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「AIを使えば何か生み出せる」と考えるのは自然なこと。亡き妻の歌声を再現する松尾公也さんが提案する、ポジティブなAIの使い方

2025.04.22
博報堂 メディア環境研究所では、AIが社会や産業、メディアにもたらす影響について研究・洞察するプロジェクト「AI×メディアの未来」を立ち上げました。その一環として、さまざまな分野で活躍している有識者にインタビューを重ねています。
今回お話を伺ったのは、「テクノエッジ」編集部 シニアエディターとして活躍している松尾公也さん。出版物からメルマガ、ウェブ媒体まで数々のコンピューター関連メディアの立ち上げを経験しテクノロジーの変遷を見つめてきた一方で、亡くなった妻の歌声を元にした「妻音源とりちゃん」などさまざまな音楽や動画作品を制作。近年は、生成AIも取り入れて活動を続けています。
「これを実現したい」という切実な動機を持つ人にとって、生成AIは夢のような技術であるともいえます。最新の生成AIを駆使する松尾さんに、AIに対する人間の受け止め方やクリエイティブの可能性について博報堂研究デザインセンターの島野真がお聞きしました。

テクノロジー進化の先に~生成AIにより「約束されていた未来」が到来

――松尾さんは生成AIをフル活用して制作活動を行っているとのことですが、いま一番注目している分野はどれですか?

動画関連の生成AIです。どのAIもかなり速いテンポで機能を強化していますね。テキストで命令を与えたら5~10秒程度の動画ができるもの、画像をインプットして動画生成するものなど、「○○ to ××」の組み合わせがどんどん増えています。

無料で使えるAIもありますが、課金して使ってみないと分からない部分は大きいですね。例えば、2024年にOpenAIの「Sora(ソラ)」が話題になりましたが、使ってみると他のサービスと決定的というほどの差まではありませんでした。現在は、トータルで月に10万円以上は生成AIにかけています。

僕が本当にやりたいのは妻と共作のミュージックビデオを作ることなので、妻の写真をもとにした「リップシンク」が必要です。「リップシンク」とは、登場人物の唇の動きと歌声がピッタリ連動している状態のこと。動画制作では、歌詞や世界観に合わせた短いクリップをつなぎ合わせるなど、どう使えば手間がかからずクオリティーの高いものができるか試しているところです。

AIオリジナル曲のリップシンクミュージックビデオを爆速で作る方法
https://www.techno-edge.net/article/2024/11/30/3881.html)より引用 

一方で、ストーリー性のある動画やキャラクターが複数出てくる映画を作ろうとすると、それなりに大変です。でも今やっておかないと、すぐレッドオーシャンになるでしょう。3DCGの大部分は生成AIに置き換えられるんじゃないか、という気がします。

――松尾さんは音声合成やボーカロイドが登場した頃から音楽制作をされていますよね。生成AIに出会ったとき、どのように感じましたか?

振り返ってみると、僕が最初に触れたテクノロジーはシンセサイザーでした。その後、パーソナルコンピューターが登場し、コンピューターで音楽や映像を作れる時代になりました。

黎明期から数えるとすでに50年経っているわけで、さすがにもっと自動で作れてもいいのではないか、と。つまり、生成AIはデジタルが進化してきた延長線上にあるテクノロジーであり、僕としては「約束されていた未来がようやく来たな」という感覚なんです。

僕はできるだけ自分で歌ったり演奏したりしますが、演奏はすごく上手いというわけではありません。1人で演奏したものをマルチトラックで重ねていくやり方は、時間もかかります。せっかくテクノロジーがあるんだから、最終的なアウトプットまでなるべく楽をして、かつ完成度が高いものを作りたい。生成AIによって、そういう欲求に応えてもらえるようになったのかな、と思います。

世の中には「すごくいい歌詞を書けるけど、メロディーは作れない」「自分で歌いたいけど、声に自信がない」という人もいるでしょう。生成AIが出てきたことで、そういう人たちにも道が開かれた。かなりいい世界になったんじゃないか、という気がしています。

――音楽業界にも大きな影響を与えそうですね。

とあるバンドから、「ボーカリストが亡くなったので、生成AIで声を代替できないか」という相談を受けて、お手伝いしたことがあります。他にも、ベテランの歌手から「もう声が出なくなったので、AIでなんとかできないか」という相談もありました。

音楽を作っている人たちにとって、生成AIの技術はシンセサイザーや音楽制作ソフトと同じようなものである、と確信しています。その感覚が徐々に共有されていくのではないでしょうか。

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