つ、クリエイティブ・ストラテジーズ社。その会長を務めるTim Bajarinさんは1981年からさまざまなハードウェア業界のコンサルタントを経験し、Macの立ち上げにも関わってきました。自身もテクノロジーの情報を発信するTimさんに、アメリカにおける生成AIの実情や、シリコンバレーは生成AIをどのように捉えているのかなど、博報堂メディア環境研究所の冨永直基がお話を伺いました。

プロンプトエンジニアリングの教育があらゆるユーザーに必須となる時代

――生成AIの能力は、どこまで上がったと感じますか?

私は今まで何千という記事を書いてきましたが、実際に生成AIを使って書いた記事をそのまま発表したことはありません。それは、倫理的にはいかなるジャーナリストも仕事の成果としてAIを使った記事を発表すべきではないと思っているからです。

ただ、データを集める実験としてテストはやったことがあります。その際、プロンプトでは「こういうトピックで、Tim Bajarinのスタイルで書きなさい」と指示しました。そうすると、あたかも私が書いたような記事ができます。

――生成AIはTimさんの思考を反映して、自律的に動いて書いてくれるレベルまで進化しているイメージですか?

そこへ向かっているものの、まだ到達していないと思っています。今の段階では、AIは本質的に「考える」という意味での知性は持っていません。情報を集めてきて、私たちが与えるプロンプトやコンテキストに合わせて提示しているだけです。

AIが私の発言や考えを想像する手助けをするためには、私がネット上で書いたり発言したりしたことすべてを推論する必要があります。AIが私の言うことを「考えたり推論したり」するための情報を得るためには、私の個人的な書き方や考え方が必要なのです。私が言えるのは、「私が書いたり言ったりしたことの一部しか拾っていないようだ」ということです。

AIが本当に私のような思考や推論を加えるためのデータを持つためには、私の個人的な内容を深いレベルで推論する必要があります。私は長年の執筆活動で2,000本以上の記事を書き、何千回と記者にコメントをしてきました。だから技術的に言えば、AIは推論し検索するために私の情報をたくさん持っています。

ただほとんどの人はそうではありません。だから、彼らの公開データから推論することで、AIが実際に彼らのために考え、推論できる可能性は低いのです。

しかし、今後出てくる次世代のチップはもっとパワーが上がっていくので生成AIの能力も今以上に引き出されていく。いずれは、生成AIも「考える」ようになるのではないかと思っています。

――それは何年くらいで可能だと思いますか?

AIの能力が格段に上がるテクノロジーが一つあって、それが「Quantum computing=(量子コンピューティング)」です。これによりブレークスルーが起こって、思考が飛躍的に伸びると考えています。そのため、今後5年で私が考える手助けをしてくれるほどの能力をもつAIの実現も可能になるかもしれません。

ですが、これはAI自体が「考える」こととは明確に違います。これははっきりと区別しておく必要がありますね。

――AIが行う「考える」手助けとはどういうイメージでしょうか? 例えば、AIがアドバイスやオルタナティブな提案をしてくれることでしょうか?

要は、AIに対して「Tim Bajarinはこの問題についてどう捉えるだろうか? どんな道理や理由づけをするだろうか?」というプロンプトを出したとき、私の考えに近いことを答えてくれるというイメージです。

AIは直接的な問いを発しないと、思うように反応してくれません。そのため、AIを使うスキルである「プロンプトエンジニアリング」が大事になってきます。

これから2〜3年のうちに、企業や個人、あらゆる階層のユーザーが、プロンプトエンジニアリングの教育を受けないといけなくなる。そうしないと、AIがうまく使えなくなってくるのではないでしょうか。

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